第二百四十三話・無常迅速、病膏肓に入る(日常の中の非日常)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
一ヶ月ぶりの学校だぁぁぁぁ。
俺がアメリカでバトルを満喫している間に、日本では夏休みが終わっていました。
つまり、もうまもなく秋に突入。
秋といえば行楽のシーズン楓風会。
みんなで池之端しのぶ亭で、円楽一門会の落語を堪能する秋って、これ、前にも話したことがあるような?
「さて。現実逃避している最中の乙葉浩介、この問題だが前に出てくれるか?」
はい、授業中でした。
ちなみに俺と新山さん、祐太郎の三人は部活動の延長ということで夏休みが終わってからも公欠扱い。
そして祐太郎は親父さんが学校に連絡してくれたおかげで、しばらくの間は休学となった。
新山さんは【築地祐太郎ファンクラブ】のメンバーから色々と質問攻めにあっていたし、俺はクラスメイトや織田一門からおみやげ寄越せ攻撃を受けたりともう散々。
「……って、こんな感じで?」
ちょうど英語の時間なので、黒板に書かれた英会話を全て翻訳。
この程度ならアビリティの自動翻訳でお茶の子さいさいだし、英語担任もそれを知っていて俺に解かせた節もあるし。
「さすがアメリカに行っていただけあるわね。語学も堪能だし、今の乙葉君なら世界中のどこの国でも生活できるわよね?」
「まあ、会話は可能ですが、だからといって生活できるかどうかはわかりませんけどね」
「そうなの? でも魔法って便利よね。世界中の言葉を魔法で翻訳できるのでしょ?」
「その気になれば、翻訳家でもできますよ……それじゃあ」
壇上から降りて席に戻る。
そして俺の解答についての補足を加える先生をよそに、俺は窓の外をぼーっと眺めていた。
………
……
…
「なんだろう? 乙葉くんって今日一日、ずっとそんな感じですよね? 何かあったのですか?」
部活の時間。
新山さんが俺に問いかけてくるので、ふと頭を傾けてしまう。
そんなにぼーっとしていたかなぁ⁉︎
「何か……まぁ、あったと言うか何もないと言うか。今さ、この瞬間にもサンフランシスコでは妖魔相手に戦っている人がいる。日本でだって、妖魔特区付近では特戦自衛隊やヘキサグラム日本支部のメンバーが救援活動を行なっているじゃないか」
「うん。私も明日の夕方には、第二時計台病院で魔術治療の仕事が入ってますけど。私たちは、私たちにできることをやっていくしかないんじゃないかなぁって思いますよ」
「まあ、そうなんだけどさ……うん、思い詰めたらどんどん感情がネガティブな状態になるわ」
ここは気分一新、何か楽しいことをしようそうしよう。
妖魔特区の内部調査については、明日の夕方に忍冬師範と一緒に行うって話になっているから、今日はそのための準備をすることにしようか。
──ブゥン
まずはカナン魔導商会を起動して、納品依頼を完了させる。
サンフランシスコでの一件で、しばらく塩漬け状態になっている納品依頼が大量にあったので、ウォルトコ経由で全て納品。
億単位のチャージが入ったから、これを使って何か変わったものを買うことにしようじゃないか。
「追加システムもなし、新商品は……ってなんだこれ?」
『稼働モニター募集。最新型魔導鎧。この画面を見ているあなた、あなた限定のモニターです』
「何かあったの?」
「ん、まあ、ちょっとね」
そう新山さんにははぐらかす。
だって、今日は部室に美馬先輩と高遠先輩の姿もあるんだよ。二人にはまだ【カナン魔導商会】は秘密にしているので、モニター募集のことは内緒。
(カナン魔導商会で新商品のモニターを募集しているんだけどさ)
(へぇ、何か面白そうですよね? 何のモニターですか?)
