第二百八十話・管鮑之交、冬来たりなば春遠からじ(刮目せよ!! この勇姿を)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
十二月三十日、朝。
いつものように日課を終え、朝食を軽く食べてから妖魔特区に向かう。
本日の正午、俺たちは巨大水晶柱から鏡刻界に存在するはずのアトランティスへと転移する。
まあ、そこを経由して、白桃姫のいう水晶球の森に向かうらしく、そこから中央王都王城へと向かう算段になっている。
すでに札幌テレビ城下の水晶柱の前には、新山さんや瀬川先輩、白桃姫、リナちゃんと沙那さんが集まっていた。
「おはようございます。まだ時間には早いと思いますけれど」
「いやいや、俺より早いみんながそれをいうのですか? まあ、待ちきれなかったのも分かりますけれど」
そう笑いながら話していると、白桃姫がテレビ城から姿を表す。
「どうやら皆、揃っておるようじゃな。では、そろそろ水晶柱を開くとしようか」
「今回向かうのは、先輩と新山さん、俺、白桃姫の四名で良いのですよね?」
「はい。私とリナちゃんは、午後から補習がありますので。今回はお見送りです」
「行きたかったょぉぉぉぉ。鏡刻界にいきたかったぁぁぁぁ」
号泣しながら訴えるリナちゃん。
うん、こっちに帰ってくるのも遅かったし、授業も遅れているからね。
俺も、今年の春には死亡からの蘇生時には、遅れていた授業分の補習は受けたからね。
「……それで、このメンバーで鏡刻界に行って、何をやらかしてくるんだ?」
──ドキィィィン
いきなり後ろから、忍冬師範の声。
ゆっくりと振り向くと、そこには忍冬師範と要先生の姿もあった。
「ほう、こんな時間に2人がここに来るとは珍しいのう。何かあったのかや?」
「いえ、寧ろ、こんな時間に知った魔術師チームが次々と集まってくる時点で、何かやらかすのではと思って駆けつけてきただけです」
「ティラ・フィナーレじゃなくここに集まってきたっていうことで、何かあると予測はしたのですけれど。今度は何が起きたのですか?」
さすがは師範と要先生。
伊達に退魔官じゃないよなぁ。
「妾が久しぶりに里帰りするのでな。そのついでに、一泊二日の鏡刻界の旅を楽しむだけじゃよ」
「ええ。アトランティス経由で築地くんの顔も見てきます」
「「アトランティス?」」
あ、新山さんがやらかした。
ほら、オカルト大好き要先生がワクワクしているじゃないか。
「忍冬警部補、私は保護者として彼らに同行したいのですが」
「……はぁ。白桃姫さん、うちの要巡査も同行許可をいただきたいのですが」
諦め顔で白桃姫に問いかける忍冬師範。
いやいや、いきなりこの展開かい!!
「そうじゃなぁ。何かあった場合、巻き込んでしまうやも知れぬが構わぬか?」
「行き先が異世界である以上、巻き込まれたとしても恨むことはありません。全て自己責任で解決します」
「……だそうだ。どうですか?」
その要先生と忍冬師範の声を聞いて、先輩が頭を抱えている。
「ふむ。巻き込まれても恨むことはない……か。その言葉に偽りはないな? 行き先は妾たちの故郷じゃ、何が起こってもおかしくはないのじゃぞ?」
「構いません。それに、何かあったとしても、私は同行者として乙葉くんたちを守る義務があります」
「だそうじゃ。どうする?」
白桃姫がチラリと先輩を見る。
「仕方ありませんわ。要先生の好奇心を抑えることなど、誰にもできませんから」
「それならば、忍冬や。其方もくるか? 巻き込まれた場合は自己責任じゃが?」
「……少々お待ちください」
何かを悟ったのか、師範が離れてどこかに電話をしている。
そして五分ほどで戻ってくると、白桃姫に向かって頭を下げる。
「では、私と要巡査も同行をお願いします。白桃姫さんがそこまで注意喚起するということは、ただならぬ何かが起こり得るということですよね?」
「ふむ、勘が良いというかなんというか。なあミヤビや。この二人なら構わないのではないのか?」
その白桃姫の問いかけの真意。
それって、忍冬師範と要先生の二人も、魔将に組み込むって意味だよね?
「……はぁ。仕方ありませんわ。では、忍冬警部補と要先生にも、同行をお願いしますわ」
「鏡刻界観光の責任者は、今回は乙葉くんではなく瀬川さんなのね。よろしくお願いします」
「てっきり浩介が何か企んで、鏡刻界に向かうのかと思ったのだが」
「ひどいわ!! 俺ってそんなにやらかしキャラに見えるんですか? 今回の主催は俺じゃありませんからね?」
「わかったわかった、疑ってすまなかった」
「さて。星辰がちょうど良い場所に届いたぞよ。では参ろうか?」
──ブゥン!!
