第二十四話・風が吹けば一触即発(敵かな? 味方かな?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
まだリアルの世界はコミケ前ですが、それはご愛敬ということで。
朝。
それはもう、しっかりと眠りましたともさ。
夜中に一度空腹で目が覚めて近所のコンビニまで行って、隣の部屋にいる祐太郎の分まで菓子を買ってきて冷蔵庫にぶち込んで空腹を満たしてもう一度寝て、そして起きて今ですよ。
宿泊している部屋は最上階にあるプレミアムクラブフロア。
2LDなので個室は俺と祐太郎が一部屋ずつ使い、リビングは共用なので備え付けの大型モニターにゲームを繋げたりして遊んでいる。
一泊が一人98000円、ここを10日間貸し切り状態。
ざっと計算しても100万は掛かっているのだけど、すべて予約からなにから祐太郎の父ちゃんが手配してくれた。
まあ支払いは各自なのだけれど、俺たちみたいな学生が適当に予約して取れるはずがないので感謝感激雨あられである。
支払いについても先に精算を済ませてあるし、あとから掛かった追加料金の精算がチェックアウトの時にあるぐらいなので、もう気分は王侯貴族。
「‥‥‥しっかし、ずいぶんと散らかしたよなぁ。それで成果は出たんだろ?」
「まあね‥‥‥と、ユータロ、ちょいとお前の魔導具全部出してくれないか?」
「ああ、何かあったのか?」
「魔法の練習も兼ねてね、魂登録っていうのをやってみるから」
すぐさま魔法陣を発動し、祐太郎の所持していた魔導具すべてと、昨日購入した魔法の箒、祐太郎に頼まれて購入した収納バッグをぶちこんで、祐太郎にも魔法陣の中に入ってもらってから発動。
「魂登録‥‥‥対象者は、我が友人、築地祐太郎。かの魂を持つ者が、これらの登録者となる‥‥‥」
――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
すると魔法陣が輝き、そして光が消えていく。
「ふう‥‥‥これで完成なのか?」
「そゆこと。これで、この前買った収納バッグとこの魔法の箒の所有者はユータロになったから、魂に保管庫が追加されたので、いつでも実体化したり隠したりできるし、盗まれても念じるだけで取り返せるから安心だよ」
「へぇ‥‥‥そりゃあ便利だな、ありがとうな。それとこれ、昨日オトヤンが寝ている最中に、こいつの買い取りを査定してもらってきたぞ。まあ、正直言ってシャレにならない物であることは理解できた。あとは錬成するときのイメージで、ティファニーカットにするともっと高く売れる」
ポケットから昨日の買い取り査定の用紙を取り出してオトヤンに手渡す。それを受け取ってオトヤンは軽く読み込んで、声にならない声を上げていた。
「ふぉぉぉぉぉぉぉ、あんなんでもこんなに高く売れるのか」
「0.2カラットのやつで、カットはGood、カラーがD、クラリティがF。ぶっちゃけると、カラーとクラリティは存在してはいけないレベルで最高品質だよ。カットが甘いのは致し方ないけれどね」
「そんなの、基本的な知識がないから判らないよ。インターネットの写真見て作っただけなんだから」
確かに、イメージしたほうが完成度が高いのは、昨日何十回と失敗して理解している。
最初はずっと鉛筆の分解と炭素の抽出だけを繰り返して錬金術のレベルを上げまくっていたからこそ、ダイヤだって成功したようなものだし。
空間収納には、まだ10カラットのダイヤとかもゴロゴロとしている。まあ、こっちはまん丸だったり長方形だったりしているので価値はないだろうと思ってしまっているだけだし、実際にブリリアントカットとかいうのも写真を見てイメージして作っていただけだからなぁ。
