第二百八十七話・(伝奇ホラーは、異世界だけにしてくれ)
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──うわぁぁぁぁぁぁぁ
地下鉄構内迷宮区画に、俺と祐太郎の絶叫が響く。
いや、まじでまって。
メリーさんってあれだよね? 都市伝説。
そんなものが実在するはずないじゃないかよ。
ほら、よく漫画とか小説では見たことあるし、それを題材にした映画もあったよね? 俺も見たけど怖かったわ。
でも、今、祐太郎のスマホから聞こえてきたのは本物のあれじゃないか?
「やや、やや、祐太郎!!」
「大丈夫だ、ルーンブレスレットの中だ、もう聞こえるはずがない!! オトヤン、行くぞ」
「行くって、どこへ?」
「調査を続行だ!! いや、戻りたくない、帰りたいけど戻れないだろ?」
あ、そうだよな。
地下迷宮入り口って話していたよな。
でも、地下迷宮入り口って、とんでもない量あるんだけどさ。
何せ、大通り公園近郊は、地下に降りる階段があちこちのビルにもあるんだわ。
地下鉄の駅に繋ぐためにビルの地下を改装したり、それを見越して立て直したりしているからさぁ。
「戻れないよなぁ。まあ、このまま調べるか」
「そうだな、そうしよう」
そのままエスカレーターを降りる。
やがて地下鉄のホームに辿り着くんだけど、すでに壁や床は風化しているし、照明器具だって壊れて落ちている。
割れた床タイルのあちこちから植物の蔦のようなものが伸びているし、なによりも……。
「白骨だよな、これ?」
「そうだな。だが、人間じゃないよな」
人骨とは異なる骨が、あちこちに散乱している。
「なんだろうか。天啓眼!!」
『ピッ……スパイダーマウスの残骸。妖魔蟲キメラスパイダーに寄生され、突然変異を起こしたネズミの死骸。肉体構成が突然変異に耐えきれず爆発したもの』
「……だってさ」
「キメラスパイダーか。そんなものがいるのかよ」
「以前、この妖魔特区内部は鏡刻界の環境に近づきつつあるって、白桃姫か誰かに聞いたことがあるんだけど。そのキメラスパイダーだって、そんな環境に晒されて生まれたんじゃないかなぁ」
「闘気感知……うん、近くには存在しないなぁ」
「そのようだから、カメラで撮影……と」
──カシャカシャカシャッ
ホームの写真も写しておいて。
あとは事務室近辺。
どのみち、地下鉄を再開するためには電気の敷設ポイントも結界で囲わないとならないんだけど、そもそも配線とか機器は風化して使い物にならないような気もするんだよね。
だから、写真を撮って報告するだけ。
「……オトヤン? 自販機が風化して、なんだか奇妙なものがあるんだが」
「え? 何があった?」
「缶コーヒーとかも風化して……触れるだけで崩れるんだけど、こんなものが出てきてな」
──ズルッ
祐太郎が拾い上げたのは、ルビー結晶化した缶コーヒー。
これはまた、飾りになりそうな綺麗なルビーだことで。
「あー、そうか。ユータロは知らなかったから。実は、地下迷宮がダンジョン化した場合、このように商品が高濃度魔力に晒されて結晶化することがあってね。これがそれ」
「へぇ。それじゃあ、キャラもののフィギュアも宝石化している可能性があるのか。アニメショップの調査もしたくなるところなぁ」 「まあね。ユータロがいない時に調べに向かうのは悪いと思っていてね。お楽しみは取ってあるんだけどさ、こんど一緒に」
──カチッ
「「は?」」
いきなり祐太郎のルーンブレスレットから音が聞こえた。
いや、まさかだろ?
『もしもし……私、メリーさん。今、地下鉄の改札にいるの。私、メリーさん。今、地下鉄の改札にいるの。私、メリーさん……』
「「ぎゃぁぁぁぁぉぁぁ!!!!」」
慌てて周囲を見渡す。
地下鉄改札口はここから遠い。
地下鉄・東豊線は札幌市の地下鉄の中でも、最も深いところを走っているから、改札までの距離が異常に遠い。
つまり、今なら逃げるチャンス!!
「お、お、オトヤン、メリーさんはどっちにいる?」
「ゴーグルゴー!!ってついてたわ、サーチ開始、対象はメリーさん!!」
『ピッ……該当する存在は感知せず』
「ウッソだろ?」
「これがお母さん? じゃなくて、どうしたオトヤン」
俺のサーチゴーグルが、メリーさんを感知しない。
それって、どういうことなんだよ?
