第二百七十三話・一蓮托生? 地獄で仏にあったよう(真実は何処にあるのか?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
実に有意義な日曜日であった。
午前中は天羽総理と燐訪さんに引っ張られて活性転移門退治をしていたんだけど、午後からは聖地秋葉原!!
あと数週間で年末の冬コミだけどさ、その前に下調べも兼ねて買い物三昧。
そのあとは魔法の絨毯と魔法の箒で北海道にゴーアウェイ。
高度149m以下での高速飛行、のんびりと二時間の空の旅。
家に着いたのは22時過ぎだったから、ひとっ風呂浴びてゴートゥスリープ。
──朝
いつもの朝。
身支度と日課を終えて朝食をとりにダイニングへ。
すると、鼻歌混じりに朝食の準備をしている母さんの姿を発見。
「おはよう。今日は随分とご機嫌だけど、何かいいことでもあったの?」
「ええ。殺生石が割れてね、少しだけ力が戻ったのよ」
ん?
なんやら物騒な話じゃないか?
うちの母さんって、玉藻前だったっけ?
乙葉洋子、玉藻前……妖狐で玉藻前。
あー。
聞かなかったことにするわ、そういうことだよなぁ。
「まあ、それはおめでとうございます。でもさ、あれって玉藻前本人が封じられていたんじゃないの?」
確か、妖狐・玉藻前が討伐されて変化したのが殺生石。
それを源翁和尚が砕いて各地に散ったんだよね?
その一つが那須にあるやつで、それが砕けたので母さんの力が戻った?
あ、本人が封じられたんじゃなくて、討伐されて石になったのか。
「いやいや、そんなわけがないでしょう? 討伐された時に、尻尾を変り身にして逃げたのよ。それが殺生石に変わって、封じられたっていうことよ」
「へぇ。そりゃまあ、なんというか……」
ちょうどテレビのニュースでも取り上げられているし、コメンテーターが『玉藻前復活の予兆か?』などと叫んでいる。
いやいや、復活も何も、目の前でトーストを焼いてくれていますが。
「あれ、そういえば親父は?」
「今朝から東京に出張よ。ヘキサグラム日本支部を作るにあたっての準備があるそうで、陰陽府とも提携することになりそうだって」
「はぁ。そりゃまた忙しそうだなぁ」
「まあ、魔人王絡みの問題は解決したようだし、活性転移門の時間もひと段落でしょう? サンフランシスコのマグナム派はあそこから出られないから、それほど危険性はないと思うわ。百道烈士だって、外に出ることができなかったのですからね」
うん、実に専門的なご意見をありがとうございます。
それ以外にも何かありそうでなさそうで、祐太郎がとっとと帰ってきてくれたら本当に一安心なんだけどさ。
ということで、朝食を終わらせて学校に行ってきまーす。
──北広島西高等学校
あいも変わらず、梶原が……今日は静かだな。
織田の再来かと思って警戒していたけれど、あそこまで非常識に執拗なまでに質問攻めしてくる様子はなフベシッ!!
──ゴスッ
「乙葉ぁ、声に出ているからな!!」
「だからと言って、教科書を投げるな、魔力を込めて飛ばすな!」
最近の織田は、魔術をうまく使いこなし始めている。
まあ、それは俺が禁止することじゃないし、魔力弁の開き方も理解している上で、まだ仲間たちに試していないらしいから。
そのあたり、要先生とも話をしたんだってさ。
「梶原は、今日は俺に突っかかってこないのか?」
「そんなに暇じゃないからな。魔術についてだって、乙葉や織田がこれだけ教えないってことは、危険なんだろうって理解はしている。まあ、来年度から北海学園大学で【基礎魔術科】が開校するから、そこに入れるように頑張るだけだ」
「……はぁ? とうとう大学で魔術講習が始まるのかよ。っていうか、専門学科だと?」
「あれ? 乙葉は知っていると思ったんだけど。来年度の倍率はかなり高そうらしい。それで……ええっと、推薦枠があって、魔術講習証明があれば、推薦枠で入学可能だったかな?」
ん?
んんん?
