第二百三十九話・暴虐非道!不倶戴天まで何メートル?(作業ですよ、簡単な作業……じゃねーよ!)
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──時間と場所は戻る
成田空港。
ここから俺と瀬川先輩、新山さん、そして保護者として同伴することに(流れ的に決められた)忍冬師範の四人は、アメリカへと向かいます。
その目的は、サンフランシスコ・ターミナルの出現により閉鎖空間となってしまったサンフランシスコにゲートを作り出し、中に囚われている市民たちを救出すること……っていうか、救出その他はアメリカのヘキサグラムに任せる。
俺は用意されている資材を使って、札幌市妖魔特区の十三丁目ゲートと同じものを作るだけだからね。
「それで、なんで空港に燐訪議員がいるのですか?」
「当然、貴方を止めるために決まっているじゃない。アメリカのサンフランシスコ・ターミナルについては、日本政府とアメリカとの外交レベルでの折り合いはまだついていないのよ? 勝手に解決されたら困るのよ」
「……それは表向きの話ですね。正直に話したらよろしいのではないですか?」
忍冬師範が前に出て、燐訪と正面から睨み合っている。
視線がぶつかって火花が散っているように見えるぞ。
「そうね。表向きの話では外交レベルになったことにしてありますが、正式な話では、乙葉浩介たち魔術師を国外に出さない事。有事の際の守り手が足りなくなり、国内において魔族の暴動が発生した場合の抑止力がないと困るのよ」
「すでに天羽総理からの許可も貰っています。燐訪議員が強行できることではないですよね?」
「ええ。だから、ここまでお願いに来たのよ。話し合いであなたたちをどうこうできるとは思っていないけれど、陣内も魔獣を封じられて結界の中に収監されていますからね」
はぁ、とため息をつく燐訪。
以前見た時よりもツヤツヤしていて、皮膚にもハリがあって……って待て待て、普通は疲れ切ったのなら疲弊感丸出しで、目の下にクマを作ってくれないと困るわ。
なんで以前よりも元気なんだよ、このおばさんは。
『ピッ……目の前の燐訪は燐訪ではありません。魔神リィンフォース、魔族同位体です。十二魔将第五位、色欲のルクリラと燐訪の魂の半分が融合しています』
ないわ〜。
それってよくわからないんだけど、天啓眼でも詳細鑑定は不可能なようで、魔神リィンフォースについての鑑定についてはアンノウンとしか出ない。
ちょいと瀬川先輩の方をチラリと見ると、俺と同じように眼鏡型に具現化した深淵の書庫で確認できたのだろう。
少しだけ顔色が悪い。
「……まあ、俺たちのやることは、魔術による人道支援のようなものと思ってください」
「では、失礼します」
「それでは」
それだけを告げて、俺たちはゲートを越えて待合室へと向かう。
燐訪議員だった人があっさりと引いたのは驚きだけど、絶対に何か裏があるよな。
そして、俺たちが鑑定能力を持っていることぐらいは知っているはずだから、今頃は何か企んでいるんたろうなぁ。
………
……
…
乙葉浩介の説得に失敗した燐訪……魔神リィンフォースは、待機していた車に乗ると、議員会館へと戻るように指示を行なう。
「燐訪さまの仰る通りでした。乙葉浩介をうまく日本国から出すことには成功したので、作戦は次の段階へと移行するのですか?」
助手席に座っている女性秘書が、後ろに座って窓の外を眺めている燐訪に問いかける。
「そう、ね。邪魔者は合理的に日本から出て行ったから……これで、ファザー・ダークさまの封印を解くための計画が進むわ。サンフランシスコはマグナムの配下が勝手なことをしているようだけど、あれはあれで使い勝手がいいからね……」
そう。
ここまでの計画がうまく進んだのは、この燐訪の体と知識を得てから。
燐訪は自我が強すぎてダメだったのよ。
フェルナンド騎士団の時の交渉、そして今回。
押すところと引くところをうまく使えば、人間の思考ぐらいは陣内の力がなくてもどうとでもなるわ。
まあ、結果として乙葉浩介たちは、日本を離れた。
これは好都合なのよ。
