第二十八話・3人寄れば、開心見誠(聖地巡礼・発動編)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
はい、本日も寝坊でございますよ。
なんで寝坊したかなぁ。
まあ、今日は目的の同人誌はあってもそれほど人気のないサークルなので、午後からでも間に合うということでゆっくりとした起床です。
「いや、もう昼だから、オトヤン、今日もあの手で行くぞ」
「イエッサー、でも、なんで寝坊したかなぁ。スマホのアラームは鳴った形跡あるのに」
「ほらほら、早くしないと」
祐太郎に急かされて、俺たちは昨日と同じように姿を消して魔法の箒で会場まで一直線。
そのままコスプレ会場の建物の物陰に隠れて実体化すると、俺は会場へ買い物に、祐太郎はコスプレするために更衣室に向かった。
……
…
「おお、なんとか間に合ったぞ‼︎」
目的のサークルにたどり着いて、残りわずかの新刊を全て購入、あとは祐太郎と合流してコスプレ三昧。
今日は中世の騎士をモチーフにしたコスプレで行く予定なので、魔導具の出番はない。
出番はない。
『ピッ……中級魔族・ラティラハスヤの反応あり、距離157m』
ちっ。今日もいるのかよ。
突然ゴーグルに魔族反応が出たので、思わずそちらをみる。すると東館入口付近で壁にもたれて立っているタケミカヅチ・もっこす先生の姿があった。
しかも、俺の方を見てニコニコ笑いながら手招きしているじゃないですか?
「うわぁ、マジかよ。絶対に勝てる気がしないんだけど?」
まあ、気付いてしまったし目もあったので、俺はタケもっこす先生に頭を下げる。
でも、タケもっこす先生はニコニコと笑いながら手招きを続けている。
これはあれだ、逃げても駄目なパターンだ。
スマホを取り出してすぐに祐太郎に連絡を入れよう。
──ピッ
「ユータロ、俺だけど」
『オレオレ詐欺に知り合いはいないが? どうしたオトヤン』
「タケもっこす先生に見つかった、しかも手招きして呼んでいるんだが」
『……敵対意思がないのなら良いんだけどなぁ、昨日、握手した瞬間に吸精とかいう攻撃を受けたんだろ?』
「まあ、レジストしたし、それ以外の攻撃方法がなかったはずだから、レジストリング装備しておけば負けないと思うんだよなぁ」
『一人で行くなよ、俺もすぐそっちに……いや、着替えに時間かかるか、俺のところまで連れてこれるか?』
「やるだけやってみる。じゃあ外で」
──ピッ
さて、腹を括って行きますか。
すべての装備を換装して、タケもっこすの近くに向かう。
そしてすれ違い様に一言。
「外でなら話しますよ、友達が待っているのでね?」
「あら、では付いていくわね」
ニコニコと笑うタケもっこす先生。
でも、これだけ有名な同人作家が歩いているのに、なんで周りは騒がしくならないんだろう?
そんなことを考えつつ、祐太郎の待つ屋上へ向かう。
「お、オトヤンお疲れ様。そしてはじめましてタケミカヅチ先生」
「初めまして、タケミカヅチ・もっこすです」
軽く会釈して手を差し出してくるけど、祐太郎は握り返さない。
「オトヤンみたいに吸精されるとまずいから、握手はなしでお願いします」
「ふぅん。君も私のことがわかるのね。人間にしては珍しいわね」
「まあ、『魔族』の存在を知ったのは、つい最近なんですけどね。それで俺たちに何の用ですか?」
何処となく挑発するスタイルの祐太郎。
そしてタケもっこす先生は挑発を軽く流す感じで近くのベンチに向かうと、ゆっくりと腰を下ろした。
「あなたたちは第6課の人? それともヘキサグラム? どちらの所属かしら?」
「あ〜無所属ですが。その第六課とかヘキサグラムって何ですか?」
何も知らないふりをして俺が問い返すと、タケもっこす先生は驚いた顔で俺たちをみる。
俺たちの世界では、妖魔に関係する組織ってやっぱり第六課なのか。
でもヘキサグラムってなんだ?
