第二百八十四話・天下無双!能ある鷹は爪を隠す(帰ってきたら、日常)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
鏡刻界で、無事に魔人王と四天王、十二魔将のお披露目を終えて。
魔大陸の統治関係をゼロを中心とした新体制に任せると、俺たちは
急いでアトランティスに転移門を開いて移動してきた。
プラティさん曰く、どうやらアトランティスが俺たちの世界に浮上するでは時間がかかりそうだというので、ここは水晶の塔経由での転移門を開き、一路、札幌テレビ城下の巨大水晶柱へモーグたん!!
──シュワワワワ
「あの、乙葉くん、モグタンって何?」
「なんでも親父曰く、時間や空間を越える時の呪文のようなものらしいけど、全文は知らないんだよなぁ」
「俺もわからないから、尋ねないでくれよ?」
まあ、モグタンのことは棚に上げておこう。
それよりも、なんとか無事に一仕事終わったわ。
「さて、引き続き、妾の居城から裏地球の全てにお披露目をするとしようか」
「「「マジ(か? なのか? ですか?)」」」
俺と祐太郎、新山さんは絶句したいところだが、思わず突っ込んでしまう。
そして瀬川先輩は、俺たちに頭を下げる。
「もう一度、お願いします。これで一通りの作業は終わりますので、今後は野良魔族が暴走することも防げるかと思いますので」
「これについては、妾からも頼むぞ。暴走する魔族が減るほど、妾の仕事が減るのじゃ」
「うわ、欲望の赴くままかぁ……」
思わず突っ込んでしまったけど、忍冬師範と要先生も頷いている。
「たしかに。変装して正体が分からないのなら、それで構わないと思うが」
「私からもよろしくお願いします」
「……それってつまり、忍冬警部補さんと要先生もお披露目っていうことですよね?」
──ピシッ
あ、新山さんの言葉で空気が固まった。
「そうなるよなぁ。師匠、これは覚悟を決めないとな」
「要先生も、よろしくお願いしますわ」
「い、いや、ちょっと待て。あの格好を俺たちにしろというのか?」
「そうなりますね。ほら、先程忍冬師範も話していたじゃないですか? 変装して正体が分からないのならって」
「ええ、私もたしかに聞きましたわ」
包囲網を狭めつつ、じわじわと忍冬師範たちを巻き込んでいく。
やがて断念したのか、忍冬師範が溜息をついて一言。
「わかった。では、この認識阻害の魔導具の使い方を教えてくれ」
「了解。では、要先生には新山さんと先輩がお願いします」
「師匠には、俺が説明するから、オトヤンは今のうちに綾女さんたちに連絡を頼めるか?」
「よしきたガッテン!! それじゃあひとっ飛び行ってくるわ」
──シュンッ
空間収納から魔法の箒を取り出して、いざ、喫茶・九曜へレッツゴー。
………
……
…
──喫茶・九曜
「……勝利!!」
カウンターの中で、高らかに右手を掲げる計都姫。
そして同じように、カウンター席でニヤニヤと笑いつつ、団子を嗜む綾女。
その二人の様子を見て、チャンドラと羅睺は頭を抱えている。
「……その、計都姫が新魔人王の四天王になって、綾女さんが十二魔将の……ええっと」
「あたしは、十二魔将第四位だね。そろそろ、私らに慣れてくれると助かるんだけどねぇ」
綾女は、隣りの席でやや怯えるように座っている井川綾子巡査部長にそう告げる。
ちょうど数刻前、綾女の体と計都姫の右目に魔将紋と四天王紋が浮かび上がった。
それが何を意味しているのか、二人はしっかりと理解している。
偶然ではあるが、休暇中の井川巡査部長が昼食を食べにきていた最中であったため、店内は一時的に騒然となってしまったのだが。
今はすっかりと落ち着き、いつもの長閑な時間が流れている。
「それで計都姫。函館にはいつごろ向かうのだ?」
「来週にでも。その間は、蔵王とハルフェの二人には留守を任せるから」
「ご安心ください」
「そうそう。私達だって、元々は八魔将側近でしたのをお忘れですか?」
