第二百七十六話・有為転変、思い立ったが吉実?(すれ違い、そら見たことか)
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──鏡刻界・フェルデナント聖王国
王城眼下に広がる庭園。
その先の広場は今、厳戒態勢の真っ只中にあった。
突然、フェルデナント聖王国港町上空に姿を表した魔族の飛竜部隊は、一直線に王城を目指した。
本来ならば緊急事態故に、魔術兵団による迎撃があって然りなのだが、すぐさま王城から届けられた命令書には、王命により『そのまま王城広場まで案内するように』と記されていた。
そのまま先駆けの馬が先導するかのように飛竜部隊を誘導、真っ直ぐに王城広場までやってきたのである。
「スカループ!! スカループ大司教はいるか!!」
玉座の間に響く声。
国王である聖王エドワードは、港町に現れた魔族の襲来の報告を受け、急ぎここにやってきた。
すでに報告を受けていたマーカス宰相を始め、武官文官たちはすでに玉座の間に集まっている。
そしてエドワードの前にひざまづいていた。
「聖王さま。スカループ、ここに馳せ参じております」
「早いな。それで単刀直入に問うが、ここに向かっている魔族が、神託にあった魔族に間違いはないのだな?」
「新たな神託はありませぬ故に。そのお考えで正しいかと」
「よし、そのものが到着したら我自らが相手をしよう。万が一を考えて武官は近くに待機しろ、白竜騎士団も準備させておけ」
その指示に頭を下げ、武官や文官たちが部屋から出ていく。
そしてその場には近衛騎士とマーカス宰相、エドワードのみが残っていた。
「マーカス、魔大陸に向かわせた船団からは連絡はなかったのか?」
「はい。遠話の魔導具も届かぬ距離にいるのではないかと察します。ですが、こちらに魔族がやってきたことこそが、無事に水晶柱を操る魔族の力を得た事の証明でしょう」
「そうだな、これであの、乙葉浩介とやらに復讐することができる。待っておれ乙葉!! 貴様の生肝を引き抜き、太陽神に捧げてくれるわ」
高らかに笑うエドワード。
その眼下では、頭を下げたままのマーカスが口元に笑みを浮かべている。
(まさか飛竜で来るとは予想外だが。ブルーナ、どうやら間に合ったようだな……)
マーカス……ファザー・ダークの体内の保有魔力が、すでに枯渇を始めている。
このままだと、この肉体を維持できず、魔族のような精神生命体に体が散ってしまう。
この世界の法則に囚われてしまっているが故に、同族である知的生命体からは魔力を吸収する事はできず、動物などから得られる量にも限りがある。
裏地球内で暗躍していた時は、周囲の人間などから摂取していたために、ファザー・ダークとしての力もかなり使えていた。
だが、今はその力も衰え始めている。
「マーカス、お主も広場にて魔族を出迎えてくるが良い。俺も準備ができ次第、向かうことにする」
「はっ、畏まりました」
恭しく返事を返してから、マーカスも玉座の間を後にした。
………
……
…
──ヒュゥゥゥゥゥン
12騎の飛竜が広場近くの駐騎場に着地する。
飛竜の先頭に騎乗していた嫉妬のアンバランスは、周囲で待機していた騎士たちをぐるりと見渡す。
「どうやら、俺たちが来る事は事前に知らされていたようだな……俺は元十二魔将・嫉妬のアンバランスだ。この地に裏地球に向かうための水晶柱があると聞いてやってきた。案内するが良い!!」
頭を下げることなく、声高らかに叫ぶアンバランス。
すると騎士の一人が前に出て、丁寧に頭を下げる。
「お待ちしておりました。私は陸竜騎士団の団長を務めるクーベル・ドネールと申します。早速ですが、水晶柱の広場までご案内します」
「うむ。話が早くて助かる」
騎士団長に案内されて、駐騎場から広場へと向かう。
そこはかつて、フェルデナント聖王国から裏地球へと進軍を開始した橋頭堡であり、その一角に巨大な水晶柱が聳え立っていた。
「マーカス宰相殿!! 魔族のアンバランス卿をお連れしました」
「ご……ご苦労。これはこれは、十二魔将のアンバランス殿。お噂はかねがね伺っております」
丁寧に頭を下げるマーカスだが、その心境は複雑である。
(な、何故? ブルーナはどうしたというのだ? 奴でなくては、水晶柱をコントロールできないではないか?)