「見た感じ、学生かぁ。それで二人はフリーランスの退治屋なのね? 第六課は各所轄警察の公安部に所属する未公表の特殊捜査課ね。普段は捜査課の一つとして活動していて、その呼び名が捜査第六課、あまり表立って活動はしていないけれど、私たち魔族に関する事件を担当している公務員、ってところかしら?」
「「 うわぁ、まるでラノベの世界だわ 」」
思わず祐太郎と同時に呟くと、タケもっこす先生は苦笑いしていた。
「それで、ヘキサグラムは?」
「妖魔を人為的に作り出したり軍事兵器として研究している外国の機関ね。まあ、貴方たちが、その組織の構成員じゃないのは理解したわ、私たちの種族の正式呼称である魔族っていう言葉を知っているのは、あの組織にはいないはずだから。
こっちの世界では、私たちを昔の呼称である『妖魔』って呼んでいるからね。
それで、私をどうするつもりかしら? 昨日は何か理由があって接触してきたのでしょ?」
やや声に覇気がある。
けれど、俺たちは特に目的があったわけじゃないんだよなぁ。新刊が欲しかっただけなんだよ。
「昨日、オトヤンが先生に接触した理由は簡単ですよ、俺が先生のファンで新刊が欲しかっただけです。けれど、貴方はオトヤンから精気を吸い取ろうとしましたよね?」
そう説明する祐太郎に、タケもっこす先生は一瞬だけポカーンとして、そして、声を上げて笑いはじめた。
「あ、あははははっ……何それ、私、警戒して馬鹿みたいじゃない。昨日の件はごめんなさいね、私って妖魔でしょ? 握手した相手から少しだけ精気をもらっていたのよ。別に取り憑いて殺すとか精気を全て奪うとかはしていないから安心して」
「……だってさ、どうするユータロ」
「まあ、先生が俺たちに危害を加えないっていうのなら、この件は忘れますよ。でも、妖魔って人間に取り憑いて殺すのが本能としてあるんじゃないですか?」
祐太郎が深いところに斬り込んでいく。
確かに、俺としても妖魔の存在については興味がある。
「取り憑くけど殺しはしないわよ。では何処かで貴方たちの質問に答えてあげるわ、けれど今はダメね」
「ど、どうして?」
「だって、ねぇ」
タケもっこす先生が周りを見渡すと、撮影会が開始されるのを待っている人が大勢集まっていた。
「あとで、貴方たちの宿泊先を教えて。夜にでも遊びに行くので、その時にお話ししましょ」
それだけを告げて、タケもっこす先生はその場から離れていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
コミックマーケット二日目も終了。
明日は朝イチで各種大手サークルを回らないとならないので、あまり遅くまで出歩きたくはない。
そもそも、昼にタケもっこす先生と話し合いをする約束をしてしまったので、早めにディナーバイキングで晩ご飯を終わらせる必要があった。
そして夜8時、タケもっこす先生が俺たちの部屋にやってきた。
突然、部屋の真ん中に姿を現したのである。
「……あの、もしも戦闘するのなら結界張ってくださいね」
「部屋の中で暴れると、あとから壊した家具とか請求されるので」
「次元結界のことかしら? あの空間で物質を破壊しても、こっちの世界には影響がないことをよく知っているわね‥‥」
俺はハリセン、祐太郎は銀の籠手を装備して身構えたのだが、タケもっこす先生はにっこりと微笑んでソファーに座った。
「あ、武器はしまっていいわよ、いくら私でも伝説の魔術師二人相手に喧嘩する気はないわよ。それで、貴方たちは何を知りたいのかしら?」
「まあ、喧嘩しないならそれで良いか」
「俺たちの知りたいのは妖魔について。普通の生活を送っていたのに、いきなり敵対存在として妖魔が出てきたり、上から目線で第六課とかいう組織が出てきたり……もう訳わかめ」
そう説明すると、タケもっこす先生は頷きながら部屋の中を見渡している。
「監視されているわね。じゃあ、場所を変えましょう」
──シュンッ
一瞬だけ、部屋が歪む感覚があった。