「メリーさんがいない。反応がない」
「ちょっと待った、洒落にならないぞ!! 闘気センサーフルバースト。対象はさっきからスマホに連絡してくるメリーさん」
そう祐太郎も叫ぶが、俺の方を見ながら頭を振るだけ。
「とりあえず地上に向かうとしよう、入り口は無数にあるし改札もいくつかある。その中で偶然出会わないことを祈るしかない」
「そうだな、そうするか」
──カチッ
『もしもし、私、メリーさん。今、東豊線のホームに向かっているの。私、メリーさん。今、東豊線のホームに向かっているの』
「「ぎゃぁぁぁぁ」」
大慌て。
すでに逃げ道なし。
こうなったら、覚悟を決めるしかない。
「仕方ない。祐太郎、ガチでやるしかないぞ」
「ぶ、ぶ、ぶ、ブライガァァァァア、ガードモード!!」
──バシュゥゥゥゥ
あ、勇者装甲とブライガーを合成した、ブレイブアーマーを身に纏ったのか。
いかん、祐太郎が逃げ腰になっている。
「魔導紳士モード。サーチ開始、対象は俺たちに対する敵性存在」
『ピッ……対象あり。前方階段上から、現在降りてきています』
「来たぞ。気合い入れていくしかない」
「お、おう!!」
全身に魔力を循環させて、階段を睨むように見る。
──カツーン、カツーン
確かに良い足音。
それも硬い。
そして目を凝らして階段を睨みつけた時。
「私、メリーさん。みーつけた!!」
赤いドレスを着た少女が、階段を降りてきた。
そして俺たちの方を見た瞬間に、ニチャァといやらしい笑みを浮かべて走ってくる!!
「36式・力の壁!!」
──ジャキーン
ホーム全体を遮断するように、力の壁を張り巡らす。
これでメリーさんはこっちに来れるはずがない。
「私、メリーさん……私、メリーさん……」
──ドゴッ、ドガッ
壁にぶつかり弾き飛ばされ。
立ち上がって何事もないように走ってきて、また弾き飛ばされる。
いや、怖すぎるから!!
「祐太郎!! 今のうちに攻撃ってぇぇぇぇぇ!!」
──ゴゥゥゥゥゥゥ
叫びながら祐太郎を見ると、右手に黒い炎が纏わりついている。
「炎の闘気、第一覚醒…… 零の型・獄炎の超電磁拳!!」
おおきく振りかぶってから、必死に壁にぶつかるメリーさん目掛けて拳を振るう。
すると、祐太郎の腕から黒い炎の龍が噴き出し、一直線にメリーさん目掛けて飛んでいく。
「私、メリーさん、私、メリーさん、私、うわぁぁぁ」
力の壁を吹き飛ばし、そのままメリーさんを飲み込む炎の龍。
その体内でメリーさんがメラメラと燃え上がり、消滅していく。
「うふふ、あはは……あーっはっはははぁぁぁぁぁ!!」
絶叫にも似た奇声を上げて、メリーさんが消滅する。
いや、こんなに怖いのは初めてかもしれない。
「サーチゴーグル。敵対反応を確認」
『ピッ……地下迷宮入り口に一つ。視認距離ではないため、鑑定不可能』
「上等!! 祐太郎、外に一体、敵対反応がある」
「そいつが黒幕かぁ!!」
走る。
とにかく走る。
この恐怖を俺たちに叩き込んでくれた奴、恐らくは黒幕だろう奴をぶっ飛ばすために!!
………
……
…
地下迷宮を駆け上がり。
途中で出てきたゴブリンコボルトオークの群れを吹き飛ばし殲滅して。
反応のあった場所まで一気に駆け上がると、そこには一体のフランス人形が佇んでいた。
『ピッ……子爵級上位魔族・ナイトメア。対象者の恐怖を糧とし成長する。対象の生体反応から、そのものにとって最悪の恐怖を具現化し、襲い掛からせることができる。ブレインジャッカーの氏族』
「オトヤン、こいつが犯人か」
「その通り!! ということで散々人の恐怖心を煽ってくれたな、このナイトメアがぁ!!」
「な、な、何故だ、どうして俺の術が解除された!!」
何故?
