第二百七十八話・(あれ? あれれ? どういう事?)
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乙葉くんが、認識阻害の魔導具を作り始めたので。
私と瀬川先輩は、魔大陸に向かうためのメンバーについての選定を行うことにしました。
「ということなので、今日はうちで相談です」
「はいはい。この洋館に来るのも久しぶりですね」
場所は私の自宅にある応接間。
二階部分を寮のように貸し出ししているので、私の家は一階部分になります。
入り口に入ってすぐの広間は共用スペースとして開放しているので、今日も暇を弄んでいる魔族の人たちがリバーシを楽しんでいるところですね。
「さて、話を始めましょうか。現在の魔人王の側近は、こんな感じになっているのですわ」
──シュンッ
瀬川先輩が深淵の書庫を発動し、モニターのように展開してくれます。
そこには、このような表示がありました。
魔人王:ミヤビ
側近 :ワイルドカード(乙葉浩介)
十二魔将
第一位 :新山小春
第二位 :空位
第三位 :築地祐太郎
第四位 :唐沢リナ
第五位 :有馬沙那
第六位 :計都姫
第七位 :美馬かなめ
第八位 :高遠遥
第九位 :セレナ・アンダーソン
第十位 :怠惰のピク・ラティエ
第十一位:羅刹(綾女)
第十二位:虚無のゼロ
「……はぁ。ものの見事に文学部のメンバーが勢揃いですね。しかも、計都姫さんと白桃姫さん、綾女さんまで。ここまで凄いメンバーが揃って……あの、第十二位の虚無のゼロって、どなたですか?」
「それが、私にもわからないのよ。魔皇さん、この方はどなたなのですか? 私の知らない方なのですけれど」
そう先輩が胸元に手を当てて問いかけている。
すると、先輩の姿が輝き、魔人王モードに変化した。
『虚無のゼロは、元は魔皇。そして全ての魔皇を統括するものでもあり、魔人王の暴走を抑えるためにあるもの』
『かつての魔皇であり、四皇の一人。魔人王の暴走を抑えるものなり』
『唯一、魔人王と等しい権限を持つ存在であり、魔人王の暴走を抑えるものなり』
『調停家であり、魔大陸の主な政を扱っていた存在。また、魔人王の暴走を抑えるものなり』
その説明ですと、歴代の魔人王の十二魔将には、必ず虚無のゼロが存在していたことになるのかな?
「魔皇さん、十二位って常に固定なのですか?」
『否。六位であったり、二位であったこともある』
「つまり、その時代に応じて階位が変化する。けれど、必ず存在するもの、そう考えて構わないのかしら?」
『是。それ故に、虚無のゼロは魔人王すら知らないことを知っている。たとえば、封印大陸のことであったり、浮遊大陸の存在意義なども』
「へぇ。凄い魔族なのですね。その方は、瀬川先輩に敵対します?」
『否。魔人王は絶対。故に、道を誤らない限り、虚無のゼロは拳を振るうことはない』
「……私が魔人王となって、人間との融和を追求した場合。虚無のゼロは、それを阻止するかしら?」
その命題を魔皇に問いかける先輩。
そこについては、私も知りたかったのです。
『否。初代魔人王と同じ志を持つミヤビならば、虚無のゼロは敵対することはない』
『虚無のゼロが敵対する時はひとつだけ。故に、ミヤビには敵対はしないであろう』
『歴代魔皇最強にして、絶対無敵。かの伯狼雹鬼でさえ、虚無のゼロの前には塵芥に等しい』
そこまでの評価。
歴代の魔人王は、彼にいろいろなアドバイスを受けていたのでしょう。
「それなら、鏡刻界については虚無のゼロさんに統括してもらうというのはどうでしょうか?」
これは私の意見。
魔大陸でお披露目をした後に、私たちは自分たちの世界に帰ってこないとならない。
その後で、留守を任せられる存在があるとするなら、虚無のゼロさんが一番ふさわしいのではないかと思います。
「そうね。でも、そうなると、向こうにも何名か、虚無のゼロさんのサポートができる十二魔将が必要ですよね?」
『しからば。現存の魔将を降格し、彼の地にて新たに魔将を召し上げると良い』
「え、そんなことが可能なのですか?」
『うむ。寧ろ、先代魔将は皆、己の配下に眷属を召し抱えていた。力ある魔族には、それなりの地位を与えておかねば、後々が面倒なことになる』
『最も、フォート・ノーマとやらは、そのおかげで首を取られたようなものだが。故に、強大な権力を持つ魔将には、信頼に値するものを付けるのが道理』
なるほど。
先輩も難しい顔をして、何かを考えているようです。
「では、高遠さんと美馬さん、セレナさんには、魔将から外れてもらいましょう。流石に我を私たちのことに巻き込むことはできませんから」
「そうですね。でも、リナちゃんと沙那さんは巻き込むのですか?」
「そこなのですけど。そもそも、二人はこういう事に喜んで参加してくるじゃないですか。特にリナちゃんは。そして、それを諌められるのが沙那さんなので、二人にはお任せした方が良いのかと思います」
「う〜ん、たしかに。どちらかというと、外すと文句を言いそうですよね?」
そう告げると、先輩が笑いながら頷いている。
「ですから、二人には二人一組で魔将をひとつお願いしようと思っています」
「それで良いかもしれないですね。あと、第二位はどうしますか?」
そこは、元々は乙葉くんの場所。
不思議な事に、乙葉くんがワイルドカードになってからは、そこは空位のままになっていた。
「このメンバーで乙葉くんだけがいないとなると、ワイルドカードの中身が乙葉くんだって宣言しているようなものですよね?」
