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第二百四十話・窮猿投林、出る杭は全力で殴る!!(マジで切れた五分後には)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 重い空気の中、俺たちはサンフランシスコへ近づく。


 280号線をサンフランシスコに向かい、途中のデーリーシティに辿り着いた時、それまでの長閑な光景とはガラリと変わった緊張感が辺りを包み込んでいる。


「うわぁ……」

「これがアメリカですか……」

「マジかよ」


 デーリーシティの向こうには、巨大な深紅に染まったドーム状の結界。

 その手前を、アメリカ陸軍、空軍が包囲している。

 最新型の戦車、装甲装輪車はもとより、アメリカ海兵隊や特殊部隊まで揃っているのは、一種異様な光景に見える。


「……まあ、三人が驚くのも無理はないか。妖魔特区の時は、お前たちは結界の中だったからな」


 そう告げてから、忍冬師範がタブレットを開いて見せてくる。

 そこに映っているのは、妖魔特区を囲む自衛隊の車両群。

 指揮車両や10式戦車、16式機動戦闘車といった最新鋭の車両まで配備されていた。


「この映像は見たことがありませんわ……」

「そりゃそうだ。報道官制が敷かれていたから、表向きに流れることはなかったからな。いくつかの放送局がモザイクを掛けて映像を流したが、すぐに放送局の上層部関係は政府に呼び出しを受ていたからな」

「俺たちの知らない世界……俺たちしか知らない世界……」


 魔族の存在は、俺たちに取っては身近なものになったが。

 まだ、普通の人たちにとっては危険な存在であることに変わりはない。

 少しずつ受け入れられているのかもしれないが、このような事件が起こるたびに魔族の肩身は狭くなる。

 

──キィツ!

 車が停車してマックスとキャサリンが降りる。

 そして俺たちも車から降りるのだけど、周りにアメリゴ海兵隊やヘキサグラムの機械化兵士エクスマキナたちが集まり、俺たちを警備してくれた。


「まずは、ヘキサグラムのベースエリアへ案内します。そこで、ここの責任者に会ってもらいますので!!」

「了解。それが終わったら、とっととゲートを作ってしまうわ」


 もう、一刻も早くゲートを作ってしまいたいんだけどさ。

 そしてできるなら、一人でも多く助け出したい……。

 

「乙葉くん、焦っちゃだめ……」

「焦りや怒りは、判断力を鈍らせるから……ね」

「先輩、新山さん……分かってますよ。それでも、この結界の向こうにまだ生き残っている人がいるって考えると……」


 俺の気持ちを察したのか、新山さんが俺の手をぎゅっと握ってくる。


「一人で走ったらダメ。私たちも、微力ながらついているから」

「大丈夫。俺は、俺にできることをするだけだからさ」

「ハイ、お二人ともイチャラブそこまでです!! とりあえずは、ヘキサグラムのベースに案内します。ここから先は、ヘキサグラムとアメリカの合同作戦が行われますが、そのためにもミスター乙葉には協力をお願いします」

「「イチャラブじゃ(ねーし、ありません!!)」」


 キャサリンは、い、いきなり何を言い出すんだよ。

 ただ勇気を貰っただけだし、イチャラブしてないからな!!


………

……


 ヘキサグラムのベースエリアで、俺たちは現場の責任者を紹介された。

 そこから先は、忍冬師範が俺たちの代表として説明を聞き、必要に応じて補足質問を加えていく形で話し合いは続いた。

 アメリカ陸軍としては俺が主導となって結界内部に突入、妖魔を殲滅する作戦を支持しているのに対して、ヘキサグラムは俺がゲートを作り内部に対妖魔結界によるセーフティエリアを設置し、そこから救出作戦を展開するという作戦を提案。

 この二つの作戦についての擦り合わせが終わらないタイミングで、俺たちが到着したらしい。


「……日本国政府としては、今回の乙葉浩介の援助はゲートの設営及びセーフティエリアへの魔導具の提供までです。それ以上の戦闘行為への参加については、連絡を受けていませんが」

「ええ。ヘキサグラムとしてもその方向で良いかと思いますが」

「陸軍としては、ゲートの設置、セーラティエリアの設営までは異存はない。その後は、ミスター乙葉は戦ってくれないのか?」


 最後の打ち合わせでは、俺が戦闘に参加するかしないかという問題にぶつかったんだけど。

 俺としては、もう、中で思いっきり暴れたい気分なんだよ、人間に害をなす妖魔は殲滅しないと気がすまない……んだけどさ。

 少し深呼吸して、今の状態を確認する。

 一番の問題点は、この中で活性転移門が動いていること。

 それがどこまで活性化したか、転移門が開いたかどうかが勝負の鍵になる。

 

