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第二百二十一話・虎視眈眈? 漁夫の利とはいかないまでも?(未知のテクノロジー?)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 ダイヤモンド・プリンス号でサンフランシスコを目指して、はや六日。

 未だ沙那とリナちゃんは船内を満喫中。

 日替わりの映画を楽しみつつ、イベントフロアでショーを見学したり、ミュージカルを堪能したり。

 毎日がイベント三昧の、楽しい時間を過ごしていた。


 その頃の、有馬祈念はというと。

 

「ふむ。大方の予想を裏切ってくれたか。まさかあと二日でチャージが終わるはずの魔力炉が、もはや飽和寸前になっておるとは計算外ではないか!!」


 自室内、ベッドの上で怪しく点滅する魔力炉。

 本来ならばあと二日はかかるチャージが、もはや完了してオーバーフロー一歩手前である。


「馬導師の保有魔力値が高すぎたか? いや、あやつ以外の魔族もこの船に乗っていたな。そいつらの魔力も吸収しすぎたのが要因かも知れぬが……まあいい、計算とはちがうが、先に仕事を終わらせるとするか」


 魔力炉の納められてあるアタッシュケースを閉じ、その鍵の部分に親指を添える。


──シュンッ

 するとアタッシュケースが異空間に収納される。

 乙葉浩介の使用している空間収納チェストとは異なる、亜空間収納術式。

 誰にも伝えておらず、誰も知らないファウストの術式。

 これの解析が終わったのが、船旅の2日前。

 そして初の実践テストとして、魔力炉を収めているアタッシュケースとリンクした。

 乙葉のように無限収納ではなく、一つのものしか収められない。

 ただし、アタッシュケースやコンテナなどに収められてあるものも纏めて『一つ』としてカウントされるので、どうにか実用に耐えることができている。

 そしてスマホを手に取ると、沙那とリナちゃんに下層の倉庫区画に移動するように伝えると、有馬もまた荷物を纏めて移動を始めた。



………

……



「まあ、あのミュージカルは札幌でも見たので構いませんけど」

「ライオンがかっこいいのは解せぬ! 山猫だってカッコいい」

「まあまあ、少し予定がずれたが、下船する。最後の調整をしたいから、船を出してくれるか?」

「えええ? あと二日でなかったの?」

「うむ。この船に潜んでいる魔族たちの魔力も吸い取ったのでな。予想外に早くチャージが終わった。では頼む!」


 そう説明を受けて、沙那はルーンブレスレットから船を出す。

 正確には『船の一部』であり、船体の八割はまだルーンブレスレットの中。

 ちょうど艦橋部分とその後ろのエンジン区画が、有馬の借りた倉庫ギリギリの大きさだったので、すぐさま魔力炉を取り付けて調整を終えると、沙那がすぐにルーンブレスレットに再収納。


「リナ坊や、ツァリプシュカを出してくれるか?」

「あいあい!」


──ゴトッ

 リナちゃんもルーンブレスレットからツァリプシュカを取り出して有馬に渡す。

 すぐさまアタッシュケースの中に収められていた魔力炉から、別の魔晶石を取り出してツァリプシュカに組み込むと、すぐさま試運転を開始。


「ふむ、満足のいく仕上がりではないが、緊急事態じゃからな。ほれ、これが新しいツァリプシュカじゃよ。超小型魔力炉と増幅回路を取り付けたので、従来よりも重量比は半減、出力は2.5倍に調整してある」

「わお‼︎」


 嬉しそうにツァリプシュカを右腕に装着し、仕上がり具合を確認。

 その出来の良さに満足しているとき、倉庫の入り口扉が破壊された。


──ドッゴォォォォォッ

 爆音と同時に扉が吹き飛び、二人の青い鎧を身に付けた騎士が走り込む。

 そしてその後ろでは、チャイナドレス姿の女性が花扇子を口元に当ててニコニコと笑っていた。


「有馬さん。あなたの開発した魔力炉を頂きに参りましたわ。さあ、赤豹さん、白豹さん、とっとと取り上げてくださいな!」


 その女の声と同時に、二人の青騎士たちが自己紹介を始める。


「私は赤豹と申します」

「私は白豹と申します」

「「藍大姐の命令により、速やかに遂行します!」」


 素早く有馬の真後ろに回り込み、そこに置いてあるアタッシュケースを奪おうとする赤豹。

 白豹は有馬を捕獲しようと前から走り込むが、その前に回り込んだ沙那が両手を広げて立ちはだかる!


「お父さんに手出しはさせませんわ‼︎」

「命令です。邪魔をするのなら、お命を頂きます。その上で、有馬を捕獲します」


──ガギィン

 素早く腰の剣を引き抜き、沙那に向かって振り落とす。

 だが、それを左腕でガードすると、右拳を白豹の胸元に突き込む!


