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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第四部・魔人王降臨編

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第二百二十話・万物流転、明日は明日の風が吹く。(お久しぶりって、出番これだけ?)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

「さて。本日で四日目になる。私のこの講習についてだが、日本政府からはできるだけ他国に対して対妖魔関連のデータを流さないようにと注意されている。だから、ここでは妖魔関連の話ではなく、私が開発し乙葉浩介くんによって改良を加えた【小型魔力炉】の原理について、必要なエネルギーとは何かについての講義を行なってきた。恐らくは皆、限界が来ているだろうと思うから、今から一時間の休憩を入れることにしよう。なぁに心配するな、私たちはあと「三日ほどで下船するが、それまでには基礎理論についてや説明は全て終わらせてやる.これで君たちも本国に戻ったら、魔力炉の開発にも着手できるだろう。まあ、君たちの国に【魔力錬成】を可能にする魔術師が存在し、普通の鉄をミスリルに変性できるものがあるのならという条件付きではあるが。では、これで午前の講義は終わるとしよう.午後は一時間後、十三時から始まるので、しっかりと食事をとって体を休めるように、では解散!」


 ダイヤモンド・プリンス号の会議室。

 意気揚々と話を終えた有馬祈念が四日間ぶっ通しの『午前の講義』を終えたところである。

 すでに会議室の中は地獄絵図。

 疲労困憊から睡眠に陥ったもの、気絶して医務室に運ばれていったもの、食事を摂り仮眠するためにフラフラな体をどうにか動かして退室するものなど、およそ健全な人間では見られない光景が広がっていた。


「うわぁ、お父さん、久しぶりの全力投球ですか」

「メジャーリーグの大谷くんから、疲労という概念を取っ払ったらこんな感じになるのかな?」


 どれだけ全力投球しても疲れず乳酸が貯まらない肉体。そんなものを大谷くんに与えようものなら、毎日登板からの全試合フル出場待ったなしかも知れない。

 そんな光景の犠牲者が、目の前に広がっている。


「おお、沙那とリナちゃんではないか。船内は楽しかったか?」

「結構堪能してますよ。これから映画を観に行くのです」

「日本のラノベ映画だよ。タイトルは……」

「課長が目覚めたら、異世界SF艦隊の提督になっていた件の劇場版ですよ。同時上映がネメシス戦域の強襲巨兵? SF二本立てです」

「昨日までは、ネリヤちゃんの映画だったよ!」


 そう説明する二人だけど、祈念には何が何だかわからない。

 それよりもこのわずかな時間に、食事と仮眠を取らなければということで、早々に二人との会話を切って自室へと戻っていった。


「うわ、有馬とーちゃん、すごく機嫌がいいね」

「そうみたいね。日本の防衛省でも講義を頼まれていってきたらしいんだけどね、誰もお父さんの話が理解できなくて時間の無駄だったって怒っていたからね」


 そもそも。

 関係各庁の偉い人や研究員が雁首揃えて講義に参加しても、最初の十分で退室するものが後を経たなかったらしい。


『ではまず最初に、魔導兵器の開発について説明しよう。必要なのは魔力変成と錬金術、そしてナノマシンクラスの魔力コントロールだが、この部屋にいるものたちは皆、その辺りはクリアしていると考えて話をしようじゃないか。魔力の核である部分、すなわち……』