そりゃあ、祐太郎の恐怖リミッターが振り切れてガチギレしたから。
そうじゃないと、正直言ってどうしていいか対処がわからなかったわ。
「解除だぁ? そんなもの知るかぁ!!」
「散々人を脅かして、それなりに覚悟はできているんだろうなぁ」
「させるか!! 喰らえ!!」
ナイトメアが怪し光を放つ。
すると、俺の目の前に生首が一つ浮かび上がった。
『おや、ひさしぶりだねぇ?』
今度は俺の心の中の恐怖から、初めて見た綾女ねーさんを具現化したのか。
しかも祐太郎にも見えているらしく、え? って顔でこっちを見ているんだが。
「はーっはっはっはっ。それは伝説の魔神・羅刹だ!! 恐怖はやがて精神を傷つけ、そして肉体をも破壊する!!!! やってしまえ!!」
──ガチッ
そウォール叫んだナイトメアの背後から、ガッチリとナイトメアの頭を掴む存在が一人。
「……これはまた、懐かしい姿だねぇ。ナイトメアなんて、久しぶりに見たねぇ」
「「綾女ねーさん!!」」
はい、本人登場です。
でも、なんでここにいるのやら。
「げ、げげげ!! 貴様は羅刹ふげげげげげげ」
──ギリギリギリッ
ナイトメアの頭から痛ましい音が聞こえてくる。
「綾女さん、なんでここに?」
「別に意味はないわねぇ。この辺りは、昔から私のテリトリーだったのをお忘れかい? だから、自由に出入りできるようになったんだから、久しぶりにここでのんびりとしようと思ったところさ」
なるほど。
「そうしたらさ。こんなところにブレインジャッカーの氏族がちょろちょろしていてね。何をしているのかなぁと思って見ていたら、あんたらが飛び出してきて、今の状態さね?」
「こ、この、は、離せ!! 離して、お願い……」
「そ、そうでしたか……」
「でも、二人とも無事そうでなによりだねぇ。こいつの能力は強力でね、そんじょそこらの結界程度じゃ防ぎきれないんだよ」
道理で。
あまりにも魔術の攻撃距離が長すぎる。
地上のここから、地下鉄東豊線ホームまでどれぐらいの距離があるっていうんだよ。
「チッ……そこまでバレたら仕方ない。あばよっ!!」
──ジャラララララ!!
霧散化を開始したナイトメアだが、その全身を銀色の鎖が纏わりつく。
「こ、これは!!」
「イエス!! 貴様が綾女ねーさんと話をしている間に、発動させてもらった」
そう。
綾女ねーさんとナイトメアの話の最中に、俺は封印術式を組み込んでいた。
まあ、相手が弱っていないので封印はできないんだけど、身動きをとらなくすることぐらいは……って、綾女ねーさんのアイアンクローで瀕死でしたか。
「祐太郎!!」
「応よ。我が願うは神代の祝詞。言葉よ符となり、かのものを縛れ!!」
──シュンッ
祐太郎の手の中に封印呪符が生まれる。
そして同タイミングで、俺は空間収納から封印媒体のターコイズを取り出して。
「封印!! 以下略!!」
──プシュゥゥゥゥゥ
「ぎいやぁぁぁぁぉぉぁぁ」
ナイトメアを縛り上げていた鎖が、ターコイズに伸びる。
そして縛り上げているナイトメアをターコイズの中に引き摺り込むと。
──ペタッ
祐太郎がターコイズに封印呪符を貼り付けておしまい。
「うんうん。以前よりも術の冴えが良くなったねぇ。その魔術強度なら、歴代魔皇も簡単に封印できるんじゃないのかい?」
「あ〜。可能かもしれないけど、やる必要もありませんよね」
「むしろ、今は俺たちが力を借りている方だからなぁ。何はともあれ、綾女さん、助かりました」
祐太郎が頭を下げるので、俺も頭を下げる。
「良いよ。魔力玉をくれればね」
「あ、どうぞどうぞ!!」
俺と祐太郎が魔力玉を作り出すと、それを綾女ねーさんに差し出す。
「ふう。とりあえず、報告に向かうか」
「そうだな。しっかし、都市伝説を具現化するなんて、とんでもない化け物だったわ」
「ユータロは苦手だからなぁ」
「都市伝説ねぇ……」
なにかを言いたそうな綾女ねーさんだけど。
その話を聞くと怖そうだから、今はパス。
ということで、俺たちは大通り十三丁目の対妖魔機関事務局まで向かうことにして。
──ピッ
ルーンブレスレットが反応する。
『もしもし。私、メリーさん。ありがとう』
──プッッ
「「……え?」」
なに? 今の声は何?
まさか、本物のメリーさん?
「ぎ……ぎやぁぁぉぉぁ!!」
「マジかァァァァァ」
俺たちは走ったよ。
そりゃあもう、全力で。
そしてとっとと報告をして、速攻で家に帰ったよ。
頼むから、都市伝説は伝説のままで、静かにしていてくれよ……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。