第二十五話・女心と隠忍自重(第三勢力の接触)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
私は井川綾子。
警視庁公安部特殊捜査課、通称・捜査六課所属の呪符師です。
主な活動内容は各県公安部から送られてくる妖魔に関する情報の精査、調査が必要ならば上にその旨を通達すること。
その私は、忍冬警部補からの命令で築地祐太郎とその友人の調査を行なっているところです。
私は、日本に三人しかいない呪符師故、このような隠密調査がメインの仕事ということです。
でも、これは役得ですね。
写真と宿泊先のホテルの資料を受け取った時は、思わず顔が紅潮してしまいましたよ。
あ、私はショタコンですから、年下の男の子が好きですから。
こう、優しく甘えてくれる男の子の頭をヨシヨシと撫でてあげたいのです、上の頭も下の頭も……。
あら、そんな脳内独り言を話していると、私の祐太郎君が移動を開始しました。
お友達の方は、まあ、上の下といったところでしょう。悪くはないですよ、でも、オタク趣味なのはちょっと……。
では、早速尾行を続けたいと思います。
ポケットの中に忍ばせている『消気符』に指を添えて発動する。これで私の気配は消えます。
視覚的には存在していますが、気配がなくなるといった方が良いでしょう。
これで私が彼らの近くを歩いていても、彼ら一般の人々には、私の存在など気づくことはできませんから。
………
……
…
「ん?」
気のせいか、一瞬だけど尾行していた井川さんの反応が消えたような気がする。
そっと振り向くと、視界のはずれにはいるから問題はない。
「一瞬だけ、反応が消えたな」
「うむ、何かしたんだろうね。呪符師ってどんな魔法が使えるんだろ?」
「分からないよなぁ。それに、俺たちを尾行している理由もわからないよなぁ」
「だったら、本人から聞くのが一番かもね……ユータロ、あの十字路、俺は右ね」
「オッケー、俺は左だな」
何事もなかったかのように歩いている俺と祐太郎。
そして目的の十字路に辿り着くと、突然二手に分かれてダッシュ‼︎
「‼︎」
マーカは井川さんにつけてある、そのマーカーは祐太郎の方に向かって走り出したので、俺も少し回り込むように移動して祐太郎と合流しよう。
………
……
…
「どこからどう見ても観光よねぇ……」
前方を歩いている二人を見て、思わず口ずさんでしまった。
尾行指定の築地祐太郎、父親は北海道の道議会員の重鎮、何度か参議院にも在籍していた強面議員である。
その息子は以前、妖魔に拐われそうになった経歴を持つ。
そのときに彼を助けたのが、今尾行しているもう一人の友人、乙葉浩介。
妖魔に対しては因縁浅からず、秋葉原で中級妖魔が出たとき、偶然近くの監視カメラに彼らの姿が写っていた。
もしも彼らが妖魔と接触、もしくは襲われた可能性があるなら、彼らは再び妖魔に襲われる可能性がある。
妖魔は、より純粋な人間の精気を欲する。
それも、私のような魔術を行使する特異点の精気は彼らにとって甘露であり、濃厚な食糧である。
けれど、妖魔は私たちを襲わない。
私が、奴らと戦う術を持っているのを知っているから。
なら、偶然居合わせた、濃厚な精気を持つ彼らを襲わないという保証はない。
「はぁ。妖気感知に反応は無し、この辺りには妖魔はいないから安全よね……」
周囲を見渡して妖魔の反応がないかを見た。
──ダッ‼︎
すると突然、二人が左右に分かれて走り出した‼︎
え?
その動きって明らかに尾行を巻く手段よね?
慌てて私は築地君を追いかける。第一ターゲットが彼である以上、そちらを最優先しないとならない。
うまく人混みをかわしつつ、築地君は走り抜ける。
そして商業ビルに飛び込むと、エレベーターで上に向かう。
残念、それはフードコートまで直通よ、もう逃げ道はないわよね?
