第二百三十六話・三思後行?? そうや問屋がおろさない(気さくなスケルトン)
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時間は少し遡る。
──バミューダ諸島・バミューダ国際空港外
乙葉浩介たちと分かれ、自身の魔障中毒を回復できる相手、冥王と会うために、築地祐太郎、白桃姫、有馬沙那、唐澤リナの四人は、アメリカを後にしてイギリス領バミューダ諸島へとやってきた。
ここからは有馬祈念の開発した『魔導ホバークラフト』により、バミューダトライアングルへと向かう。
祐太郎の魔障中毒を回復できるのは、元十二魔将第九位、冥王のプラティ・パラティのみ。
その情報を頼りに、バミューダ諸島の地を踏んだのは良かったのだが。
「……暑い。洒落にならないぐらい暑い」
「リナちゃん、ぎばっぷです!!」
「まあ、ギブアップしたくなります。白桃姫さんは、暑さは平気なのですか?」
沙那が何もない空間に問いかけると、周囲に霧が発生し、それが集まって人の形を形成。
やがてそれが白桃姫の姿を取ると、肩をゴキゴキッと鳴らしながら一言。
「この体じゃと、少し暑いのう。して、ここが話に聞いたバミューダとやらなのか?」
「ああ。ここから先は、港からホバークラフトで沖に出る……」
「築地先輩!!無事到着したから、先輩たちに連絡します!!」
すぐさまリナちゃんがスマホで連絡を取ろうとするが、電波が届かない。
「あ、リナちゃん、衛星電話の契約をしていないと無理よ。念話で話をしないと……あら?」
沙那がりなに変わって連絡を取ろうとするが、その念話すら繋がらない。
これは何故だろうかと祐太郎の方を向いたとき、白桃姫も異変に気がついた。
「築地や、この辺りは念話が使えぬぞ……いや、正確には、スマホとやらも使えぬようじゃな」
「なんだって? マジか。いったいどういうことだ?」
すぐさま身構えて周囲を見渡すが、先ほどまで居たはずの観光客や現地の人たちの車が消えている。
正確には、自分たち四人以外の人影が、一切消えていた。
「次元結界か? いや、それなら壁や空が虹色に輝いているはずだが……」
「ふむ。どうやらここは、冥王の支配領域のようじゃな。冥王の能力の一つ、選ばれたもののみが入ることを許された、冥王の支配する世界じゃよ」
「支配領域? それってつまり、バミューダトライアングルではなく、このバミューダ諸島もすでに冥王の支配下にあるっていうことか?」
慌てて周りを見渡す。
闘気感知能力で周囲煮魔族の反応がないかを調べてみるが、今のところ祐太郎の感知範囲内には魔族の気配は存在しない。
同じようにリナちゃんも沙那も自分たちの使える感知能力で調べてみるが、何も感じ取ることができなかった。
「そのようじゃな。ほれ、段々と霧が濃くなり始めているじゃろ? これはあやつの支配する『霧の王国』が姿を表す予兆じゃよ」
たしかに、周囲に霧が発生し始めると同時に、祐太郎とリナちゃんは倦怠感を感じ始めている。
まるで、自身の生気が吸い出されているような、そんな感覚を感じ始めていた。
そして霧が濃くなり、視界が悪くなってくると、遠くから何かが転がっているような音が聞こえてきた。
──ガラガラガラガラ
ゆっくりと近寄る存在。
白桃姫以外の三人が音のする方角に目を凝らしたとき。
ヌワッと突然、馬車が姿を表した。
四頭建て馬車が一台。
ただし、馬車を引いている馬は骸骨であり、御者台に座っているのも、綺麗な身なりのスケルトンである。
そして馬車の進路を塞がないように立ち位置を変えると、馬車は祐太郎たちの真横で静かに停止した。
──スチャッ
場所から降りた御者は、白桃姫を見て丁寧に頭を下げる。