「内部画像で、転移門らしきものは確認できているのですか?」

「それでしたら、この映像を見てください」


 ヘキサグラムの書記官らしい人が、タブレットを手渡してくれる。

 またあのグロ映像かもと恐る恐る確認したら、転移門から一人の魔族が出てくる映像が映されている。

 その正面で大勢の魔族が跪いて待機しているのと、どこからともなく発生した黒い影のような狼に撮影者が襲われて映像が止まるどこまでしか映像は残っていない。

 けど、はっきりとわかることは一つ。


「この映像でわかること……まず、サンフランシスコ結界内の転移門は稼働しています」


──ザワッ

 瀬川先輩が、俺の代弁をしてくれる。

 よく見ると眼鏡に深淵の書庫アーカイブが映し出されている。


「そ、それは本当か?」

「はい。ですが、この映像の続きがないことには、転移門がまだ稼働しているのかどうかは分かりません。北海道の妖魔特区に存在した魔族型転移門とは違うタイプですので、一度開いたら永続的に開き続けるのか、それとも必要に応じて開閉可能なのかまでは分かりませんわ」

「では、この転移門から出てきた人物が何者かわかるかな?」

「さぁ? 私の解析能力は万能ではありませんので」


 そう言葉を濁すけど。

 大勢の魔族が頭を下げて待ち構える存在だろ?

 そして、これは俺の予測だけど、その大勢の魔族って黒龍会だろ?

 それなら答えは一つしかないよな。


「……」


 言葉にしない。

 でも、俺も新山さんも、先輩だって答えは出ている。

 【憤怒のマグナム】、そいつに決まっている。


「そうか。では、ミスター乙葉、あの転移門を封じることは可能か?」

「わかりません。あれに有効な術式も封印媒体も持ち合わせていません。札幌型転移門ではありませんし、ニューヨークのような活性転移門ではなく、すでに開いた転移門を閉じる術なんて知らないですよ」


 そして物理的に破壊することも不可能な物質であることは、過去の日本に出現した転移門の資料で理解しているらしい。

 だから、俺の魔術頼みということか。


「試してくれるか?」

「……考えておきます。けど、確実にできるなんて思わないでください」


 話し合いは続いた。

 俺がゲートを作っている間に、先輩がヘキサグラムベースで深淵の書庫アーカイブを展開。

 新山さんは避難してきた人や救出部隊が助け出した人たちの治療にあたる。

 一旦、用意された控室に俺たちは移動すると、速攻でカナン魔導商会の納品依頼を終えてチャージ。

 買えるだけのポーションを購入すると、その大半を新山さんに手渡した。


「私の護衛にはキャサリンさんがついてくれるそうです」

「私はベースで、忍冬さんが護衛についてくれるそうです」

「俺はマックスと二人で行動することになった。それぞれの出来ることを、無理なく……ここで無茶したら、ここに居ない祐太郎が落ち込む」

 

 作戦開始のための準備も終わり。

 俺たちは持ち場に移動する。


 俺はマックスと一緒に結界ギリギリまで移動し、予め用意してもらったゲート用のフレームを加工するために錬金魔法陣を起動する。


「魔導化スタンバイ……対象は目の前のフレーム。対妖魔結界オーブの組み込み……魔力吸収回路の接続……フィニッシュ!!」


──ブゥン!!

 魔法陣の中のフレームが銀色に輝く。

 もう幾度となく作り続けた、対妖魔結界の小型簡易版。

 あとはこの結界を中和して開き、そこにゲートフレームを嵌め込むだけ。

 それをサンフランシスコ結界に合計十二ヶ所設置し、どこからでも市民が逃げてこれるようにする。


「フレームの接続は俺が行う。乙葉は、結界の中和を頼む」


 ゲートフレームを持ち上げつつ、マックスが告げる。

 それは頼むわ、俺一人じゃあ結界を中和した状態を維持しつつゲートの接続は無理。


「それじゃあ、いくぞ!!」


──ブゥン

 魔導紳士モードに装備を換装、両手にはフィフス・エレメントも装着。

 両手で結界を開くため、今回はセフィロトの杖はなし。

 両手に魔力を集め、結界中和術式を纏わらせると、祈るように両手を合わせてから、勢いよく結界に突き刺す!!


