第二百三十話・窮猿投林!! 煮ても焼いても食えないわぁ!!(伯爵級妖魔の実力)
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──プップップッ
ヘキサグラム・ニューヨーク本部での会談? を終えてから。
日本に戻る前に、祐太郎の様子を確認したかったのだけど、未だに連絡が取れない。
国際電話でもダメ、ルーンブレスレットでもダメ。
あらかじめ沙那さんから聞いた、有馬とーちゃん特製魔導ホバークラフトに備え付けてある衛星通信でもダメ。
こうなると、何かが起きた可能性を考えるしか無い。
「……駄目ね。さすがの深淵の書庫でも、端末の存在しない場所のサーチは不可能ですわ」
「衛星を使って、魔導ホバークラフトのカメラをバックするのも不可能ですか。そうなると、祐太郎たちに何か起きたと考えるのが良いですよね」
「でも、あっちには白桃姫さんもいますし、沙那さんもリナちゃんもいます。何かあっても、切り抜けられると思います……って、信じるしかないです」
バミューダ諸島に到着したかどうか、それについては瀬川先輩がバミューダ諸島の入管局からデータを探し出し、無事に到着したところまでは確認できた。
問題はそのあと、そこからの消息がない。
「ふぅ……キャッスル湾から出た形跡はあったので、すでにバミューダ・トライアングルに辿り着いたのか、もしくは冥王の元に到着したのか……いずれにしても、ここでこれ以上は、何も出来なくなりましたわ」
「そうですか……まあ、祐太郎の事だから問題はないと思う……って、考えるとするか。俺は日本に戻ったら、晋太郎おじさんに詳細を説明しますよ」
「私たちも同行しますわ。一人よりも、みんなで事情を説明すれば、おじさんも理解していただけると思いますから」
そうだよな。
本当に心配だけどさ、いまはそうするしかないよなぁ。
………
……
…
祐太郎への連絡を断念して、俺たちはヘリでボルチモアへと移動。
そこでセレナさんたちと合流したのち、ボルチモア国際空港から日本へと帰国することにした。
フラットさんはノーブル・ワンに滞在許可がでたらしく、俺たちが借りていた家にそのまま残ることになったし、クリムゾンが暫く同居することになったので警備も問題はない。
それに、何かあった場合はミラージュとテステスからも連絡が来ることになったから、ボルチモア方面の心配は無くなった。
かくして、アメリカでの強化合宿は無事に幕を閉じ、俺たち四人は、晴れて日本に帰ってきた……。
来たんだけどなぁ。
あまり会いたくない人たちが、お出迎えしてくれたよ。
「連絡は受けていたわよ。さあ、とりあえずは見てもらいたいものがあるのよ」
「第六課ではなく、まずは防衛省に来てもらいたい。話はそこで行う。君も魔術師ならば、己の責務を果たしてもらいたい」
羽田で俺たちを待っていたのは、防衛省幹部と井川巡査部長でした。
井川さんはいい、ありがとうとお礼を言える。
でも、そこの防衛省幹部、名前を挙げるなら川端政務次官!!
しばらく見なかったけど、また俺たちにちょっかいかける気なのかよ。
「乙葉くんたちの担当は、内閣府と先日の委員会で決議しましたわよね? どうして防衛省のお役人さんがここにいるのですか?」
「第六課の役人程度に、彼らの指揮をまともに取れるはずがないだろうが。今回の不確定巨大門の対応は防衛省の管轄だろうが!!」
おおう。
ゲートの外では、見事な喧嘩が始まっていますが、ここは井川さんに話を聞くことにしましょうか。
「そんじゃ、まずは顔見知りということで井川さん。まさかとは思いますが、国会議事堂にも活性転移門が現れたでファイナルアンサー?」
「ええ。国会議事堂にもっていうことは、アメリカにも現れていたのね。この日本だけでなく、世界各地の水晶柱の傍に、あの札幌に現れた転移門のようなものが出現したのよ」
「それを君たちに破壊してもらいたい。一度経験しているのなら、簡単なことだろう!!」
まあ、簡単ではないけどさ。
あの空間断絶結界陣使うのに、俺の魔力のほとんど持っていかれるんだよ?
それも魔障中毒を起こすかもしれない覚悟で。
「まあ、川端政務次官にわかりやすく説明すると、無理っす。あの時に使用した魔導具がありません、はい!おしまい」
「巫山戯るな!! その程度ならこちらで用意する」
「へぇ、それじゃあ封印杖を一振り、用意してもらえますか? それができるなら封印しますよ」
「上等だ!! よし、戻るぞ!」
お、啖呵を切って防衛省の方々は撤退。
これでようやく、井川さんと話ができる。
「では、とりあえずは現地に向かいましょう。その道すがら、井川巡査部長にお話を聞くということで」
「構わないわよ。車ならこっちに止めてあるので、ついてきてくれるかしら?」
「いえいえ、私たちはちゃんと移動手段を持っていますので」
瀬川先輩の話の直後、俺たちはターミナルビルを後にする。
そのあと?