白桃姫が巨大水晶柱に手を当てる。
すると、その場に両開き扉が出現した。
「うわ、本当に白桃姫ってゲートを開けるのかよ」
「星辰と水晶柱さえあれば。あと、扉を開くための魔力は必要じゃから、乙葉の鍵を貸してたもれ」
「あ、やっぱりこれは必要なんだな?」
──ブゥン
今度は俺が、空間収納から『銀の鍵』を取り出して白桃姫に手渡すと、それを扉に突き刺して鍵をゆっくりと回し始めた。
──ガチャン
鍵が開く。
あとは扉を開くだけ。
「では参ろうかの」
白桃姫がゆっくりと扉を開くと、そこには広々とした森と草原が広がっていた。
「座標に狂いはない。ようこそ鏡刻界のアトランティスへ!!」
そのまま白桃姫に促され、俺たちは扉を潜ってアトランティスへと足を踏み入れた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──アトランティス
足を踏み入れた最初の感想。
「うわぁ、人の気配がない」
目の前には森林。その向こうに草原が広がっている。
「あ。異世界転移とかって、こういう感じなのですね?」
「ナイスだ新山さん。そうか、俺たちはラノベの世界を体験しているのか」
「浩介の存在自体が、ラノベのようなものだろうが」
「うわ、忍冬師範酷すぎるわ」
そんな冗談を交えていると、白桃姫が扉を閉めた。
──ガチャン
鍵を引き抜き俺に手渡してくるので、素直に受け取って魔力を込める。
「しかし、本当に凄い魔導具じゃな。乙葉が単独でこっちに来ることができるのも、理解できるわ」
「そりゃどうも。でも、俺だって水晶柱の力がないとできないからね? 単独で開く場合は、とんでもない魔力が必要なんだからさ」
「それでも、開けれるのが凄いわ。歴代魔皇ですら、裏地球に向かうためには儀式転移門が必要じゃったのだぞ?」
「そりゃどうも。それで白桃姫、俺たちが囲まれているのはどういうことなんだ?」
──シュシュシュシュンッ
周囲の草むら、木の影にガーゴイルのようなものが見え隠れしている。
作られたもの、ゴーレムや彫像って殺気を放ってこないからわからないんだよ。やつらのような魔導創造物って、生き物のような生きた気配を放たないからね。
「おお、ちょっと待ってたもれ。プラティや!! 妾じゃ!! 守護者を退がらせるがよいぞ」
大きな声で白桃姫が叫ぶ。
すると、ガーゴイルたちが後ろに下がっていき、入れ違いに草原から何者かが駆け抜けてくる!!
──ドゴッ、バギギィィィッ
そしていきなり俺の目の前に姿を現したら、左右のコンビネーションからの回し蹴りを放ってくる。
だが、その程度の速度の攻撃などフベシフバシッ!!
「ま、待った待った!! 流石に打撃抵抗はあっても慣性は止められないわ」
「よくいうよ。この俺の腹に突きつけているフォトンセイバーを下げてくれるか? オトヤン」
うん。
髪は伸びて後ろで縛って。
左目が眼帯で覆われている祐太郎じゃあーりませんか。
縮地からの奇襲攻撃とはまた、とんでもない技を身につけているなぁ。
「よう、久しぶり。魔障中毒は完治したのか? 暗黒闘気は?」
「魔障中毒は完治したし、暗黒闘気の糧として有効活用させてもらっている。おかげで、俺の左目には暗黒の炎が宿っている」
「うわ、実に拗らせた発言だな」
──ガシッ!!
お互いの拳をぶつけて鳴らす。
俺の挨拶はこれで終わり。
新山さんも手を振っているし、忍冬師範も頷いているし。
「無事だったか」
「忍冬師匠、ご心配をおかけしました。要先生もお久しぶりです」
「ああ。親父さんが心配していたから、戻ったらすぐに顔を出せ」
「元気そうで何よりですね」
そう思い出に浸りつつ、話をしている祐太郎たちは置いておくとして。
その草原の向こうからやってくる、黄金のスケルトンは敵ですか?
「なんだ、誰がきたかと思ったら白桃姫ではないか。それに……げっ!! まじモゴモゴモゴモゴ」
「言わせぬぞよ。そのまま口を塞いでおるがよいぞ……それよりも、立ち話もなんじゃから、一旦、水晶の塔に向かうとしようぞ」
「ぶはぁ。わかった分かった。お客人もこちらへどうぞ。私は元十二魔将の、プラティ・パラディ。白桃姫の友人である君たちを歓迎しよう」
そう笑いながら告げるのは良いんだけと、正直言って怖いんだけど。
頭だけが骸骨で、身体は黄金の肉体のようなもの。
ほら、あれ、オリハルコンで作られた戦闘兵士、ワッハマンもしくは黄金バットみたいな感じで怖いわ。
「では、向かうとしようぞ。忍冬、要や、こやつは妾の同僚じゃ、敵対意思はないから安心せい」
「寧ろ、俺はプラティ師匠に鍛えてもらったので。安全は保証します」
「そうか。では、お世話になります」
ようやく警戒心が解けたようで。
だから新山さんも、俺の服の裾を掴んで怖がらなくて良いからね。
「は、はい、骸骨で喋るなんて、おっかなくて」
「はっはっ。先輩は平気そうで……あの、顔色が真っ青なんですけど、先輩、大丈夫ですか?」
「え、ええ。びっくりしただけです。あまりにも予想外だったもので。異形の姿ならまだ受け入れやすいのですけれど、骸骨が話しているのは……」
普通、逆じゃね?
そう突っ込みたかったけれど敢えてパス。
そのまま白桃姫とプラティさんに連れられて、水晶の塔に向かうことになりました。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




