第二十七話・木の葉を隠すは千客万来(聖地巡礼・接触編)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
コミケ当日の朝。
しっかりと寝坊ですよ。
朝一番の列車に間に合いませんよ‼︎
「ぬぁぁぁぁぁぁぁ、限定品がぁぁぁ」
「落ち着けオトヤン。取り敢えずホテルから出るぞ、そもそも徹夜組がいるから入手は困難だろうが」
「今年からは警察も動くってカタログに書いてあったから期待していたんだよぉぉお」
絶望する俺の手を引いて、祐太郎がホテルの外に出る。そして人気の無い中庭の片隅まで歩いていくと、ため息をつきながら。
「オトヤン、カナン魔導商会に透明になるリングは売ってないか?」
「定番商品であるけど?」
「それを購入してくれ、それを使って姿を消して、魔法の箒で飛んでいこう‼︎」
ナイスだ祐太郎。
そうだよ、困ったときは魔導具だよ。
すぐさまカナン魔導商会からインビジリングを購入。お勧め品じゃなかったから少し割高だけど、この際無視。
それを魂登録で祐太郎とリンクさせてから手渡すと、早速リングを起動して二人とも透明になる。
完全に姿が消え、目の前にいたはずの祐太郎の姿も見えなくなってまった。
「これは不便だわ、何か方法はないか?」
「取説があったはずだから確認するわ……」
インビジリングは完全に姿を消すことが出来るが、対象を指定すればその人にだけは見えるようにすることもできるらしい。
ならばとリングに指を添えて、魔力を注いで祐太郎には見えるようにしてみる。
当然、祐太郎も俺にだけ見えるように試してみたら、しっかりと相手には見えるようになっていた。
「おおお、お? オトヤンが見えるが」
「俺にもユータロが見えるのようになったが……これ、周りからは見えてないよな?」
周りをキョロキョロと見渡して鏡を探す。
ちょうどいい大きさの窓があるので、そこに俺たちが映っているか確認すると、見事に映っていないではないか。
「よし、これで行く……まさかはじめての魔法の箒がぶっつけ本番になるとは思ってなかったよ」
「同感だ。車に撥ねられたくないから高度をとって、電線に引っかからないように行こう」
急いで箒を取り出して跨ると、ゆっくりと魔力を馴染ませる。
ほら、魔女宅でキキが箒に乗って飛ぶ瞬間があったでしょ? あのイメージで魔力を馴染ませるのよ。
──フワッ
すると、ゆっくりと箒が浮かび上がる。
しかも跨って魔力を注いだ瞬間に安全装置のようなものが働いて、落下防止魔法みたいのが発動したのよ。
「お、おお、こんな感じか……」
「俺も行けそうだぞ、行くかオトヤン」
「応‼︎」
すぐさま高度を上げて、速度を上げるようにイメージする。
ハンドルもアクセルも全て、握った手から流れていく魔力伝導でコントロールするらしい。
やがて道路上空5mに二人並んで浮かび上がると、同時に高速で飛行を開始した‼︎
風圧は感じない、これも魔力による結界のようなものが働いているらしい。
「汽車なら20分ちょい、距離14kmだったか。始発が到着するのがあと10分、行けると思うか?」
「当然行くさ、イクサー1だよ‼︎ 行くよ渚っ!!」
加速用に魔力を少し多めに注ぎ、高度も上げて障害物にぶつからないようにする。
あとは一直線に14km進むだけ。
時速60kmなら14分、それなら倍の120kmでどうだ‼︎
──ヒュゥゥゥゥ
一気に加速する俺と祐太郎、あっという間に国際展示場前まで到達‼︎
駅なんか無視、朝1から並ぶ参加者を誘導するための誘導員を発見すると、その示す方向に飛んでいく。
そして人気がないところに着地……人気がないところがねぇぇぇ。
「どうする? 着地できそうな場所は遠いぞ?」
「……裏技を使うか」
「裏技?」
祐太郎が質問しているので、取り敢えずついてくるように指示する。
着地地点は列の最後尾、そこに着地してから周りを見渡すがダメだ、人が多すぎてここで実体化はできない。
「このまま透明化の状態で横に並ぶ。人にぶつからないように気をつけてな」
「アホか? コミケ会場で人にぶつからないなんていう方法はないぞ?」
「開場して中に突入した時点で解除するさ、そのまま人混みに紛れて逃げる。どのみちインビジリングは、人に触れられた時点で解除されるからな。突然俺たちが姿を現しても、皆、目的のブースに向かうのに必死だから分かりゃしないさ」
確かにその通りなのだが、何か見落としているような気がすると祐太郎は考える。
それでも、目の前の物欲に抗えぬはずはなく、できる限り人にぶつからないように、ロープの外にしっかりと並んで開場を待つことにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
そんなこんなで開場時間。
乙葉の作戦通りに列の外から並び、中に入場してから二人はいち早くトイレに駆け込んだ。
個室に飛び込んでインビジリングを解除し、そのまま何事もなかったかのように会場に戻ると、手分けして自分の担当分の同人誌やグッズを買いまくる。
スリ対策については、空間収納に全てを納めてダミーバッグを持っている俺に隙はないし、祐太郎も自前の収納バッグがあるので盗まれることはなかった。
だが、それよりも問題なのは、この会場内に存在する、大量の魔族たち。
「うわぁ、万が一のためにゴーグルつけといて正解だったわ。何この妖魔の山。一山500円ぐらいで取引できるレベルだぞ?」
あちこちのサークルの売り子から、下級妖魔の反応がある。
鑑定すると、どいつもこいつも下級中の下級、ただフヨフヨと漂って人間に憑依する、大通り公園で見たタイプなので無視しても問題ない。
『ピッ……下級妖魔フローター。意思を持たず、漂って精気を集めているだけの妖魔。時折人間に憑依し、ほんの僅かの精気を得ることもある。
また、フローターは他の下級妖魔の餌でもある。HP2、MP2、魔族共通能力/透明化・憑依』
うーん。
やっぱり浮遊霊みたいなものなのか?