そして部屋全体が虹色の壁に包まれるのが見えた。
「これは、結界か」
「そうよ。これで監視カメラがあったとしても、私たちの姿は映らないわよ。まあ、もしあったとしたら、今頃は第六課が大慌てで飛んでくるのでしょうけれどね」
「それって、大丈夫なのですか?」
「あったとしたら、だからね。私の見た感じではないから安心して。じゃあ、簡単に説明するわね」
………
……
…
全ての始まりは、この世界が創造された時代から。
この世界・地球とは俺たち人間がつけた名前であり、神々が呼んでいる名前は『ネイル・アース』。
世界を創造した『破壊神』が作った第五の世界であり、俺たち人間の住む地球世界と、別次元鏡面に存在する鏡刻界という世界の二つ合わせて『ネイル・アース』と呼ぶらしい。
鏡刻界は俺たちの住む世界とは文明と何もかもが違い、有り体に説明すると魔法があり竜と精霊が存在するファンタジー世界らしい。
その世界の半分を統治しているのが魔族種と呼ばれる精神生命体、俺たち風にわかりやすく言うと『魔族』に該当する。
今から2000年前までは、鏡刻界は極めて穏やかな世界であった。
けれど、初代魔人王の死去後…後を継いだ二代目魔人王は、より純粋な精気を求めるために、二つの世界を隔てる鏡刻結界を越えて人間界に侵攻を開始した。
時同じく、人間界では侵攻してくる魔族‥‥妖魔と戦うべく、さまざまな魔術や武具により対抗、幾度となく妖魔の進軍を阻止してきた。
鏡刻結界を再封印し、妖魔が人間世界に現れないようにするところまでは良かったものの、結界の隙間から中級や下級妖魔が出入りするような事態も発生、それに対抗するために世界各国ではさまざまな対妖魔組織が編成される。
だが鏡刻結界は500年周期で弱まり、妖魔の大進軍が過去三度行われていた。
そして四度目の妖魔大進軍が間も無く行われる。
………
……
…
淡々とタケもっこす先生が魔族についての歴史を説明してくれる。
それは俺たちの知らない歴史であり世界であるが、過去に存在したと伝えられている術師の名前を聞くと、なんとなくそれが真実であることが理解できた。
「それで、日本にある第六課は平安時代の陰陽府がベースになっているのよ。初代陰陽府の責任者が御神楽様って呼ばれていた女性陰陽師でね、今でも第六課に対してのアドバイザーとして生きているのよ。世界中に存在する対魔族組織は、皆、御神楽様から叡智を授けてもらっているのよ」
ふむ、綾女ねーさんの話していた事も出てきたぞ?
でも話が大きすぎてついていけない。
だけど祐太郎は顎に手を当てて、何かを考えている。
「先生、一ついいか。鏡刻界の半分は魔族によって支配されている、なら残りの半分は? 魔族によって精気を奪われて滅亡したのなら鏡刻界は魔族によって統一されている筈だろ? 何故、残り半分の人類は精気を奪われていないんだ?」
おお、さすがは祐太郎。良いところをついてくる。
「それは簡単よ。残り半分の人類、これには人間以外の亜人、獣人とかエルフ、ドワーフとかも含まれるんだけど、魔族は彼らからは精気を奪えないのよ。
それ以外の普通の動物からは回収できるんだけれど、鏡刻界に住む魔族以外の知性生命体は、私たち魔族の持つ精気吸収に対して完全抵抗能力を持っているからね」
「へぇ。だから精気は吸えないってところか」
「正解。精気は即ち生気、肉体から発する魂のエネルギーね。私たち魔族種はそれを糧として生きるから、鏡刻界では他種族に対して戦争にすらならなかったのよ」
それで、鏡刻界に存在する、肉体を持った普通の動物たちから精気を得ていたのだが、二代目魔人王は鏡刻結界の外にある人間界の事を偶然知ったらしい。
そして先発隊が人間界に侵攻して攫ってきた人間の生気が、それまで得ていた動物たちのものとは比較にならないぐらい美味であり、エネルギー効率が高いので人間界に侵攻を始めたらしい。
「はぁ、そこまで違うものなの? 動物と人間の生気ってさ」
