第二百四十一話・多事多難! 物は相談まさに相談!(少しだけスッキリした)
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一体、何が起きたのか。
目の前で起こった光景に、俺の体は反応できなかった。
乙葉浩介とツーマンセルで、サンフランシスコ結界にゲートを設置する作戦を受けてから。
僅か十日ばかりで用意されていたほとんどのゲートを設置した。
そして最終日に、最後の一つを設置したとき。
突然、乙葉はゲートの向こうに飛び出すと、一体の魔族に向かって攻撃を開始した。
相手に何もさせないまま、乙葉はひたすら攻撃を繰り返す。
魔術を飛ばすでもなく、ただ純粋に、魔力の篭った四肢を使って殴打を繰り返している。
そして相手が瓦礫の向こうに吹き飛ばされた時、新たな敵魔族が姿を表し、乙葉に向かって攻撃を仕掛けてきた。
………
……
…
「貴様は何をしたか理解しているのか!! マグナムさまこそが至高の魔人王となる方、その体に触れるどころか、命を奪おうとは万死に値する!!」
──グゥォオォォォォォ
ミイラのような魔族。
それが俺に向かって韻を紡ぎ始める。
手にした骸骨をあしらった杖にも魔力が集まるのを感知するけど、もう、ほとんど体が動かないんだよなぁ。
──シュルルルルッ
すると、俺の後ろからマックスが駆けてくると、魔術で作り出した鎖で俺を捕まえ、俺を結界の中に引き摺り込んだ!!
「逃すかぁぁぁ、死霊ども、やつを喰らい尽くせ!! その魂の一片も残すな!!」
──ヴォォオォォォォォォォン
ミイラの左右に黒い球体が浮かび上がると、そこから半透明の骸骨の頭が浮かび上がり、俺に向かって飛んでくる。
だけと、発動時間が長すぎるわ。
──ジャラッ
俺は簡易結界エリアの中に引き摺り込まれ、骸骨たちは結界に触れた瞬間に消滅する。
伊達に現代の魔術師を名乗っていないさ。
今回は簡易だけど浄化術式を組み込んだから、迂闊に触れると火傷じゃ済まないからな。
「へへへ。少しだけスッキリしたわ」
「お、お前は馬鹿なのか? 相手が何者かわかって飛び込んだのか!!」
「まあ、マグナムって名前を聞いた瞬間に、咄嗟に飛び込んだわ……マックス、ちょいと待ってくれな」
──ゴソゴソ
呆れた声半分、怒鳴り声半分で怒っているマックス。
いや、正直済まない、怒りの感情に体が過剰反応した。
とりあえず魔力回復ポーションと状態異常回復ポーションを取り出して一気飲みすると、フラフラしていた体が少しだけ楽になる。
「ふぅ。少しは落ち着いたかな……」
「呆れてなにも言えないわ……」
「まあ、今の攻撃であいつを屠る事はできなかったけどさ。俺の全力攻撃を受けたんだから、そうすぐには動くことなんてできないよ……」
──ブゥン
零式が解除され、魔導紳士モードに切り替わる。
フィフス・エレメントも消して、右手を握ったり開いたりする。
「魔力や闘気じゃない、全力の神威パンチだ。普通に回復できると思うな……あ、悪い、俺をベースまで運んでくれ」
意識が遠くなった。
やっぱり無理が祟ったんだろうなぁ。
地面に倒れると痛そうだから、空間収納から魔法の絨毯を引っ張り出して浮かべると、そこに倒れて意識がパタンキュ〜。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──サンフランシスコ、とあるビル
乙葉浩介の全力攻撃により、マグナムはほぼ瀕死状態。
魔人核に傷がつかなかっただけであり、ゲーム的に説明するならば残りHPは一桁。
不死王とその配下によって丁寧に運び込まれたものの、回復するには治癒術師か高濃度の魔力保持者が必要。
「……贄を集めますか?」
「この地の人間の魔力など、いくら集めたところで質が悪すぎる。現代の魔術師とかいったな、あいつレベルの魔力でなくては、マグナムさまの体を癒すことなど不可能だ……」
ブルーナの提案に不死王は頭を振るだけ。
「いずれにしても、この地での回復は見込めない。一度、鏡刻界に戻さなくてはならないだろうな」
「ですが、そのためには転移門を通り抜けるだけの魔力を必要とします。そうなると、意識のない弱りきったマグナムさまの魔力を補うだけの力を持つものの協力が必要となりますが」
ゲートを越えるためには、魔力を消耗する。
それをマグナムと自分、二人分を補えるだけの魔力保持者で、尚且つゲートを越える能力がなくてはならない。
サンフランシスコ・ゲートは未だ完全ではなく、転移門を超えられるだけの能力がないと通り抜けることができない。