「プラティ・パラティさまのご命令により、お迎えに参りました」
「うむ。あやつはどこにいるのじゃ?」
「王都。そう答えるようにと仰せつかっております」
「よかろう」
御者の返事にに軽く頷いてから、白桃姫は祐太郎たちをチラリと見て。
「このものたちは、妾の友達じゃ。一緒に連れて行ってかまわぬか?」
「はい。皆様もお連れするようにと仰せつかっておりますので」
頭を下げた御者は、すぐさま馬車の扉を開く。
「ここから王都までは、結構な道を進まなくてはなりませんので」
「結構な道、ねぇ。大体何日ぐらいなんだ?」
「三日ほどで、到着しますれば。では、出発します」
──ガラガラ
全員を乗せた馬車が、ゆっくりと走り始める。
街道を進み港に出て、そこから海上を沖に向かって走り続ける。
もしもここにオトヤンがいて、事情を全て聞いたとしたら。
すぐさま魔法の箒で移動を開始していただろう。
ただし霧の都の場所がわからないので、ゴールすることはできない。
そのため、御者に案内してもらうのが一番近道なんだろうと、祐太郎は半ば諦め顔で馬車に乗っていた。
そしてそれは沙那やリナちゃんも同じ。
「帰りは、乙葉先輩たちよりもかなり遅くなりそうですね」
「そうだなぁ。それならそれで連絡したいんだけどなぁ」
スマホも念話も、すでに届かない。
こうなると開き直った方が勝ちと自分自身に言い聞かせつつ、祐太郎たちは馬車でのんびりとした時間を過ごすことにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──三日後
馬車の前方に、直径10mほどの黒い球体が見え始めた。
そこに向かって馬車か進むと、何も躊躇することなく黒い球体に飛び込んでいった。
──ブゥン
球体の向こうは、綺麗な都。
霧が立ち込めていること、またゆく人がスケルトンであることを除けば、ここはまさに霧の都ロンドンのような雰囲気を醸し出している。
「なあ白桃姫。冥王って、どんなやつだ?」
「まあ、そうじゃなあ……少しずれた思考を持つ真面目な社畜。こう説明したら、理解できるかや?」
「タチが悪いわ。常識はあるのか?」
「魔族としての常識はあるが、こっちの世界の常識など知らないと思うぞよ」
「そうか……」
そう白桃姫と祐太郎が話し合っている前では、リナちゃんと遮那が窓の外を見て興奮している。
海藻の林、そこに見え隠れしている戦闘機や船の残骸。
ミリオタならばすぐさま馬車を止めて、駆け寄っていくレベルの貴重な戦闘機まで、あちこちに見え隠れしていた。
「ほら、リナちゃん、あれは第二次世界大戦時にアメリカが保有していたTBMアベンジャー雷撃機ですよ。しかも、無傷で五機も並んでいるなんて……あっちは、ええっと…… PBMマリナー飛行艇ですね。一機だけ、しかも陸に駐機しているなんて」
一つ一つの戦闘機を説明する沙那。
その話を興味津々に聞いているリナちゃんが、次に指さしたのは丘の上の船。
「沙那ちゃん、あの船は?」
「ええっと……船体に記されている名前は……【來福丸】って書いてありますね。これは私の知らない船ですし、その向こうにも凄い量の船が泊まっていますね」
沙那とリナの二人が見たのは、かつてバミューダ・トライアングルで消息を立った戦闘機や船である。
それらは帰ることなく、海の藻屑と消えたと信じられていたのだが、まさかバミューダトライアングルの中の、冥王の支配地域に存在しているなど誰も予想していなかったであろう。
「おいおい、來福丸まだあるのかよ。それじゃあエレン・オースティン号やメアリー・セレスト号も存在するのか?」
「築地先輩、その二つは乗組員たちだけが消息不明になっただけです。船はしっかりと戻っていますよ」