「その辺りは問題ないと、信じている。それよりも、来た」
──カランカラーン
入口の鐘が鳴り響き、乙葉浩介が姿を表す。
「あ、これはちょうど……って、井川さんもいらっしゃったとは」
「なぁに? 久しぶりだっていうのに、そんなつれない事を言うのね。私がいたら、問題なのかしら?」
「う〜ん。どうしたものか……」
本当ならば、計都姫と綾女ねーさんには札幌テレビ城まで来てほしかった。
そこで始まるお披露目に参加してもらい、こっちの世界の魔族を牽制してもらう予定だったのだが、まさかの井川巡査部長の姿に、作戦の練り直しを余儀なくされている。
「あら、乙葉くんがいるっていうことは、忍冬警部補たちも戻ってきたの?」
「ええ、一緒でしたから」
「それは良かった。ちょっと見てほしい案件があってね、それじゃあまたね」
それだけを告げてから、会計を済ませて井川さんは撤収。
このままチャーラララーンって場面転換されそうな雰囲気だよね。
「では、関係者しかいないようなので。計都姫、綾女さん、これから新魔人王と十二魔将のお披露目をするらしいんだけど、一緒に出てくれる?」
「「「「「……はぁ?」」」」」
うん、そういう反応だと思ったよ。
でも、ここからが肝心なんだよ、二人が出てくれるだけで、こっちの世界の魔族に対する抑止力になるんだけど。
「乙葉くんや、あたしに出て欲しいっていうことは、こっちの魔族に対しての抑止力にでも使おうってことかい?」
「あ、あははは。イエス!!」
──ブゥン
そう告げてから、魔将紋を駆使して濃縮した魔力玉を作り出す。
「前払い報酬ということで。どう?」
「喜んで、出る」
「断る道理はないね。あんたからは、十二魔将第一位の紋章が見えるからさ」
「「な、なんだって!!」」
あ、チャンドラと羅睺師匠はそういう反応なんだね。
「十二魔将第一位、四元の賢者メギストス。その正体は乙葉浩介。ここだけの話」
「ふぁ。計都姫にはバレバレかよ」
「私の目は、真実を見る。お代わりを所望」
「あたしも、もう一つ欲しいねぇ」
「はいはい。追加で欲しい時は、妖魔特区内の札幌テレビ城に専用ストッカーがあるから、白桃姫に貰って。あ、これを身につけてね?」
──コトッ
取り出したるは、結界中和術式を組み込んだネックレス。
これで、俺が作った十三丁目ゲートと大通り十二丁目エリアは自由に出入りできる。
まあ、その二箇所でしか使えないんだけどね。
それに、この二つって、使った材料が特殊でさ。
あまり量産が効かないんだよ。
「へぇ、これはまた、とんでもないものだねぇ」
「よく作れた。これで中に入ることができる」
「まあ、俺の魔将紋は、魔皇トリス・メギストスの加護を受けているからさ。新しい錬金術のレシピとか、大量に頭の中にインストールされてね」
その知識を使って、ここにくるまでにちゃっちゃと作ったんだよ、それ。
「それじゃあ、このあとでお披露目をよろしくお願いします。羅睺師匠たちの分は、こんど材料が揃ったら追加で作りますので」
「うむ、そうしてくれると助かる」
「正直なところ、今の妖魔特区内部の環境とかにも興味があったからな」
羅睺師匠も、チャンドラさんも納得してくれたから助かる。
いや、本当に素材が特殊すぎて、カナン魔導商会にもほとんど出回らない材料だったんだよ。
精神感応金属って、ほとんど見なかったからね。
「それじゃあ、とっとと終わらせてしまいますか」
「うん。魔法の絨毯にも興味があった」
「あたしも初乗りだねぇ。安全運転で頼むよ」
「わかってますって。それじゃあ、行きますか」
と言うことで、一路札幌妖魔特区に移動。
十三丁目ゲートに入るためのパスポートを計都姫と綾女さんは所持していたので、内部に入るところまではサクサクと。
そして十二丁目セーフティエリアから出るためには、俺が張り巡らせた対妖魔結界を越えないとならないんだけど。
「この結界を越えるために、このネックレスが必要なんだね?」
「もう装備した。これで良い?」
