第二百三十一話・虎視眈々、箸にも棒にも掛けたいです!!(予想外って、こういうことを言うんだよなぁ)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
永田町・国会議事堂に発生した活性転移門については、今はまだ保留!!
そもそも、空間断絶結界陣で封じられないレベルまで活性化している雰囲気があるんだわ。
そういうことなので、急ぎ札幌の妖魔特区に向かって内部を確認しないといけない。
いくら水晶柱に残っていた残存魔素があったとはいえ、普通に魔素の低い場所でここまで活性化しているのなら、閉鎖空間+魔素充填空間である妖魔特区ならどうなっているのか分かったものじゃないわ!
「俺たちは札幌に戻ります!! このまま警備を厳重にしてください。こいつは魔素すなわち魔力に反応しますので、魔族議員や普通の一般魔族は近寄らないように警戒を強めてください」
「乙葉くんの見立てでは、このまま魔素を吸収し続けるとここに魔門が開くそうです」
俺の説明に新山さんが補足を入れてくれる。
「了解です。ここの管轄は特戦自衛隊なので、天羽総理にも説明しておきます」
「よろしくお願いします。では、失礼します」
急いで魔法の箒に飛び乗ると、そのまま高度を上げて札幌市に向かう。
いつも使っている超高高度での音速を超える飛行、これなら30分も掛からずに札幌に戻ることができるからね。
そして札幌に戻ってきて、真っ直ぐに妖魔特区へ向かったんだけど、段々と視界に入ってきた結界に思わず言葉を失ったよ。
「……生き物かよ」
「……深淵の書庫の干渉を弾かれました。観測不能ですわ」
「診断……は、無理みたい。ブレスレットの鑑定も不可能だけと」
これまでは、薄らと虹色に輝いていた妖魔特区の対物理障壁結界が、あちこちが紅と漆黒に滲んでいる。
しかも、その表面には血管のようなものが浮き上がっており、時おりドクン、ドクンと脈打ち始めているんだわ。
すぐそま状況を確認したいので、十三丁目ゲートに向かうと、すでに井川巡査部長から連絡を受けていたらしい忍冬師範が数名の退魔官たちと待機していた。
──シュタッ
素早く着地して箒を収納すると、忍冬師範は開口一発。
「これ、どうにかできるか?」
「いや、まずは調査から……って、突然、こうなったのですか?」
「ああ。ここまで酷くなったのは先日からだ。それまでも内部で異様な雰囲気が流れていたっていう話は聞いていたが、突然こんな有様になってな。急いで内部の市民達を避難誘導していたところだ」
それでか。
近くには第六課の指揮車両のほかに、重装備の特戦自衛隊の姿も見えているし、キャンプ・千歳から来たらしいアメリカ海兵隊と機械化兵士も待機している。
「忍冬さん、ここ以外の状況は、どうなっていますか?」
「大阪も京都も、水晶柱が突然発生したと思ったら、いきなり門が出現した。まだ門の形を形成した程度で、被害はないが、やがてこうなるのではと周辺住民の避難誘導と、自衛隊による立ち入り禁止区画に指定された」
「怪我人は!!」
「避難時に転倒した市民が多数。好奇心で門に近寄った市民も、突然意識を失ってここに搬送されたところだ」
「治癒に向かいます!!」
すぐさま新山さんは、近くで待機している救急車に向かった。
それならそちらは任せておくとして、こっちの方が問題だよ。
「先輩は、ここで情報収集をお願いします。俺は内部の様子を見てきますので」
「わかったわ。でも、ここでは内部の様子は無理なので、十三丁目のフィールド内までは同行します」
「三人、瀬川の護衛につけ」
忍冬師範の指示で、三人の退魔官が先輩の護衛についた。
そしてゲートを越えて十三丁目フィールドに入っていくと、そこはまさに地獄絵図であった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──サンフランシスコ・とあるビル
部屋全体に並べられたモニターを眺めつつ、ブルーナ・デュラッヘはやや不満げな表情をしている。