(魔導鎧だって。俺の装備も魔導機動甲冑だから、それの新型なのかなぁ)
(そうかもしれない。ちょっと試してみるわ)
──ポチッ
思わず申し込んだよ、新型機のモニター。
『お申込みありがとうございます。カナン魔導商会オンラインシステムは、選ばれたお客様に満足のいくサービスを目指しています。転送した魔導鎧のマスター登録の後、動作確認と戦闘データが自動的に送られるように設定されていますので、何卒よろしくお願いします』
そういうメッセージが画面に浮かび上がったのち、空間収納に魔導鎧が転送されてきた。
早速装着してみようかと考えて、装備データを確認したんだけど。
「……全高五メートル? え? なんだこれ?」
「どうしたの?」
「いや、新装備が全高五メートルって、あの、有馬とーちゃんの作った魔導鎧……あれもメイガスアーマーか。翻訳機能が、向こうの装備をこっちの言葉に自動変換したにしては、偶然すぎるネーミングだよなぁ」
「有馬さんのところでっかいロボットがどうかしたのか?」
窓際で闘気呼吸を繰り返している美馬先輩が、俺の呟きに反応している。
ここは誤魔化しの一手!!
「新型のモニターを頼まれたんですけど、まだ有馬さんはアメリカなんですよね。俺がまだ向こうにいるって思っているらしくて」
「なるほどなぁ。俺も興味があるんだけど、闘気じゃ動かないんだよな?」
「確認しておきますね」
「頼むよ」
ニッカリと笑ってから、先輩は窓側に戻る。
その近くでは、高遠先輩が足元に魔法陣を広げて、意識を失って口から泡を吹いて倒れた!!
「すげぇ、儀式魔法陣が広がった……じゃないわ、新山さん!」
「診断。魔力欠乏症です」
新山さんが慌てて空間収納から魔力回復ポーションと水差しを取り出し、高遠先輩に魔力を送ってから水差しのポーションを飲ませている。
「げふむ、ごぶっ……助かった。川縁に船が迎えに来ていた」
「それ、ダメですから!! 一体なんの魔術を試していたんですか?」
問題はそこ。
俺の知らない魔法陣が展開したんだよ、理解不能な奴。
「わからない。自分なりに魔法言語を理解し、独自の魔法を作ろうとして失敗したようだ」
少ししょんぼりとした高遠先輩。
うん、ここは現代の魔術師の出番だよね?
「術式を書き出してくれますか? 精査してみますから」
「うん……これ」
巨大魔法陣の中に、六つの小さな魔法陣が組み込まれている。
それを魔導書に写し取り、手を当てて魔力を込める。
すると、頭の中に分解された術式が広がっていく。
「身体活性化……欲望の変化。変身……安定、いや、定着……自然成長……背を伸ばそうとしたのですか?」
「コクコク」
高遠先輩の作った魔法陣は、【身体成長の術式】。
発動時に頭の中で思い描いた体に変身するもので、その変身が普通の成長のように行われるという、副作用の少ない術式……を作ろうとして、妙ちきりんな魔法陣を完成させていた。
「ははぁ。この術式全てが出鱈目のように見えて、しっかりと配列されているのが問題なんですね。魔法言語の基礎から学んだ方が、これは理解できるようになるんじゃないですか?」
そう説明してから、本棚に置いてある『魔法大全』を取り出し、先輩に手渡す。
これは去年、カナン魔導商会で購入したもので、まだ祐太郎たちが魔法に目覚め始めたばかりの時に参考書として購入したやつ。
魔術の系統が違うため、俺以外には使わなくなった本なんだけど、高遠先輩なら使えるようになるんじゃないかなぁ。
「……借ります。ありがとうございます」
俺から魔導大全を受け取ってから、手書きの翻訳テキストを開いて翻訳を開始。そこは手伝えないから頑張ってください。
「うーん。これは、魔導鎧は明日にしたほうがいいような」
「明日なら私も近くに向かいますから。ぜひ、見せてください」
「了解さ!!」
これは楽しくなってきた。
全高五メートルの鎧って、どんな感じなんだろう。
ロム兄さんのようなやつか?
それとも青い闘士みたいなやつか?