──ドシュッ

 手首あたりまで結界に突き刺さると、そこからは魔力を放出しながらゆっくりと左右に腕を開く。

 並列思考で足元から大地の壁アースウォールを発動し、扉の形に岩を嵌め込むと、そこにマックスがフレームを重ねる。

 これで結界が扉型の岩によって固定されたので、あとは岩を向こうに吹き飛ばしてフレームを結界に固定するだけ。


「どぉりやぁぁぁぁぉぁ」


──ドッゴォォォォォォン

 右腕に魔力を込めた『ぶっ壊しマグナムパンチ』で岩を砕く。

 その瞬間にフレームが結界壁に固定され、出口ができた。


「続いて、対妖魔結界エリアの形成っっ!!」


 すぐさま結界内部に駆け込み、あらかじめ先輩が指示してくれた場所に向かって走り出すと、空間収納チェストから対妖魔結界発生装置を起動して固定。

 これを四ヶ所行なって『簡易結界エリア』を形成すると、あとはヘキサグラムのマックスの仕事。 


「ほい、あとはヘキサグラムの仕事でよろしく。魔力循環でこの装置は起動するから、この図面の場所に走っていって起動させてくれればいい」

「……本当に出鱈目すぎて笑いしか出ないな。後は任せておけ」


 これで俺は結界の外へ。

 そしてマックスが結界の中の簡易結界エリアに進むと、陸軍と海兵隊も突入開始。

 周辺の市民の救助を始めていた。


『ピッ……乙葉くん、次のポイントに行けるかしら? 魔力が足りないのなら休憩を申請するわよ』


 念話で先輩から連絡が届く。

 改めて体内の保有魔力を算出するけど、今の結界中和で八割の魔力が持っていかれている。


「いや、今日は無理……。魔力回復ポーションでも俺の魔力は回復しきれませんし、何より在庫がないです」

『ピッ……了解。ベースキャンプに帰還してください』

「ラジャー」


 作業工程的にも、結界の中和から開くところまで三十分以上は経過している。

 妖魔特区とは違い、ここの結界は濃度というか耐久性がかなり上。それだけ余剰魔力が必要になったんだよ。



………

……


──11日後

 サンフランシスコ結界にゲートを作り始めて、今日が12日目。

 その間に、結界内部ではいくつもの戦闘が繰り広げられている。

 救助した市民はすでに5万人近く、だけどサンフランシスコの人口の100分の1程度。まだまだ中心部付近まで近寄ることはできなかった。

 陸軍や海兵隊は救助活動がメインであり、対妖魔兵装など持ち合わせていない。

 彼らの警備を担当しているヘキサグラムのメンバーは対妖魔兵装ではあるのだが、こちらから仕掛けるのではなく守りに徹する形をとっている。

 

 新山さんは重症患者を中心に術的治療を続けており、疲労も限界に近い。

 そして先輩もゲート内部に監視カメラと軍事用通信施設を設置してもらい、深淵の書庫アーカイブを通じて救助可能な市民の場所を救出部隊に連絡している。


「これで最後……と。マックス!!」

「了解。ゲート設置準備完了」


 もう12個目となると手慣れたもので、マックスはすぐさま中和した隙間に固定した石壁にフレームを合わせる。

 そして最後の岩を吹き飛ばしてゲートを固定した時。


──パチパチパチパチ……。


 ゲートの向こうで、拍手する人物がいた。

 黒いスーツ姿に片眼鏡。

 黒髪オールバックの男が、俺の方を見て笑っていた。


「さすがは現代の魔術師。これほどの魔力を持つものが人間の世界にも存在するとは……」

「あんた、何者だよ?」


『ピッ……元十二魔将第一位、憤怒のマグナム』

「私か? 私は次代魔人王のマグナム・グレフベシブシュボブボォアババババババババボビハ!!」


 俺の問いかけと天啓眼てんけいがんの鑑定結果。

 その瞬間に魔導紳士から零式を起動して、魔導体術で身体能力を限界まで上げた状態でマグナムに向かって全速力で突っ込み、とにかくぶん殴った。

 もうね、百道烈士も真っ青になるレベルでの打撃のラッシュ!

 一瞬でマグナムの全身がズタボロになって、奥のビルに直撃して潰れかかって、ようやく落ちついたわ。

 

「多分、今の俺の攻撃が記録に残ったとしたら、二ページぐらいは打撃音とお前の悲鳴でカタカナだらけになる自信があるぞ?」


 そう言い切ってやった時。

 ボロ雑巾のマグナムの前に、ローブを身に纏ったミイラのような魔族が姿を現した。


「き、貴様!! 次代魔人王のマグナムさまに無礼な!! この場で貴様を呪い殺してやるわ!!」


──ブゥン

 ルーンブレスレットの指輪を嵌める部分に、新品の『レジストリンク』を装着。同時に魔力反射の指輪の術式を起動すると、俺はゆっくりと後ろに下がる。


 後方でマックスが急ぎ対妖魔結界を設置しているので、そこまで逃げ切れば俺の勝ち。

 残り魔力が一桁近いし、一気に魔力を使ってしまったので、魔力酔いも発生しかかっているんだよ。


 くっそ、祐太郎がいたら、ここで俺と入れ替わりに『ここは俺に任せろ』とか言って格好つけるんだろうなぁ……。

 あ、マジできつい……とっとと逃げるか。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


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