マグナムは智将という異名を持つだけあって、『転移門』を越えるための術式も能力も保持している。
それでも活性化した転移門が必要である。
そのマグナムが意識のない状態では、単独で帰還することなど困難。しかも、体の回復に必要な魔力を持つ魔獣も、贄となる高魔力保持者も、この場には『ブルーナ』以外には存在しない。
(チッ……どうせくたばるなら、王印を回収してからにしてくれ……まあ、これで向こうに戻り、マグナムの配下たちに王印を探させれば、俺は労せずに王印を回収できるか……)
若干の計画変更はあったものの、マグナムを連れて帰還すれば彼の信頼も高まるだろう。
何より、鏡刻界に帰るなど何百年ぶりだろうか。
「では、私がマグナムさまと戻ります。不死王さまは、このまま計画を進めてください」
「うむ。現時点でのサンフランシスコ・ゲートの活性率は18%。これでは侯爵級魔族ですら突破は不可能。それをどうにか伯爵級魔族が使用できる60%まで高めなくてはならない」
「ええ。そのための贄、そして魔力を集めて留まらせるための結界。最悪なのは、そこに現代の魔術師が穴を開けた事……それすら利用して仕舞えば良いのです」
ブルーナは言う。
外から魔族を集めた場合でも、穴の空いた場所から中に誘導し、そこで霧散化する事で簡易結界エリアをすり抜けてこれるのではと。
残念なことに、それは札幌で百道烈士たちも実験し不可能だったのだが。そんなことはブルーナたちは知らない。
「よかろう。では、我々はこの地の転移門を活性化させようではないか」
「よろしくお願いします。では、私は急ぎ、マグナムさまと共に鏡刻界変更帰還します」
そこからはとんとん拍子で準備を終えると、ブルーナは覚悟を決めてマグナムと共に転移門を越える。
そして不死王ら黒龍会は、結界内部に残っている野良魔族狩を再開。同時に魔力持ちの人間を捉えるべく動き始めた。
………
……
…
「……もう、無理」
サンフランシスコ郊外、デーリーシティに作られた対結界解放作戦用ベースキャンプ。
そこのヘキサグラム・エリアの簡易宿舎内ロビーで、新山小春はソファーに座るとそのまま体を横にする。
「おつかれさま。避難した方々はどんな様子なの?」
自販機で冷たい飲みものを買ってきた瀬川は、小春にそれを一つ手渡して状況の確認を始める。
「日本とは違うのがよく分かりました。救出した人々の中で、治療が間に合わず亡くなった方が一割。治療したものの、この後の生活が元に戻るか分からない人が三割……軽傷以下の人たちも、PTSDの心配があるそうで、普通の生活に戻れるのは全体の一割程度だそうです」
新山の担当は、トリアージ黒もしくはオレンジの人々の魔術治癒。それ以外はヘキサグラム及びアメリカ各地から集められた救急医療専門チームが担当しており、そちらには新山は手を出すことができなくなっている。
もっとも、自分の担当区分だけでもギリギリの状態であったので、かえって助かったと言えばそれまでなのだが。
「……魔法って、奇跡は起こせるけど万能じゃない。そんなことを乙葉くんが昔話していたような気がしますけど、本当にそう思います」
「私はずっと、作戦室で深淵の書庫を展開していますけど。やはり軍部や関係者は、深淵の書庫の性能に驚いています。けど、これを使えるのは私一人、そして一つのことについての調査はできますけれど、並行でいくつもの処理となると実践経験が少ないのが思い知らされましたわ」
高校生、大学生で魔力持ち。
人を癒す聖女と、歩くスーパーコンピュータの二人でさえ、疲労困憊で弱音を吐きたくなる。
それでも初日、二日目の地獄のような環境に比べたら、今の環境はまだゆとりができている。
全部で12個の出入り用ゲートと簡易結界エリア。
これにより救出作戦が劇的に速くなっているのは事実。
それでも、妖魔の攻撃により軍人サイドにも被害は出ている。
新山の手当てしていた怪我人も、最近は軍人の方が増えていると言うことも、内部での戦闘の激しさを伝えている。
「……もう、夏休みが終わってます……お父さんたちには事情を説明して連絡はしてありますけど……」
「私は大学だから、夏季休講はまだ残ってますけど。乙葉くんは、いつ日本に戻るって話してます?」
「一段落したら。そう話してました」
夏休みは三日前に終わっている。
その前日に、日本の両親に事情を説明し、新山たちは始業式に参加することなくアメリカの地で新学期に突入した。
──ガチャッ
正面玄関の扉が開いて、フラフラになった俺ちゃん乙葉が入っていく。
もうね疲労困憊、魔力切れも起こしかかっているのが、顔色で理解できるレベルだよ。
