第二百七十話・公明正大? 酸いも甘いも噛み分け飲み込む(なんでこうなった?)
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状況説明。
今日はこの場所で魔術講習があり、俺は護衛として参加。
その会場で魔力感知球のすり替え事件があり、本物の反応を追いかけていったら王爵級魔族と接触。
そのままどんぱちやってきて、王爵級魔族は逃したけれどその配下はぶっ飛ばしてきて。
破壊された魔力感知球の代わりに、俺が一つ手渡してきた。
「……というのが、今、ありのままに起こった事です」
新山さんと一緒に、行動の控室に戻ってきた。
そして深淵の書庫の中で待機していた瀬川先輩と要先生に何が起こったのか説明したんだけど、先輩が渋い顔をしている。
──トントン
そして自分のブレスレットを指で叩いているので、急ぎ念話モードに切り替える。
『乙葉くん、深淵の書庫の中で敵性魔族の反応を確認したのですけれど。王爵級魔族は人魔ではありませんね』
『え? 人魔じゃない?』
『ええ。魔神、神の方の人魔と思って構いません。あのランクの魔族は、過去に魔大陸にも数体しかいないそうですわ』
『先輩、それってかなり危険ですよね?』
説明を聞いて新山さんも動揺している。
チラリと要先生の方を見ると、俺の状況説明の後、今回の講習の依頼者と打ち合わせを始めている。
『魔神の強さって、魔皇クラスって事ですか?』
『いえ、魔皇の数十倍。歴代魔皇の中でも、おそらく勝てるものは片手で足りる程度だそうです。過去に存在した魔神は、現役時代の乙葉くんのお母さんである玉藻前、羅刹、そして伯狼雹鬼、魔皇の無妙さんと第六天魔王が魔神級に当たるそうです。このうち、いまだに力を保っているものは殆どいないそうですけれど』
──ゴクッ
思わず息を呑む。
それってさ、かーなーりヤバくね?
正直いって、勝てる相手じゃないわ。
あの綾女ねーさんの羅刹にだって、辛うじて辛勝、これおかしい言い方だけどそんな感じで。
母さんになんていまだに勝てる気もしないわ、戦う気もしないわ。
そして伯狼雹鬼だって?
それってアレだよな?
『先輩、伯狼雹鬼が魔神だとしますと、お父様であった銀狼嵐鬼も魔神級だったのですか?』
ナイスだ新山さん。
それは、俺も聞こうと思ったんだよ。
『ええ。伯狼雹鬼、黒狼焔鬼、銀狼嵐鬼は三魔神として君臨していたそうです。あと、歴代魔皇の監視役として【虚無のゼロ】という魔族も魔神級だったと教えてくれました』
『あっちゃあ。こりゃあまた厄介な。よくある漫画のパワーバランスブレイカーじゃないかよ。俺でも勝てる気がしないわ』
『でも、全てが敵じゃないし、大半の魔神は力を失っているものが多いらしいのよ。その理由は不明なのですけれどね?』
『そのあたり、ちょっと調べて見たいところでもあるけれど。この手の話に詳しい白桃姫が戻ってこないと、話が進まないわ』
それに、あの魔族の件もあるからなぁ。
ほら、水晶柱を自在にコントロールするやつ。
あいつのおかげで、水晶柱を媒体にした転移魔法が使えないんだよ。
俺単独で転移するぐらいなら構わないけれど、単独でも鏡刻界にはいけないし。
どうしても魔人王即位の件については、一度向こうの世界に行きたいところなんだよ。
『まあ、魔神の件については、白桃姫さんが戻ってきてからまた考えることにしましょう。それよりも、今はやるべきことをやらないとね?』
その通り。
まずは、この講習を成功させないとならないからね。
でも、瀬川先輩と新山さんって、どんな手伝いをするのだろうか。
ちょっと楽しみである。
………
……
…
「それで、俺が受付を手伝わされているというのはこういうことか」
結界発生装置を設置してから。
俺は川端政務官からのバイトの依頼を受けた。
一時間だけ、受付で講堂に侵入しようとする妖魔を監視してほしい。時給5000円支払う、講習参加者の安全のために頼むと。
以前のように上から時点じゃなく、頭を下げてきてしっかりと事情を説明されるとさ、断る必要もないんだよなぁ。
「え? 妖魔がいたのですか?」
「まあ、いたというか、いる。あの建物の外でウロウロしている自衛官は人魔だよね?」
どうやら講習を受けにきた特戦自衛隊の隊員らしいけれど、建物の手前で結界にぶつかり、困った顔でウロウロしている。
そして俺が受付にいるのが見えたらしく、必死に俺を手招きしている。
「ちょっと席を外していいですか? 入り口で監視は続けますので」
「よろしくお願いします」
そう断りを入れてから、俺は建物の外に出る。
そして結界の中ぎりぎりに向かうと、目の前の特戦自衛隊員二人に話しかけた。
「今日は魔術講習会ですよ。お二人はどのようなご用事ですか? 妨害工作?」
「え? いや、普通に講義を聴きたかったんだが」
「……ちょっと入れなくて困っているんだが」
「まあ、人魔なら結界を越えることはできないでしょうからね。ちなみに特戦自衛隊に人魔がいるってことは、川端政務官とかはご存知の案件ですか?」
そう問いかけると、二人の頬がヒクヒクと引き攣った。
まさか、正体がバレてないと思ったのか?
この状態で?