すかさずポケットの中の呪符に手をかけると、その場で発動する。
「ターゲットは築地君。良い事、絶対に見逃さないでね」
魔力発動した符を取り出すと、それは瞬時に透明な鳩に変化する。
式神符と呼ばれる呪符師の魔術の中でもかなりポピュラーな符で、物音なく自在に操ることが出来る式神を使用することが出来るのよ。
これで築地君の持つ生体反応を追跡すればいい。
すぐさま私はエスカレーターで最上階へと向かっていくと、どうやら築地君は私が上に昇ってくるのを待っていたようです。
それも、屋上へと続く階段の踊り場で。
‥‥‥
‥‥
‥
「‥‥はぁ。まさか、ここまであからさまに尾行するとは思っていなかったよ。あんた、俺に何の用だい?」
「まあ、私もいろいろとありまして、貴方たちがあるものに襲われないように陰で護衛をしていたところですわ。どうしてあなたが狙われているのか知りたいというのもあったようですけどね」
「ふぅん。それで俺とユータロを尾行していたのかい。第六課の井川さん」
祐太郎と井川さんが話しているところに、俺もちょうど追いついたところだ。
突然俺が現れたこと、そして俺の口から『捜査六課』という言葉が出たことで、井川さんはかなり動揺しているようにも見える。
「‥‥あなたたち、どうしてそのことを?」
「ああ、それはまあ、そういう能力という事でね。それよりも魔族について教えてほしいんだけどさぁ‥‥ダメ?」
昇り階段には祐太郎が、そして下り階段には俺がいる。
踊り場で井川さんはどうしていいか狼狽している。
これって、見方によっては俺たち悪役だよね? 追い詰められた女性を上下から囲んでいるスタイルだよね?
そんなことを考えているけれど、井川さんも何かを考えている感じにも見える。
「‥‥あなたたちの所属は? 私たちに対して敵対意思を持つ者たちかしら? 魔族って、ひょっとして妖魔のことかしら? 妖魔について聞きたいっていうことは、妖魔のことを知らないフリーランスっていうところかしらね?」
「ああ、こっちの世界では、魔族のことは妖魔っていう総称なのか。まあ、そういうことにしておいてくれ。悪いが術師とか組織とかについてはノーコメントだ。俺たちは‥‥ただの学生なんでね」
「そうそう。買い物ついでにいきなり妖魔に襲われたただの学生なんだよ。そんな俺たちを、どうして尾行するような真似をしていたのさ?」
祐太郎の言葉に俺も補足を入れておく。
こういう女性相手の話し合いについては、祐太郎のほうが一枚も二枚も上。
いや、俺が引っ込み思案なわけじゃないからね、女性相手に話したことなんてほとんどないヒキニートってわけでもないからね。ただ苦手なだけだし、新山さんや瀬川先輩とは普通に話しているんだからね?
「‥‥オトヤン、なんで一人でテンパっているんだ?」
「うっさいわ‥‥いいからユータロは井川綾子さん24歳、警視庁公安部・特殊捜査課、通称第六課の呪符師さんから話聞いておいてくれよ」
そう叫んだとき、井川さんは呆然どころか恐怖に顔を引きつらせていた。
そりゃそうだ、どうしてそこまで詳しいことを知っているのかって思っちゃうよね。
「そう、そこまで調べているのなら早いわ。私は上からの命令で、貴方たちの護衛兼監視をしていたのよ。貴方たちは秋葉原で妖魔に襲われたでしょう? それを倒す技量があるのなら、私たち捜査六課に協力してほしいのよ。将来的なスカウトの意味もあったのですけれど」
「「 断固として断る!! 」」
二人同時に叫ぶ。
そんな訳の判らない警察組織に所属なんてして堪るか!!