「おや、二人ともお揃いで……グビグビッ」
空間収納から魔力回復ポーションを取り出し、俺は一気に喉に流し込む。
すると顔色が元に戻り始めたらしく、身体中に力が宿ってくる。
「いえ、今後のことを考えていたのですわ。乙葉くんたちはもう、夏休みは終わってますよね?」
「ん、まあね。内部の調査手伝いも終わったので、近いうちに帰ることになるよ……」
あっさりと告げてみる。
これには二人とも驚いていた。
まあ、ゲート設置は終わらせてあるんだけど、なんだかんだと理由をつけて俺は残って妖魔狩を続けている。
マグナムはぶっ飛ばしたけどさ、まだ大勢の人が残っているからね。
だから俺が陽動になって妖魔を見つけてぶっ飛ばし、その間に海兵隊と陸軍が救助活動を続けていたんだわ。
「それは良かったわ。そろそろ、こっちの食事にも飽きてきたところですから」
「私なんて、しばらくお父さんたちにも会ってなかったから……それに、クラスのみんなにもね」
「ん〜。まあ、早いところ日本の方もなんとかしないとならないとは思っていたし。羅睺さんたちには定期的に連絡していたけど、まだ大きな変化はないらしいからね」
そのままいつ帰るのかと言う段取りについて、三人で打ち合わせをし、忍冬師範にも確認のために連絡を入れる。
「……と言うことで、俺たちはそろそろ日本に帰りたいのですけど。日本政府としてのやりとりもあるかと思いますが、その辺りはどうなのですか?」
『日本政府とアメリカとの話し合いでは、ゲート設置及び簡易結界エリアの設営までが乙葉浩介たちの仕事。この日程は十二箇所の設置を持って完了している。あとはサービス残業みたいなものだから帰る気になればいつでも帰れる』
「それなら、明日にでも帰りたいと言えば帰れるのですか?」
『いや、ヘキサグラムから連絡があって、キャサリンとマックスの二人に、魔術講習をお願いしたいらしい。それが終わってからでも構わないと言うのなら、頼みたいところだが』
ふむふむ。
そんなの無視して帰りたいと思ったけど、キャサリンとマックスは知り合いだし嫌いじゃ無い。
なによりもヘキサグラムからの依頼ってことは、二人に全力で魔術講習しておけば、アメリカはヘキサグラムなら任せていいんじゃ無いか?
ちなみにアメリカとしては、このままベースキャンプに留まって作戦を継続してほしいと言う話も振られたが、なによりも日本が心配という三人の意見により、二日後に日本への帰還が決定した。
………
……
…
──二日後
帰還が決まってからの二日間は ヘキサグラム魔導セクションでの魔術レクチャーを行なっていた。
これはヘキサグラムトップからの正式依頼と言うことになったので、俺としてもキャサリンとマックス、二人の魔術師の能力底上げのために全力を尽くしたよ。
全くの素人に一から教えるというのなら断っていたけれど、そもそも魔術師である二人になら教える分には構わないと考えた。
なによりも、忍冬師範の一言
『ここでアメリカの魔術師を育成しておけば、日本から呼び出される回数も減る筈だ』
この言葉で、俺は二つ返事でオッケー。
二人の素養を確認しつつ、適切な魔術の術式を二人に教えることにした。
結果としては、俺が使える第一聖典はかなり使えるようになり、第二聖典も補助系がいくつかは覚えられたらしい。
魔力保有量が少ないため、一度に使える魔法の数にも限界はある。
けれど、これでアメリカにも正式な魔術師が生まれたといってもいいんじゃないかと思うよ。
新山さんと瀬川先輩も、アメリカ政府に頼まれて『魔術講習』を行ったらしいし。
最終日には魔力感知球で参加者の魔力保有量を検査したけど、よくてオレンジほとんど赤。
オレンジ反応については、ヘキサグラムに管轄が移動したので、先輩たちの手を離れる。
最終日が終わった後の新山さんたちは、やりきった顔と疲れ切った顔半々だったので、俺ちゃん特製魔力回復薬で労ってあげたよ。
「さぁ!! 明日には日本に帰る!! 夏休みが無くなったけど、そんなことは知らない!!」
「ようやく和食が、卵かけご飯が食べられます!!」
「それよりも、築地くんは無事だと良いのですけど……」
それな。
先輩の言う通りで、祐太郎たち四人とも、未だに消息不明。
問い合わせようにも手がなく、これは素直に冥王の元に到着し、なんらかの事情により戻ってこれなくなったのだろうと考える事にした。
悪いことばかりじゃないし、便りのないのは元気なしるしと思う……。
はぁ。
夏休み、遊びたかったなぁ……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