「でも、驚いたのは、これが天然と同じ扱いだっていうところだよ。オトヤンの錬金術の精度はかなり高いと思っていい」
「あー、それで昨日の買い取りが30億だったのか」
「ぶっ!! 今何っていった?」
「買い取りが30億。大きさは、だいたいこれぐらい、確か200カラットだったはず。それを作るまでにかなり金がかかってさぁ、最後には文房具屋さんの鉛筆全部買い占めたからね」
「はぁ‥‥‥それで成功したのは、テーブルの上に置いてあった奴だけか?」
「まっさか。あれはユータロに鑑定してもらってきてもらおうかなって思ってさ。出しっぱなしになっていただけだよ、ほら」
――ゴロゴロゴロゴロ
空間収納から取り出した大量のダイヤの山。
まあ、形がいびつだったりしているのもかなりあるけれど、これはあとで錬金術の『変形』を使って練習しようとしていたやつだから気にならない。
それよりも祐太郎の、顎が外れそうなぐらい口をあんぐりと上げている顔には笑いがこみあげてしまう。
「‥‥これはあれだ、世界中のダイヤモンドの価値が下がる可能性もあるから、あまり外には出さない方がいいな‥‥って、何をしている?」
――ヒュゥゥゥゥッ
「魔力値も回復していたので、さっそく大粒のダイヤを手に取って『変形』の練習さ。ほら、これなんていい感じだろ? 」
俺が作ったのは、ダイヤモンドを変形させて作ったリング。
ダイヤモンドの嵌っている指輪ではなく、ダイヤモンドで作った指輪。
うん、中二病をそそる、じつにいいデザインである。
そして祐太郎が頭に手を当ててうなっている。何か俺、おかしいことをしたのか?
「‥‥錬金術って、今の時代にあったらまずい存在なのはよく理解したよ。魂登録といい錬金術といい、オトヤンは規格外だわ」
「まあ、それほどでも‥‥と、そうだ、その箒はユータロにあげるから、今度ツーリング行こうぜ」
「魔法の箒でツーリングかぁ。コミケ二日目にはコスプレしてこれで浮かんでみせるか。手品ですって話したら、みんな納得するだろうさ」
「確かに。それじゃあ、コスプレ用衣装も作りますか‥‥と、思い出した!!」
ここにきて大切なことを思い出した。
カナン魔導商会のレベルが上がったので、提携店のコマンドも使えるようになったこと。
ただし、選択できるのは『サイドチェスト鍛冶』『冒険者ギルド』『商業ギルド』のうちのどれか一つなので、ここは慎重に選びたい。
‥‥‥
‥‥
‥
そのままカナン魔導商会のスキルについて鑑定して、提携店の仕組みについて確認してみた。
「サイドチェスト鍛冶の場合は武器防具の購入と買取り、メンテナンスのほかに鍛冶に必要な資材も買うことが出来ると」
「そ。そして冒険者ギルドの場合は、依頼を出すことが出来るし依頼を受けることもできる。ついでにいうなら、商業ギルドは店舗や露店の営業が可能になるのと、冒険者ギルドを通じてモンスターのドロップ品や解体した素材の買い取りもできる」
「だが、冒険者ギルドに素材の回収依頼をしたら、それはクリアできるのか。これは難しいところだな。どれも一長一短で、オトヤンが何をしたいかにかかってくるよな」
そうなのである。
ぶっちゃけると、俺が魔法を極めるとすると、どれでも構わない。
錬金術を極めるなら素材がいるので商業ギルドからの買い付けか、冒険者に採取依頼なのでどちらか。
もしも、俺たちの世界で魔導具を販売する仕事を始めるとすると、やはり商業ギルドか冒険者ギルドのどちらか。
あれ? 鍛冶工房の意味はどこに?
