第二百七十二話・自業自得。先ず隗より始めよ(詰めが甘い!!)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
はい。
昨日は夜まで魔術講習会の手伝いをしていました。
本当なら二回で終わるはずだったのに、希望者が殺到したので急遽、講習を一つ増やして終わったのが夜の十時。
そんな時間まで高校生を働かせるなと言いたいところだが、引き受けた以上は最後までやり通すのが俺ちゃんです。
ちなみに魔力感知球を盗み出した犯人については、未だ見つからず時間切れ。もう少し時間があったなら、調べることはできたかも知れないんだけどね。
そんなこんなでバイトは終わり。
本日、日曜日はのんびりと羽を伸ばすことにしますよ。
──永田町・国会議事堂敷地内
「……解せぬ」
朝。
秋葉原まで買い物三昧作戦を敢行しょうとしたんだけどさ、何故か天羽総理大臣から連絡がきたよ、俺のスマホにダイレクトアタック。
『済まないが、国会議事堂内にある奇妙な妖魔の対策をして欲しいんだが』
総理大臣から直々にそう頼まれるとさ、断れるはずがないじゃないか。
「それで、天羽総理大臣がこの場にいるのは理解できますが。なんで国権民進党の燐訪さんまでいらっしゃるのですか?」
「なによ、私がいたら問題でもあるわけ?」
「いえ、国会議員が国会議事堂の近くにあるのは問題ありませんけれど。また、難癖つけにきたのかなぁと?」
「あのねぇ。私がいつもいつも難癖つけていると思っているの? 妖魔関連法案とかも、納得できない部分については文句を言わせてもらうけれど、理解できる部分についてはちゃんと賛成しているわよ。私たちが、何でもかんでも反対して野党の足を引っ張っていると思っているの?」
熱い口調で力説する燐訪に、俺と天羽総理大臣は頷いている。
流石に瀬川先輩と新山さんは苦笑しているけれど、頷いていないということは野党の良い部分も見ているんだろうなぁ。
俺ってさ、魔術関連で上から目線で言われ続けていたから、少しだけアレルギーみたいに過剰反応していたのかも知れない。
それに、以前空港で見た燐訪議員の偽者がいたよね?
魔神リィンフォース。
昨日、戦ったばかりの魔神が、なんで目の前に……って、魔力反応がないだと?
『ピッ……目の前の燐訪は、魔神リィンフォースの反応がありません。オリジナルかと思われます』
あ、まじか。
ということは、どこかのタイミングで本物と偽者が入れ替わったのか。
まさか天啓眼を誤魔化すとも思えないし、チラリと先輩を見ても頭を振っているからセーフ。
これは燐訪議員本物という事で。
俺ちゃん、少しだけ反省。
「あっきれた。たしかに、あなたがここに始めてきた時とかは、このクソガキどうしてやろうかとか思ったこともあったわよ。でも、今は違うわね」
「あ〜。全力で本音をありがとう。それで、俺になんとかしてほしいっていうのは、アレのこと?」
俺が指差したのは、水晶柱を取り込むように伸びている巨大な蔓。
そのうちの一部は扉のような形を形成し、ドックドックと脈打っている。
あれって、初めてみた時よりもかなり凶悪に成長しているよなぁ。
しっかりと周りを『KEEPOUT』って印刷されたテープで囲っているし、離れた場所では特戦自衛隊の隊員が待機しているし。
「見て分かる通り。仮称・活性転移門が水晶柱を取り込み始めたのよ。それで、あなたならあれを引き剥がすことができるのかどうか、それを見てもらいたいのよ。可能ならば排除して、以上よ」
手元の書類を見ながら説明してくれる燐訪。
あれ、この人ってこんなにできる人だっけ?
まあ、国会議員って表も裏もあるのだろうから、こういう感情抜きで事務的に話してくれるのにはびっくりだわ。
「まあ、それじゃあ確認してみますか。天啓眼!!」
『ピッ……活性転移門・ステージ3。水晶柱から魔力を吸収し、更なる進化を行うことができる。残念ながら、必要魔力が不足しているため、これ以上の進化は不可能』
ははぁ、なるほどなぁ。
もしも俺たちの後ろにいる燐訪が偽者なら、活性転移門を破壊させようとするはずはないよなぁ。
それを破壊させようとしてあるってことは、この燐訪は本物か。
チラリと後ろを見ると、少し険しい顔で俺たちを睨んでいる。
うん、よく見たことのある顔だわ、こいつは本物だわ。
「さて、先輩、これはどうしますか?」
「例の手を使って破壊可能かどうか。札幌市駅地下迷宮の活性転移門とは段階が違うようですけれど、やっぱり破壊耐性はあるようですわね」
「乙葉くん、試したいことがあるんだけど?」
先輩の言葉のあとで、新山さんが俺に話しかける。
ほほう、何を試したいのかな?
