第二百十三話・急転直下、家宝は寝て待たなくてもきた?(状況は、静かに悪化しています)
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乙葉くんと築地くんが、フラットさんを取り戻すために地下へ向かいました。
私たちは合流した白桃姫さんとクリムゾン・ヴェーラさんと共に、このヘキサグラム・ニューヨーク支部からの脱出するための算段をしているところです。
「ふぅむ。確かに、ここからは『魅惑のフラット』の魔力も感じるのう」
「それと、ヤバいやつもな……なあ白桃姫、この気配ってよ、伯狼雹鬼じゃねーのか?」
「じゃろうなぁ。さて、前門の虎後門の狼とはよく言ったものよ」
──ブゥン
白桃姫が両手を左右に広げる。
すると、半円球の結界が、私たちを包み込みました。
その直後、周囲から襲いかかってきた機械化妖魔は、この結界に阻まれて近寄ることもできません。
「小春と雅、それとセレナといったか。今しばらくはこの結界で身を護るが、最悪の場合は、鍵を使って妖魔特区へ逃げることも考えた方が良いぞ」
「え? それってどういう事ですか?」
「まあ、ヤバい奴がいる。俺はガキどもの援軍に向かうから、ここは任せるぞ」
「うむ。久しぶりに暴れてこい」
白桃姫がそう告げると、クリムゾンさんは腰の巨大な剣を引き抜き、結界の外にすり抜けていきます。
──ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴァァァァァァ
乙葉くんのような絶対火力の魔法とも、築地くんのような優雅な拳の舞とは異なる、無骨な剣の攻撃。
敵の攻撃など気にすることなく、ただひたすらに剣を振り回す。
それは、まさに力の暴力そのものと言っても過言ではないでしょう。
「白桃姫さん。クリムゾンさんは攻撃を受けても平気なのですか?」
「うむ。この周りにいる出来損ないの攻撃程度では、クリムゾンの竜鱗を貫くことなど不可能じゃな。現代兵器を搭載した妖魔、そう聞けばいかにも強そうに聞こえるのじゃが、霧散化能力を封じられ、妖魔固有の魔力攻撃を近代化した兵器もどきに、我ら上位魔族が遅れをとることなど皆無じゃな」
──ドッゴォォォッ
白桃姫の言葉のすぐ後で、クリムゾンさんが結界に向かって力強く叩きつけられています。
さらに両足を掴まれて持ち上げられると、右へ左へと地面に向かって叩きつけられているじゃないですか!
あ、クリムゾンさんの瞳から光が消えました!
あれって気絶ですよね? ヤバいですよね!
「あ、あの、白桃姫さん?」
「ふむ、一方的じゃのう。ちなみにじゃが、妾たちは肉体構成を行なった際には、内臓その他も人間と同様に変化する。結果として、人と同じものを食べ、そこから精気摂取するのじゃが」
「クリムゾンさんは、外傷は一切つかないけれど、衝撃はそのまま体内に蓄積されるのですか?」
「雅よ、その通りじゃ‼︎」
「強治療っ‼︎」
すぐさま結界内から、クリムゾンさんに向かって遠隔の強治療を発動します。
いえ、なんで白桃姫さんはそんなに冷静なのかわかりませんが、とにかく目に見えない怪我がひどいかもしれませんから!
