第二十三話・海老で鯛を積羽沈舟(市場崩壊待ったなし‼︎)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
さて。
祐太郎は朝イチで詠春拳の道場に向かった。
昔は俺たちの家の近所にも道場はあったんだよ。
そこに祐太郎は幼少の頃から通っていたんだ。まあ、詠春拳の師範の実家が埼玉に引っ越しし、その後を狙って出来た道場が、詐欺まがいに高額な会費を徴収したり道場師範代がセクハラ行為をしたため警察沙汰になって、道場は無くなったんだよ。
ちょうど祐太郎が変な人攫いに攫われて少ししてからだったから、あれは衝撃だったよ。
俺も死ぬんじゃないかって言われてたけれど、なんか知らないけど元気になったし結果オーライだよね。
‥‥
‥
「でも、修行かぁ。ユータロみたいに武術をやっているわけじゃないから、俺はネットショップと魔法を極めるとしますか」
とりあえず魔導書を開いて、現在覚えている魔法について熟読する。読めば読むほど、俺たちの住んでいるこの世界は魔法とは縁のない世界なのが理解できる。
まず、読んだ限りでは魔力が最低でも30はないと魔法は発動しない。
俺たちの世界の人間の魔力は、今まで鑑定した限りでは平均が10程度、ぶっちゃけると俺たちの高校の文学部のメンバー以外では、魔法は使えない。
次に発動媒体。
俺は魔導書を発動媒体としているけれど、そもそもそんなものがこの世界にはない。
いや、あるのかもしれないけれど、みたことも聞いたこともない。
それこそ神話や伝承とかで出てくるような、ゲームのネタになりそうな杖とか指輪みたいなものがあるのかもしれないけれど、現実に存在するかは判らない。
そして、これが最も重要。
魔法の発動に必要な秘薬。
魔法とは、秘薬と魔力を消費して知識を起動し、生み出された魔法を発動媒体で増幅することで効率よく奇跡を起こす。
その秘薬がない。
「俺の場合は、魔導書が秘薬と発動媒体の肩代わりをしているのか。それで魔法の発動コストが高いのか」
事実、不良達に力の矢を使ったときはMPを100も消費した。これが秘薬があると10で済む。
秘薬がない分、消費魔力が10倍に膨れ上がっているらしい。
「……まあ、秘薬なんて手に入らないものばかりだからいいか」
手軽に手に入りそうなものはニンニクや朝鮮人参、硫黄の粉、黒真珠の粉末、ルビーの粉末、小豆大のエメラルドなど。
ちょっと高価なものはあるけど、それ以外が無理。
「竜鱗の粉末、精霊樹の葉、聖別した純水、ミスリルの粉、魔晶石、こんなもの手に入るかァァァ」
まあ叫んでみたけどひょっとしたらということでカナン魔導商会で検索する。
すると、あるところにはあるものですなぁ。
『ピッ……秘薬セット、魔導師、魔法使い、魔術師の術式発動に必要な秘薬の詰め合わせです。25種の秘薬をそれぞれ50個ずつセットにしての販売です。定番商品ですので売り切れることはありませんが、ものがものですのでお一人様の購入は一度に三セットまでとなります。1500万クルーラ』
「おおお、あるなぁ。でも、俺はこれを買ってもいいんだけど、ユータロ、新山さん達が覚える可能性の魔術って、これでいいのかなぁ? 説明では魔術師って書いてあるからなぁ」
うん、祐太郎が戻ってきてから考えよう。
取り敢えずは商品説明に付いている星マークをポチッとして、お気に入りに移しておく。
これも新しく実装されたシステムらしく、一々カナン魔導商会の画面を開かなくても、念じるだけで即時購入できるらしい。
お気に入りに登録できるのは10個までなので、中回復ポーションも登録してある。
「さて、そんじゃ訓練……どこで?」
この情報社会の日本の東京。
人目がないところを探すのが無理という感じである。
「ないよなぁ。夜の公園が一番人目がないけど、そんなところにいたら不審者で補導されるわな。あ〜、札幌なら、郊外行けばいくらでも人いないから練習できるんだけどなぁ……いいや、錬金術を試すか」
椅子に座って目を閉じ、錬金術の知識をおさらいする。
錬金術の基本は『分解』『抽出』『融合』の三つに分けられる。
ここに『変形』『拡大』『縮小』『接合』『魔導化』の五つが加わって、錬金術は成立する。
最初の三つが素材や原料を作り出す、さらに後の五つも加えて加工する技となる。
正確にはあと二つ、『量産化』と『元素変換』の二つがあるのだが、量産化はレベルが足りないらしく、最後の一つについてはレベルも足りないし意味不明。
「それじゃあ、始めますか……初心者錬金術講座、その一からだな」
まずは分解。
テーブルの上に置いてあるメモ帳を、錬金術によって生み出した『錬成魔法陣』の真ん中に配置して分解を発動する。すると、メモ帳が米粒大の紙のチップの山と鉄材に分けられる。
「鉄? あ、ホッチキスの針か」
鉄材は横に置いて、紙のチップを手に取る。
様々な色の、あずき大の紙。これをさらに抽出して、染色材と紙に分離する。
「あ、この色は染料か。こっちが染料で染められていない純粋な紙ね。融合すると色がつく、変形で元のメモ帳に戻せると。これは楽しいぞ?」
なんだか楽しくなってきたので、色々なものを分解と抽出で試してみる。
失敗したのはプラスチックの分解からの抽出。
あれってさ、ナフサっていう石油精製材料があってね、ぶっちゃけるとホワイトガソリンとかにも使うんだよね。
カーペットにいきなりナフサのシミができたので、慌てて空間収納にナフサを収納してことなきを得たんだけど、ぶっちゃけ錬金術はしっかりとした設備でやるのが一番なのが理解できた。
そして錬金術と言えば金の錬成。
これですよ、これ。
もし目の前に金鉱石があれば、一瞬で金が錬成できます。
それと知っていた? 水銀から金が作れるんだよ?