彼には日本に居てもらわない方が、私の計画の邪魔にはならないからね。
万が一にも私が失敗したとしても、議員会館の私の部屋、そこの位相空間には回収した燐訪のオリジナルが眠らせてあるから、彼女に全てをなすりつければいいだけ。
日本とかいう国の政策で、私が活躍して燐訪の株が上がるのは釈然としないけれど、隠れ蓑をしっかりと使いこなさないといつかバレるからね。
「ファザー・ダーク様の封印。それを解除するためには、王印が必要となりますが」
「ええ。それを回収するためにも、マグナムには道化になって貰わないとならないからね。王印は全てを見抜くから、私が十二魔将のルクリラではなく魔神リィンフォースだということも見抜かれるわ」
そうなると、王印は私から姿を隠すだろう。
歴代魔皇の仕事である、封印大陸の監視。
そのために魔皇たちは魔力を削っていたそうよ。
私もファザー・ダークの眷属になって、初めて知った事実が多すぎるわ。
「では、サンフランシスコへ向かわなくてはならないのでは?」
「ファザー曰く、あっちでマグナムを操っているのはデュラハンのブルーナ。彼が不死王を経由してマグナムをうまくコントロールするそうよ」
あの忌まわしい結界のおかげで、向こうの様子がわからなくなったのは気に入らないけどね。
でも、そのおかげで乙葉浩介が日本を離れたのだから、結果オーライ。
「なるほど。では、我々はこれからどうするので?」
「活性魔法陣を一つでも多く覚醒させる。でも、気をつけないと自我を持って魔獣化してしまうから大変なのよねぇ」
「魔神となったルクリラさまなら、たかが魔獣如きに遅れをとるとは思えませんが」
「無理ね。そもそも活性転移門の強さは、こちらの世界に顕現している仮初の肉体を持ったファザー・ダークと同等の力。神魔族に等しい力を持っているらしいわよ……まあ、そんなものにならないように、しっかりとコントロールしないとならないのですけどね」
そのコントロールのお陰で、日本国内全ての活性転移門を同時に覚醒させることはできない。
一つずつゆっくりと覚醒させて、門を開いていかなくてはならない。
万が一にも活性転移門が暴走覚醒し、自我を持って動き始めたとしたら。
人間、魔族、全ての生物の魔力、精気を求めて動き出し、貪り食う。
そうなると、制御するのは私でも無理。
計画遂行の邪魔となるので速やかに処分しないとならなくなるけど、その時点で私でも対処不可能。
だから、そうなる前に活性転移門を管理しなくてはならない。
やがて永田町が近づいてくる。
報告では、この場所にも乙葉浩介が来たらしいけれど、何もできずに立ち去ったらしい。
そりゃそうよ、活性転移門は発芽した時点で対処不可能。
それをどうやってコントロールできるように育てるかが勝負なのですからね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──アメリカ・カリフォルニア州
成田空港を出て、やってきましたサンディエゴ国際空港。
確か数日前まではニューヨークに居たような……いたんだけどなぁ。
流石にファストクラスは予約できなかったけど、Jクラスシートっていうとこでゆったり満喫……できなかったよ。
黙々とゲート固定用の魔導具と、妖魔特区の十二丁目エリアを作るために用意した対妖魔結界用魔導具のコアを、のんびりと作成していた。
流石に機内に量産化の魔法陣を広げるわけにはいかないし、そもそも場所がない。
だから、コアだけを先に作ってしまって、あとから量産化を発動する時の時間短縮に努めていた。
そんなこんなでサンフランシスコ国際空港に到着した時には、必要な対妖魔結界のコアは全て完成。
「……」
「いや、出迎えなら声ぐらいかけてもいいんじゃね?」
空港ロビーで俺たちを出迎えてくれたのは、ヘキサグラムの魔導セクション所属のマックスとキャサリンの二人でした。
ちなみにキャサリンはどこかに連絡していたらしく俺たちに気づいていないし、マックスは金髪ショートカットグラサン鉄面皮で『感慨、乙葉浩介‼︎』ってプレートを持ってる。
感慨ってなんだよ!!