「世界各地に送り込んだ魔素萌芽種が芽吹き、魔門の仔として活性化。周囲の水晶柱が集めた魔素を取り込み、魔門自体が魔族及び高濃度魔力を持つ存在を取り込み覚醒……ここまでは計画通りなのに、何故、不満そうな顔をしている?」
ブルーナの座っている位置から離れた窓際では、満足そうに窓の外を見ている不死王の姿がある。
不死王がそうブルーナに問い掛けると、ブルーナも頭を軽く振った。
「水晶柱の発生、そこを通して魔素萌芽種を蒔き、魔門を形成。活性化した魔門は周囲の魔素を取り込み、再び水晶柱を通してサンフランシスコ・ターミナルへ送り返される……」
「その送り返された魔素は、全てサンフランシスコ・ゲートに注がれ、この都市を中心とした多次元結界を発生。そして魔門が開き、マグナムさまがやって来る……どこにも問題はないではないか?」
「足りないのです。今のままでは、マグナムさまが魔人王となる日に、魔門が開かないのです」
本来ならば、ここまで魔門を開くのに急ぐことはなかった。
藍明鈴が、有馬祈念から魔力炉を奪っていれば、とっくにサンフランシスコの魔門が開く手筈はついていた。
にも関わらず、藍明鈴は失敗、さらには中国の特殊部隊『蛟龍』が雇い入れた馬天佑までもが、魔力炉を狙っていたという報告がある。
(まさか、中国は気づいたのか? この世界と我々の故郷、鏡刻界の繋がりについて……もしもそうなら、ファザー・ダークの御神体を狙って動いたのか?)
ギリッと右親指の爪を噛むブルーナ。
もしも馬天佑の雇い主の目的が、二つの世界の融合、それによる封印世界の解放だとしたら。
なんとしても阻止しなくてはならない。
(あの世界についての情報は、魔人王となったものにのみ継承される。マグナムが魔人王になった暁には、俺がマグナムを殺して王印を奪えばいい……。それなのに、どうしてこう、歯車が噛み合わない!!)
そもそも、ブルーナは単独で水晶柱を通じて鏡刻界と裏地球を行き来できていた。
今は魔門形成のために魔力をそちらへ流す必要があるため、彼の能力では鏡刻界へ戻ることができない。
それでも、マグナムの配下が調整した『魔素萌芽種』を使い、擬似転移門を作り出すことは可能となった。
この転移門自体、対勇者用調整が行われており、鑑定しても擬似情報としての『魔門形成による、転移門の構築』という部分のみが公開されるようにしてある。
その本来の目的である『魔素収集、及び水晶柱を通じてサンフランシスコ・ゲートへ魔素を送り出す』という部分は読み取ることができなくなっている。
よほどの実力者でない限りは、一度や二度見た程度では、その真偽を暴くことなど不可能である。
「不足分の魔素を贖うための、贄となる魔族の調達は順調です。ですが、やはり魔素が足りません」
「そうなると、やはり現代の魔術師を贄とするか?」
「マグナムさまが魔人王継承の儀を行うためには、彼は必要です。まあ、三つの試練が終わり次第、彼を贄とすることでサンフランシスコ・ターミナルは完成します」
「魅惑のフラットを奪い返されたのは、痛かったな……まあ、マグナムさまの計画では、あの女は人質程度にしか考えていなかったらしいが」
「はぁ……保有魔力の多い臣民級魔族に、まだなにかあるので?」
ブルーナは不死王に問い掛けると、不死王もまた、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「フラットは先代魔人王フォート・ノーマの血族に当たる。腹違いではあるがな……この情報を得たのは昨日、とある情報屋からリークされてきた」
「な、なんですと? それでは王印はその女が所有しているのですか?」
「いや、流石にそれは無理だ。王印は時空を越えられない。ただ、フラットが鏡刻界に戻ったら、彼女の体に王印が宿る可能性がある……そう考えていたのだが、どうにも奪回されてしまってはなぁ」
がっかりとする不死王に、ブルーナは頭を傾げてしまう。
奪い返されたのなら、また奪えばいい。
それだけの話ではないのか?
それよりもフラットを奪い取った暁には、ブルーナ自身がフラットを連れて鏡刻界に戻り、彼女に王印が宿った時に殺せばいいのでは?