「なあユータロ、鍛冶工房の意味はないんじゃね?」
「いや、妖魔の存在があるから必要。俺たちは魔法が使えるから対応できるが、もしもそれ以外の身内とかが巻き込まれたりしたら、自衛のために武器や防具は必要だ」
成る程。
大局を見るとそうなるのか。
試しにカナン魔導商会で販売している武器や防具とサイドチェスト鍛冶工房で販売している商品を比較してみるが、全くお話にならない。
カナン魔導商会で販売している武具は全てAランクという高級品なのだが、サイドチェスト鍛冶工房のものは最低品質がA。さらに『伝承級』と呼ばれるSランク、そして『神話級』と呼ばれるSSランクの最高品質のものまで販売している。
「……やべぇ、答えが出ない」
「まあ、そうなるよな。だったら保留でいいと思うが。今すぐ必要かどうかわからないものを選ぶよりも、必要に迫ったものを扱っているところを選ぶ方がいい」
「同感。だったらこれは保留だ」
ポチッと画面を切り替える。
「さて、ホテルにこもって三日だし、そろそろ外に遊びに行きますか?」
「俺は外に出かけたり修行つけてもらってきたからなぁ。オトヤンも買い物ぐらいは出かけたんだろ?」
「近所だけならな。そろそろアニメショップにも行きたいけどさぁ……きっと、この前流したやつが俺たちを探しているぜ?」
そんな予感はする。
でも、そもそも俺たちでは妖魔なんて探せない。
迂闊に見つかって、またこの前みたいに結界に閉じ込められたりしたら、今度はタダじゃ済まないかもしれない。
そんな恐怖感もあるので、秋葉原には近寄りたくないというのが本音である。
「じゃあ、別のところに行って遊ぶとするか?」
「あ、そんなところあるのか?」
「オタグッズに拘らなければ、東京はどこでも遊べるさ。じゃあ行こうぜ」
祐太郎に誘われるがままに、俺はホテルから出た。
いったいどこに向かうことやら。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「それで、ここかぁ」
目の前には綺麗な門。
横浜中華街の入り口の一つ、石川町駅前。
駅を出てすぐに見える巨大な門に向かって走り出すと、当然門の前で記念撮影。
ホテルに戻る時間いっぱいまで観光を楽しみ、山下公園横にある、スパゲティーナポリタン発祥の店のあるホテルでちょっと早めの夕食。
金に糸目をつけない行動をしているとまた変な輩に絡まれそうなので、そこそこ自重してからホテルに戻る予定だった。
そう、だったなのである。
「……なあオトヤン、俺たち、またつけられている気がしないか?」
「あ、ユータロもそう思うなら、俺の気の迷いではないか。実はさ、中華街きてからずっと、そんな感じはしていたんだよ」
最初は学生が二人、昼間から観光していて珍しいと思われたか、祐太郎の顔目当てで振り返っている女の子たちの視線かなと思っていたんだけど、どうも違うような気がする。
だってさ、祐太郎目当てなら俺が気付くはずないと思うから。悔しいけど、これ、事実なのよね。
「ユータロ、感知系魔法ある?」
「ない。ファーストにもセカンドにもない。オトヤンは?」
「第三聖典は補助系魔法ばかりなんだよ、感知系とかは無いわ」
「そんな時は?」
「魔導商会だよなぁ」
人に聞こえない小声で話をしつつ、中華街で肉饅を購入して食べ歩きながら、調べてみる。
『ピッ……本日のお勧めは、シー・インビジブルレンズです。こちらは目に見えない対象を見ることができる優れもので、透明な幽霊や魔法により姿を消したものを確認することもできます。
単体では使えませんが、サーチゴーグルと融合することにより、使用することができます。350万クルーラ』
あ、いいものがあった。
しかもこれって、妖魔見えるんじゃね?
