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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第四部・魔人王降臨編

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第二百四十八話・平穏無事? 喉元過ぎても熱さは忘れないからな!(え? 俺の出番無くなる?)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

──時間と場所、戻る


 うん。

 どうにかあのコボルトもどきから逃げてきたのは良いんだけれど、今後の対策とかで特戦自衛隊は一旦、妖魔特区から撤退するらしい。

 ヘキサグラムは協力体制をとるらしく、外に造られる仮設キャンプに移動。

 そして俺たちは、特戦自衛隊からの招集は無視して札幌テレビ城にやってきたのです。


「……あの、忍冬師範。本当に特戦自衛隊の作戦に参加しなくても問題ないのですよね?」

「民間人に武器を持たせようとしたり、魔術による支援を求めてくるような組織は無視して構わんよ。多少のことは目を瞑って手伝うのもやぶさかじゃなかったが、今回は度を超えている」


 流石の忍冬師範も腹に据えかねたらしい。

 俺たちがテレビ城に向かおうとした時に、いきなり怒鳴りつけてきたからね。


『勝手な行動を取るな、これからの対策にはお前の力が必要なんだ、とっととついて来い』ってね。

 だから、軽く会釈して一言だけ告げたよ。


「特戦自衛隊に、民間人を戦闘に巻き込む強権を使われたってネットに拡散して良いですか?」


 この一言と、忍冬師範の睨みつけで隊長たちはスゴスゴと撤退。俺たちは無事に目的地に到着したって訳。


「……あの、乙葉さん、白桃姫さまは留守ですが……何か御用でしたか?」

 

 テレビ城の留守を預かる魔族が、俺の姿を見て駆けつけてきた。

 以前は百道烈士の眷属だったらしいが、奴が消滅してからフリーになって、白桃姫の元に身を寄せたらしい。

 一つ目おかっぱ黒髪の魔族、『一眼(一つまなこ)の喜々』という名前だったかな?


「あ、喜々さん、ちょっと聞きたいことがあったのですが」

「はぁ。私のわかることでしたら。どのようなことでしょうか?」

「この先、川向こうの更に向こうの川向こう。そこに狼獣人のような魔族の集落があるのですが、知り合いとかそういうことはありませんか?」


 そう問いかけると、喜々さんは腕を組んで考え込むと、城に戻って地図を持ってきた。


「川の向こうの川向こう……創成川の向こう、豊平川のあちら側ですよね?」

「地名を理解しているのかよ!! いや、その通りなんだけどさ」

「新山さんと瀬川さんに教わってました。この結界内部で生きていくのに、現代のマナーやルールを学んだ方が?」


 そう話した時。


──ガバッ!

 いきなり喜々さんが空を見上げる。

 いや、何かあったのですかと、俺も空を見上げたんだけど。

 虹色の結界が広がっているだけで、何も見えやしない。


「……魔人王が、即位しました……」


 喜々さんがボソッと呟く。

 へぇ、魔人王が……って、なんだと?

 慌てて振り向くと、喜々さんの声が聞こえたらしい忍冬師範も近寄ってくる。


「今の話、本当ですか?」

「はい。人間には聞こえないかもしれませんが、魔人王が即位した時、魔族に聞こえるように『魔人王即位の鐘』というのが聞こえてくるのです。その直後に、空に魔人王の姿が映し出されるのですが……」

「姿? どこに?」


 思わず周囲を見渡したけど、喜々さんは空の一点を指差す。


「銀色の体毛を持つ獣人。でも、どこかで見たことあるような……」

「獣人……チャンドラ師匠やリナちゃんならわかるけど、どっちも違うよね?」

「はい。女性です……狼系ですが、腕が四本あります……どこかで見たことあるような……」


 喜々さんの言葉をメモする忍冬師範。

 でも、魔人王が即位したと言っても、あっちの世界の話だよね?

 マグナムの探している王印所有者が、魔人王になったんだ……って、あれ?