「はい。出迎えてくれたのがマックスたちとは予想していなかったよ」
「ご無沙汰しています、あれからお身体は大丈夫ですか?」
俺が話しかけても頷くだけなのに、新山さんが問いかけるといきなり跪くのはどういうこと?
すぐさまキャサリンも走ってきてマックスの横に跪くのにも驚きだけど。
「聖女コハル。お会いできて光栄です」
「聖女さまにはご機嫌麗しく」
「や、やめてください立ってください!! 私は……はぁ」
新山さんが両手を前に出してブンブン振りながら止めるので、二人も素直に立ち上がる。
「はーい、ミスター乙葉。私たちはカリフォルニア魔導セクションの代表として、皆さんを迎えにきました」
「まあ、メンバーは俺たち以外は機械化兵士からの出向メンバーと事務官たちだけだがな」
そのまま二人は忍冬師範、瀬川先輩とも握手して挨拶を交わすと、早速サンフランシスコ結界の近くまで移動することになった。
「日本では情報が入ってこないのだが、内部はどうなっているのですか?」
そう忍冬師範が問いかけると、助手席のキャサリンが表情を曇らせる。
「サンフランシスコ結界の内部については、国防省が報道規制を発動している。日本の妖魔特区とは違い、ここに現れた妖魔は好戦的で残虐。それだけの話だ」
「日本では、あの光景は放送できません。私たちヘキサグラムは対妖魔機関なので、情報を共有していますが……」
そう説明してから、キャサリンが忍冬師範にタブレットを手渡す。
そこに映っている光景を見て、忍冬師範の表情が明らかに変化した。
憤怒、その一言だけで説明がつく顔つきに変わると、俺たちを見てから、俺にタブレットを手渡す。
「二人には見せるな。意味は分かるだろう?」
その言葉で、大体の様子は理解できた。
素直に頷いてからタブレットを受け取り、画面を見て。
俺は吐き出す。
あらかじめ用意してあった袋に口を当てて、内臓が空になる勢いで吐き出した。
涙も流れるぐらい、心臓を鷲掴みにされた感覚だ。
映画では見たことある、漫画でも見た。
地獄絵図どころの話じゃない。
おそらく、妖魔特区の封印が間に合わなかったり、俺が百道烈士に負けていたなら、このような光景が広がっていたのであろう。
「精神治癒……大丈夫?」
「ああ……どうにか……って、こんな事が起こるなんて、わかっていたら」
俺は日本に戻るべきじゃなかったのかも。
もしもニューヨークからサンフランシスコにすぐに向かっていたら、ここまでのことは起きなかったのかも……。
拳を強く、血が滲むぐらい握っている。
「自分を責めるな。これは結果だ、自分の判断が間違っていたとか考えるな」
勤めて冷静に、忍冬師範が俺に告げるけど。
「でも、この結果を招いた原因は」
「原因は魔族だ。そこを履き違えるな!!」
「俺の対応が、判断が」
「だから、落ち着け……お前が日本に戻ってきたから、日本ではこんなことは起こらなかった。そうなる前に対応できていた。国会議事堂を中心に、サンフランシスコのような事態が起きていたかもしれないんだぞ……だから、仮定で考えるな」
たられば、ではない。
起こったことに対処しろ。
そう忍冬師範は告げながら、タブレットを回収する。
そして、俺と忍冬師範のやりとりで、新山さんたちも内部で何が起こったのか想像できたらしい。
その後の車内は沈黙していた。
ただ、俺の複雑な気持ちを乗せて、サンフランシスコを車は走り続けていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
サンフランシスコの状態については、異星人の襲撃を受けたハリウッド映画や菊地秀行先生、夢枕獏先生、前田俊夫先生の漫画・アニメのような惨状と思ってください。
モロに表現するとR18に突入しますのでご勘弁を。