まあ、害はないからいいか。いや、実際はあるんだろうけれど、俺にはあんまり判らないからなぁ。
そんな感じで会場を歩いていたんだが、突然ゴーグルに中級妖魔の反応がでた。
万が一ということもあって、様子だけでも……。
ゴーグルに表示されている矢印に沿って向かうと、そこあったのはシャッター前の大手サークル。
同人界隈ではもう有名な18禁同人作家のタケミカヅチ・もっこす先生、通称タケもっこす先生のサークルがそこにあった。
「まじか、売り子に中級魔族が紛れ込んでいるとは恐るべし……え?」
『ピッ……中級妖魔・ラティラハスヤ、人魔に属する中級妖魔であり、『妖気封じの楔』を体内に打ち込んでいる。伯爵階位上級妖魔『ルクリラ』の配下であった、愛欲を司る妖魔として有名である。HP350、MP112、魔族共通能力/透明化・憑依、固有能力/人化・愛欲・隷属・精気吸収』
うん。
タケもっこす先生は魔族だった。
それも中級に属するトンデモ妖魔とは、俺も頭が痛くなってくる。
「はぁ、触らぬ妖魔に祟りなし、次はユータロの注文の……マジかー」
祐太郎からの注文の一つが、タケもっこす先生の新刊三冊だった。
それなら買いに行くしかない。
恐る恐る、自分の正体がバレないようにこっそりと列に並ぶ。
万が一の為に、最後のレジストリングを装備して起動しておこう。
そして10分ほど並んでいると、ようやく机の前まで進むことが出来た。
「新刊3種類とも、一冊ずつお願いします」
「はい、3000円です、いつもありがとうございます」
まさかのタケもっこす先生直接の手渡しからの握手のプレゼント。
すらっとした長身黒髪ストレート知的美人のタケもっこす先生、実物はこんなに美人だったのか。
『ピッ……妖魔の吸精をレジストしました』
え?
今、俺危なかったの?
作り笑顔でその場から離れようとするが、タケもっこす先生の表情が氷のように冷たくなっているのがわかる。
「あなた、どちらの方ですか?」
「普通の高校生です。友達がタケもっこす先生のファンです‼︎ では失礼します‼︎」
大慌てで走る俺。いや、いきなり人間そっくりの妖魔相手なんて無理無駄ムラ無茶苦茶の四拍子。
後ろでタケもっこす先生が俺に話しかけているようだが無視、今はこの場を離れて他の頼まれ物を購入しよう。
………
……
…
「ということでさ、タケもっこす先生は中級妖魔でした。俺、危なく精気吸われるところだったわ」
「そうか、完全人型妖魔ねぇ。そんなのがいるのは予想外だけど……オトヤン、レジストリングの在庫ある?」
「手持ちはもうないなぁ。ちょいとまってくれ」
すぐにカナン魔導商会を開いてレジストリングを探す。
お勧めにはなかったけれど、定番商品にはあった、でも一つ50万クルーラで在庫は三つだけ。なら、取り敢えずは全部買うことにしましょう。
『ピッ……チャージ残高は13億1150万クルーラです』
よし来たガッテン。
そのまま二つを祐太郎に手渡して、一つは俺がつける。
あ〜、なんだか指輪だけジャラジャラと大量につけていると厨二病拗らせている感じがするなぁ、見えないからいいんだけど邪魔。
纏めて一つに融合したいけど、ここじゃあ人が多すぎてダメだわ。
「オトヤン、これ融合できるか?」
「帰ってからな。ここじゃあ人が多すぎてダメだわ。さて、とっとと此処を離れてコスプレ広場に向かいますか」
「そうだな。それじゃあ行くか」
……
…
「ということで、コスプレ会場でございます‼︎」
「オトヤン、誰に向かって話ししているんだ?」
「いやまあ、お約束な」
ちゃんと指定の更衣室で着替えてから、二人同時に会場に向かう。
「今日はどこにする? 庭園? エントランスプラザ? 屋上展示場?」
「庭園で良いんじゃないか? 今日は映画の『ヘンリーフォッカーと魔導の城』のオーガスタ魔導学院生徒のコスプレだからな」