──ドッゴォォォォォッ

 それは普通の拳の一撃ではない。

 沙那の右拳が白豹の胸元に命中した瞬間、腕部に搭載した『魔力式レールガン』によるスライドパンチが打ち込まれる。

 手首から先が伸縮し、白豹の体が歪み凹み、後方に吹き飛ぶ。


「な、何よ、あなた人間じゃないの! それに左腕だって普通じゃないわよね!」


 まさかの白豹の敗北に動揺する藍大姐。

 その藍が見たのは、可変した沙那の腕部である。

 沙那の体表の皮膚が硬質化し、鎧のガントレットのように変形している。

 それで白豹の一撃を止めたのだが、若干の亀裂が装甲に走っている。


「お父さま、素材変質のタイミングがあっていませんわね。これは調整が必要かと思いますわよ」

「うむ。それはわかった。わかったから、リナちゃんもそろそろ手加減をだな」

「いや、だ! 断固として断る!」


──ドゴゴドゴドゴドドゴドゴドゴドゴ

 有馬の後ろのアタッシュケースに手を伸ばした赤豹の体は、いまは倉庫の壁に埋まりつつある。

 素早く踏み込んだリナちゃんの、ツァリプシュカによる巨大な魔力波掌底。

 長さ1mにまで巨大化した、魔力によって形成された掌底。その一撃で赤豹が壁に吹き飛ぶと、山猫のしなやかさでジャンプしてからの目の前に着地。

 そこからはツァリプシュカによる打撃ラッシュ。

 鎧が変形し内部から緑の体液が流れ出す。

 そして頭部のフルフェイスが吹き飛んだ時、リナちゃんは慌てて後ろに飛び去る。


「うわ、僵尸キョンシー!!」


 青白い顔に、額に貼り付けられた呪符。

 面構えから、中国の武将のようにも見える。

 それを見て、リナちゃんは赤豹が僵尸であると判断した。


「なるほど、藍大姐と呼ばれる僵尸使い。香港の秘密結社の幹部に、確か藍明鈴というものがいたな! となると背後にいるのは、大陸の共和国の国家主席というところじゃな」

「え、え、え〜っと。前半分は当たりですけど、後ろはハズレですわね。私どもは、あなたの開発した魔力炉を使って……」


──ベシ

 何かを話しそうになる藍大姐の後頭部にチョップを入れるジェラール・浪川。


「全く。相手の術式に引っかかって、余計なことまでペラペラと喋りそうになるんじゃねーよ……随分と小賢しい術式を使うようだけど、どいつが使った魔術だ?」


 後頭部を押さえて蹲る藍大姐の後ろから姿を表したジェラールが、室内の有馬たちに問いかける。

 だが、この場にいるのはマッドサイエンティスト、オートマタ、獣人、僵尸が二体と藍大姐のみ。

 どこにも魔術を使える存在はいない。

 すると、有馬が懐からペンライトを取り出してスイッチを入れると、倉庫内をぐるりと見渡す。


「そこか‼︎」


──カッ!

 ライトで照らした部屋の片隅。

 その反対側から、一体の魔族がスッと姿を表した。


「有馬教授の身柄を、貴様らに渡すことはできなくてね。影ながら見守っていた……って、こっちですから、私はここにいますから‼︎」


 姿を表したのは、シルクハットを被り黒いロングコートに身を包んだ魔族。


「あ、冥王のおっちゃんの部下さん‼︎」


 その魔族を見て、リナちゃんが声を上げる。

 だが、有馬親子は何のことやらさっぱりわからない顔。


「あ、あの、リナちゃん、その方は誰?」

「冥王のおっちゃんの副官の人。初代ファウストの契約魔族で、ファウストの術式を継承したものを守護する人……人?」

「あ、あのですね。リナちゃんの言う通りです。我が名はメフィスト。初代魔人王が八魔将の一柱にして、錬金術を治めるもの……この方に手を出すと言うことは、マグナムは初代派閥を敵に回すと言うことで、よろしいのですな、藍さんとやら」


 シルクハットを外してクルクルと回しつつ、メフィストが藍に問いかける。


「いてて……このことは、マグナムさまに報告させてもらいます。王印が見つかり次第、いえ、マグナムさまが魔人王になった暁には、初代派閥など大陸から放逐してみせますからね! いくわよジェラール!」


