第二百九十六話・一触即発、大吉は凶に帰ったかぁ(奇襲、いや、空では勘弁して)
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──日本・北海道札幌市
二月に入ってから。
使徒の姿を見ることがなくなり、表向きには平和な日々が続いている。
それでも世界的規模で見ると行方不明者は確実に増えており、それだけオールディニックの復活が早まっているのだと思うと、焦りさえ感じてくる。
ちなみにだが、小澤と白桃姫から聞いた使徒についての報告を聞いて、俺たちは愕然としたよ。
まさか使徒の正体が『人間の魂』を加工した化け物だとは予想もしていなかったし、魔人核を回収できなくなった使徒は魔力の高い人間を襲い始めるかも知れないというから。
この件については、小澤と築地晋太郎議員が党派を超えて一時的に協力体制を取り、専門委員会を設立して対応する事になったらしい。
イヴィルという呼称については、日本国政府は『使徒および上位存在』という名称で固定、通称をイヴィルとしたという報告があったけど。
そんなの時間をかけて決める事かと、俺たちは頭を抱えたくなっていたよ。
──千歳空港
「それで、今日はどうして、俺は千歳にいるんだ?」
「まあ、日本政府がアメリカおよび諸外国と連携をとり、イヴィルと対抗するための会議を行うらしいから。それに参加するためだったよな」
俺のツッコミに祐太郎がストレートに説明を返してくれる。
うん、サンキュー友よ、それでなんで祐太郎は出かける用意をしていないんだ?
「まあ、説明を聞いてすぐに連れてこられたからなぁ。この手紙だって、まだ中身を確認していないんだぞ?」
「それはヘキサグラム最高顧問からの手紙だ。まずは先に、アメリカのニューヨークに向かってもらう。国連で対魔族理事会が開催されるが、その場で使徒についての説明を行ってもらうからな」
淡々と説明してくれる外務省の役員さん。
はぁ、なんで俺ばっかりこんな目に合うんだから。
そんなことを考えつつ、手紙を開いて中を見る。
そっと閉じて、空間収納に放り込む。
「ヘキサグラム本部への招待状かぁ。まあ、時間があったら行ってみますか」
「それなら問題はないと思うが? ちなみに今回は理事会での説明だけだから、日本国所属の魔術師の中でも向かうのは君だけだ。まあ、妖魔特区に魔族の移住も始まっているため、緊急時に戦力になる築地祐太郎と治癒師である新山小春の二人には君の留守を預かってもらう事になるし、瀬川雅は明日から国会で特別委員会に参考人として出てもらう事になっているからな」
「この件については、すでに築地くんと新山くん、瀬川くんの三人にも説明は終わっているから、安心するんだな」
外務省役員に混ざっている小澤が、そう俺に説明をしている。
なお、瀬川先輩はすでに手続きを終えて、東京へ向かうべく別便の飛行機の中でのんびりとしているらしい。
適応能力、高くないか?
「まあ、まずはニューヨークに向かってもらう。そこで国際連合日本政府常駐代表の大塚高政に会ってもらい、向こうの指示に従ってくれれば良い。君以外にも、国連本部まで同行する関係者はいるからあまり緊張する事はない」
「あの、まあ、使徒関係の知識を買って選ばれたというのは理解できますが。俺じゃなく小澤さんでも事足りましたよね?」
「ん? 君は魔法で世界各国の言葉が理解できるのだろう? 通訳を一人分減らせるから、経費の節約にもなるからな」
ぶっちゃけやがった!!
この人、最低だよ。
「まあ、移動用の航空機も先はファーストクラスを用意してある。優雅な旅を約束してくれるから安心しろ」
「そこは普通、政府専用機を使いませんか?」
「今回は条件が合わない。まあ、数日で済むから協力してくれ」
「はぁ。また俺は公欠なんですけどね……これ、出張手当出ますか?」
「協力費は支払うって話をしていた筈だろう?」
まあ、そうなんだけどさ。
さすがに一週間近くも休むんだから、それなりの待遇を要求しますよ。
という事で、千歳空港から成田へ、そこからアメリカのニューヨークへ、ズームイン!!
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──太平洋上空
ファーストクラス。
うん、これはまさに快適空間。
同行している外務省の人も、小澤もファーストクラス。
なお、日本国政府の対使徒委員会のメンバーはビジネスクラスだそうで。
これは単純な話、席の予約が間に合わなかったそうです。
とにかく快適な旅なので、せめてこの時間は仕事のことは考えないように……。
『ピッピッピッ……不確定敵性存在確認。数は三、高速でこの飛行機に向かってきます』
──ガバッ
思わず椅子の背もたれから飛び起きると、目を閉じて周辺空域へのサーチ開始。
ちなみに飛行機全体を包むように結界は施してあるので、攻撃を受けても飛行機への被害はない。
「小澤さん、敵襲」
「何処だ? まさか飛んできた?」
「そのまさかです。不確定敵性存在、波長から察するに、使徒タイプかと思いますが」
「使徒ではないのか?」
「使徒とは少し違う波長なんですよ。まあ、奇襲を受けた理由は……あ〜」
俺だわ。
俺の魔将印を狙ってきた……のか?
