第二百八十九話・虎視眈々、備えあれば憂い……かぁ。(悪魔が来たりて……え、悪魔?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
──札幌市妖魔特区
白桃姫の朝は、早い。
日が昇るとまずは、体を活性化させるためにラジオ体操を始める。
そのあとは朝食前の畑仕事。
程よく熟成した野菜が畑から脱走しないように見張りを立てたり、逃亡したスプリンター長ネギを収穫……捕縛したり。
そんな騒がしい作業が終わったら、シャワーで汗を流してから朝食。
「白桃姫さま。本日の朝食はコカトリスの卵のスクランブルエッグと、ベーカリー今田のトースト。新鮮な春野菜のサラダです。デザートには新山小春の魔力玉を使ったシャーベットをご用意しました」
「うむ。朝から豪華なメニューじゃ。これでこそ、1日が始まると言っても過言ではないのじゃが……そこの骸骨!!」
──ビクッ!
これから楽しい朝食だというのに、何故にプラティ・パラディのやつもご相伴に預かりますよろしく、向かいに座っているのじゃ?
「ん? わしのことか?」
「金きらきんにさりげなく座っている貴様以外に、どこに骸骨がおるか教えて貰おうか? それよりも、どうやってここにきたのじゃ?」
「アトランティスからだが? 今のアトランティスは半潜航状態で、向かうとこちらの世界の中間に揺蕩っている。それでな、緊急事態なのじゃが……あ、トーストのおかわりを所望して良いか? あとブラッドオレンジのジュースも頼む」
「寛ぐなぁぁぁ。それよりも緊急事態とはなんじゃ?」
「【魂喰らい】の封印が緩んだぞ」
──ブッ!!!!
思わず吹き出したわ。
「なん……じゃと?」
「だからな、裏地球に放逐封印した【魂喰らい】の封印がほころんだと言っている。ついでに、使徒が動いた可能性も十分にある……」
「【魂喰らい】……個体名は確かオールディニックじゃったな。ということは、使徒の輩の狙いは、封印解除のための魔力か……」
「おそらくな。幸いなことに、アトランティスはこのあと数日後には鏡刻界に帰る。逃げるなら連れて行くが?」
逃げる?
妾が?
そんなバカなことがあるか。
「寝言は封印が解けてからじゃ。この件、雅にも伝えておく。事は、我ら魔族の話だけではない。オールディニックが動くという事は、ムーの眷属も動くのじゃろ?」
「ムーかぁ……あそこの民も目覚めるとなると、この世界はどうなると思う?」
「我ら魔族の侵攻よりも最悪な事態を引き起こすじゃろうなぁ……しかし、封印大陸からの流れ者が、何故今更目覚めたのやら……」
腕を組んで考えていても、妾には何もわからぬ。
こうなると、雅に力を借りるしかあるまい。
………
……
…
──北海道大学北9条・クラーク像前
「はぁ。構内で魔族が出たって騒がしかったのは、こういう理由だったのですね?」
昼休み、大学構内に妖魔が現れたと聞いて、発見報告のあった場所に駆けつけて来たのですが。
まさか、白桃姫さんがここまで来るとは予想もしていませんでしたわ。
たしかに、そこのクラーク像のある場所は妖魔特区内ですが、像の手前は結界外なのですけれど。
「うむ、ちょっと急ぎの用事があってな。ここまできたのは良いのじゃが、ここからは出られないので。あとで札幌テレビ城まで来てたもれ!!」
「あ、はい。午後の講義が終わってからなので、夕方になりますがよろしいですか?」
「ついでに乙葉らも巻き込むので、その時間に集まるように伝えておくれ。ではな」
──ブワサッ
翼を広げて、白桃姫さんが空に舞い上がっていきます。
何か嫌な予感しかしませんけれど。
「今、巻き込むって話していましたわよね?」
はぁ。
とりあえず皆さんに連絡をしておきましょう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
『白桃姫さんから、何か重大な事件が起きたとかで集まってほしいという連絡が来ました。乙葉くんは都合がよろしいですか?』
これが昼に先輩から来た連絡。
このあとすぐに、新山さんや祐太郎、リナちゃん沙那さんまで連絡が届いたらしい。
俺は問題ないが、リナ沙那チームは確か、二学期欠席分の講習があって学校じゃなかったかなぁ?