「丁寧な挨拶、いたみいる。さて、俺がここに来たことに、何か疑問があるような顔をしているが」
「そんな事はございません。我々としては、この水晶柱をコントロールし、裏地球へと繋がる転移門を開ける魔族が来ると思っていましたので」
「そうか。そのような神託があったという事で、間違いはないか?」
「はい。ですので、我々としてもそのような術式コントロールができる魔族を探すべく、魔大陸に使節団を送り出したのですが」
それは未だ、絶海を越えることができずに海の上を彷徨っている。
そしてマーカスの不安そうな顔を見てから、アンバランスは王城を見上げた。
「貴様が、魔大陸の使者だな? すぐにでも水晶柱を開くことができるのか?」
「あぁ? なんだテメェ……俺がそんな力を持っているはずがないだろうが?」
「マーカス。其奴は何者だ?」
上から目線のエドワードと、突然下に見られたことで腹を立てるアンバランス。
「そ、それがですね。どうやら彼らは、水晶柱を操ることができる魔族ではないようでして」
「ほう。では、貴様らは何をしに、ここまでやって来た?」
「元同僚の配下が、ここに水晶柱があるっていう神託を受けたものでな。それを使って裏地球に向かうことができるかどうか、調べに来ただけだ」
「同僚の配下だと?」
エドワードの眉根がピクリと動く。
「其奴は、水晶柱を操ることができるのではないか?」
「まあ、デュラッヘの氏族だからなぁ。空間芸術式についてはラティエ家よりも劣るが、奴らは水晶柱を支配する術式を使えるんだったかな」
「其奴はどこにいる?」
「さあな。あんたに教える必要はないだろう?」
お互いに牽制しつつ、情報を引き出そうとする。
エドワードの目的の魔族については、アンバランスが熟知していることは明白。
それならば、なんとか味方につけて水晶柱を開く魔族と渡りをつけなくてはならない。
「恐れながら陛下。このものは元十二魔将であり、単騎での戦闘力は陛下を遥かに凌ぎます」
「一騎当千ということか……それで、この地には最後の水晶柱がある。これを使わなくては、貴様ら魔族も裏地球に向かう事はできない……そうだろう?」
ニヤリと笑いつつ告げるエドワード。
交渉権については、こちらが有利と言わんばかりのドヤ顔であるが。
「いや、多少危険だが、裏地球に向かう方法については見当はついている。貴様ら低俗な人間如きに頭を下げる必要はないという事だ。では、失礼する」
──ブワサッ
軽くマントを翻し、アンバランスが来た道を戻り始める。
十二魔将だったアンバランスを、まともに相手できる人間などそうそういない。
ましてや、たかが一国の王程度でどうこうできるとも考えていない。
それゆえに、アンバランスは勝者の笑みで立ち去っていく。
「……こ、この魔族風情が!!」
腰のつるぎを引き抜くエドワードだが、すぐさまマーカスが駆け寄って諫める。
「お待ちください。相手はあの猛将アンバランスです……余計な被害が出る前に、ここは引くのが得策かと思われます」
「貴様までそのようなことを!!」
「それに、奴ら魔族は、我々の知らない手段を知っているようです。ここは、情報を得るためにも奴を泳がせた方が得策かと思われます」
「そうか……しかし、忌々しい……」
血が滲むほどに拳を握るエドワード。
そして踵を返すと、王城へと戻り始めた。
「マーカス。なんとしても、裏地球に向かう道を探し出せ!!」
「御意にございます」
丁寧に頭を下げると、マーカスもその場を離れる。
頼みの綱であったブルーナが使えなくなった今、更なる手段を講じる必要があるから。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──札幌市・妖魔特区内、札幌テレビ城
平日の夕方。
二階会議室では、俺と新山さん、瀬川先輩、リナちゃん、沙那さん、そして白桃姫が集まっている。
今日は部活も休みにしてあるので、白桃姫たちがいない間に、お互いに何があったのか報告を行う場を設けてもらった。
「……活性転移門とはまた。厄介なものがあったのじゃな」
「さすが白桃姫、知っていたのか」
「いや、詳しくは知らぬぞ。そういうものが存在するという話を、お伽噺的に聞いたことがあるだけじゃ。そもそも、それらの魔胞萌芽種については、封印大陸にしか存在しないと聞いたことがある。ゆえに、実在しているなど信じたくはないのじゃが」
「その封印大陸って、この前も話に出て来たよね? 一体なんなんだ?」
そこが知りたい。
けど、さすがの白桃姫も腕を組んで頭を捻ってしまう。
「う〜む。なんと申したら良いか。瀬川や、こっちの世界で神々が住まう場所はなんという?」
「え? 私たち日本人の場合でしたら、高天原とか。諸外国ではヴァルハラとか、いろいろな呼び方がありますけれど」
「それと同じものが、封印大陸じゃよ。我々鏡刻界の神々が眠る世界。いや、起きているのかもしれぬが、はやい話が、神々の住まう大陸ということじゃよ」
「話の規模が大きすぎるわ!!」
そりゃあ、頭を捻るわな。
「でも、そんな場所の種が、どうして私たちの世界に姿を表したのですか?」
「小春の言う通りじゃ、そこじゃよ。可能性としては、そこから持ち出したものがおると考えるのが無難じゃが……そもそも、行き方も場所もわからぬ場所から、どうやって持ってくると言うのじゃよ?」
「なんらかの原因で、私たちの世界に流れ着いたとか?」
白桃姫の言葉に沙那さんが反応するが。
それにも白桃姫は唸り声を上げて考えている。
「ぬぁぁぁぁ。全く分からん。分からんという事は、考えるだけ無駄じゃ。この話はおしまいじゃ、また何か似たようなことが起きたら、その時に考えようぞ」
「そうなるよなぁ。まあ、あちらの世界での出来事の大きなものはそれぐらいだよ。あとは瀬川先輩が魔人王になった事、それに合わせて魔族が動いたけど、俺が裏技でどうにか収めたことぐらいかな」
「ふむふむ。それならまあ、こっちの世界は平和じゃな。しかし鏡刻界をどうにかせんことには、魔大陸は混迷を極めるじゃろうなぁ」
そこな。
自分達の王が不在。
そりゃあ、悪いことを考える魔族も出てくるってことだよ。
それこそ、魔大陸全域を巻き込んだ、大戦争になってもおかしくないよなぁ。
「そうなると、向こうの世界で大戦争?」
「可能性がある。と言うことで、妾からの提案じゃ。乙葉や、瀬川を連れて魔大陸に向かうぞ!!」
また、なんていう……って、ちょいと待て。
それって、まさか?
「あ、あの、白桃姫さん? 私も一緒に行く理由は?」
「魔大陸中央、王都ドミニオンにある王城で、魔人王モードの姿を見せるのじゃ!! その上で、残っている輩に国の政を任せてくるのじゃよ?」
あっさりと告げる白桃姫。
そして俺たちも一瞬の間を置いて。
「「「「「えええええ!!」」」」」
そ、それは想像していなかったわ。
本当に、俺たちが向かうのかよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