偶然、使徒らしき奴らが移動中に、俺たちを見つけて奇襲を仕掛けてきた感じだよ。
「心当たりがあるのか?」
「まあ。それよりも、この敵が使徒なら俺の結界を破壊する事はできないんですけれど」
──ドゴォォォッ
いきなりの振動。
飛行機全体が震え、立っていたCAがよろけて床に崩れる。
それと同時に、緊急時の酸素マスクが天井のカバーから降りてくる。
「うわぁ!! なんだ、何が起こっているんだ!」
「エアポケットか? どうなんだ?」
「何が起こったか教えてくれ!!」
あちこちの席から悲鳴が上がる。
そしてCAさんが必死に乗客を落ち着かせようと、必死に話しかけています。
『ピッピッピッ……敵性存在は結界の破壊を開始。すでに亀裂が発生しています』
「ちょい待て!! 追加で結界発生っ!!」
空間収納から、予備の携帯用結界発生装置を取り出して稼働させる。
これで結界に取り付いていた使徒らしき奴らを吹き飛ばすが、すぐに飛来して結界に向かって攻撃を仕掛けてくる。
その衝撃が機体まで伝わってくるのは、正直いって洒落にならない状況なのは理解できるよね。
結界の中まで衝撃が飛んでくるって、浸透勁のような攻撃なのかよ。
「乙葉ぁぁぁ、どうにか出来ないのか、外に出て化物を倒すとか出来ないのか!!」
「高高度を飛行中の飛行機から外に出て、化物退治をしろっていうのですか? それこそ無茶言うなですよ!!」
ここで非常口を開いて外に飛び出し、魔法の箒を出して飛び乗り、使徒たちを惹きつける。
そんなの映画じゃないと無理だわ!!
「お前なら外に飛び出して、使徒らしき奴らを倒せるだろう?」
「あのですね、こういう旅客機の扉は、飛んでいる最中は開かないんですって。与圧されているからドアは開きません。減圧しないと人間の力じゃ開きませんし、そんな事ここでできるはずがないでしょう!!」
──バン、ガギン、ミシッ!
小澤とやり取りしていると、結界が破壊される音が聞こえる。
こ、これは本格的にやばいんだけど。
「「「「うわぁぉぁぁ」」」」
もう機内は阿鼻叫喚状態。
何が起きているのかもわからず、とにかくCAの皆さんが乗客を椅子に座らせて酸素マスクを付けさせると、緊急時用の体勢を取らせている。
「外に転移する方法は?」
「俺の転移術式は、水晶柱を媒体としますから。あと、魔術の発動は手元から飛んでいくタイプなので、指定座標に魔力を発生させる事は……って無理無理、あいつ、翼に取り憑いている!!」
窓の向こう。
翼に足の爪を食い込ませて、こちらを見ている黒い獅子。
その背中には蝙蝠のような翼が広がっている。
それが三体!!
爪が食い込んだ部分からは燃料が噴き出しているのも見えるのですが。
どれだけ深く爪が食い込んでいるんだよ!!
このままだと最悪、エンジンから引火して翼が吹き飛ぶ。
「乙葉ぁぁ、どうにかしろ!!」
「くっそ、切り札を使うから、小澤さんは今から見るものを秘密にするように!!」
そう叫びつつ右手に魔力を集める。
『魔皇より継承……浸透術式』
すると、魔将印が浮かび上がり力が溢れる。
新しい魔術式が頭の中に書き込まれ、魔導書にも浮かび上がっている事だろう。
──ブゥン
さらに高速で、浸透術式を展開する。
俺の周囲に無数の小型魔法陣が広がり、次々と発動していく。
「あ、おまえ、ここで魔将印を発動するのかよ、ちゃんと制御できているのか!!!」
「当然。だから秘密にっていっただろ。複合術式の発動承認。魔力分解……からの、再構成!!」
──ブン!!
一瞬で窓の外に移動すると同時に、空間収納から魔法の箒を取り出して飛び乗る。
すると、俺の体から発している魔将印の魔力を察知して、三匹の黒い獅子は航空機の翼から離れ、俺に向かって飛んでくる。
「お待たせっっっ、フォトンセイバーぁぁぁ」
箒に座って魔導紳士モードを展開。
そここらさらに魔導強化外骨格・零式を起動すると、そこからは神威を伴ったセイバーで次々と黒獅子を刻みつけていく!!
──ガギッガギゴギガギッ
ガーゴイル型使徒とは異なり、体表面が硬い。
それでも翼を切断したら落下を始めるので、まずは自分の身を守るために全て撃墜する!!
そして次の一匹に切り掛かった時。
──ゴゥゥゥゥゥゥ。
真下から炎が噴き出してきた。
「口からブレスだと? そんなもの効くかぁぁぁ」
──ヴン
無詠唱・十二式力の盾を展開し、ブレスを弾く。
だが、その瞬間に後方から飛んできた黒獅子の爪が、俺の背中を抉る……抉れない。
──ガガドゴッ
激しい衝撃が背中に走る。
だが、零式の装甲を貫通することはできなかったらしく、そのまま横をすり抜けて俺の右斜め前に着地している。
「空中に足元を作るなんて卑怯な……と、時間は稼げたか?」
チラリと航空機を見る。
すでに俺と黒獅子との戦闘空域からは飛び去ったらしい。
本当に、俺がターゲットになっていたとは。
これだと、迂闊に旅行にも出かけられないよなぁ。
「このまま取り残されると、さすがに寂しすぎるからなぁ。悪い、全力で行くわ」
──ブン……ズバァァァァァァァ
魔法の箒に魔力を込めて加速。
さらにフォトンセイバーの刀身に注いでいる神威も増幅させると、残り二体の黒獅子を真っ二つに切断した。
そして力無く落下する二体の黒獅子を空間収納に収めると、ゆっくりと空を見上げた。
「……間に合うかなぁ。っていうか、このまま飛んでいって、良いのかなぁ」
法定高度ギリギリまで降下すると、俺は乗っていた飛行機が飛んでいった方角目掛けて、魔法の箒で飛んでいくことにした。
はぁ。
まだアメリカにも到着していないのに、なんでこんなに疲れているんだろう。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。