まあ、後のメンバーはいつも通りなので問題ないかと思ったんだが。
「俺と新山さんだけとは、予想外だったわ」
「私は、今日は夜に用事がありますけど、それまでならということで来ました」
「築地くんはアルバイトだそうですわ。今日は東京で、お父さんのボディーガードだそうです」
「あ〜、そういえば、たまにやっているって話していたよなぁ」
いつ妖魔に襲われても問題がないようにと、祐太郎がSPを務めているらしい。
「ということで、今日はこのメンバーだな?」
「ふむ。雅や、忍冬らはこれるかの? 人間界の危機なのかもしれないから」
「それなら、俺が連絡しますよ!!」
すぐに忍冬師範に連絡して、二十分後には要先生と井川巡査部長を伴ってやって来ましたが。
「日本の危機と聞いたが、浩介、今度は何をやらかした?」
「なんで俺? 今回のホストは白桃姫だけど?」
そう説明すると、第六課チームが白桃姫を見る。
「まあまあ、慌てるでない。では、話を始めるとしようか。簡潔に説明すると、この世界は間も無く消滅する!!」
「「「「「な、なん(だって、ですって、だと?)」」」」」
うわぁ、MMRを使いこなすとは、白桃姫恐るべし。
「実はな、はるか昔に我らが故郷を襲った害悪がおってな。退治できんから封印して異世界に放逐したのじゃが、それがどうやら目覚めそうなのじゃよ」
「……異世界ねぇ。それが目覚めるとして、俺たちの世界に何が?」
「浩介、鏡刻界からすれば、異世界はここ地球ではないのか?」
最後の方は、白桃姫に問いかけている。
すると、その雰囲気を察したのか、白桃姫は頷いている。
「マジかよ。因みに、その封印した存在って何?」
「名前はオールディニック。妾たちの世界では、【魂喰らい】と呼ばれている輩たちじゃな」
「輩たち? 一人じゃないのか?」
「一人というか、何というか。悪意が実体化し、それが集まった群体と呼べば理解できるか?」
「群体……それはSEALDsのような軍事関係ではなく、生命としての集合体ですか」
「まあ、そんなところ。母体というか中心的なものが存在し、それを取り巻く使徒が存在する。プラティ・パラディの話では、使徒はもう目覚めて暗躍してあるらしくてのう」
話を聞くに、物騒すぎる。
そんなもの相手に、どう対処したら良いのやら。
「あの、異世界に封印放逐って話ですけど。退治できなかったのですか?」
ナイスだ新山さん、俺もそこが聞きたい。
「う〜む。退治のう。どうやったら良いかわからんし……このメンバーで、確殺できるとなると、小春しか思いつかん」
「え? え? えええええ? 私がですか? どうして?」
「神聖魔法は、奴らにとって特攻効果があるからのう」
「また、ゲーム的な説明を……」
「神聖魔法が効く相手……神と力が必要……相手は、悪魔?」
瀬川先輩が考えながら問いかけてくると、白桃姫は頷いている。
「なんじゃ、知っているのか。そうじゃ、オールディニックはすなわち悪魔を指す。我ら魔族とも人間とも敵対している存在じゃよ。そうかそうか、知っておったのか」
満足そうに呟く白桃姫。
「いや、ちょっと待て、悪魔相手に戦えってか!!」
「そんなことをいきなり言われても、妖魔ならまだしも悪魔って勝てる相手なのですか?」
「神の力しか効かないって……ええ?」
「忍冬警部補、これは本部に報告したほうがよろしいのではないですか?」
「悪魔……ねぇ」
三者三様の反応。
まあ、当然だよね?
俺?
俺はカナン魔導商会を開いて、悪魔についての文献がないか探しているよ。あとウォルトコのブックセンターもね。
「参考までに、オールディニックの封印が解けるのはいつ頃なのですか?」
「そうじゃなぁ。使徒が封印解除儀式に必要な魔力を蓄えるまで、じゃな」
「封印解除儀式。それに必要な魔力はどれぐらいなんだ?」
「さぁ? そもそも特殊な魔力じゃから、儀式を行えるために必要な量を集められるのかも知らんわ」
「特殊な魔力? それって?」
新山さんが問いかけると、先輩がすぐに深淵の書庫を展開する。
「……高濃度魔人核。それが封印解除の儀式に必要な魔力なのですね?」
「うむ。そしてその数は膨大。集められるか不安なんじゃが、問題はもう一つ、別の場所にある」
「別の場所?」
ものじゃなく、場所?
うん、今回ばかりは理解の範疇を越えたなぁ。
「万が一にもオールディニックが目覚めた時のために、対悪魔用決戦兵器のようなものを一緒にこっちに送り込んだらしい。それが目覚めるとな」
白桃姫がスッ、と、俺たちに向けて拳を差し出す。
そして勢いよく開いて一言。
「ボン!! じゃ。その波動で、地球が崩壊するじゃろうな」
「崩壊するじゃろう、じゃないわ!! その対悪魔用決戦兵器はどこにあるんだよ」
「さぁ? プラティ・パラディが調べるためにアトランティスに戻ったからなぁ。位相空間に存在する、対悪魔用決戦兵器・ムー。浮遊大陸にして悪魔を殲滅する武器を搭載した要塞島。その民は全て一騎当千、イヤリングこそつけておらないが化け物揃いと聞く」
──ゴクッ
つまり、オールディニックが目覚めても駄目、それを殲滅する対悪魔用決戦兵器・ムーが覚醒してもダメ。
それならどうする?
答えは一つだよなぁ。
「オールディニックの覚醒を阻止。それしか方法はありませんわ。そうなりますと敵と言うのは、魔人核を狙う使徒ということでよろしいのですか?」
「雅の言う通りじゃな。今の最善の手は、使徒を倒す。それができなかったら、ムーが稼働する前にオールディニックを倒す。しかし、相手は神に近い上位存在じゃからなぁ」
「うわ、パワーインフレかよ」
ストーリーが進んだら、敵がどんどんと強くなるのはお約束テンプレート。
そして対抗するために、味方や仲間のパワーが上がるのも同じく。
これは、更なるパワーアップの予兆か?
「まあ、今の力ではどうしようもない。使徒がこの札幌に来て、魔族への襲撃を開始したならば、戦闘にもなるであろうが」
「それまでは、手をこまねいているしかないと言うことか」
「その通りじゃ。じゃから、今の妾たちにできるのは、注意喚起じゃ。ここにいるメンバーなら、それぞれの部署に連絡することができるじゃろ?」
あ、そこに繋がるのですね。
それなら納得だけど、忍冬師範たちは複雑な顔です。
そりゃそうだよ、妖魔の次は悪魔が来て世界を滅するんだからさ。
「では、後のことはそれぞれに任せる。妾はここで、プラティ・パラディからの連絡を待つことしかできないからな」
「ですよね〜。それじゃあ、あとで祐太郎にも連絡を入れるとしますわ」
これでこの日は解散。
ても、この話って恐らくだけど、オーストラリアで森が消滅した事件にも関与しているよね、きっと。
さて、どうしたものかなぁ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。