「試したいこと?」
「うん。フォトンセイバーを貸して貰える?」
「ほいほい、これでいいの?」
──スッ
空間収納からフォトンセイバーを取り出して、新山さんに手渡してみる。
「ありがとう。では、ちょっと試してみます……我が手に宿れ、神谷の剣。祈りや形となりて、刃を作り給え……」
──ピュゥゥゥゥゥゥン
新山さんの詠唱が終わると、柄の部分から魔力の刃が生み出される。
俺がよく作るような、光る蛍光灯のような刃でも、ロングソードのような刃でもない。
神刀・草薙剣。
それが新山さんの手の中に生み出された。
「はい、これで試してくれますか?」
「こ、これって?」
「神聖魔法の浄化術式、それをフォトンセイバーに流して刀身を作り出したのですけれど」
「あ〜、なるほどなぁ」
チラリと後ろを見るけど、燐訪さんは今ひとつ理解していない雰囲気。
これをみて驚かないということは、今の燐訪さんは魔神リィンフォースじゃないということだよな。
──チャキッ
フォトンセイバーの刀身が消える前に、あの活性転移門を破壊できるか勝負……って、あれ?
──ブルブルブルブル
水晶柱に絡まっている蔦がブルブルと震えている。
俺がフォトンセイバーを構えると、それに合わせてビクッと動き、離れるように水晶柱の裏側に回り込む。
その水晶柱には、俺が設置した魔力拡散回路がついているから、そこを媒体に転移門を開くことはできないんだけどなぁ。
「それじゃあ、とっとと試すことにしますか!! 魔導紳士モード!! か〜ら〜の、零式起動!」
──シャキィィィィン
全身に魔導強化外骨格・零式を装着し、素早く活性転移門に接近すると、次々と蔦やら門のような根の部分やらを切り裂いてみる。
──ズバァァァォァァァァ
それはもう、よく切れます。
物理・魔法耐性持ちの活性転移門が、見事に切断されていくわ!!
「これは……キレる!!」
あとはもう、一方通行の蹂躙モード。
札駅迷宮の奴のように根が足のようになって移動するわけでもないので、事細かに切り刻んでいくとしよう……って、あれ?
──プシュゥゥゥゥゥ
刀身が消えた。
「乙葉くん!! 浄化術式の付与は三分しか持ちません!!!!」
「なんですと!! ここから先は自力でいくしかないのかよ」
──ビン、ババン、バンビバン
ここからは自分の魔力で刀身を形成したけれど、今度はノーダメージで弾かれるじゃないか。
こりゃあ参った。
急いで後ろに下がり、新山さんにフォトンセイバーを預ける。
「もう一度、付与いける?」
「いきます!!」
──ピュゥゥゥゥゥゥ
柄を構えて詠唱する新山さん。
そして刀身が作り出された時、再び俺は活性転移門に向かって切り掛かる。
そして切れては再付与からの攻撃を繰り返し、一時間後にはなんとか活性転移門の核である魔素萌芽種を砕いて完了。
──ドサドサッ
俺も新山さんもその場にへたり込むし、先輩は深淵の書庫を展開して今の記録を取りつつも周辺警戒を行っていたし。
ただ、燐訪さんと天羽総理はスマホ片手に録画していたようで、仕事熱心なのは良いかと。
「お、乙葉くん、魔力が足りません」
「はい、鷲のマークのショッカーの魔力回復薬をどうぞ。おれは疲れ切ったので、薬じゃどうにもならないわ」
「おつかれさま。この辺りの魔力反応はもうないようなので、警戒する必要はないですね」
先輩も一息入れてから深淵の書庫を閉じる。
「こ、これでここは安全なのだな? 助かったよ、改めて第六課経由で報酬は支払わせてもらうから」
「ふ、ふ、ふ〜ん。現代の魔術師を名乗るだけあって、しっかりとした仕事をするじゃないの。その調子で頑張ることね」
そう吐き捨ててから、燐訪は踵を返して議員会館へと向かっていく。
いつからあの人、ツンデレキャラになったんだ?
まあ、害はないようだから良いかぁ。
とりま、午前中は体を休めることにして、午後からは買い物三昧だぁ!!
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──カツカツカツカツ
破壊された活性転移門を後にする燐訪。
その正体は、乙葉らの予想通りの魔神リィンフォースである。
(な。なによあの魔力は。あの活性転移門をあんなに簡単に破壊するなんて、どういう裏技を使ったのよ?)
先日の戦闘ののち、魔神リィンフォースは自分の体内の魔力を消す術式を発動した。
『人化の術式』という禁呪であり、これを用いると一定時間の間は、人間と同じ体組成となり、魔人核が体から排出される。
この剥き出しの魔人核は器に収めたのち、議員会館の燐訪の自室に作り出した『時空結界』の向こうに安置してある。
同じ空間には、『眠りの術式』によって仮死状態のまま安置されている燐訪の姿もある。
これで人間と同じ反応しか出ないため、乙葉浩介らが北海道に戻るまでは、このスタイルで誤魔化そうと企んだのである。
ついでに活性転移門を見せることで、彼らに絶望と無力感を叩きつけようとしたのだが、それも失敗に終わってしまう。
(あいつら、何かあることにチラチラとこっちを見て。私がリィンフォースだって疑っているってことじゃないのよ。本当にヤバかったわ。あんな浄化術式で作り出した剣なんて持ち出された日には、魔族には勝ち目なんてないじゃない!)
これ以上、ここにいてボロが出るのはまずい。
急いで議員会館に戻って、一般人のふりを続けなくては。
この体では、何もできないのだから。
(覚えていなさい。次に会う時までには、しっかりと対策を練ってあげるからね!!)
野望に燃えるリィンフォース。
いかんせん、燐訪の魂の半分を吸収して生み出されたので、どこか詰めが甘いのである。
そして議員会館に戻ったリィンフォースは、乙葉たちが帰る日曜日の夜まで、ずっと自室に引きこもることにした。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




