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第二百五十八話・呉越同舟、渡に船(魔導具の使い方を覚えよう)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

──札幌市白石区・JR苗穂駅付近


「……小姐、まさかそこまでボロボロにされるとは……よく生きていたな」


 深夜の公園。

 そこで馬導師は、ボロボロになった藍明鈴と再会する。

 夕方、乙葉浩介によって強制的に霧散化されそうになった明鈴は、単独では乙葉浩介を抑え込むことは不可能と判断。

 この地に残っている上級魔族に力添えを求めてやってきたのであるが。

 そこで待っていたのは、馬導師そのひとであった。

 

「お陰様でね。魔人核に傷がついていたら死んでいたところよ……全く、洒落にならないわね」


 明鈴の右半身は再生が追いついていない。

 かろうじて胴体部、脚部の再生は行ったものの、右腕は肩から消滅したまま。

 肉体構成時に欠損した部分は、霧散化してから再構成しても、すぐに元には戻らない。

 余剰魔力を再構成時に注ぐ必要があり、そのためにはより膨大な生気を必要とする。


──カチャッ

 左手の中に生み出した銃。

 これと右腕の中に封じられている二丁拳銃が、明鈴の固有能力である。


「魔力集積型小銃。確かサンダラーとかいうやつだよな? 非効率だと思うのだが」

「これだから。あなたにはロマンが分からないようね。そもそも、日本は銃社会じゃないのよ? 初手で相手に向かって銃を撃つだけで、相手は怯むのよ?」


 そう明鈴が告げてから、サンダラーのシリンダーを開き、中に収められている空薬莢を排出する。

 

「……片手じゃ無理ね。仕方ないわ」


──シュッ

 軽く空中に放り投げて銃を消すと、明鈴は呆れたような顔で自分を見ている馬導師を見る。


「治癒符って、馬導師は持ち合わせて『断る』って、まだ途中じゃないのよ?」

「失った腕を修復したいから、呪符を寄越せというのだろう? 私の呪符は結構高額でね。魔力で錬成した呪符ではなく、霊山に流れる清水にて清められた浄化布を用いているのだよ?」

「……買うわよ、お金を払えば良いのでしょう?」

「金を払うのなら、そいつから買った方が早くないかな」


 馬導師がそう促した先。

 そこには、肩に鳥型の魔獣を停まらせているジェラール・浪川の姿がある。


「なんだよ……馬導師から急ぎ会いたいっていうからやってきたら、またこのメンツかよ……しかも、二人ともえらい怪我しているじゃねーか」

「誰かと思ったら、ジェラールじゃない。あんたが私を置いて行ったおかげで、どれだけ迷惑したかわかっているの?」

「知らねーよ。契約は船の中と、下船してゲートを通る時だけ。そのあとは契約をした覚えはないからな!」


 勝手についてきたくせにと、ジェラールは呟く。

 

「まあ、私もジェラールに用事がある。呪詛返しを癒す秘薬は持ち合わせているか?」

「日本円で500万。それで良いなら売ってやるよ」


 頭を掻きながら呟くジェラールに、馬導師は懐から札束を取り出して放り投げる。


「これで成立だな」

「何処でこんな金を……って、その辺りの詮索は無しだよな。ほら、これが呪詛も弾き返す『乙葉浩介特製ポーション』だよ」


 落ちている札束を拾ってから、鞄から取り出したポーションを馬導師に手渡す。

 それをすぐに飲み干すと、馬導師の体から黒いムカデのようなものが噴き出す。

 それは、体表面にさまざまな術式が組み込まれた『呪詛蜈蚣』であり、馬導師の放った呪詛が弾かれ変異した存在である。

 呪詛返しを受けた時の体の傷は呪符で癒せても、帰ってきた呪詛については引き剥がせない。

 特に、『対象の魔力を蝕む呪詛』は強力で、馬導師でさえも引き剥がすことなどできなかった。


「ふう……これで私の方の用事は終わり。あとは小姐がジェラールに頼み込む番だな」

「ええ。私のこの右腕を直して欲しいのよ。さっき馬導師が飲んだポーション、それって万能薬でしょう? わたしにも安く売って欲しいのよ」


 すがるような目でジェラールを見るが。

 いかにも面倒臭そうな顔をしながら、ジェラールは明鈴に近寄る。


「悪いが、もう無いんだよ……あれ一本だけで、在庫切れ。魔族の怪我すら癒す『乙葉印のポーション』は、もう無いんだわ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!! 他には無いの? 失った肉体を活性化する魔導具とか、治療符……いえ、あなたは魔獣使いじゃないのよ、治療系魔獣ぐらいは使役しているでしょう?」

「ない」


 肩に停まっている飛泉凰牙ひせんふうがをスッ、と消すと、ジェラールは困った顔で明鈴に一言。


「俺は、さっきの奴と戦闘用魔獣以外は使役してねーんだわ。魔獣の卵を孵化させるにも、膨大な魔力を必要とするからな……ということだ、じゃあな」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! この体じゃ宿にも戻れないじゃない。なんとかしなさいよ!! お金なら払うわよ!!」


 半ば逆ギレの明鈴。

 その姿を見て、馬導師が一枚の呪符を取り出すと、それを明鈴の右肩に向かって飛ばす。


──プシュゥゥゥゥゥ

 傷口に張り付いた呪符が腕の形に変化し、明鈴の体に定着する。


「それは空腕。符によって形成された、中身のない仮初の腕だ。日常生活程度には不便しないだろうが、余計な魔力を注ぐと破裂して消滅するからな」

「あ、ありがとう……」

「貸しにしておく。それじゃあな」


──ブワサッ

 そう言い残して、馬導師の体は呪符の集合体に変化し、飛び去っていく。


「そんじゃ、俺も帰るわ。またな」

「ええ。それじゃあね」


 ジェラールも、明鈴もその場を後にする。

 目的が違うため、表立って接触するのは危険であるが。

 お互いの長所を知り合ったものたちだからこその、共闘のようなものなのだろうか。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──二日後・妖魔特区内札幌テレビ城下広場

