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第二百六十二話・奇貨可居? 死中に活を求め……た?(暗躍どころか、とんでもない同盟)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

──鏡刻界ミラーワーズ・フェルデナント聖王国

 その日。

 宰相であるファング・マーカスは空を見ていた。

 それは魔人王継承の鐘が鳴り響いた直後、まさかの出来事にマーカス宰相は大慌てで王宮のベランダに飛び出すと、急いで次代魔人王の姿を探した。

 だが、空には何も映らない。


「ぬかったわ。まさか次代魔人王は裏地球リヴァースに出現したのか……いや、可能性的にはあり得ることだが、失念していた」


 ファング・マーカス……ファザーダークに取って、このような失敗は二度目。

 彼の本体が眠る地、封印の大地に向かうための術式も座標も、全ては歴代魔皇しか知らされていない。

 その上で、ファザーダークの覚醒が世界の崩壊に向かう可能性を考慮し、魔皇たちは封印の大地を開くことはなく、それを魔族たちに広めることはなかった。

 だが、ファザーダーク信奉派の魔族は、いつか来るであろうファザーダーク降臨のために、暗躍を続けている。


 彼らは幾度となく魔皇を殺し、封印の大地についての秘密を暴こうとしたのだが、すべて失敗に終わっている。


『封印の大地こそ、魔族の故郷である』


 神託に告げられたこのガセネタを信じ、封印の大地を解放するために。

 人魔・陣内も、ブルーナ・デュラッヘも、ファザーダークの眷属として暗躍を続けていたものの、その真意すべてを知らされてはいない。

 それ故に、直接動くことができないファザーダークに取っては、この事態はどう足掻くべきか思考を巡らせることになる。


「異界渡りで魔力を消耗しすぎている……水晶柱は時と空間の神の管轄ゆえ、我には手が出せない……」


 二つの世界を行き来することはできるが、それには膨大な魔力を必要とする。

 ファザーダークは破壊神、空間を越える力は『時と空間の神』の許可、もしくはそれよりも上の神の加護を必要とする。

 ブルーナのような特異能力者は、空間を支配する術式を加護として神から得ている。

 ファザーダークだった(・・・)神は魔族の神であり暗黒神、異世界を放逐された『他所の破壊神の残滓』程度では、そこまでの干渉力はない。

 それでも、思考支配により世界を監視する神々を欺き、ファザーダークを乗っ取るだけの力は持ち合わせていた。


転移門ゲートをまた開かせるか? いや、神託により乙葉浩介には手出しするなと告げてしまっている……しかし、魔人王の力、魔皇共を此方に引き込むためには、手のものを向こうに送り出す必要がある……」


 マーカス宰相は、部屋をウロウロと徘徊しながら考える。

 たとえ神であっても、世界に顕現した場合は世界法則に縛られる。

 破壊神の残滓だけならば、異世界の法則に縛られることなく動けるのだが、時と空間の流れを彷徨い、消滅寸前のところでファザーダークを見つけ出し、それを吸収することで命を永らえる事ができた。

 その代償が、『世界法則による鎖』。


 神は、自らの管理する世界の生命体に対して直接干渉してはならない。

 唯一、このルールから逃れられるのが、『神託』。

 ファザーダークは、自らを太陽神と偽り、フェルデナント聖王国に神託を与えていた。

 自分にとって有効な手駒を育てるために。


「駒を使うか……そうだな、ここは切り札を使うことにするか」


 そう呟くと、マーカス宰相は椅子に座り瞑想を始める。

 このフェルデナント聖王国の国教である太陽神イグニートとして、スカループ大司教に新たな神託を授けるために。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──フェルデナント聖王国…王城

 この日。

 聖王エドワードは、玉座の間でスカループ大司教からの報告を聞いていた。


「太陽神イグニートからの神託があったと聞いたが、今度はどのような神託なのだ?」


 かつて、神託によって異世界侵攻を始めたエドワード。

 だが、二度の敗北ののち、神は侵攻を取り止めよと告げた。

 敗北を知らないエドワードに取って、この神託は屈辱以外の何者でもない。

 しばらくの間は荒れ、側近たちにも当たり散らしていた。

 それもここ数ヶ月は落ち着きを取り戻し、国内の安定のために静かに過ごしていたのであるが。


「異世界侵攻を再開せよと……そのために、魔大陸にいる魔族から助言を貰うように。そのものは、水晶柱ターミナルを自在に操ると」


──パン!!

 エドワードが膝を叩く音が響く。

 歓喜に震える体を立ち上がらせると、エドワードは声高らかに叫んだ。


「でかしたぞ!! 各方面軍に伝令を走らせろ!! 戦争の準備だ!!」

「お待ちください、エドワードさま」


 焦る気持ちを抑えきれないエドワードを嗜めるように、マーカス宰相が玉座の間に入るや否や、そう告げる。


「どうしたマーカス!! これでようやくあの乙葉浩介の首を取る事ができるのだぞ!!」

「ですが、そのためには魔族の力を必要とします。今の我が国に残っている最後の水晶柱、それを開くためには贄が足りません。おそらくは、炎魔族とやらが鍵を握っているかと思われます」


