第二百六十話・一人当千、背水の陣じゃねのか?(そろそろヤバくなってきた)
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──ウォァォォォォォォォォォ
咆哮と共に走ってくる魔族の軍勢。
妖魔特区内・菊水方面にて勢力を強めていた元・百道烈士配下の一人、アラバ・アガサがついに決起した。
「殺せ!! 喰らえ!! 抵抗するものは全て殺せ!!」
軍勢の後方で叫ぶアラバ・アガサは、手下である中級、下級妖魔に向かって檄を飛ばす!!
そして軍勢は創成川手前まで進行すると、そこで隊列を組み直し、札幌テレビ城目掛けて遠距離攻撃を開始した!
──ドゴォォォォォッ、キィィィィィン
灼熱のブレスが、生体レーザーが、そして大量の妖魔蟲がテレビ城に向かって飛んでいき、その土台を、壁を破壊し始めた。
「白桃姫は、もうこの地には存在しない!! 我らこそが、百道烈士様の意志を継ぎ、この地を制圧するものだ!! 白桃姫に飼い慣らされた同胞どもよ!! 今こそ立ち上がれ!!」
叫び声が大通り周辺に響き渡る。
かつては百道烈士配下であった魔族も、今では白桃姫の元に降っている。
強いものに付き従うのが、魔族の本能。
それ故に、元々は同胞であったアラバ・アガザがどれだけ叫ぼうとも、彼の元に向かうものはいない。
「白桃姫さまの留守は、我々が守る!!」
「一眼は急いで大通りセーフティエリアへ走れ!! 第六課に救援要請を!!」
魔族の格は違えど、数で押されてしまうと圧倒的に不利。
それ故に、白桃姫の留守を預かる魔族たちは、急ぎ第六課に救援を求めるために『一眼(一つまなこ)の喜々』を向かわせた。
そうすれば、乙葉浩介たちが動く可能性がある。
そう、白桃姫からおおせつかっているから。
「元同胞とはいえ、俺に逆らうものには死を!!」
──キィィィィィン
全身から生体レーザーが放出される。
魔力を帯びたレーザーは、まるでホーミングミサイルのように白桃姫の側近目掛けて飛んでいく。
魔力誘導型・生体レーザー。
以前のアガサ・アラバにはなかった能力。
この地にで大勢の人間を喰らい、格が一つ上がったことにより進化した技。
それが次々と側近たちを穿ち、あるものは魔人核を破壊されて消滅し、またあるものは高火力に肉体がついていけず、霧散化していく。
「見たか!! そして思い出せ!! 我ら魔族は、より濃厚な魔力を喰らうことにより格が上がることを!! 暴食の加護があるならば、食らったものは力となる。それを忘れて安穏としていた貴様らに、我らの侵攻を止めることなどできまい!!」
アガサ・アラバは叫ぶ。
白桃姫側近たちが撤退し、無人化した札幌テレビ城に入城すると、高らかに叫んだ。
「魔人王よ!! 我が力を見ているのなら、我を新たな十二魔将に!! 我は貴殿に永遠なる忠誠を誓いましょう!!」
新たな魔人王に見せつけるため、アガサ・アラバは進軍した。
白桃姫が留守であることを確認し、その側近たちを倒し、己の力を誇示する。
所詮は小物の浅知恵であるが、巻き込まれた大通り周辺の住民にとっては、たまったものではない。
白桃姫が大通り一丁目を『北海道知事』から正式に貸与してもらった時。
その周辺の魔族の動きを全て抑え、人に対して危害を加えないようにした。
それが、白桃姫が留守というだけであっさりと覆されたのである。
そしてアガサは活動を開始した。
自らの配下に命じ、自らの格を上げるべくより多くの人間の生気を得るために。
『人間狩り』
それが始まったのである。
………
……
…
「さてと。喜々さん、これが最後かな?」
俺は足元に倒れているアガサ・アラバに向かって、封印術式を唱える。
喜々さんが大通りセーフティエリアに救援要請に駆けつけた時、ちょうど俺と新山さん、瀬川先輩は俺のマンションに向かうためにその場に居合わせたんだよ。
だから、いち早く俺が魔法の箒で札幌テレビ城に直行して、人間を襲っていた魔族を殲滅したってわけ。
「はい。さすがは乙葉さん。白桃姫さまから、留守時に何かあったら、貴方に頼れって言っていました」
──ナレシィィィィィィッ
あ、アガサが無念そうに封印媒体である宝石の中に吸い込まれていった。封印呪符をペタリと貼り付けて、はい、空間収納に放り込んでおしまい。
ちょうど後方から第六課の退魔官たちも駆けつけたので、襲われていた人たちの救護任務はお任せします。
「それにしてもさ、いくら白桃姫が留守だからといって、ここを襲うかぁ?」
「アガサは、ここを襲撃して己の強さを誇示しようとしていたそうです」
「はぁ? なんのために?」
「新たな魔人王さまの側近、十二魔将に登用されるために……だそうです」
え?
チラリと視界の向こうで深淵の書庫を開いている先輩を見る。
あ、俺たちの会話が聞こえていたのですね? 頭を抱えて渋い顔をしています。
「そりゃまた、難儀な」
「ええ。幸いなことに、白桃姫さまの眷属である私たちは、そのようなことに興味はありません。ですが、この裏地球に魔人王さまが降臨したのは事実。ここ以外でも、同じような事件は起きていると思われます」
あ、先輩が泣きそうな顔でこっちを見ている。
その気持ち、よく分かります。
「まあ、引き続きこの辺りの治安はお願いします。俺たちは、俺たちなりに対策を考えてきますので」
そう告げてから、俺は先輩の元に合流。
ここでの話し合いは不味いと考え、一旦は俺のマンションに移動することにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
新しい魔人王と、それを付け狙う魔族。
この対応も本気で考えないとやばい。
マグナム派の藍明鈴のように、直接やってくる魔族はまだ俺が対応できるから構わないんだけど、搦手で来ると結構やばい。
この搦手とは何か?