──プシュゥゥゥゥ
「ほう、癒しの術式か。これはまた、大したものだ」
地面に叩きつけられていたクリムゾンさんが意識を取り戻す。
すると、両足に力を込めて機械化妖魔の腕から逃げました。
「あの機械化妖魔は、ヘカーテという魔族を機械化した、膂力特化型なのですよ。その力から、ああもあっさりと抜けるとは!」
「だそうじゃ。クリムゾンや、随分とやられていたようじゃが、代わるか?」
「お前に代わったら、建物ごと消滅するわ。ここの建物の特性なのか? 俺の体から魔力がどんどんと抜けていくような気がする!」
「ええ。ヘキサグラム・ニューヨーク支部は、要塞内に魔力吸収素材を使用していますから。これがなくては、機械化した魔族が暴走すると危険ですからね」
自慢げに告げるマクレーン主任。
どこまでも最新鋭。
このような場所が、アメリカにあるだなんていまだに信じられません。
それこそ、日本がどれぐらい魔族に関しての研究が遅れているのか理解できました。
そしてクリムゾンさんの声を聞いてから、白桃姫が肩から下げている水筒から魔力玉を取り出します。
「とりあえずは、これで我慢せい‼︎」
──ヒョイッ……ガリゴリッ
軽くクリムゾンさんに向かって投げると、それを受け取って口の中で噛み砕いてます。
「うっわ、まずい。誰の魔力玉だ!」
「忍冬警部補じゃ。試しに作らせてみたが、どうじゃ?)
「口直しだ! あとで口直しを要求する!」
──ズババババザゾァォァォッ
減らず愚痴を叩きながらも、クリムゾンさんはヘカーテと呼ばれている機械化妖魔をバラバラに切断しました。
「これで、ここはあらかた片付いた。白桃姫たちは逃げろよ、俺はガキを助けてくる」
そう叫びながら、クリムゾンさんが走り出します。
「そ、そんなに危険なのですか?」
「うむ。相手は伯狼雹鬼、そんじょそこらの魔術師では互角にも戦えぬわ。あやつの相手をまともにできるのは、兄弟であった奴らと、聖徳王だけじゃったらしいからな」
「それほどに!!」
「うむ。奴のオリジナル技『跳躍爪撃』は、初見では見切るのは不可能じゃ。こう、腕を振るって爪の先から魔力のこもった衝撃を飛ばしてきてのう。目標となったやつは、気がつくと三本の爪によって身体を切断され、絶命するという……」
腕を組んで説明してくれる白桃姫。
すると、瀬川先輩の様子が何かおかしい。
深淵の書庫の中で何かを探し出し、それを外側に映し出しました。
「白桃姫さん、この事故、この飛行機の傷って、まさか伯狼雹鬼のものですか‼︎」
それは、先輩が巻き込まれた飛行機事故の映像。
窓から偶然撮影された映像は、翼が三本の爪によって切り裂かれたシーンが映し出されています。
そして回収された飛行機の残骸、それにも無数の爪痕が残っていました。
これはニュースでは流れていない、秘匿された映像らしいです。
「ほう、ほうほう。紛れもなく伯狼雹鬼のものじゃな!」
──ザワッ
その瞬間。
瀬川先輩の中の何かが、弾けました。
全身から『妖気』が噴き出し、身体を纏っていた神装白衣の形状が変化を始めます。
「せ、先輩!」
「コハール、これは何事ですか! 先輩の身体から、高濃度の妖気が発せられています!」
「落ち着け雅! そなたの父を殺したのは伯狼雹鬼かもしれぬが、そもそも戦闘タイプではないお主では勝ち目などないぞ‼︎」
「それでも、私は、父の仇を取らなくてはなりません!」
──ダッ!
勢いよく走り出す瀬川先輩。
あんな憤怒の形相をしているのを見たのは、初めてです!
………
……
…
まさか。
私たちの乗っていた飛行機を襲った妖魔、それが伯狼雹鬼だなどとは思っていませんでした。
いえ、前に乙葉くんたちから伯狼雹鬼の話を聞いた時、何か嫌な感じはしていたのです。
井川巡査長の家族を殺したのも伯狼雹鬼、そして今もなお、世界各地で魔障をばら撒き、魔障中毒を引き起こす悪の権化。
その実力は、魔人王とも互角と言われている存在。
それが、私の父の仇!
「お、おい待たぬか! 雅では相手にもならぬぞ!」
「それなら、相手になる力があればいいだけです、その力を得られたら!」
『ピッ……王印に封じられている力を開放しますか?』
どうして深淵の書庫がこのタイミングで動くの?