「ちょ、ちょっと待て、みたことあると思ったら乙葉浩介本人か!!」
「なんだと!!」
驚いている二人だけど、敵対意志を感じない。
いや、どうしようかなぁ。
「もう一度お聞きしますけど、人魔のお二人は川端政務官に正体がバレていますか?」
──ギグッ!!
俺の質問に、脂汗を吹き出しながらギギギと音がしそうなぐらいぎこちなく視線を逸らす二人。
いや、天啓眼で確認したからアウトなんだけどさ。
「き、きみは何を言っているんだ? 俺たちが人魔だと?」
「そんな馬鹿なことはあるか。こう見えても先祖代々、千葉県に住んでいたんだぞ? その俺が人魔だなんて……」
「はぁ。鑑定したから間違い無いんですけど。あなた達はあれですか? 魔神ルクリラに操られて、ここで悪行三昧中?」
ちなみに天啓眼の鑑定結果では、この二人は中級人魔で、所属は嫉妬のアンバランス配下。
確か白桃姫から聴いたことがある元十二魔将だよなぁ。
「な、なんのことだ?」
「まあ、誤魔化しても構いませんけど。俺、鑑定眼を持っていますので、お二人の魔族名も全てわかりますよ? その上で、もう一度お聞きします。お二人は、講習を妨害するためにきたのですか?」
──ゴクッ
二人が息を呑んだ。
それでもあるアウト。
どうやら覚悟を決めたらしく、二人は先ほどまでのオドオドした感じから一転して、堂々と。
「まあ、確かに俺は中級人魔だ。名前は見えたと思うからあえて告げる必要もないだろうが、嫉妬のアンバランス配下だった」
「同じく。第三次大侵攻の折に、こっちの世界にやってきた人魔だ。まあ、戸籍上も人間として誤魔化しているし、この特戦自衛隊だって正式な手続きを行なって参加している」
「それで、なんで魔術講習に?」
二人の能力だけど、一人は『身体強化系』、もう一人は珍しい『自己再生系』。
魔術素養なんてない……訳じゃないか。
人間に比べたら、明らかに高い。
「そりゃあ、魔術を覚えるためだよ」
「俺たち魔族は、生まれながらの素養以外の能力を身につけるのは大変なんだ。特に魔術系は、持って生まれた魔力が高くないと身につくことはない。そう思っていたんだが、こっちの世界で、あんたが魔術を広め始めてな」
「こりゃあ俺たちにもワンチャンあるんじゃないかって思って、参加しただけなんだが……講習、受けられないか?」
はぁ。
真面目かよ!!
向上心があって大変結構。
その上で、これは俺の管轄じゃないことは理解できたわ。
「まず第一前提。今回の魔術講習について、魔族相手に行うという予定はありませんでした。そして二つ目、まさか魔族が真面目に受けに来るとは思っていませんでした。ということで、この件については、上の人に相談して構いませんか?」
すぐに要先生や忍冬師範に連絡したらいいと思うんだけどさ。
何かこう、この二人って悪人じゃないような気がするんだよ。
「上の人?」
「まさか……川端か?」
「いや、俺の管轄で考えると、忍冬師範に話を通してみるけど? そこから上にどう話が通るかはわからないけどさ。どうしますか?」
俺の話に腕を組んで考える二人。
この間に、二人の魔力波長をゴーグルに登録、これで何があってもこの二人は追跡できる。
こういう細かいことも大切だよね?
「いや、今日のところは引かせてもらう。この件については、無かったことにできるか?」
「俺たちも人間として生活をしていてな。今、俺たちが魔族だとバレたなら、この生活を失ってしまう可能性がある」
つまり、俺単独で判断して、無かったことにできないかと?
ふむ。
「最後に一つ。もしも大氾濫が起こった場合、二人の立場はどっち? 魔族派なら、ここで俺はあんたたちを止めないとならないけれど?」
「先の大氾濫から500年も経っているし。アンバランス様はもう十二魔将じゃない。そして、新しい魔人王は、人との共生を求めているって噂がある。人に敵対する必要はないだろう?」
「それこそ、こっちにきたばかりの時は人間を襲ったこともあったが。生きるために必要な事だったと思っているし、今の時代、人間を襲って生気を摂取するなんてナンセンスなことはしていないから」
グレー寄りのホワイトかぁ。
「まあ、そんじゃ、俺と信用できる知り合いの中でだけ、この件は共有します。けど、公的機関の人には説明しませんので、それでは失礼します」
「ああ、助かったよ」
「それじゃあ、あんたも頑張ってくれな」
手を振って立ち去る二人の隊員。
そして入れ違いに、川端政務官が駆け寄ってくる。
「乙葉くん!! 魔族の反応はまだあるか? 結界装置を設置してくれたと聞いたが、それを使えば魔族を炙り出すこともできるのじゃないか?」
「まあ、難しいことはないですけど。基地施設内に魔族反応がないから無意味ですよ?」
「そ、そうか、わかった。それじゃあ、受付の手伝いを頼むよ」
「はいはい。それで政務官はどちらに?」
「講習に決まっているだろう!!」
あ〜。
人魔・陣内の協力が得られなくなったから、自前でどうにかしようってことか。
そういう考えは嫌いじゃない。
受付で魔力適性があるかどうか、そこから勝負だけどさ。
俺たちが魔法を使って魔力弁を開いたように、魔族との関わり合いの中で魔力弁が開くこともあるかもしれないからなぁ。
まあ、俺は俺のできることをしますよ。
バイト代も出ることですし、新山さんたちを守る必要もありますからね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