 という切り出しで話がはじまったところで、ついていけるのは乙葉浩介とヘキサグラムの研究員たちのみ。

 しかも、ヘキサグラムでさえ、かなりのものが頭を悩ませるレベルの会話であろう。

 まともに相手をできるのは、有馬祈念の開発計画を全て実行できる乙葉浩介ぐらいである。


「まあ、昔のお父さんは発明にしか興味がなかったけどね。いまは、乙葉先輩たちと付き合うようになって、丸くなったんだよ」

「うん。アイアンメイデン・マークスリーも搭乗者に優しい設計だったよね。リナちゃんのツァリプシュカも、さらに改良されたし」

「小型魔力炉かぁ。本当に、人類にとっては夢のエネルギージェネレーターだよね。それを作れるのがお父さんと乙葉先輩だけなのが、残念だよね」

「二人もいる!!」


 そう。

 二人いれば作れる。

 それに、材料さえあるなら、乙葉の量産化プロダクションで増産可能。

 世界で最も自然に優しいエネルギージェネレーターだけど、自然界の魔力に限りがある世界では、それが世界中に席巻することはない。

 つまり、この騒動も一過性のものであり、有馬祈念の理論を理解したものは、それを実践することが不可能であると理解する。


「さ、映画が始まるので、そろそろ行きましょうね?」

「あいあいさ‼︎」


 『アイアイ、サー』が本当であり、この場合は沙那は女性なので『アイアイ、マム』が正しい。

 でも、言葉の流れ的にアイアイサーの方が使われることが多いので、リナちゃんは多用しているだけ。

 そんなこんなで、のんびりと映画を観にいく二人であった。


………

……


 ダイヤモンド・プリンス号、有馬祈念の部屋


 (いつもよりも)のんびりと食事をとり、(わずか二十分の)仮眠をとる。

 普通の人間なら疲労など抜け切れるはずもないが、有馬はベッド横に置いてあるケースから瓶を一つ取り出して、一気に飲み干す。


──グビッグビッ・ホワワーン

 身体中に活力がみなぎっていく。

 いくらマッドサイエンティストでも、四日ぶっ通しの講義など不可能。

 肉体の疲労は脳の活性を低下させる。

 それを補っているのが、『現代の錬金術師』である有馬祈念の作り出した秘薬である。

 どこにでもある素材を近所のスーパーで購入。

 それを【賢者の石】によって魔導変性させた素材を用いて作っている。

 僅か100mlの量で、約三日分の活力と超回復力が手に入る代物であり、乙葉でも作り出すことができない。


 そもそも、乙葉では賢者の石を作り出すことができないので、やはり錬金術師としては有馬の方が上である。

 稀代の錬金術師であるファウストの血筋であり、その膨大な遺産を継承した有馬。

 保有魔力が乏しいことを除けば、乙葉浩介には決して引けを取ることはない。


「さて、仮眠も取ったことだし、魔力炉のチャージ状態を確認するとしようか」


 備え付けのクローゼットから、銀色のアタッシュケースを取り出す。

 それを開くと、実にスチームパンクなデザインのエンジンが姿を表した。


──シュンシュンシュンシュン

 蒸気のように気化廃棄魔力を吐き出し、取り付けてある魔晶石に魔力を蓄積している魔力炉。

 その中心にあるゲージを確認して、半分ちょいまで蓄積されているのを見ると、有馬は満足そうに頷いている。


「希望的予測よりも、現実予測値の方が高い。つまりは蓄積量が予想よりも上回っている証拠じゃないか。魔力コンバーターや感応板を変えてよかったな……と、それはまあいい。それよりも、ここは私の私室のはずだが。何か用事かな?」


 ふと、部屋の入り口に立つ男を見る。

 黒いコートに身を包み、深々と帽子をかぶる少し小太りな男性が、そこに立っている。


「ええ。头儿の依頼でして。そこの魔力炉を受け取りに来ました」

「ふん。大方、崑崙八仙の依頼というところか?」

「いえ。そちらは関係ありませんね。まあ、おとなしく渡してくれるのでしたら、こちらとしても手荒なことは致しませんので」


 帽子を外しつつ、黒い丸眼鏡をグイッとあげる男。

 その姿を見て、有馬はなるほどなぁ、と納得した。


「ふん。どこのどいつかと思ったら、あの男の狗だとはなぁ。これはまだ実験段階で、速やかに渡すわけにはいなかいのだよ。わかったら、とっとと帰り給え……馬導師よ」

「ほう、やはり私のことはご存知でしたか。では、私がそのような話を聞いて、手ぶらで戻るとも思っていませんですよね?」


──バラバラバラバラッ 

 馬導師と呼ばれた男のコートの裾から、大量の札が落ちてくる。

 それは床に落ちて山のように盛り上がると、人形を作り出して立ち上がり始める。


「日本の陰陽府にも、呪符師というものが存在する。その術に近いようだが、まさか魔族でそれを使えるものが存在するとはなぁ」


 そう呟きつつ、有馬は魔力炉のレバーの一つに触れると、それを力一杯引いた!