「そ、そうか……」
シャナに突っ込まれて少し動揺するものの、すぐさま頭の中を切り替え、白桃姫の方を見る。
「ん? なにかあったのかえ?」
「いや、今から冥王とやらに会うのに、緊張もしていないんだなぁと思っただけだ」
「あやつと会うだけなのに、緊張などするはずがなかろう。寧ろ、あやつが緊張しておると思うぞ」
カンラカンラと笑う白桃姫に、祐太郎も緊張の糸が解けていく。
そして馬車は、巨大な王城の中に入っていくと、四人は馬車から下ろされて、王座の間へと案内された。
「おお、やはり白桃姫ではないか。久しぶりだな、実に500年ぶりではないのか?」
王座に座っていた、黄金に輝くスケルトンが、カラカラと笑いながら白桃姫に駆け寄っていく。
「そうじゃなぁ。第三次大侵攻以来じゃからなぁ。元気そうで何よりじゃ」
「うむうむ。まあ、立ち話もなんだから、ここに座るがいい。誰か、ティータイムの準備を!!」
王座から離れた場所、ベランダの外に置かれていたテーブルに全員が移ると、つぎはぎだらけの美女がティーセットを持ってくる。
「さて、そこのものたちは初めましてだな。吾輩、元十二魔将第九位、冥王のプラティ・パラティという」
「俺は築地祐太郎だ。お会いできて光栄です」
頭を下げて挨拶をし、がっちりと握手を交わす祐太郎と冥王。
そして沙那やリナちゃんも挨拶をすると、冥王は二人を見てウンウンと頷いている。
「沙那はあれだな、ファウストの作りしオートマタだな。その内部の魔導核は、我が調整してメフィストに持たせたものだ。1200年は生きていたらしいベヒモスの魔導核じゃから、調整には手間取ったからな……そして山猫族の娘か。ソナタの先祖は、一時は我が軍勢に所属していたからな。うん、実に久しぶりだ」
笑いながらティーポットから紅茶を注ぐ冥王。
「これはバミューダの街で買ってきた紅茶でな。そこそこに値の張るものだったが。こっちの菓子も、我が軍勢が買い物に出かけて買ってきてくれた」
「……あ、あの、話の途中で申し訳ないのですが」
いつまでも話し合いに辿りつかないので、祐太郎は小さく手をあげて、冥王に話しかける。
そのタイミングで祐太郎の前にも紅茶とケーキが並べられたので、まずは軽く一口飲んでから、話を再開することにした。
………
……
…
「俺の魔障中毒を治す方法を教えてほしい」
少しだけティータイムを楽しんでから、祐太郎は冥王に本題を切り出す。
すると、冥王は『わかっているぞ』という表情で祐太郎を見てから、一言。
「私の暗黒魔術なら、君の魔障中毒を治すことはできる。だが、かなり浸透しているので、数回に分けて術式を施さなばならない。また、一度や二度で終わらせてはダメだ、直すならしっかりと時間をかけなくてはならない」
「だそうじゃ、祐太郎や、良かったのう」
白桃姫も嬉しそうに話してくれるので、取り敢えずはこの件は一段落しそうだと、祐太郎は思ったのだが。
「それで、治療の代価は?」
「か、金ならいくらでも払う。魔力玉で良ければ、俺が作れる限り作り出す。それでも足りないか?」
テーブルに前のめりになりそうな勢いで話している祐太郎だが、冥王は腕を組んで考え込む。
「ふぅむ。金については興味はない。我が支配領域には、金銀財宝を積み込んだ船も大量にあったからなぁ。そして魔力玉とやらにも興味はない……」
「なら、何か望むものはありますか!!」
そう祐太郎が問いかけると、冥王は口角を釣り上げてニイッと笑った。
「貴様の、時間が欲しい……」
この言葉が何を意味するのか。
それを知ったとき、祐太郎は呆然とするしかなかった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