 この二日間。

 俺は黙々と魔導具作成を続けていたんだよ。

 水晶柱に集められる魔素が非活性転移門に流れて行かないようにする。

 そのためのギミックを作り出したんだけどさ、これがまた面倒臭いことこの上ない。

 普通に集まった魔素を拡散するのは簡単なんだけど、すぐ近くに非活性転移門があるので、そこに流れて行ってしまうことになる。

 

 それはまずいということで、俺が用意したのはこれ。

 『吸収した魔素を蓄積する魔力タンク』。

 これを使えば、効率よく魔力を集めることができるだけでなく、非活性転移門に魔力が流れることがない。


「……っていうギミックを搭載した最新型の魔力吸収装置・改がこれですが」


 一通りのプレゼンを行なってから、テーブルの上に置かれた装置を集まった第六課の退魔官と新山さん、瀬川先輩にも見せる。

 どう考えてもさ、国内の水晶柱全てに装置をつけるのに二人じゃ足りるはずがないんだよ。だから、退魔官たちにもレクチャーすることにした。


「……ここにいる退魔官、総勢八名と要くん、井川くんの合わせて十名が、この装置を設置することになるのだが。本当に大丈夫なのか?」

「乙葉くん、その魔力タンクって、防衛省とかに流れたりしたら危険じゃないの?」

「さあ? 液化魔力を使えるシステムって防衛省で開発できますか? そもそもエネルギーとして再利用する方法ってわかると思います?」


 そう先輩と忍冬師範に問いかけてみる。

 俺じゃそのあたりはわからないんだけど、少なくとも、俺が提供した魔導ライフルには使えない。

 方向性が全く異なるし、そもそもタンクは俺の元に集まる予定だからさ。


「……深淵の書庫アーカイブでちょっと調べましたけれど、国内の魔導具開発機関でも『液化魔力』を用いた研究は行われていないようですわ」

「同じく、防衛省関係での開発も難航しているという話を聞いた。すでに提供した魔導ライフルはもう存在しないらしいからな」


 話によると。

 内部構造を解析するために分解した結果、再構築不可能となってしまったらしい。

 しかも構造擬態の解析も失敗し、無駄にガラクタにしてしまったという顛末だそうで。

 それでも諦めきれず、田畑一等特尉達の所持していたライフルも回収したらしい。

 当然、それは使えないので解析しようにも不可能。

 防衛省魔導具研究部門は、完全に手詰まりだったとさ。


「それじゃあ、液化魔力タンクを有効に使うのも無理だよなぁ……そもそも、回収装置ありきで作ったのだから、防衛省がどうこうできるものでもなし。大丈夫なんじゃないですか?」

「そうか。浩介がそういうのなら、構わないが」

「それじゃあ早速、取り扱い講習会を始めますよ」


 ここからは俺と新山さん、瀬川先輩の出番。

 あらかじめ二人には扱い方を伝授しているので、いくつかのグループに分かれて講習会を始めた。

 そして開始してから一時間ほどで、井川巡査長と要先生は取り扱い方を完全にマスター。

 さすが術師は覚えが早いわ。


「……私たちはまあ、魔力が普通の人より多いからなんとかなったけれど。他の人はかなり大変ですよ」

「私はそれほど多くないので……でも、まさか要巡査に魔力量を抜かれるとは思わなかったわ」

「井川さんは魔力循環式をちゃんとやっていますか?」

「当然よ!! 朝晩二回、必ずやっているわよ?」


 そう告げるので、ゴーグルを装着して魔力回路の確認。

 たしかに昔よりも太くなっているけれど、魔力の練り上げが弱い。

 太めのホースの中を、魔力がチョロチョロと流れている感じなんだよなぁ。


「魔力総量の底上げが必要かぁ……」

「それって、どうやるのかしら?」

「さぁ? レベルが上がれば自然に待った今のなし!!」

「「レベル?」」


 やっちまった。

 久しぶりなので、油断したわ。


「簡単に説明するけど。以前、要先生と井川巡査長、忍冬師範には魂の情報ステータスカードを渡したよね?」

「ええ。これでしょう?」


──スッ

 俺の問いかけに、手の中に魂の情報ステータスカードを表示して見せる二人。


「そこに表示されていますよね、『ジョブ』と『レベル』が。それが上がると魔力量も増えることがあるんです。というか、増えます」

「私は呪符師・レベル6ね」

「私は精霊使い・レベル8です」

「俺は闘気使い・レベル9か。実戦経験を積んでいるから、以前の3から大幅に上がったな」

「まあ、それが成長で、その原理は知りません」


 俺が忍冬師範達に説明していると、魂の情報ステータスカードに興味を持った退魔官達も集まってくる。

 はいはい、昨日の講習が終わったら発行しますよ。

 乙葉浩介の魔導講習会完了記念として、白いプレートをね。


「新山さんも瀬川先輩も80レベルオーバーか。俺は……まだ60……」


 うん。

 大賢者60レベル。

 転職扱いらしいから、正確には160レベル相当。

 それでも白桃姫に追い付かないんだよ。


「まあ、レベルが全てじゃない、講習会を再開します。退魔官の皆さんは、今日中に覚えてください!!」


 パンパンを手を叩いて作業を促す。

 これで俺の仕事が減ってくれたら、楽なんだけどなぁ。

 まだ魔導具開発も、魔法についても、俺が主導になってしまうのはなんとかしないと……。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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