──プシュゥゥゥゥゥ

 大量の気化廃棄魔力が噴き出すと同時に、目の前の人形が元の紙屑に変化する。


「有馬、貴様、何をした!」

「魔力炉の吸収効率を上げただけじゃよ。これを調整しないと、吸収範囲内の魔素枠が干からびるレベルで魔力を集めてしまうからな。そのリミッターを解除した、つまりは‼︎」


──プシュゥゥゥゥゥ

 馬導師の体から、漆黒の霧が噴き出して魔力炉の吸気口に吸い込まれていく。


「や、やめろ、すぐにそれを止めるのだ!」


──ガチャッ

 大慌てで懐から銃を引き抜いたが時遅し。

 すでに干からび始めた腕は握力を失い、銃を床に落とす。

 そして馬導師の体もみるみるうちに小さくなり、最後はミニチュアピッグの姿になり、ピクピクと痙攣している。


「ふむ。馬導師よ、君の敗北した理由は一つだけ。私が魔力炉を取り出した時に襲わなかったことだよ。私はこうみえても、魔術については詳しくはない。だが、知り合いには魔族はいる。当然、各国の対妖魔機関に雇われているフリーランスの魔族のデータベースも持っている」


 そう話し始めると、馬導師が目を覚ましてピギーピギーと文句を言っている。

 黒丸眼鏡に髭を生やしたミニチュアピッグ。

 それを抱き上げながら、有馬は話を続ける。


「馬導師……正式名称は馬天佑じゃったな。確かわしのデータベースでは、伯爵級魔族でオーク亜種じゃったよなあ」


 そう問いかけるが、馬導師は有馬の腕の中で不満そうな顔で横を向いている。


「まあ良い。ここまで魔力を抜かれたなら悪さはできないじゃろうからな」


 そのまま部屋の扉を開くと、そこに馬導師を置いた。


「しかし、オークなのに馬という名前もどうかと思うがな。ほれ、どこにでもいってしまえ。クルーに見つかったら閉じ込められるだろうか。逃げた方が良いぞ? 霧散化するだけの魔力も残っておらんから、腹一杯食べて回復するしかないだろうけどな」

「ピギーピギー(このカリは必ず返すからな、覚えておけ!)」


 散々文句を言ってから、二足歩行でダッシュで駆けていく馬導師。


「やれやれ。この調子だと、すぐにも必要魔力は補えてしまうか。しかし、あの馬導師程度の魔族の魔力で、ここまでチャージが進むとはな……おっといかん、予定時間を三十分も過ぎているではないか。急いで戻らなくては‼︎」


 部屋の鍵を閉じて結界装置を起動させると、有馬は会議室へと戻っていった。

 その姿を、ある目的でダイヤモンド・プリンス号に乗り込んでいたジェラール・浪川ともう一人の女性がじっと見ていた。


「あの馬導師をあっさりと斥ける……か。一筋縄じゃ、あの人の協力は得られそうにないな……」

「ええ。マグナムさまからの依頼を遂行するには、彼の力は必要不可欠。あなたには依頼料を支払っているのですから、しっかりとお願いしますよ」


 濡れたような黒髪に赤いチャイナドレスの女性が、ジェラールに話しかける。

 それを面倒くさそうに聞いてから、ジェラールは反対側の通路へと向かっていった。


「ふふふ。全て計画通りね……マグナムさまが魔人王になるために、そして封じられた世界を解放するために……」


 そう告げてから、女性は霧のように消えていった。

 


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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― 新着の感想 ―
[一言]  元ネタのでなくて良かった。あれヘルシング機関の旦那とガチバトル出来る生き物だからなぁ。バラバラにして七つの海にまき散らしても復活するとか始末に悪いってレベルじゃないし。
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