『ピッ……瀬川先輩、いま、お話大丈夫ですか?』


 嫌な予感がする。

 頼むから、嫌な予感よ外れてくれ。


『え、あ、乙葉くん。何かあったのかしら?』

『先輩、魔人王になりました?』

『……はい。魔人王に即位しました……どうしましょう』


 はい、嫌な予感はあたりましたが。

 まって、頭の中の整理がつかない。


『今どこですか?』

『大学構内。結界の外ぎりぎりで、深淵の書庫アーカイブに閉じこもっています。ちょっと、体の変化が戻るまで、外に出られなくて……』

『あ〜。戻りそうですか?』

『今、魔皇さんたちに聞いているところでして……私の魔力が足りないこと、魔人核を持たないことがネックのようです』


 うん。

 ここだけの話だ、そうしよう。


『では、どうにかして戻れたら連絡をください。外の魔族が、魔人王即位の鐘を聞いて過剰反応していそうです』

『え、やだ!! どうしましょう……』

『まずは、人間の姿に戻ってください。では、連絡を待っています』


 はい、念話モード完了。

 忍冬師範は第六課にでも連絡を入れている最中のようだから、こっちに気づくことはない。

 では、新山さんにも。


『もしもし、乙葉です。新山さん、今大丈夫?』

『はい。今は休憩中です。何かありましたか?』

『ここだけの話、単刀直入に説明する。瀬川先輩が魔人王に即位した』

『……えええええええええええええ!!!!』


 まあ、そうなるよね。


『それって、私たちの敵に回ったりとか……しませんよね?』

『今は元の姿に戻るのに必死らしい。一段落したら、また連絡をくれることになっているから。新山さんからも連絡をしてあげてくれるか?』

『わかりました! 先輩の危機ですよね、すぐに念話します』


 これで念話が途切れる。

 よし、こっち方面は取り敢えず大丈夫として。


「喜々さん、まだ姿って映ってますか?」

「いえ、もう鐘も止まりましたし姿も消えました。まあ、私にとっては魔人王が誰になっても、関係ありませんけどね」

「あ、そうなの?」

「はい。鏡刻界ミラーワーズの出来事なら、私たちには今関係ありませんから。先ほどの話に戻しましょう」


 あっさりと話が戻ってくる。

 忍冬師範の方をチラリとみると、もう少し細かい情報が欲しそうな顔でこっちを見ているけど、魔人王絡みは後回し。

 喜々さんが地図を開いて、菊水方面を指差しているんだけど、何か魔族文字が書かれていて……あ〜、読めるようになってきた。


「この辺りですと、元・百道烈士派の魔族で未だに好戦的な魔族が集まって砦を構築していますが」

「また百道烈士かよ。全員が全員、寝返ったんじゃないのかよ」

「はい。アラバ・アガサという魔族でして。こっちの呼び方ですと鏡陽穿鬼と言いまして……体の各部に魔人砲を内蔵した射撃型とご説明すれば、わかってもらえるかと」


 あ、いたわ、そんな奴。

 百道烈士を追い詰めた時に、俺に向かって生体レーザー撃ってきたわ。

 霧散化したと思ってたけど、そうか、逃げ延びていたのか。


「うん、思い出したわ。それじゃあ、大した数じゃないよな?」

「いえ、少しずつですが勢力を拡大しつつありまして。白桃姫さまがいない今のうちに、この中の勢力を書き換えようとしているのかもしれません。最近ですと、正体不明の魔族がターミナルダンジョンに住み着いたので、そこから逃げた魔族も取り込んでいるとか」

「ターミナルダンジョン?」


 そのあたり、細かく説明してもらったらさ。

 大通りを中心とした、札幌市の中央区にある地下街。


 ポールタウン

 オーロラタウン

 地下歩行空間

 そして札幌駅地下街


 この四箇所が、妖魔特区結界と水晶柱の影響でダンジョン化したらしい。

 そして正体不明の魔族が住み着いたってことは、あの活性転移門が札幌駅地下街に住み着いたってことだよな?

 そこから逃げた魔族が、アラバ・アガサとやらの元に逃げて庇護下に入ったと。


「う〜わぁ。あっちもこっちも面倒くせぇぇぇ。忍冬師範、ここまでの話、聞いてましたよね?」


 もう、第六課にもう話を振るわ。

 こんなの一人じゃ無理だわ。


「まあ、おおよそ理解した。菊水方面のアラバ・アガサについては、今回は生態調査ということなので後日に回しても構わない。問題は、地下街のダンジョンに住み着いたという、例の未知の魔族か」

「はい、流石に俺一人じゃ無理です。仲間がいないと話にならないし、なによりも放置しておくとどうなるか理解していません」

「手が足りない……か。彼の方々にまた助力を求めるのは?」


 ここでいう、あの方々って、マスター・羅睺たちですよね?

 そうした方が良いんだけど、どうかなぁ。


「まあ、後で確認します。それで、妖魔特区内部調査についてはこれで終わりとし、ここからは未知の魔族の追跡調査及び封印作戦に切り替えて構わないんですよね?」

「そうだな。現時刻をもって調査任務は完了とする。それで、結界が変容し、内部が異世界のようになった原因も、あの未知の魔族ということで良いんだよな?」

「ええ、恐らくですけど」

「分かった。それじゃあ、今日のところは戻って構わない、また明日、夕方にでもきてくれるか?」

「わかりました。では、今日はこれで失礼します」


 細かいことは聞かないよ。

 頭を下げて結界の外に飛び出すと、魔法の箒に飛び乗って一路、北海道大学へレッツゴー!


………

……


 サーチゴーグルで瀬川先輩の居場所を探すと、すでに新山さんが近くで待機していました。

 さすが、近くにいただけあって早いわ。


「あ、乙葉くん、おつかれさま!」

「新山さんこそ、おつかれさま。それで、先輩の様子は?」

「先ほど、着替えがどうこうとか話してました。すでに元の姿に戻ったとかで、今は外に出る準備をしているとか」


 おお、さすが女性同士だと、話が早そうで助かります。

 そしてこっちの状況を説明し、明日以降は例の未確認魔族の調査及び討伐を開始するかもと説明をした時。


──バフォッ!!

 深淵の書庫アーカイブが解除され、私服を着た先輩が飛び出してきた。


「あ、乙葉くんもきたのね。ご心配をおかけしました」

「いえいえ、来たばっかりですし。それよりも、なんでこんなことになったのか、説明をプリーズしたいのですが」


 いくら魔法関係がオープンになっている札幌でも、深淵の書庫アーカイブに興味を持った人たちが、少し離れてこっちを見ている。


「そうね。でも、場所を変えた方がいいわ。乙葉くんのうちに行っても構わないかしら?」

「うちっすか? そりゃまた、なんで?」

「初代魔人王側近の方がいらっしゃるでしょ?」

 

 あ〜、うちの母さんですか。

 ついでに親父もいると思いますから、専門家ばかりだよね。


「まあ、そういうことなら。新山さんもくる?」

「はい!!」


 それじゃあ、場所を変えて話し合いといきましょうか。

 やれやれ。

 事件が多すぎで、どこから手をつけたものかわからなくなってきそうだわ。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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