よく漫画とかである水銀から金を作るのは、錬金術で可能なんだよ?
そのためには水銀が大量に必要で、水銀1リットルから金が10グラム錬金できる。
なお石炭からダイヤを作るというのは、石炭の炭素に錬金術の『変形』と『融合』を同時発動することで可能らしい。
つまりどういうことかというと。
「うほおおお、本物のダイヤができたぁぁぁぁ」
錬成魔法陣の真ん中に、ポツンと出来上がった小さな宝石。大きさで0.2ctのダイヤモンドが、その場にポツンと出来上がった。
「近所の文具屋で購入した鉛筆、これを分解して芯と木材に分離、さらに芯から炭素のみを抽出。そこに変形と融合で作り出したのが、この人工ダイヤでございます‼︎」
初めて作ったダイヤモンド。
これには思わず涙が出たね。
近所で購入した四菱のハイユニ、硬さはB。硬くなるほど不純物が混ざるので、効率を考えるとBがいい。
某漫画では、書いても書いても芯が減らないとかいうとんでもアイテム扱いされていたけれど、そんな事はない普通の鉛筆だよね。
これを三ダース使って0.2ctのダイヤができる。原価は2700円と俺のMP1500ポイント。
MPの関係で量産はできないけれど、もっと原料を増やしたらもっと大きいのができるんじゃね?
しかし成功するまでに、どれだけ文具屋に行って鉛筆を買ってきてを繰り返した事か。
もう直ぐ夕方だけど、最後にもう一度、今度は店中の鉛筆を買い占めてきますか‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
夕方。
大量の木材と粘土を片付けながら、テーブルの上にあるダイヤモンドを眺めてニヤニヤしてしまう。
鉛筆120ダース、約32万円と俺のMPの半分をかけて作りましたよ、200カラットのダイヤモンドを。
まあ、所詮は人工ダイヤモンドの部類になるんだろうなぁと思ったけれど、鑑定したらダイヤモンドと表記されたので、まあ、いいか。
問題はこの価値。
「ま、まあ、異世界なら宝石なんていくらでもあるんだろうからなぁ……」
恐る恐るカナン魔導商会の査定に出してみると、予想とは違う金額が表示されていた。
『ピッ……未加工のダイヤモンド200カラットの買取査定は30億クルーラです。このサイズのダイヤモンドは希少取引となりますので、一度きりの買取になりますが買い取りますか?』
「……はぁ? 希少取引ねぇ、まあ、YES……って、まてまて、ちょっと待ったぁぁぁぁ」
『ピッ……買取が完了しました。現在のチャージ残高は30億1750万クルーラです』
「いやぁぁぁ、もっと眺めたかったのにぃぃぃぃぃ」
絶叫するが、後の祭り。
ま、まあ、買取してもらわなくても、小さいやつを作って眺めるだけならOKだよね。それよりもこんな高額、怖いからとっとと使いましょ。
よくあるケースだけどさ、ネトゲやソシャゲでイベントとかでゲーム内マネーが突然バーンって増えた瞬間にさ、金銭感覚麻痺してしまうケースがよくあるよね。
今の俺がまさにそれだよ、レデ○プレイヤー1 で初めて一等取って賞金でとんでもなくなった主人公と同じだよ。
そして、どうして高いのか気になったのでカナン魔導商会のメニューからダイヤモンドを選択。その説明を見て、どうして高額なのか理解したよ。
あっちの世界では、魔晶石や宝石は魔導具のコアに加工されるらしい。そしてダイヤモンドは宝石の中ではトップクラスに魔力増幅と魔力凝縮に優れているらしく、大きな粒のものになると国家で管理することもあるんだって。
「うん、ごめんよ異世界。これからダイヤモンドはそこそこな大きさで査定に出すことにするよ」
何はともあれ、これで一番手っ取り早いクルーラのチャージ方法を見つけたよ。このあとは何か変わったものがないかと勧めを調べるが、今日は特に変わったものはない。
それならあれでしょ、当初からの夢でしょ?
