第二百十一話・絶体絶命
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ニューヨークのヘキサグラム研究施設。
セクション5、つまり対妖魔兵器関係のセクション。
ここに逃げ込んだ妖魔達を追いかけてやってきたものの、セレナさんが施設内に入る許可を取ってくれた。
そしていざ、敵陣に乗り込もうとしたんだけどね。
──プシュゥゥゥゥゥ
エアロックが解除され、扉が開く。
正面施設の入り口が開くと、そこから眼鏡をかけた白衣の人物が姿を現した。
メガネ姿に銀髪長髪、まあ、そこそこに背は高いかな。
「ほう、本当にセレナじゃないか。お父さんは元気か?」
「はい、マクレーン主任もお元気そうで何よりです。紹介します、彼らは私の日本の友人で……」
セレナさんは、そのまま俺たちを紹介してくれる。
俺がプロフェッサー・乙葉の息子と聞いた時は、感極まって抱きしめられたものだよ。
「改めまして。はじめまして、私がセクション5統括責任者のマーティ・マクレーンです。それで、セレナ達が来た目的は? まさかこれだけのメンバーを集めて、見学だなんてことはないよね?」
「はい。実は、私のお母さんを攫った妖魔を追跡して、ここに来ました」
あっさりと。
それ、ここでバラしていいのかって聞きたくなったけどさ。
それだけマクレーン主任を信用しているんだよなぁ。
「ははぁ。思い当たる節が一つあるな」
すぐさまマクレーン主任がスマホでどこかに連絡している。
そして笑顔で俺たちに一言。
「ここは対妖魔兵器の研究施設でね、実験体としての妖魔も数多く存在する。協力的なものたちには、それなりの自由もあるが、敵対し捉えた妖魔達を収監している施設もある」
「妖魔を収監! 奴らは精神体になると壁でもどこでもすり抜けますよ?」
「ははぁ、それが日本の常識か。残念ながら、精神体の妖魔でもすり抜けられない物質は存在するんだよ。それに囲まれるとね、魔力を外部からも確認できなくなる。まあ、立ち話もなんなので、ついてきたまえ」
そのまま案内されたのは応接間。
そこで一旦腰を落ち着けるように促されたので、ようやく警戒モードを半分だけ解く。
「先程の話ですが、この研究施設の全て、正確には外部構造材にその対妖魔物質がコートされているということですか?」
「ああ、その通りだよ。君は……瀬川さんだったね。察しがいいし、よい判断だよ」
「お褒めに預かり、光栄です。つまり、人為的な内部告発でもない限りは、この直下にいる妖魔達を逃すことは不可能だということですね?」
あえて、逃げるという方向で話をしているが、本質は別。
この第五セクションは、犯罪を起こすような妖魔と手を組んでいるのかという問い掛けだろう。
その問いかけにも、マクレーン主任は冷静に。
「遠回りな質問だね。じゃあ、ストレートに説明するよ。地下にいるらしい妖魔たちは、フリーランスの何でも屋。『タイタン』っていう妖魔のチームでね、はぐれ妖魔の捕獲だったり、犯罪を犯した妖魔を捕らえたりしてもらっているらしい」
「らしい? 責任者として、その仮定的な言い方は問題がありませんか?」
「はっはっ。君は手厳しいね。私は報告書にはしっかりと目を通している。彼らを雇った部署の責任者にも確認は取っているけれどね、ここの外で彼らが何をしているかなんて、それこそ相手は妖魔だから霧を掴むような状況だよ」
つまり、仕事の依頼で動いていること以外は、全くわからないということか。
それよりも、急いで向かった方がいいんじゃないか?
そう俺が思った時、部屋の扉が開いた。
──シュンッ
「失礼します。マクレーン施設長、何か御用と伺いましたが」
細身つり目の研究員が室内にやってくる。
インテリ嫌味っぽい顔つき、どことなく耳が尖っているように見えるのは、気のせいだろうか?
そして、彼の体からも、僅かながら魔力が感じられる。
一般的な人間のキャパシティを超えた、なんというか、魔術師とかのレベルの奴ね。
「ああ、彼はネスバーズ。ここのセクションでは妖魔の研究チームの主任を務めている。彼らは……セレナさんは知っているだろう? それとプロフェッサー・乙葉の息子さんだよ」
「ネスバーズ主任、ご無沙汰してます。実はここに来た理由はデスネ」
──ガチャッ!
マクレーン施設長が俺たちを紹介した瞬間、ネスバーズが懐から銃を引き抜いて俺たちに構えた!
「何故だ! どうしてセレナがここにいる! どうしてマグナムさまの命令を無視して、乙葉浩介をここに連れてきた!」
「ふぅ……参ったね、これは」
この状況でも、マクレーン施設長は動じることなく、困った顔でネスバーズを見ている。
「まさか、施設内に敵対者と内通しているものがいるとはねぇ」
「う、煩い! もう少しだ、あと少しでマグナムさまが魔人王になる。そうなれば、この地上も全て魔人王さまのものになるんだ……そうなれば、ここのセクションの責任者も、ヘキサグラムも俺のものになるはずだったんだ!」
「「 解説、乙‼︎ 」」
すぐさま新山さんが、背後で先輩の横に移動。
それに合わせてセレナさんの手を引いて近くに引き寄せると、先輩が深淵の書庫を発動。
俺は魔導紳士モードに換装してマクレーンさんの前に飛び出し両腕を交差して身構え、祐太郎も魔導闘衣に身を包んでネスバーズの懐まで踏み込む!