──シュッン
一瞬で魂の情報を取り出して見せる。
俺のはオリジナルなので青銀色。
通称・ミスリルカラー。
「魔術講習証明って、これか?」
「それだ!! 国が指定した魔術講習に参加した場合、それの白いやつが発行されるんだろ? それがあれば、推薦枠内ならば試験なしで入学可能なんだが」
「へぇ。織田、お前もそこに入るのか?」
「まあ、な。ちなみに推薦枠じゃないから、勉強しないときつくてな」
ふぅん。
「織田、ほら、待ってけ!」
──シュッン
右手を翳して織田の魔力波長を捉えると、それに合わせて魂の情報の白色版を発行。
それを手品のようにシュッンと投げて飛ばす。
流石に手品部の部員だけあって、カードの取り扱いはうまい。
二本指でシュタッと受け取っていたよ。
「良いのか?」
「お前が推薦枠になれば、別の奴らの合格枠が増えるだろうが。そもそも、魔術を使える奴が試験を受けるな、推薦で入れ」
「あ〜、サンキュー」
「ゴホン……なあ乙葉。俺の分はないのか?」
咳払いをする梶原。
いや、お前は魔術師じゃないし。
「ないなぁ。対妖魔機関か国指定の講習にでも出てみたら? 織田は魔術が使えるから、これぐらいはサービスする。そもそも、織田はしっかりと学問と魔術を並行で勉強しているからな?」
「ぐっ……乙葉、今度、講習のスケジュールがわかったら教えてくれ」
「それぐらいは構わんが。それよりも、真面目に勉強しておけ」
そんな会話で盛り上がっていたら、予鈴が鳴って授業開始。
そして何事もなく放課後の部活タイムとなりましたとさ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──放課後
「乙葉先輩!! 帰ってきました!!」
「私とリナちゃん、白桃姫師匠は先日、無事に水晶柱経由で帰還しました」
部室に向かって最初に驚いたのは、部室で待っていた有馬沙那さんと唐沢りなちゃんの二人がいたこと。
「うぉあ!! 昨日帰ってきたのか。でも、よく水晶柱経由で戻ってこれたな。あれ、妨害電波みたいので使えなかったはずじゃ?」
「それについては、白桃姫師匠曰く、格下が足掻きおって……っていう感じだそうです」
「空間魔法は白桃姫師匠の専門ですしおすし」
そうかそうか。
空間系魔術なぁ。
俺には使えないんだよなぁ。
「取り敢えず、二人ともそこに座ってね。体の調子を確認してあげますから……診断!」
新山さんが二人の調子を確認する。
しばらく真面目な顔をして何か虚空を見つめてから、ふぅ、と一息入れて一言。
「はい、何処もおかしなところはありませんね。沙那さんはまた身体の構成が複雑化したようですし、リナちゃんは魔力と闘気の複合闘気が綺麗に循環していますね」
「勝利のブイ!! 大丈ブイ!!」
「プラティ師匠のマッドカスタマイズのお陰です。今では、アイアンメイデンを召喚して融合することも可能です」
「ふぁ……そりゃまたとんでもないことになったなぁ。ちなみに、祐太郎の姿が見えないってことは、あいつはまだアトランティスなのか?」
ここも重要。
三人が戻ってきて、あいつがいないっていうことはそういうことなんだろうなぁ。
「はい。まだ意識が戻っていないそうです。それに、予定よりもアトランティスがこっちの世界に滞在できる時間が短めだったようで、今日あたりにはもう鏡刻界に移動したと思います」
「次にこっちに来るのは、いつになるかわからないって話していたよ。だから、何かあったら白桃姫師匠に頼んで、水晶柱を接続してもらうとよろしいって話していた!!」
アフターサービスも万全かよ。
まあ、その辺りは信用しているなら任せることにするか。
「それじゃあ、今日はこれから部室で魔術トレーニングかな?」
「いえ、取り敢えず帰還したことを報告しにきました」
「私と沙那ちゃんは、これから放課後は講習があります。遅れていた勉強を取り戻すためのテキスト補習です」
「なるほど、がんがれ」
応援は大切。
俺は魔導鎧・ワイルドカードを作るための準備をしないとならない。
新山さんは、瞑想状態に突入。
ほら、昨日の浄化術式フォトンセイバー『草薙剣』。
あれの効果時間を伸ばせるように、魔力を強化するんだって。
魔力って、使って使って使いまくって、その回復時に伸びることがあるんだよね。
だから、瞑想状態で魔力を効率よく循環して、広範囲回復術式を使ってヒーリングエリアを形成。
範囲内の人たちを回復させてから、また魔力を練るっていうことを繰り返すそうで。
この影響で、範囲内の人の魔力弁が開く可能性も考えたんだけど、この時間のこの場所を中心とした範囲なんて、そうそう巻き込まれる生徒もいないわけで。
何はともあれ、新山さんも頑張れ〜。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──アトランティス・水晶の塔地下
微睡。
白く黒く赤い空間。
黒く燃え盛る竜との邂逅。
俺の中に生まれた力、それが暗黒闘気。
表現的に悪役っぽい闘気だが、実際には鏡刻界の暗黒竜ダイナースの体内から生み出される『魔竜核』というものから形成した『魔晶石』を体内に組み込むことで生み出される闘気のことをいう。
ほら、俺たちの世界だと、【暗黒闘気】って聞いたら、悪き力を制御するとか、封じられた力を宿すとか、そういうイメージがあるだろう?