そもそも、今の話だと妖魔‥‥魔族と戦うことが大前提だよね? それこそお断りだ。
なんで高校生の身空で、訳の分からない魔族とかいう存在と戦わなくちゃならないんだよ。
「どうして? あなたたちの倒したのは中級妖魔なのよ? それを二人で倒すなんて、私たちの組織でもベテランでしかできないことなのよ? あなたたちの持つ力がなんなのかは判らないけれど、一度、警視庁に来て話だけでも聞いてほしいのよ」
「まあ、無理っすね。言い方を変えようか、俺とオトヤンは被害者なわけ。コミケのために上京してきて、秋葉原で買い物をしている最中にいきなり妖魔に襲われてさ。そもそも、魔族とか妖魔がなんなのかも俺たちは知らないし、そいつらの存在なんて初めて知ったんだぜ?」
「そうだそうだ。という事で、俺たちはあんたたちに協力はしない。ただ、妖魔については知りたいけれど、そんな都合のいいことはないだろうから聞かないことにする。イカノオスシだ」
「おとやん、イカノオスシは違う。じゃあ、これ以上尾行なんてしないでくれよ」
それだけを告げて、俺と祐太郎は階段を下りていこうとする。
だが、その刹那、階下から何かが飛んできたので。
――ヒョンッ
空間収納から引き抜いたミスリルハリセンで、飛んできた何か‥‥式神を一撃で粉砕する。
「‥‥今の飛んできた奴は井川さんの式神だよね? 透明だからって見えないなんて思わない方がいいよ。俺たちには丸見えだからね」
「そんじゃ、あんたたちの上の人にもよろしく伝えておいてね」
決まった。
まさか何か飛んでくるとは思わなかったけれど、新型サーチゴーグルなら、透明化していた式神もよく見えるし、ミスリルハリセンだって戦闘モードにしておけば一発で式神程度なら粉砕できる。
たかだかHP5しかない式神なんて、俺には止まって見えているのさ‥‥って言いたいけれど、あまり余計なことは言わない方がいいと思って、俺と祐太郎は階段を降りることにした。
‥‥‥
‥‥
‥
「あ、妖魔のこと聞けなかったけれど、どうする?」
階段を下りてから、俺と祐太郎はそのままフードコートにある蕎麦屋に入って、すこし早い夕食を取る。
もう少しうまく立ち回っていれば、妖魔についてももう少し情報を手に入れることが出来たんだろうなぁと考え込んでしまう。そして祐太郎もそばを手繰りながら、何か思考を繰り返していた。
「まあ、妖魔については、どうやらあっちの方が本職だからあっちに全部任せよう。俺たちは自衛する手段を手に入れて、あまり妖魔には関わらない、そういうスタイルを貫くことにしよう」
「というフリをしておくという事だね?」
「そ。オトヤンの言う通り。女神様の神託があったのだから、どうあがいても逃げることはできない。だからと言って、俺たちの高校生活を全て犠牲にする必要もない。あっちはあっち、俺たちは俺たち」
「よそは他所、うちはうち‥‥だね?」
「そういうことだ。しっかし、妖魔だの魔族だの、俺たちにはどっちでもいいんだがなぁ‥‥」
「まあ、俺たちは魔族が何かを知っているけれど、面倒くさいから妖魔呼びでいいんじゃね? わざわざあっちに合わせる必要なんてないんだけど、その方が色々と都合が良さそうだからさ」
そう祐太郎に告げてニイッと笑うと、祐太郎も笑い返してきた。
そうだよ、俺たちが戦う必要なんてないんだよ。
そんな物騒なことは、本業の人たちに任せておけばいいんだよ。
そのままズルズルとそばを食べてから、俺と祐太郎は東京へと戻ることにした。
あと数日でコミケが始まる。
前日はホテルで体を休めて体力を温存して、当日の作戦を考えないとならないから。
●現在の乙葉の所有魔導具
センサーゴーグル(TS/鑑定/アクティブセンサー)
SBリング(ブースト、透明化)
レジストリング(耐熱、耐打撃、耐斬撃)
魔法の箒
中回復ポーション×2
軽回復ポーション×5
病気治癒ポーション×1
身代わりの護符
・カナン魔導商会残チャージ
13億2550万クルーラ
●築地所有の魔導具と加護の卵
センサーゴーグル(TS/鑑定/アクティブセンサー)
加護の卵『29/100』(左手ブレスレット)
レジストリング(耐熱、耐打撃、耐斬撃)
収納バッグ
魔法の箒
大回復ポーション ×5
中回復ポーション ×25
軽回復ポーション ×5
病気治癒ポーション×5
ブライガーの武術書
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
今回はノーヒントで、まあ判るかと。