俺は魔法の絨毯を取り出して、井川巡査部長とタンデム。
セレナさんは新山さんと一緒で、真っ直ぐに永田町まで向かうことになった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
いやぁ。
やっぱり人目を引きますね。
一般公道を飛行する魔法の絨毯と魔法の箒。
俺たちの前後の車の中で、動画を撮っている姿がよく見えるわ。
それでも俺は慣れたもので、気にせずに国会議事堂へと飛んできた。
──ガシィィィィン
正門はしっかりと閉じられており、『keep out』と書かれた黄色と黒の縞々テープが張り巡らされている。
警備もかなり厳重で、特戦自衛隊の車両が数台止まっているし、ボディアーマーを装着した自衛官があちこちでシールドを構えて待機している。
いや、ここまで厳重だと、何事かと思ってしまうよね。
そして、その正門の前では、報告を受けたらしい築地晋太郎おじさんも待っていたよ。
「おお、乙葉くん、ようやく帰ってきたか……うちの祐太郎は?」
「その件は後ほど。まだユータロは海外です。それよりも中に入りたいのですが」
「うむ」
すぐさま正門が開き、中に案内される。
あのフェルデナント聖王国との一戦により、後から出現した水晶柱は俺が破壊したんだけどさ、最初の一本は、魔力放出術式を刻み込んだまま放置されている。
今じゃ観光名所の一つになっているらしいんだけど、その真正面に、ニューヨークで見た活性転移門がおどろおどしくこちらを睨んでいる。
うん、比喩じゃないよ、門の真ん中に目玉が現れていて、俺たちを睨みつけているんだわ。
──シュルルルルッ
そしていきなり、俺に向かって触手を伸ばしてくるんだが、当然ながら力の盾でがっちりとガード。
すぐさま数歩下がって並列思考スタンバイ。
「魔導執事に命ずる、力の盾で自動防御、スタート!!」
──ピッ
ルーンブレスレットが淡く輝く。
すると、触手の攻撃に対して、力の盾が自動展開した。
後方ではすでに瀬川先輩と新山さんも守りの態勢に入り、晋太郎おじさんと井川さんを守っている。
「ニューヨークの活性転移門の活性度合いとの比較ですけど、かなりこちらの転移門は自我を確立し始めています」
「なんでまた、こんなに活性化が進んでいるんだよ。なにか? 餌でも豊富にあったのか?」
そう考えた時、ふと、この場所が国会議事堂だっということに気がついたよ。
そして先輩も気づいたらしく、晋太郎おじさんに質問をしている。
「単刀直入にお尋ねします。何人、飲み込まれましたか?」
「いや、その……衆参両議員合わせて十五名。全て、以前乙葉君から貰ったリストに載っていた魔族議員じゃよ」
「だそうよ。乙葉くん、対応できる?」
情報ありがとう!!
「魔族議員……小澤とかは無事だったのかなぁ。こんなものが出現したら、真っ先に様子を見にきて取り込まれるパターンだよな」
──ガシュッ
センサーゴーグルを装着し、魔導紳士モードに換装。
相手の強さは上級妖魔クラスだから、フィフスガントレットとセフィロトの杖もしっかりと装備。
「天啓眼!!」
『活性転移門。本来なら開くはずのない座標軸に偶然発生した存在。水晶柱から送り込まれる自然発生魔素を吸収して活性化している。また、贄として魔族を取り込むことでも活性化は進む……現在取り込んだ魔族数は13体、付近の水晶柱蓄積魔力125800も取り込んでいたため、活性度合い126548マギカスパル』
うん。
ニューヨーク型と同じ表示なんだけどさ、さらに追加事項が増えているんだよ。
『ピッ……活性転移門の制作者は、伯爵級魔族ブルーナ・デュラッヘ。活性転移門は、彼が水晶転送術式により水晶柱の近くに送り出した『魔素萌芽種』から再生した生体魔導具。付近の水晶柱とリンクし、魔素を吸収。その後成長を続けることにより、魔族型転移門に近い能力を身につける……』
ぐはっ、洒落にならない。
この前の、転移門の向こうにいた魔族が、恐らくはブルーナ・デュラッヘなのだろう。
姿をしっかりと見ることができたので、追加事項が表れたということなのか?