 このマーカス宰相の言葉に、エドワードは今一度、スカループ大司教の方を見る。

 その視線の意味を理解したのか、スカループ大司教も頭を縦に振って一言。


「この神託は、我がフェルナンド聖王国と魔族の共闘となります。まずは、その水晶柱を操れる魔族を探すことが先決ではないかと思われます」


 求めていた言葉とは異なるものの、神託は絶対。


「マーカス、水晶柱を操る魔族を探せ!! 魔大陸に船を向かわせろ!!」

「かしこまりました。では、急ぎ手配します」


 丁寧に頭を下げてから、マーカス宰相は部屋から出ていった。


………

……


──魔大陸・中央王都

 アンバランスから告げられた、浮遊大陸の件。

 ブルーナは敢えてマグナムにそれを報告するが、マグナムは必死に空に向かって何かを叫んでいる。


「ええい、何度も説明しているであろうが!! 俺の名前はマグナムであって、ロスインゴではない!!」


 時折、どこかの誰かと念話でやりとりしているマグナム。

 ブルーナの知らない側近の存在に、やや危険性を感じているものの、それが何者なのかはマグナムの口からは語られない。


「そんなことはどうでもいい、いいか、お前の住む世界に魔人王が出現しただろう? それが何者かを教えろ!! そうだ、空に浮かんだそいつだ!!」


 まさか、異界超えの念話能力保持魔族?

 そんなものが存在するのかと、ブルーナは寒気を覚える。

 空間を越えるためには、それを支配する神の加護がなくてはならない。

 ブルーナが知る限り、そのような力を持つものは自分以外には伯狼雹鬼(はくろうひょうき)とピク・ラティエの二人のみ。

 それ以外の第三者が、マグナムと話をしている。

 それはつまり、ファザーダークが封じられている大陸を開く力の一端を持っている可能性があるということ。


「マ……マグナムさま、どなたと念話で話をしているのですか?」

「ブルーナか、待て……」


 ブルーナの言葉を右手を伸ばして制すると、マグナムはこめかみに手を当てて念話を続ける。

 そして突然力なくベッドに横たわると、ブルーナを見る。


「大丈夫ですか? 今の念話は誰と繋げていたのです?」

「分からん。時折、一方的に話しかけてきては、質問攻めをしてくる。こちらからチャンネルを繋げることはできず、会話はほとんどが訳のわからないことばかりだ……」

「その説明だけを聞くのなら、まるで神託のようですね。それで、魔人王は裏地球リヴァースにいると告げたのですか?」


 そうブルーナが問いかけると、マグナムはハッとした顔をする。


「そうか、神託か……あの不可解な言葉も、神の告げたことならば理解できる。我らが神が、俺に魔人王になれと告げたのだな」


 未だ乙葉浩介から受けた怪我はいえることなく、ベッドの上から降りることもできない。

 心もかなり弱っていたのだから、そう思ってしまうのも仕方がないことだろうと、ブルーナは言葉にせず頷く。


「それで、魔人王の名前は?」

「スクウェア・マジソンガーデンが、魔人王の名前らしい」

「……」


 ブルーナは考える。

 どこかで聞いた事があるような、それでいて思い出せない。

 黒龍会や香港系魔族の名前はかなり覚えてあるのだが、そのような名前を持つ魔族は該当しない。

 だが、どこかで聞いた事があるような気もする。

 

「一度、王城で確認してみます。古い記録には存在するかも知れませんし、歴代魔皇の血族の可能性もあります」

「頼む」


 久しぶりに晴れ晴れとした笑顔を見せるマグナム。

 だが、ブルーナは顔色変える事なく頭を下げると、王城へと向かうことにした。


………

……


 ブルーナは王城でスクウェアという名前の魔族の記録を調べるが、ここ数年分の記録には存在しない。

 こうなると中央王都ではなく、地方王都の出身の可能性も考えられるのだが。

 それを探しに行く時間が惜しい。


「どうしたものか……裏地球リヴァースに向かうための手段、魔人王スクウェアの記録の捜索。明らかに手が足りない」


 ブルーナは王城内の、元マグナムの執務室で頭を抱えている。


──ボゥッ

 すると、突然机の上に炎が灯る。


「な、なんだ!! 敵襲か!」


 慌てて火を消そうとした時、焼け跡が文字を描き始める。


『フェルデナント聖王国に水晶柱がある』


 炎による神託は、太陽神イグニートの神託。

 それをみてブルーナは顔色を変える。

 なぜ、自分に太陽神から神託が降りたのか。

 なぜ。絶海の向こうにある国家が水晶柱を保有しているのか。


 その真意を考えても答えは出ない。

 けれど、これが神託ならば、乗らない手はない。


「絶海を越えるためには飛空艇が必要か……」

 

 空を飛ぶ船・飛空艇は魔人王王家が所有する。

 それ故に扱えるのは王家及び側近、十二魔将のみ。

 そして新たな魔人王が生まれた現在、魔大陸の誰も、飛空艇を扱う事ができない。


「移動手段が……いや、待てよ」


 ふとブルーナは考える。

 移動手段はある、禁忌に触れることになるが。

 

「浮遊大陸か。それを使って絶海を越えれば、フェルデナント聖王国には向かえる」


 ちょうどフェルデナント聖王国の位置は、ピク・ラティエの王国の対岸に当たる。

 報告を受けた浮遊大陸も、ピク・ラティエ王家の沖合という話を聞いている。

 

「行くか!!」


 立ち上がり部屋から出ると、ブルーナは王城の外に出る。

 空を飛ぶ能力はないが、馬ならばそれほど時間はかかるまいと。

 早馬を借り、ブルーナは走った。

 この機会を失うわけにはいかないと。

 


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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