簡単に説明するなら人質をとって俺から情報を聞き出そうとするやつ、もしくは俺を仲間に引き込もうとするやつ。
まだ魔人王の正体が瀬川先輩であるという情報は公にはなっていない。
それなら、このタイミングで俺にターゲットを移させるということも考えたんだけどさ。
さっきの喜々の話のように、世界各地で魔族による事件が勃発しているかもしれないからね。
「……はぁ。現時点で、魔族による事件は一八件ほど確認されています。それ以外にも、魔族かどうか判断の難しい事件は百を超えています……」
深淵の書庫の中で、先輩が困った顔で呟いている。
そりゃそうだ、この事件って魔人王である先輩にアピールするために行われているらしいからさ。
「十二魔将は既に決定してます。ですから、新しく登用するつもりもありませんけれど……どうしてこうなったのでしょう」
「そこですよね。なにか足りないのかなぁ?」
「あの、先輩。私たちが十二魔将になったということを、公表しなくてはダメとか……そういうことはありませんよね?」
新山さんが問いかけると、先輩の左手の王印が輝く。
『我は五代目魔皇・アザゼル。魔人王・ミヤビは側近のお披露目をしていない故、十二魔将は未だ空白と捉えているものが多いのであろう』
うわ!! 魔皇が話しかけてきたぁぁぁ。
ものすごく低音で渋い声。
なんというか、心臓を掴まれたかのように冷や汗が溢れてきたわ。
「そ、そのお披露目ってどうすれば良いのですか?」
『鏡刻界の魔大陸、その中央王都王城にて儀式を行う必要がある』
「はい、アウトォォォォォ。さすがに魔大陸には転移門が開かないんだよ。あそこには行ったことがないし、水晶柱のゲートについては、ロックされているからさ」
「そうなると、この世界で簡略的にでも儀式を……って、それダメです!! 私が十二魔将第一位です!!」
新山さんが大慌て。
そりゃ当然だわ、それでなくても新山さんは『現代の聖女』っていう呼び名で有名なのに、その、聖女が魔族の王の側近だなんて知れ渡ったら、もう、ドッカンドッカン状態。
混乱どころの騒ぎじゃないわ。
「でも、今のままでも問題があります……なにか、方法を探さないとなりません……しばらく、魔皇さんたちと相談してみますわ」
「そうしてください。さすがに俺でもどうしたものか考えますから」
『我、魔皇八代目の鉄幹拳士。乙葉浩介、その左手の王印はなんだ?』
おっと、藍明鈴相手に脅しに使った王印を消していなかったわ。
「カクカクシカジカ……という事です」
『成る程。では、乙葉浩介、その手をミヤビに翳せ!!』
「へ? こう?」
──スッ
言われた通りに手を翳すと、俺の掌に先輩も手を重ねる。
──ドリュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
その瞬間、俺の体内を『濃縮魔力』が駆け巡る。
いや、死ぬほど痛い激痛!!
怪しい怪光線じゃないけど、その場で意識が消えそうになったわ。
痛みに耐えきれずゴロゴロと転がりまくって、泥だらけになってようやく落ち着いた……。
「診断!!!! 強治療!!」
──プシュゥゥゥゥゥ
新山さんが診断してくれたけど、まさかの強治療。
「乙葉くん、今、瀕死状態でした……危なかったです」
「ま、まじか!! おい、さっきの鉄観音茶!!」
『鉄幹拳士だ、無礼な奴め』
「そんなのどうでもいいわ、お前、俺に何をした!!」
そう問いかけると、瀬川先輩が本当に申し訳なさそうな顔で、俺に一言。
「魔皇の力を貸与したそうです。それと、王印の複製も……」
必死に頭を下げる先輩。
「ごめんなさい、魔皇が任せろって言ったから信用して……」
「いや、先輩が信用したのなら気にしません。それで、俺に力の貸与をして、どうなるの?」
『乙葉浩介は、十二魔将ではなく魔皇側近となった。その王印を魔族に向けて名乗るだけで、弱き魔族は従属する』
「ちょ!! それって百鬼夜行!!」
『廉価版故に、必要魔力は膨大。まあ、脅しとして使えるであろう。魔族が事件を起こしているのなら、その場にて王印より力を解放せよ。それで、魔族はお主に従う』
「それって結局、俺が現場に行かないとならないんだよな? 何か変化はあったのかよ!!」
そう全力で叫ぶと、鉄幹拳士が一言。
『魔人王及び十二魔将の状態は隠し通せる。側近の貴様が代行として動いている、そう宣言すれば良い』
「……はぅあ」
マジかよ。
そこで、それを俺に告げる?
先輩と新山さんの安全確保の為に、俺が動くって……断るための判断材料なんてないじゃないかよ。
「まあ、それを言われるとしかたないよなぁ。先輩、俺が表に立って動いている間に、魔皇たちと話をつけてください。新山さんも、この件は内緒で!」
「本当に、ごめんなさい」
「わ、私が先輩のサポートを務めますけど、乙葉くんも無理をしないでください」
申し訳なさそうな先輩と、健気な新山さんにサムズアップ。
それならば、俺は堂々と囮を買ってやろうじゃないか!!
でも、これってさ。
人間側から見たら、俺、人類の敵?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