しかも、取り込んだ魔族数はニューヨーク型よりも少ないのに、さらに活性化しているってどういうこと?
『日本国・東京都に出現した活性型転移門は、現在126548マギカスパルの魔力を吸収。500万マギカスパルを吸収することで、鏡刻界へと繋がる【魔門】へと成長する』
「うわぁ……こいつ、成長して魔門ってやつになるのかよ。やっぱり危険すぎるわ!!」
「それよりも、吸収された魔族は無事なのですか?」
「ちょいとお待ち……」
『ピッ……活性型転移門に吸収された魔族は、魔人核を分解されて全て吸収されるために、再生不可能』
「南無!!」
思わず両手を合わせてしまったわ。
そして、その俺の動きで、先輩たちも状況を理解したらしい。
「乙葉くん、その気持ち悪い巨大門は破壊できるのかしら」
「あ〜、井川さん、こいつは活性転移門とか、活性型転移門っていいましてですね、基本的には破壊不可能です。可能なのは封印術式なのですけど、その、封印杖が存在しないので、正攻法じゃ無理っす!!」
そう叫びつつも、触手の範囲から逃げ延びる。
どうやら伸ばせる距離も無限じゃないし、触手だけなら破壊可能なんだけどさ。
やっぱり本体は被害不可能らしいわ。
「それじゃあ、札幌市の転移門を封じた杖があれば」
「あれ、あの時に使ってしまったのでもうないっす」
そう告げたけどさ、俺の空間収納の中には封印杖が一振り収めてある。
その先にある宝珠には、札幌に現れた大転移門が封じてあるので、これはもう使えないんだよ。
だから、空間収納の中に収めたまま死蔵することにしてある。
そして、俺がニューヨークで行った空間断絶結界陣だけど、ここまで活性化していると封印成功率はどれだけあるのかわからない。
何よりも、俺の魔力が足りるかどうかも不明。
この前のやつよりも活性化が進んでいるとなると、どれだけの魔力が必要になるのかわかったものではないからさ。
「それじゃあ、これはどうなるの?」
「幸いなことに、あの水晶柱は俺の魔導具で魔素を放出するタイプになってます。だから、水晶柱から魔力が活性転移門に送られることはないので、魔族を取り込まない限りはこれ以上の活性化はありませんよ」
手をひらひらとふりつつ、そう告げる。
だってさ、さすがの俺ちゃんでもお手上げだよ。
「そ、それじゃあ、ここ以外の水晶柱の近くの活性転移門? それはやがて自然に開くってことよね? 開いた先はどこになるのかしら?」
「まあ、十中八九は鏡刻界の、それも魔大陸でしょうね。規模こそ小さいけど、確実に大氾濫再びの可能性がありますが」
俺の説明を聞いて、井川さんも晋太郎おじさんも、真っ青な顔になる。
だってさ、対応策がないんだよ?
俺の魔力が足りるかどうかもわからない上に、この地球上にどれぐらいの水晶柱が出現しているのかなんて知らないからなぁ。
「と、取り敢えず、今すぐどうこうということはないのだな?」
「水晶柱からの転送量。それがどれぐらいかは知りませんけど、少なくとも水晶柱から送り出される量的にも、かなり時間が必要だとは思いますよ」
自然界に存在する魔素量を考えてみてもさ、やっぱり時間的には結構かかると予測。
ただ問題なのは、あの水晶柱に蓄積されていた魔素が高すぎたこと。
フェルデナント聖王国侵攻のために送り出したものなので、自然発生型ではない。
このまま活性化が進行した場合、自発的に周囲のものを捉えて、取り込み始まる可能性だってある。
それこそ、少ないながらも人間を取り込……んで?
「サンフランシスコ、かなり気まずくないか?」
「日本が危ないと思って戻ってきましたけど、黒龍会が魔族狩りを始めたとするのなら、サンフランシスコが魔族の侵攻を受ける可能性だって十分にあり得ますわね」
「……ヘキサグラムでどこまで対応可能か。最悪の場合は、連絡が来るだろうからすぐにでも対応しないとならない……」
そう考えたんだけど、井川さんが頭を左右に振る。
「まずは、乙葉くんたちは日本をどうにかして欲しいわ。ここ以外にも京都、宮崎、大阪にも水晶柱は発生していますし、その近くに活性転移門が生まれているという報告もあります。何よりも、札幌市妖魔特区内の転移門は、かつてない大規模のものが発生していますから」
「なっ!!」
そうだよ。あそここそ一番危険だよ。
こりゃあ、とっとと札幌に戻らないとまずいだろうが。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