「お? カナン魔導商会のレベルも上がってるから定番商品が値下がりしているか。空飛ぶ箒が一つ8億……二つ買って、一つはユータロに持たせるか、ポチッとな」
カナン魔導商会で魔法の箒を購入、そして早速試しましょう。
覚えたばかりの第二聖典にある魂登録。これは魔法によってアイテムと所持者の魂を結びつけるもの。
そうする事で所持者以外では許可ないものは使えなくなるのと、魂が一時的に保管庫となってアイテムを収納することができるようになる。
つまり、俺の購入した魔導具全てを登録することで、他人には使えなくできるというものである。
「ええっと、これか。よし、そんじゃ行きますか‼︎」
ポーション以外の所持している魔導具全てを魔法陣に乗せて魂登録を発動する。
すると、俺の中にある何か、おそらく魂にアイテムが次々と登録されている感覚が判る。
「おおおおおお‼︎ きたきたきたぁぁぁ……あれ?」
突然視界がぼやける。
これはあれだ、急速に魔力が消費されたために起こる症状だ、俗に言う『魔力酔い』ってやつだ。
目がチカチカとしてきた、吐き気もする。
ああ、意識が遠くなっていく。
………
……
…
──ガチャッ
「ただいま。いやぁ、遅くなって済まないってどうしたオトヤン‼︎」
埼玉の道場から戻ってきて、最初に俺がみた光景。
大量の木片とか粘土、そして魔導具が散乱している中に、崩れるように倒れているオトヤンの姿。
何があった‼︎
まさか妖魔が攻めてきたのか‼︎
慌ててオトヤンに駆け寄って脈拍を見る。
よし、正常だ。
なら、次に魔術でオトヤンを確認しよう。
まず、経絡をめぐる闘気をゆっくりと練り上げる。
そして武術書を取り出し、該当するページを開き武術書も経絡の延長として闘気を循環させる。
これで準備はオッケー。
「我は求める。かの者のステータスを表せ……鑑定眼っ‼︎」
初めて使う闘気術式が、オトヤンの安否を確認するものになるとは思わなかった。
表示されている文字欄をひとつずつ確認して、現在の症状を見る。
よし、魔力酔いって表示が出ているだけだし、その横の『残1850s』ってカウントダウン表示はあれか、魔力酔いが治るまでの時間か。
床に転がっていても治りづらいかもと思って、オトヤンをベッドに寝かせる。
しかし、なんだこの大量の木片、鉛筆の箱もあるし……テーブルの上のこの小さな宝石は、ダイヤモンド? まさかオトヤン、錬金術でダイヤモンドでも作ったのか?
鉛筆の箱、炭素?
あ〜、本当にダイヤモンドを作り出したのか。
なら、俺もできることを手伝ってみるか。
そのままテープの上に置いてあるダイヤモンドをハンカチで包むと、昨日お世話になったジュエリーショップに持っていってみるか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「いらっしゃいませ。先日はありがとうございました、本日はどのような宝石をお探しですか?」
昨日接客してくれた店員が、入店した俺をみるなりニコニコとやってくる。
「今日は鑑定をお願いしたいので。これなんですけど、詳しい価値を調べてほしいのですが」
「はい、ではこちらはどうぞ」
別席に案内されて、差し出された箱にダイヤモンドを並べる。
全部で三つ、それぞれの価値を知りたい。
「では、少々お待ちください」
さて、俺たちの世界では初めての、錬金術により錬成されたダイヤモンドだ。その価値はいったいどんなものなのか。
そして、大体20分ぐらい経った。
店内をのんびりと見て歩いたりしていると、俺の名前が呼ばれたので先に戻る。
「大変お待たせしました。こちらが鑑定結果と査定価格となります」
提出された査定表…フローレンスとか色とかカットとか、俺にはよくわからない。
けれど、その下にある値段は理解できる。
2.08ct. 328万7250円
1.22ct. 96万8100円
0.58ct. 62万6900円
あ、これあかん奴だ。
真面目に錬金術で生計立てられるやつだ。
「ここまで状態の良いダイヤモンドは久しぶりに拝見させていただきまして。カットが若干精密さに欠けてますので査定はかなり下がっていますが、カラーは最高品質のD、クラリティも同じく最高品質のFLとなります」
うん、よくわからないけれど、かなりいいんだよな?
ファティマならバランシェ公の作品レベルって事でいいんだよな?
「ありがとうございます」
「それで、こちらは買い取りますか? 築地様でしたらすぐに現金もご用意できますが」
「いえ、今日は鑑定をしてもらいたかっただけですので。ではありがとうございました」
丁寧に頭を下げて、ジュエリーショップを後にすると、ホテルに戻ってダイヤモンドは元の位置に戻しておく。
しかし、本当に俺たちの世界では魔法はチートスキルなんだなぁ。
色々と考えないとならないし、何より魔族についての対応も考えた方がいいよなぁ。
はぁ。
普通の高校生活を送りたかったよ、本当に。
でも、オトヤンといると楽しくてワクワクしている自分もいるんだよなぁ。
よし、乗り掛かった船なら、沈むまで一緒に行くとするか‼︎
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりにくいネタ
とどろけ!○番 / のむらし○ぼ 著
FS○物語 / 永○護 著