俺も祐太郎も、魔導学院の生徒のコスプレをしている。ちゃんと腰にはダミーの魔法の杖も仕込んであるし、箒も持ってきている。
そしてイケメンとフツメンコスプレイヤーが揃うと、写真撮影は当たり前で、俺たちは思わずテンションバク上がり状態でやっちまったわけよ。
──フワッ
魔法の箒にまたがって、ゆっくりと上昇する。
高さは大体2m程度、ちゃんと立て看板に『飛んでいるのは手品です』と書いて横に立ててある。
記念撮影で一緒に写る人や箒の後ろになって写る人など、大勢のカメラマンやコスプレイヤーに囲まれて、実に楽しい1日であった。
まあ、帰る直前まではね。
………
……
…
「ヘンリーフォッカーのコスプレ最高でした‼︎」
「お願いです、あの空飛ぶ手品を教えてください‼︎」
「私たちもヘンリーフォッカーのコスプレをしているのですが、あそこまで設定を忠実に再現できる人は見たことありません‼︎ 宜しければこのあとで、食事などご一緒しませんか?」
ヘンリーフォッカーファンばかり集まったコスプレイヤーのご一行様に誘われましたよ。
俺は別に気にしていないから構わないけど、祐太郎がどう言うか。
「良いね、なら焼肉行きましょう。折角東京に来たのですから、美味しい焼肉食べましょうよ」
「なんだ、ユータロもノリノリか」
「当然。美人さんたちに囲まれて焼肉食べてお持ち帰りしフベシッ」
──スパァァァァァン
思わず空間収納からハリセン引き抜いてぶっ叩いちまったよ。
その光景に、集まっていた人たちも呆然としていた。
「痛たたた、顔じゃなく心が痛い……なんでそれ抜いたかなぁ」
「いや、なんかつい、こう、心の、魂の赴くままに、自然に抜いてしまったわ……それよりもお持ち帰り禁止な‼︎」
しまった、どうやってごまかそうか。
いきなり本物の魔法のようなものを見せたんだからなぁ。
「す、すごい、本当に手品師なんですね‼︎ それも何処かに隠していたんですね‼︎」
「飲みに行きましょうよ、今日はおごりますよ」
「そのあとで……ね?」
その、ね? の方向は三人とも祐太郎なのは知っているぞ、俺はいらない子だということもな。
そのまま焼肉屋に向かい高級焼肉を腹一杯食べると、当然次はお約束。
食欲の次は性欲なんだけど、明日のこともあるのでパス……あ、俺は誘われなかったよ。
「いや、今日は止めておくわ。あと三日もあるから、今日で体力使い尽くす気にはならないんでね?」
「ということで、シャラバーイ‼︎」
「なにそれ、変な挨拶ね‥‥それじゃあね」
残念そうなJDたちに別れを告げて、俺と祐太郎はホテルに戻ることにした。
●現在の乙葉の所有魔導具
センサーゴーグル(TS/鑑定/アクティブセンサー)
SBリング(ブースト、透明化)
Sレジストリング(耐熱、耐打撃、耐斬撃、吸精)
レジストリング(ノーチャージ)×1
魔法の箒
中回復ポーション×2
軽回復ポーション×5
病気治癒ポーション×1
身代わりの護符
・カナン魔導商会残チャージ
13億1150万クルーラ
●築地所有の魔導具と魔術の卵
センサーゴーグル(TS/鑑定/アクティブセンサー)
加護の卵『30/100』左手ブレスレット)
インビジリング
Sレジストリング(耐熱、耐打撃、耐斬撃)
レジストリング(ノーチャージ)×2
収納ポータルバッグ
魔法の箒
大回復ポーション ×5
中回復ポーション ×25
軽回復ポーション ×5
病気治癒ポーション×5
ブライガーの武術書
注)サーチ、シー・インビジブル、透視効果は、アクティブセンサーと同化。
レジストリングはホテルで融合化済み
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
ジャングル黒○エ / 藤○・F・不二雄 著
戦え!! イ○サー1 / 阿○霊 著