 立ち上がりつつ啖呵を切る藍。

 そしてジェラールを見ると、立ったまま気絶している。


「まあ、私の体から発散される魔力に当てられれば、生身の人間など正気を保てなくなりますからね」


 そう笑いながら呟くメフィストと、その後ろで腕を組んで頷く有馬。

 その姿に、藍大姐もやや困惑気味。


「お、覚えていなさい‼︎」


──シュンッ

 そう吐き捨てるように呟くと、藍がジェラールを抱えて転移する。

 赤豹と白豹は霧散化して逃走、どうにかその場は収められた。


「さて、本当なら出てくる予定はなかったのですけどね。では、私はこれで」


──ス〜ッ

 メフィストの姿がゆっくりと消えていく。

 それに右手を振るリナちゃんを見て、有馬親子が問いかけた。


「なんで、リナちゃんは彼を知っておるのじゃ?」

「そもそも冥王の配下ってなに? 見守っていたって?」

「うん。ずっと、有馬とーちゃんのうちに初めて遊びに行った時から、ずっと有馬とーちゃんを見守っていたんだよ? でも、内緒って言われたから、ずっと内緒にしていた!」


 リナちゃんの目には、隠れていた魔族も見える。

 気配を消し、魔力をカットした状態であっても、彼女の目には見える。

 これはリナちゃん固有の能力ではなく、山猫獣人族の持つ種族能力であり、これにより危険を察知して生き延びていた。


「ふむ。つまりあれか? 助手が増えたと言うことじゃな‼︎」

「違うわよ……でも、さっきの話からすると、敵ではなくむしろ味方なのね?」

「ファウストの遺産を継ぐものを守るのが、メフィストの使命だって言ってたよ。だから、今はファウストの遺産を継ぐ有馬とーちゃんを見守っているんだって」

「よし、これで研究が捗る。初代にしかわからないことがいくつもあったからな。いや、こうしてはいられない、急いでこの場から離れた方がいい。また別の存在が来る可能性もあるからな」


 そう告げてから、有馬は荷物を纏めて船のデッキに向かう。

 そしてすぐさま船の責任者の元に向かい、一通の手紙を手渡す。

 そこに何が記されていたのかはわからないが、船は速度を落として一度だけ停止。

 沙那がルーンブレスレットから船を出して横に並べると、三人はそれに乗り込んた。

 全長26メートルのホバークラフト。

 スカート部分が魔力によって構築されており、大気を吸い込んで放出し浮遊するのではなく、魔力スカート自体が浮力を持っている。


「では、ここからは最高速でボルチモアに向かう。なぁに心配するな、計算ではボルチモア空港で旅立つ乙葉浩介君たちを見送ることができるはずだ!」

「え?」

「なにおう‼︎」


 その有馬の一言で、沙那とリナちゃんが声を上げる。


「せめて一日で到着してください!」

「リナちゃん、魔力コンバーターに魔力を送り込んでくる!」

「こ、こら、わかった、テスト走行の一日を削るから、それで短縮する!」


 ゆっくりと速度を上げる、魔導ホバークラフト。

 果たして三人は、無事にボルチモアに到着することができるのか!

 

………

……


 ダイヤモンド・プリンス号の甲板。

 転移してメフィストから逃れた藍大姐は、今後のスケジュールについて考えていた。

 彼女の持つ転移能力は『ショートリープ』といい、距離25mしか転移できない。

 しかも一度使うと四十八時間使えないという、まさに緊急事態用である。


「それで、藍大姐。計算では有馬たちを捕まえて、残りの時間は意気揚々とクルージングの旅のはずだよな。そしてサンフランシスコで魔族と合流して、俺の仕事は終わりのはずだよな」

「はぁ……霧散化した場合の移動速度は、この船の速度の半分以下。赤豹も白豹もここでは修復不可能で……サンフランシスコの王大人になんといって報告したらいいのよ」


 計算違い。

 本来なら、有馬から魔力炉を奪い取ってから彼らは拘束。

 その魔力炉を使ってサンフランシスコに鏡刻界ミラーワーズと繋がる転移門ゲートを接続、マグナムがこちらに配下の魔族を送り込むという予定であった。

 そして拘束している【魅惑のフラット】を鏡刻界ミラーワーズに連れ去り、彼女の元に姿を表す可能性のある王印を回収するという計画である。

 これは同時に行われている、セレナらによる乙葉浩介籠絡作戦とも絡んでいて、転移門ゲート接続後には協力者らとともに彼の王都に迎え入れる算段であったらしい。

 そこでマグナムは、乙葉浩介らに洗礼を行い自らの傀儡とする予定であったのだが、大幅に計画が変化したことをマグナムは知らない。

 そして、念話能力者がマグナム配下から瀬川雅配下になった時点で、藍大姐の元に連絡が届くこともなくなった。


「まあ、俺としてはマグナムが魔人王になり、中国が主導でおこなっている【大封印開放計画】に手を貸してくれれば構わないからな。あと、今日までの日当を支払ってもらおうか?」

「わかっているわよ……」


 すべての計画の変更。

 その影で、乙葉浩介らの存在があったことを彼らが知るのは、サンフランシスコに到着してから。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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[気になる点] 第二百二十一話・虎視眈眈? 漁夫の利とはいかないまでも?(未知のテクノロジー?) > そう笑いながら呟くメフィストと、その後ろで腕を組んで頷く有馬。 > その姿に、メフィストもやや困…
[一言] どうも魔族の力に頼るようになった連中は、その力にだけ傾倒する傾向が有るみたいだなあ。太平洋の真ん中からアメリカ・中国に連絡する方法なんて、現代社会でも存在しているというのに。まあ、海の真ん中…
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