「そうね。簡単に説明するとね、生気はタンパク質と仮定しましょう。そして鏡刻界の動物の精気は豆腐だけど、こっちの人間の精気は高級な和牛A5のサーロイン、魔術師の魔力は世界一のスィーツって言えば理解できる?」
「「 あざーす 」」
実に簡単な説明ありがとうございました。
そりゃあいつでも食べられる『和牛の食べ放題無料』なんてあったら、豆腐には目もくれないわな。
「あ、因みにだけどね、私は鏡刻界の魔族の中では穏健派で、人間を滅ぼすようなことは考えていないから」
「うーむ、強硬派が人間を餌として考えていて、穏健派は糧のための存在と見ているってところ?」
「うーん。私たち魔族ってね、ぶっちゃけるとこっちの世界では植物からでも生気は貰えるのよ。それでもあっちの世界の動物よりも高濃度高純度なわけ。
私はコミケでは握手した相手からは少しずつ精気を分けてもらっているけれど、それっておやつみたいな感覚なのよね」
「「 スナック感覚で吸精しないでくれ 」」
「まあ、そんなところかな?」
「はぁ、つまり魔族にも十人十色でいろんな奴らがいる、すべての魔族が人間を襲って殺しているわけではないってところか」
「そ。ちなみに人間を襲って殺すのは、その死の瞬間に生気の熟成が完了して最高のエネルギーになるから。貴方達にわかりやすく説明すると、私が握手して相手から貰う精気は経験値1ぐらいで、死ぬ瞬間の生気は経験値10,000ってところかな?」
流石は18禁作家、俺たちにわかりやすいようにラノベ的な説明をしてくれた。
これで大体の話は理解できた。
綾女ねーさんも話していたっけ、恐怖が精気を美味しくするって。
「成る程、それでタケもっこす先生は、コミケで新刊を出すたびにデザート感覚で俺たちの精気を貰いに来ていたってわけか」
「そうよ。こう見えても、人間の姿を維持しつつ、体内の妖気が外に出ないように工夫しているのだからね」
「あ、それが妖気封じの楔なのですか、ようやく理解したわ」
「……なんでそこまで知っているのかなぁ。あれって鏡刻界でもかなり厳密に管理されている秘術なのよ? 確かにあれを打ち込んでいるから、こっちの世界でも第六課とかの呪符による調査には反応しないんだけれどね‥‥貴方たちは一体何者なの?
それに、貴方は魔術師でしょ? もうこの世界には魔術師は存在しないはずなんだけど、どうしてかしら?」
まあ、ここまで説明してもらって有難うございます、さようならってわけにはいかない。
祐太郎の方を見ると、奴もコクリとうなずくので、俺たちのことについても説明しておいた。
俺が死んで女神から加護を貰ったこと、祐太郎も別ルートで加護を貰ったこと、異世界の魔導商会から魔導具を手に入れて自在に操っていること、そして。
「俺は、大通り公園で飛頭蛮の綾女姉さんっていう妖魔と知り合いになったよ、まあ、あの人とはうまく付き合っていけそうだけどね」
「はぁ……なんで飛頭蛮なんて厄介な妖魔と友達になれるのよ。本当に二人とも、上位神の加護による加護保持者なのね。道理で私の正体が分かった筈だわ。良いこと、この話はあまり他にしてはダメよ」
「何故?」
「簡単よ。貴方達が持っている女神の加護は、このネイル・アースの神々とは違う加護なのよ。簡単にいうと、貴方達が本気を出せば、魔人王も浄化できるレベルのね。それに」
そんな強大な力を持っていることがバレたら、どうなるかわからない。
「それに?」
「この世界には、もう魔術を操れる存在はいないわ。血を重ねすぎて、その力が失われたのよ。今残っているのは安倍晴明の血を持つ呪符師が数名程度で、諸外国にもそれらしいのはいるけれど、魔術と呼ばれるものを使えるものはいないわ」
──ゴクッ
この言葉には、真面目に息を呑んでしまう。
まあ、それでも、俺たちは自分たちの思うようにすれば良いと説明してくれて、その場の話は一度お開きになった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
今回は、無かろうかと。
いや、あるかも。
あるかないか、それが問題だ‥‥。