明日が楽しみである。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──翌日放課後・十三丁目セーフティエリア
はい。
授業なんて吹っ飛ばして、まじめに頑張ってきましたよ。
部活は休みなので、俺は新山さんと一緒に妖魔特区へ。
「それじゃあ、行ってきますね」
「はいお気をつけて!!」
妖魔特区すぐ外にある、第二時計台病院。
しっかりと俺の作った対妖魔結界が追加配置されているので、結界内部から救出した人たちや、付近での事故や病気の対応も万全。
護衛の要先生と一緒だから安全だと思うので、笑顔で見送ってあげたよ。
「それじゃあ、調査を始めるか。今日は大通り一丁目から向こう、創成川の東方面を調査するか」
「了解です。その前に、ちょっと良いですか?」
「ん、何か準備が……またおまえ、何かしでかしたのか?」
うーん、やだなぁ。
俺が何かするように見えますか?
そんな渋い顔で見ないでくださいよ。
「新装備のテストですよ、それじゃあ!!」
空間収納から取り出しましたる【召喚の腕輪】。これを装着して魔力を込めると。
──ブゥン!!
俺の目の前に、直径8mの巨大魔法陣が出現する。
そしてそこから、立ち膝状態の巨大なロボットが姿を表したんだけど、何、これ?
『初期稼働確認。腕輪の主人をマスター登録しました……』
腕輪を通して、念話で声が聞こえてくる。
それと同時に、頭の中に操作方法が次々と流れ込んでくる。
かたや忍冬師範と救助隊の特戦自衛隊のメンバーは、召喚された魔導鎧を見て口をぱくぱくしている。
『機体コード登録、名前をつけてください』
(名前……ねぇ)
真紅のロボット。
大きさはほら、あのロボットのゲームのあれぐらい。
一時期、今等身大のプラモデルが公開されたブラストなランナーのやつ。
あんな感じで真紅の機体。
(真紅の機体……クリムゾン、ルージュ?)
『ピッ、機体コード、【クリムゾン・ルージュ】で登録しました』
「まったぁぁぉぁぁぁ!!」
思わず大声を出したわ。
俺が言いたかったのは、真紅ってクリムゾンだっけ、ルージュだっけって意味で、機体名じゃないわ。
そう叫んだけど時遅し。
機体コードが登録されましたわ、はぁ。
「なあ浩介。これは何か説明してくれるか?」
「えーっと、俺が錬金術で作った【対大型妖魔用魔導鎧】です。こうやって、乗り込みます」
──ガゴン
クリムゾンの胸部に近寄って、隠れているハッチを開くレバーを引く。
すると気化魔力が蒸気のように噴き出し、コクピットハッチが開いた。
中身はシンプルで、コントロール方法は椅子の左右に浮いている水晶玉を手に、頭の中で動作を念じるだけ。
フットペダルとか、武器管制用トリガーとかも存在するけど、基本的には『念話式誘導制御』っていう最新型システムが搭載されているらしい。
この辺り、あとでじっくりと解析させてもらうよ?
「もう……どこから突っ込んでいいんだか分からん。それで調査に向かう気なのか?」
「いや、稼働テストがしたかっただけでして……」
──ガゴン
ハッチを閉じて、椅子の両側に浮かぶ制御球に手をかける。
そして魔力を込めると、俺の座っている全周囲が透き通っていく。
下を見るとクリムゾンの脚部と地面が、左右には腕が見える。
ちょうど胴体部分が透明化した感じなのだが、機体を稼働させた瞬間に、身体の中から魔力が引き摺り出される感覚がある。
「初期稼働用のエネルギー補充……そして、魔導リアクターが稼働すると」
──グゥオングゥオン
騒々しい音が背後から聞こえると、やがて音が小さくなり最後には消えていく。
その段階で、初期稼働準備が全て完了。
うん、今日はこの辺りにして、明日、趣味全開で楽しませてもらうことにしよう。
──ガゴン
ハッチを開いて外に飛び出すと、魔導鎧・クリムゾン・ルージュを魔法陣の中に収める。
そして忍冬師範の方を見ると、腕を組んで困り果てている姿が見えていた。
ちなみにその背後には、内部の様子を放送するためのテレビ局のカメラが回っていたらしく、俺、またしてもやっちまいましたか?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