ムクムクッと野心が鎌首をあげるが、それもすぐに消沈してしまう。
「フラットを奪い取ったのは現代の魔術師だ。奴の元から取り返せると思うか?」
「い、いえ、それは……」
俺ならできるなどという言葉は言わない。
先日の、わずか数分の攻防で、乙葉浩介の実力は十分に理解できた。
そんなことをしたら、今度は自分が浄化される可能性があるから。
必ず勝てる、その方程式が成り立たない限りは、ブルーナは乙葉浩介には手を出したくなかった。
「そういうことだ。贄の確保、新たな地の水晶柱に対して『魔素萌芽種』を散布。現地の眷属達と連絡を取り、更なるサンフランシスコ・ゲートの活性化を行うように」
それだけを告げて言葉を締めると、不死王は部屋から出ていった。
「私がマグナムの配下から受け取った『魔素萌芽種』は全部で40。再調整により半分が失われ、残った20も既に撒き終えている……これ以上、どうしろというのだ」
──ギリッ
力強く拳を握るものの、今はターミナルを使って魔門から魔素を回収するのが先。
「しかし何故、日本からは魔素が送られてこない? もっとも鏡刻界に近いと言われている、魔族が住む都市・札幌。その妖魔特区にある巨大水晶柱にも『魔素萌芽種』を送り込んだのに、なぜ何も反応がない?」
そこから送られる魔素量は、魔力炉程ではないが莫大な量となる筈であった。
ここまで反応がないということは何か予想外の事態に陥った可能性があるが、妖魔特区内にマグナムの眷属が存在しない以上、情報が送られてくることはない。
つまり、モニターではあの内部を監視することはできない。
「……私がもう一人いれば、計画はもっとスムーズでしたが……やむを得ませんか、他のエリアの魔素を集めることに集中しましょう」
その儀式のために、ブルーナもまた部屋から出ていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……うわぁ」
妖魔特区内十三丁目フィールド。
そこの対魔族用結界の外に出た俺は、思わず目を疑った。
鬱蒼と茂った大森林、そして漂う瘴気。
魔素が大気内に流れこみ、人間にとって害となる瘴気に変化している。
あちこちに触手が伸び、元・百道烈士配下だった魔族が絡め取られ、生きたまま魔力を奪われている。
その触手から逃げるように、スプリンター長ネギやスプラッシュメロン、爆裂カボチャが必死に逃走。
いや、野菜達も頑張っているのに、なんで百道烈士の配下が捕まっているんだよ!!
──ズルッ
そう思った瞬間、森の奥から巨大な何かがやって来る。
人型の、頭のない巨人。
その全身には目玉が無数に張り付いており、眼球の黒目の部分からは無数の触手が伸びている。
腹部には牙の生えた巨大な口、そこから呼吸するかのように瘴気を吐き出している。
「やばっ、魔導紳士モード!」
──シュンッ
すぐさまペストマスク装着型の魔導紳士装備に換装。
すると、俺の気配に気がついたのか、突然、無数の触手が伸びてくる!!
しかも、この触手は見たことがある。
ニューヨーク、そして永田町で見た活性転移門から伸びていた触手だ!!
「力の盾っっ!!」
──シュンッ、プシュゥゥゥゥゥ
俺の目の前に張った力の盾に触手が突き刺さると、それを吸収して消しやがった!!
「嘘だろ! 魔力反射……じゃねーわ」
魔術攻撃なら、魔力反射の指輪でどうにでもできる。
けど、これは物理攻撃、しかも魔力を吸収するタイプだ。
──シュルシュルシュルルルルル
鞭のように触手がしなり、俺を目掛けて振り下ろされる。
それを躱しつつも必死に逃げると、ある距離まで逃げると追いかけて来なくなった。
「ふぅ……目が無いから魔力を感知して動いていたのかよ。くっそ、天啓眼を使う暇もくれねえのかよ」
せめて正体だけでも知りたいところだが、天啓眼の有効範囲はすなわち、奴に感知される距離と見た。
「ここは一旦、退却するしか無いか」
そう呟きつつも、途中で触手に囚われている魔族や野菜達を助けると、一旦十三丁目フィールドへと移動することにした。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