まずこれを二つ購入し、ついでにTSレンズとサーチライトも購入履歴から追加購入。
そのままトイレに向かうと、早速ユータロ用のサーチゴーグルを作ると、そこにシー・インビジブルレンズも融合する。
「よし、あとはさっき見たこれだな」
『ピッ……アクティブセンサー。こちらは様々な条件を指定して発動すると、有効範囲内にある条件を満たしたものを特定することができます。
魔法による敵性感知のような使い方も可能ですが、範囲が半減しますのでご注意ください。580万クルーラ』
これも二つ購入すると、サーチゴーグルと融合する。
するとサーチ、透視、シー・インビジブルの三つの能力がアクティブセンサーに統合され、名前も『センサーゴーグル』に変化した。
デザインもややSFチックになったので、これはこれでよし。
そして一つは祐太郎と魂登録で繋ぐ。
「よお、遅かったな、カッカしてたのか?」
「サイファなんか誰がわかるか?」
「オトヤン分かっているじゃん。それじゃあ行動開始と行きますか?」
二人同時にサーチゴーグルを装備する。
『ピッ、モードを選択してください』
俺たちを監視している誰か?
この指定だとあやふやすぎるし、試したけど無理だった。
「俺たちを尾行している対象…も無理か。妖魔は?』
『ピッ……対象を妖魔に指定しました』
よし、行けた。
これで妖魔なら有視界内に入ったら分かる。
ついでに尾行しているらしい奴はなんとかならないものか。
因みに祐太郎のゴーグルはステータス画面での装備設定ができないためモロに見えていたのだが、どうやらゴーグル自体に透明化の能力があったらしくすぐにスッと消えた。
実に惜しい。
まあ悔しい気持ちは置いておくとして、俺はとりあえず振り向いて、視界内全員を鑑定してみる。
「んー、サラリーマンとかOLサンダー、ちゃうOLさんとか、学生とか主婦とか。おお、勤務先までわかるのは凄いわ、これって探偵できないか?」
「それもあり。立ち止まって肉饅を食べている美少年二人組ということで、周りを確認してみるか?」
「美少年かどうかは置いとくとしたらそれで行くか……」
そのままお登りさんのように周りを見渡し、通りすがる人とかを手分けして鑑定してみる。
すると、ふと不思議な鑑定結果を確認した。
……
…
名前:井川綾子
年齢:24歳
性別:女性
種族:人間
職業:警視庁公安部・特殊捜査課巡査長/呪符師
……
…
「……ユータロ、右の前、ビルの一階、喫茶店外の席の美人さん見て」
「……あ、良いオッパイだな。あれは砲弾型」
「誰がオッパイを見ろと、いや、鑑定で見ろよ、俺はおっぱいを見るから」
「……警視庁公安部ってなんで? それよりも呪符師? この前話していた綾女さんとかいう妖魔の話していたってやつか?」
「そうみたいだね。少し動いてみて、付いてくるか、確認するか。あのオネェさんにマーカーをセット」
『ピッ……マーカー1を井川綾子に設置しました。今から二十四時間、追跡が可能です』
色々と組み込んだサーチゴーグルの能力が、どんどんと使い勝手が良くなっているのは気のせいではないよなぁ。
そのまま俺と祐太郎は、のんびりと散歩を愉しむ振りをしつつ井川綾子が尾行しているのか確認することにした。
……………
●現在の乙葉の所有魔導具
センサーゴーグル(TS/鑑定/アクティブセンサー)
SBリング(ブースト、透明化)
レジストリング(耐熱、耐打撃、耐斬撃)
魔法の箒
中回復ポーション×2
軽回復ポーション×5
病気治癒ポーション×1
身代わりの護符
・カナン魔導商会残チャージ
13億2550万クルーラ
●築地所有の魔導具と魔術の卵
センサーゴーグル(TS/鑑定/アクティブセンサー)
魔術の卵(左手ブレスレット)
レジストリング(耐熱、耐打撃、耐斬撃)
収納バッグ
魔法の箒
大回復ポーション ×5
中回復ポーション ×25
軽回復ポーション ×5
病気治癒ポーション×5
魔導書(契約済み)
注)サーチ、シー・インビジブル、透視効果は、アクティブセンサーと同化。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
CIPHER / 成田美名子 著
OLサンダー / 電光石火・轟