俺もそうかと思ったんだが、予想外の説明に頷くことしかできなかった。
「暗黒闘気は、意外とメジャー」
そんな言葉を聞かされて、はぁ、そうですかって力が抜けたよ。
「でも、体内に組み込まれて使える人間はほぼゼロ。大抵は移植した時点で死ぬ」
そんなことを補足されて、動揺しないはずがないだろう?
そこで意識は消えたんだけどな。
それで、いま、俺はベッドの中で目を覚ましたのか。
「……目が覚めたか、祐太郎」
天井と、心配そうな顔のプラティ。
うん、視界が半分しかない。
右目がまともに機能していないように感じるのは、何故だ?
「俺は、どれぐらい眠っていた?」
「いいか祐太郎、落ち着いて聞いてくれるか。手術が終わりお前が寝ている間に、マグナム派の魔族の襲撃があって、リバースに移動して、白桃姫たちは帰った」
「……まあ、そうなるよなぁ。ちなみに、俺の右目はどうなった?」
「暗黒闘気の影響だな。右目に闘気を集めれば、元の視覚は取り戻せる。ただし、瞳が金色に輝くのと、【威圧眼】という力が発動する。普段は、これをつけておくと良い」
そう説明してから、プラティは俺に眼帯を手渡してくれた。
海賊がよく使っていそうな、厨二病拗らせタイプの眼帯。
「あの、もっとスタイリッシュなやつはないのか?」
「いくらでもある。まあ、あとで持ってこさせることにしよう。今日のところは体を休めておくと良い。明日からは、暗黒闘気の制御訓練を始めるとしようか」
「まあ、その前に一度、自宅に戻りたいんだけど。流石に長時間留守にしていたからな」
そう告げると、プラティがポリポリと黄金の骸骨頭を掻いている。
「それがなぁ。もう、鏡刻界に移動してしまったんじゃよ。いつ戻るのかわからんから、暫くは修行でもしていると良いだろう」
「良くないわ!! あ〜。流石に意識がない俺を連れ帰るのは不可能って判断したのかぁ。まあ、それならそれで仕方ないか」
人間、速やかな諦めが肝心。
帰る手段がないのだから、返せと叫ぶわけにもいかず。
そもそも、アトランティスが鏡刻界と裏地球を行き来している原理だって、いまだに不明らしいからなぁ。
「まあ、そう考えてくれるのなら助かるな。取り敢えずは体を休めておきなさい。明日からは、日常レベルで体が動かせるようにリハビリをしてから、訓練を開始しよう。暗黒闘気は、制御訓練を行わないと日常生活にも支障が出るからな」
「怖すぎるわ。なんだよ、その改造手術を受けたばかりの仮面ライダーみたいな状況は、嫌いじゃないがな!!」
「例が細かすぎてわからん。まあ、そういうことだ」
それだけを告げて、プラティが部屋から出ていく。
「しっかし、あっちではどれぐらいの時間が経ったんだろうなぁ」
そう考えても、スマホのバッテリーは切れている。
ルーンブレスレットには時計の機能はない。
はぁ。
これは参ったなぁ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