「ええ。ですから、そこにも乙葉くんを組み込みたいのですけれど……同一人物の登録はできないそうなのです。ですから、名目上は宣言しておいて、そこは空位のままになりそうですわ」
この辺りのルールがわからないけれど、そういうものだろうと納得する。
こうなると、人間サイドの魔将も欲しくなるのですけれど、表立って相談する相手が難しくて。
「私たち以外に、表立って活動してくれる人の協力もあると助かるのですけれど。どうしましょうか」
「十二魔将に人間を? いや、私や先輩、文学部の皆さんのような立場の人もいますから……でも、う〜ん」
これは難しい。
けど、手放しにしておくのは面倒な気がします。
せめて一人、もしくは二人ほど、仲間になってもらえたら……。
『四天王を定め、魔将の何名かを昇格。そこに人間を据えるというのは如何かな?』
「四天王? それって側近と違うのですか?」
『四天王は側近。魔将よりも権力を持つが故に、フォート・ノーマの時代には存在しなかった。古き魔族では、玉藻前が初代魔人王の四天王の一人であり、伯狼雹鬼、黒狼焔鬼、銀狼嵐鬼も二代目魔人王の四天王である』
「それなら、わたしたちが表に出ることもありませんよね? 四天王って、メジャーではなさそうですから!!」
この私の言葉に、先輩も手を叩いて納得してくれました。
「そうね、では、大幅な改編をしましょう!!」
そして最終的にどうなったかというと。
魔人王:ミヤビ
四天王:ワイルドカード(乙葉浩介)
:新山小春
:築地祐太郎
:空位
十二魔将
第一位 :乙葉浩介(名目上)
第二位 :唐沢リナ&有馬沙那
第三位 :計都姫
第四位 :怠惰のピク・ラティエ
第五位 :魔神・羅刹(綾女)
第六位 :人間側から信任
第七位 :人間側から信任
第八位 :人間側から信任
第九位 :鏡刻界で信任
第十位 :鏡刻界で信任
第十一位:鏡刻界で信任
第十二位:虚無のゼロ
こうなりました。
第九位から十二位までを鏡刻界の魔族で統一し、そのまま魔大陸の統治を任せる。
こっちの魔族については、基本的には計都姫と白桃姫さん、羅刹さんにお任せして、私たち四天王は人間サイドの調整を陰から行う形になるようです。
そして、人間側の十二魔将を三名。これは多数決が発生した時のための奇数で確定ですけれど、まだ誰がなるかとかは、これからのことになりそうです。
「乙葉くんには十二魔将第一位を名目上はお願いして、魔将を統括管理してもらうということでお願いしようと思います」
「四天王の存在は表に出さす、ですよね?」
「ひとつだけ空けてあるのは、後から誰かが上がった時のため。寧ろ、白桃姫さんにお願いしたいところですけれど」
「それは……面倒だから、嫌じゃ!! って言われますよね」
私のモノマネで、先輩がクスリと笑う。
「では、これを他の皆さんに相談して、最終的な結論を出す事にしましょう。築地くんについてはまあ、諦めて貰うということで」
「そうなりますよね。では、暫定案を皆に伝えますね?」
──ブゥン
ルーンブレスレットに魔力を通し、念話で今の話を伝える。
まあ、皆さんも賛同してくれるようなので、人間側の調整については半分は完了。
このあとは乙葉くんを交えて、計都姫とかにも伝えたいと思います。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──喫茶・九曜
「♪〜」
店内のカウンターで、鼻歌混じりで右手を見つめている計都姫。
その横では、飄々と、コーヒーを飲んでいる羅睺と、複雑な表情のチャンドラが話をしていた。
「なあ羅睺。計都姫が第六位なのに、俺たちに声が掛からないのはどうだと思う?」
「ん? その件については、別に何も思わんな。これで魔人王が乙葉浩介ゆかりのものであることが分かっただけのこと。寧ろ、乙葉浩介が魔人王ならば、わしが十二魔将に選ばれているはず。故に、計都姫の呟いていた瀬川雅が魔人王なのであろう?」
「まあ、そうなんだが……計都姫、そのあたりはどうなんだ? 魔将の紋章を受けたってことは、お前にはわかるんだろう?」
そうチャンドラが問いかけると、計都姫は無表情のまま一言。
「魔人王はミヤビ。これは確定。他の魔将も理解しているけれど、恐らくは改編される」
「ほう、他の魔将までわかるとはな。我らの知る魔族はいるのか?」
「いる。怠惰のピク・ラティエ、そして羅刹が魔将入りしている」
「「げっ!! 羅刹!!」」
思わず叫ぶ羅睺とチャンドラ。
これには計都姫もクスリと笑ってしまう。
「あと、虚無のゼロもいる」
「あ〜。あいつかぁ。まあ、いるよなぁ」
「調停家は当然じゃなぁ。して、残りの魔将は?」
「秘密。でも、ミヤビの力になるから、私は函館に行ってくる」
「……計都姫、まさかとは思うが、あれを取ってくるのか?」
──ゴクリ
チャンドラが息を呑む。
「そう。二十四の伝承宝具、神代の時代から伝えられし退魔法具。今の姿は調伏刀・和泉守兼定。きっと必要になる」
「……わかった。ならば、わしも付き合おう。奴らを相手にするには、計都姫だけでは心もとないだろうから」
「そういう事なら、俺も付き合うか。築地の野郎が戻ってこないと、修行にもならないからな」
覚悟を決めた顔で頷く羅睺とチャンドラ。
その二人に、計都姫は笑顔で答えた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