「はい。それを所持していますと、二人が魔族であったことが『なかったことになります』ので。ちょっと複雑な認識阻害術式です」
俺たちが装備している『認識阻害装備』。
それの応用として作ったもので、白桃姫にも後で渡す予定。
これのすごいのは、魔族の白桃姫や綾女ねーさんが、『魔族であったことを無かったことにする』という、とんでもない装備なんだよ。
──ブゥゥゥゥウン
結界に触れる綾女ねーさんと計都姫。
すると波紋が浮かび上がったけど、そのままスッ、と内部に入ることができた。
「ほう? こりゃあまた、便利なものだねぇ」
「妖魔特区に入るのは初めて。そこのセーフティまでなら来たことはあるけど……本当に、内部は鏡刻界と同じ空気」
「そのようで。違うのは、大気組成に魔力があることぐらいじゃないかな? あと、化学物質がないこと」
「うん。空気が気持ちいい」
「さて、それじゃあお披露目と行こうかねぇ」
もう一度、魔法の絨毯で札幌テレビ城まで移動。
二階の会議室を改造した『謁見の間』では、すでに準備を終えた白桃姫や瀬川先輩、新山さんと祐太郎、忍冬師範と要先生というメンバーが揃っている。
ちなみにリナちゃんと沙那さんは欠席。
大きさの関係でワイルドカードも無理。
「おや、みなさんお揃いだねぇ。これからよろしく頼むよ」
「久しぶりに魔将級になった。出来ることだけはするので、よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
「う〜う〜む。複雑じゃ」
綾女ねーさんと計都姫の方を見て、腕を組んで考え込む白桃姫。
「ピク・ラティエは久しぶり。まさか同じ魔将になれるとは予想外」
「全くじゃな。よろしく頼むぞ」
「は、はい!! 妾も羅刹殿と計都姫と一緒とは、光栄じゃ……です」
なんだろ、このカチカチになった白桃姫の姿は。
なんというか、魔将の先輩後輩関係のような感じだなあ。
「白桃姫は、計都姫と知り合いなのか?」
「う、うむ。築地の言う通り、旧知というか……妾の勝てない魔族じゃ」
「ほう? そう言う存在とは」
「築地、それは昔の話。今はそれほどでも無い」
「そうそう。そもそも私と計都姫は初代魔人王派で、白桃姫はフォート・ノーマ派。明らかに生きる道が違ったからなぁ……」
「でも、今は同じじゃ……」
必死に取り繕う白桃姫とは。
なかなか不思議な光景なんだが。
「さて。それでは始めるとしようかの。ミヤビや、魔人王化を頼むぞ。人族も変身して準備を頼む」
「はい。それでは」
先輩が魔人王化する。
そして俺たちも魔将モードに変身して準備完了。
玉座に先輩が座り、左右にカーマインとコバルト、計都姫が立つ。
そして玉座から伸びる緋色の敷物の左右に、俺たちが順番に立つと、俺の魔将紋が光り輝く。
──ブゥン
今のこの謁見の間の様子が、魔族や魔獣にしか見えない波長で空に映し出される。
これは魔人王降臨の儀とかいうので起こったやつらしく、今現在、世界中の空にこの光景が浮かび上がっている。
「この裏地球に住む全ての魔族に告げる。我が名は魔人王オーガス・グレイス。そしてこの者たちは我が配下である四天王と十二魔将である……」
先輩がノリノリで演説を始める。
裏地球に住む魔族は、人間に害をなしてはならない。
魔族と人族は争う存在ではなく、共に歩む時代を迎えた。
我が言葉に反するものは、然るべき対応を行う。
私は日本にいる。
何かあった場合、四天王もしくは十二魔将に報告するが良い。
簡単ではあるが、魔力のこもった力のある言葉が世界中に響いた。
そして一通りの話が終わり、お披露目は終わる。
魔人王の声を聞き、魔将の姿を見た魔族たちは、複雑な心境であったであろう。
そしてようやく、魔人王関係の面倒事が無事に終わり、俺たちは平穏な日々に戻ることができるようになった……はず。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