──パパパパァァァァァン
掌底で奴の顎に一撃、さらに銃を構えた右腕の内側から外に向けて打ち流し、腹部目掛けての勁砲。
これでネスバーズは後ろに吹き飛ぶ。
銃を持つ手が弾かれたので銃は床を転がり、マクレーン主任の前に。
え、いや、転がる軌道がおかしくないか?
横に吹き飛んだはずなのに、なんで前に飛んできた?
そう思っていたら、祐太郎の前でフラフラになったネスバーズが血まみれになっていた。
「ゴビォッ!!」
「ブライガーを使わなかったのは情けだ。人間なら死んでいるからな」
「が、ご、ごの化け物がふヒャぁぁ」
口元の血を拭い取って立ち上がると、ネスバーズが白衣の胸元を破り捨てる!
──ビリィィィィィッ
「止めだ止めだ! もうこんなくだらない茶番を続ける気はない! 野郎共、こいやぁぁぁぁぁ」
叫びながらポケットから取り出した何かを握りしめ、ポチッと先端のスイッチのようなものを押した!
そして破けはだけた胸元には、何かの機械的ギミックが組み込まれ、怪しげに点滅しているじゃないか。
「うわ、ネスバーズも機械化兵士だったのかよ‼︎」
「ほう、その名前を知っているとは、さすがはプロフェッサーの息子。だが、そのような小さなものとは違う!」
──ヴィーーーーーーン、ヴィーーーーーーン
ネスバーズが俺に向かって歓喜の笑みを浮かべて叫んでいると、室内にある警報機が真っ赤に輝き、施設内に英語のアナウンスが響く。
『サードプロテクトが解除されました。研究施設内の各セクション防御壁の解除、対妖魔結界の解除を確認。各セクションリーダーは、指定されたエリアに避難してください……繰り返します……』
「うわ、なんだこれは‼︎」
「ネスバーズが、セクション5の安全装置を解除したんだ。これで施設内の妖魔達が解放された……いつの間に、それを手に入れていた!」
「ヒヤァーハッハッハァァァ。全てはマグナムさまのためだ。いつか来る日のために、対人間用兵器搭載型妖魔を研究し、我らが味方とするためにな……このネスバーズ、十二魔将第一位マグナム四天王が一人……この日が来るのを、ずっと待ってフベシッ‼︎」
──ドッゴォォォドォッ
素早く顔面目掛けて拳を叩き込む祐太郎。
しかも、四天王が一人まで聞いた瞬間に、拳にブライガーを装着していたわ!
「妖魔なら、手加減は必要ないか。オトヤン!」
「ほいきた! 無詠唱、封印っっっ」
──キィィィィィン
素早く右手で印を組み突き出す!
左手には封印媒体であるトルマリンの指輪。
これで指輪にネスバーズが封じられ……ないだと?
「乙葉くん。彼ら機械化妖魔には、封印は効果を発揮しない。さまざまな兵器を実体化した肉体に術式融合しているからね……それを進めていたのは、まあ、察してくれるといいのだがね」
「その通りだぁぁぁぁ。俺たち機械化魔族を、機械化兵士などというおもちゃと一緒にするな、我々は、魔族を超えた存在、即ち機械化妖魔なのだかフバシッ!」
──ドッゴォォォン
何か勝ち誇ったかのように叫んでいるネスバーズだけど、祐太郎の一撃が胸部機械を吹き飛ばし貫通した。
「機甲拳一の型。振動衝撃拳……実体があるなら、逆に俺には都合が良いんだが」
一撃で左胸が貫通し、背後の壁に魔人核が叩きつけられた。
「あ、が、そ、そんな馬鹿……な」
ネスバーズは慌てて振り向き、魔人核に手を伸ばす。
だが、それよりも早く、俺の光弾が魔人核を
──バッギィィィン
はい。
マクレーン主任が手にした銃で、魔人核を一撃で粉砕しました。
しかも、その銃って帯電しているよね?
小型のレールガン? そんな馬鹿な。
「マクレーン主任、サードプロテクトが解除されると、どうなりマスカ?」
「隔壁によって隔離されていた妖魔たちが動き出す。
まともに餌も与えられていないものが大半だ、奴らは餓えを凌ぐために人を襲うだろう……その後で、施設から外に出るか、または施設を占拠して新たな力を手に入れるか」
「オトヤン、それよりもフレイアさんの救助だ。このどさくさに逃げられる可能性がある‼︎」
「応さ‼︎」
急いで部屋から出ようとしたんだが、部屋の外から、大量の妖魔の反応が接近してくるのがわかる。
「外から機械化妖魔とかいうのが接近してくるわ。その数、30以上!」
「なんでここに向かって?」
そうつぶやいたものの、予想はついているよ。
「まあ、濃厚な餌が、此処にあるからだよなぁ」
「で、す、よ、ね〜。それじゃあ、おとり兼追跡部隊として、俺が外に出る。その間に先輩たちはマクレーン主任を連れて施設から脱出してくれ!」
これについては、反対意見は却下ね。
「魔力放出‼︎」
──ゴゥゥゥゥゥ
全身から魔力を吹き出す。
すると、外にいる妖魔の動きが、心なしか壁のこっち側の俺に集中したように感じる。
さあ、一世一代の大脱出劇、派手に幕を開けようじゃないか!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