それに、封じられている力の開放?
「深淵の書庫、それはどういう意味か、簡単に説明して‼︎」
『ピッ……いつか、この日が来るとあなたの父は予測していました。その時のために、封じられし王印を伯狼雹鬼から護るために。雅さま、記憶をお返しします……』
「返す? それはどう言うことなの?」
そう叫んだ時。
私の頭の中に、記憶が甦ります。
幼かった私を抱きしめてくれた父。
生まれてからの記憶、成長する私。
それを、私の父と母は、ずっとそばにいて見守ってくれていました。
私の父の仕事は、貴金属メーカー社長。
海外から貴金属を輸入し、販売しています。
でも、私が忘れていた記憶では、私の父の販売していた貴金属の一部は『封印媒体』。
イギリスのアヴァロン機関との契約により、ミスリルの精製を行っています。
そして、私の記憶の中で。
父は、歳をとっていなかった。
「深淵の書庫! 私の父のデータを!」
『ピッ……』
眼鏡のレンズ越しに深淵の書庫が展開する。
そこに映し出されたものは、私の知らなかった父。
『雅さまの父は、魔族です。公爵級上級魔族、個体名は銀狼嵐鬼。伯狼雹鬼、黒狼焔鬼の兄弟にあたり、かつて二代目魔人王が浄化された際、王印を手に兄弟たちから離反した存在です……』
──ブゥン
手の中に浮かび上がる王印。
でも、それは完全なものではない。
父であった銀狼嵐鬼と伯狼雹鬼が、王印の奪い合いにより二つに分たれたものの片割れ。
それを取り返すために、伯狼雹鬼は私たち家族を狙い、襲いかかってきた。
結果として父が殺され、私と母は重傷となり病院へ運ばれることになりました。
そして、父が死んだことによりこの世界の王印の片割れは、また何処に消えたのかと伯狼雹鬼は推測し、私たちの前から消えたと思われます。
「……それじゃあ、私の父が魔族で、私が王印を持っている。父は、私の中に王印を隠したの、何故?」
『ピッ……雅さまは、銀狼嵐鬼さまの血を受け継ぐ存在。その体内に封じられた魔力を、外に放出しないと言う特異体質であります』
信じられない事実。
でも、それならそれで。
私は父に利用されていたのかもしれない。
でも、あの事故の時、私と母を庇って怪我を負った父は、いつもの優しい父でした。
その父を殺した伯狼雹鬼が、今は私たちの仲間を、大切な友達を殺そうとしている可能性があります。
「王印。その全ての力を私に……」
『ピッ。王印の全ての記憶と能力を、深淵の書庫が継承。深淵の書庫は、戦闘領域を展開可能となります』
「了解!」
この階段。
この下で、築地くんと伯狼雹鬼が戦っているのがわかる。
そして、築地くんが危機に陥っているのも理解できます。
全て、この眼鏡に投影された深淵の書庫が教えてくれました。
「神装白衣を展開。戦闘モードに切り替えてください」
『了解です。【神葬モード】を解除します。セカンドモード、二代目魔人王の能力を白衣に封印。効果時間は450秒』
それだけあれば、築地くんを回収して白桃姫の元に連れて行ける。
なぜ、そう思えるのかわからないけれど、深淵の書庫を通じて、歴代の魔人王の能力が私の中に流れてくるのが理解できます。
キャパシティを超えないように、その力は白衣に集められ、戦闘用に進化を開始していました。
「間に合う、加速してください‼︎」
私の祈りが届いたのか、目の前の光景が一瞬で切り替わりました。
階段の上から、地下の駐車場へ。
そして、そこで片膝をつきつつも倒れずに、拳を構えている築地くんと、その前で無傷で笑っている人狼……伯狼雹鬼が立っていました……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
 





