第二百十話・危機一髪、四面楚歌とも言う(敢えて、敵の懐に飛び込んだのかな?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
──ブロロロロロロロ
俺の眼下では、三つの魔族反応を示すワゴン車がニューヨーク方面へと走っている。
ちなみに俺は、ターゲットが有視界に入る前から、透明化の指輪で姿を消していた。
さらに魔力コントロールで、対外に流れる魔力を限界まで抑え込み、何処に逃げるのかを確認する事にしたんだよ。
いや、走っている車両目掛けて攻撃するなんて無理だし、そもそもセレナさんの母親が人質に取られているんだよ?
母親を盾にされたなら、打てる手が半分以下になるからね。
「こちら乙葉。ターゲットの車両に辿り着いた。ゴーグルのデータを送りますので、ターゲットロックをお願いします」
『了解。深淵の書庫、念話受信モードから乙葉くんのゴーグルとリンク……ターゲット補足したわ、そちらのゴーグルはカットしても大丈夫よ』
「了解です。そちらの状況はどうなっていますか?」
他の魔族の動きも気になるところだから、確認のためにね。
『一番魔力の高い妖魔の車は、どうやら鳩の追尾がバレたらしい。鳩が攻撃を受けて、新山さんがパニックになったけど、すぐに落ち着いた』
「は、はぁ? なんでそうなったの?」
『……新山です。とりあえず鳩は再生しましたので、追尾を再開しています。このまま鳩を使ってニューヨーク方面から引き離しておきます』
『戦う相手は、できる限り少ない方がいいからな。新山さんには鳩のコントロールを任せているし、俺がディフェンスにまわっているから、セレナさんのお母さんの奪還はオトヤンに任せる』
「了解。そんじゃ、奴らがどこに逃げ込むのか確認するとしますか」
そのまま追尾を続行。
車の動きから察するに、俺が追跡していることはバレていない。
あとはアジトなり隠れ家なりに戻ってくれるのを待つだけだ。
………
……
…
「奴らは無事に撒くことができたようだな。まあ、あとは隠れ家に向かって静かにしていれば良いさ」
「俺たちの任務は。フラットの身柄の拘束、そして奪還阻止。マグナムさまに連絡を取れなくなったのはやむを得ないけど、あの場所なら連絡する手段などいくらでもある」
「そうそう。蛇の道は蛇、俺たちの発する魔力は、建物の外には流れないからな」
まるで勝利したかのように呟くマルチプルと仲間たち。
やがてニューヨークに到着すると、真っ直ぐにガバナーズ島へと車を向かわせる。
そこにある旧軍事施設のあった場所には、最新鋭の要塞のような施設が佇み、外部からの接触を拒むかのように巨大な門が閉じられている。
ここはヘキサグラム、ニューヨーク方面総監部。
別名がセクション5『ガバナーズ・フォートレス』。
機械化兵士の拠点であり、対妖魔研究機関の本拠地。
その正門に向かうと、マルチプルは懐からパスポートを取り出して提示する。
「……確認完了。ナンバー3エリアへの移動を許可する」
「ああ、助かる。それで、ネスバース主任はいるのか?」
「いつもの場所で研究三昧だよ。お前たちの権限じゃあ、そこに移動できないのは知っていると思うが。無断で別エリアへの移動は、セキュリティが動くからな」
「わかっているって。それじゃあ、通らせて貰うよ」
──ヴィィィィィィン
ゆっくりと門が開く。
そして誘導等の指示通りに車を走らせるマルチプル。
やがて地下通路を抜けて巨大な駐車場に到着すると、指定の場所にワゴン車を止める。
「この時間なら、誰にも見つかることはない。入り口でネスバース主任の名前を出したから、ここの区画の監視カメラも今は止められているはずだからな」
「ああ。いつも通り手筈がいい。持つべきものは、上級魔族さまざまだ」
毛布に包まれたフラットを担ぎ、マルチプルたちは研究棟へと移動する。
そしていつも使わせてもらっている広い部屋に入ると、傍に置かれているベッドにフラットを放り投げ、ようやくソファーに体を沈めることができた。
「ここまで来たら安全だな。いくら現代の魔術師といえど、アメリカの対妖魔研究機関にまで干渉できるものじゃない」
「全くだ。それじゃぁ、逃げている奴らの安全を祈って、乾杯といこうじゃないか‼︎」
「ああ。俺たちの平和のために犠牲になってくれた奴らの冥福を祈って……乾杯!」
声高らかにワインを傾ける。
そしてテレビを付けると、ニュースを確認。
今のところ乙葉浩介たちのことがニュースに取り上げられている様子がないのを確認すると、マルチプルはようやく落ち着くことができた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「ニューヨーク‼︎」
はい、ボルチモアから州間高速道路95号線ニューヨーク乗ってニューヨークにきました、俺ちゃんだよー。
ターゲットのワゴン車を追いかけていると、どうやらニューヨークのアッパー湾に浮かぶ小島にやってきました。
連絡橋を超えてガバナーズ島ってところにやってくると、そこにある巨大な要塞へと吸い込まれていきましたとさ、めでたしめでたし。
めでたくないわ!!
「こちらオトヤン。ここは何処だろ?」
『知らんわ、もっと具体的に地名を教えてくれるか?』
『乙葉くんのいる場所は、恐らくはニューヨークのガバナーズ島ね。その中の建物で魔族たちの反応が消えたのですけど、乙葉くんが仕掛けたのかしら?』
『まさかでしょ? セレナさんのお母さんが捕まっているのに、仕掛けられるはずがないじゃないですか』
たしかにそうなんだけどさ。
でも、妖魔の反応が消えたんだよ。
俺のゴーグルでも、クルマが要塞の内部に入っていった瞬間に消失したから。
『オトヤン、セレナさん曰く、そこはヘキサグラムのニューヨーク支部らしい。彼女の知り合いの主任がいるらしいから、合流してから向かう事にしよう』
「あ、そういうことね了解。それじゃあ上空で待機しているわ」
話が早いよなぁ。
やっぱりセレナさんにも、ルーンブレスレットは必要だよなぁ。念話で直接話ができたら、もっと話がスムーズに進められたかもしれないからさ。
ちなみにここがニューヨーク支部なら、親父の名前を出したとしても無理なのか。
セクションが違うと、色々としがらみもありそうだからなぁ。
やがて眼下の連絡橋を、祐太郎たちの乗った車が駆け抜けてくる。
その真横まで移動してステルスを解除すると、後部座席では疲労が限界の新山さんの姿。
「うわぁ、新山さん大丈夫か?」
「平気。初めての遠隔コントロールに疲れているだけだから」
「報告では、何度も召喚した鳩が破壊されて、その都度魔力を循環させて再生したそうデス」
「それでも、かなり遠くまでで追い詰めることができましたし、戦闘データは先輩の深淵の書庫に保存してありますので」
「そっか、おつかれさま……」
労りの言葉をかけてから、車は施設の正門前に止まる。
すると、正門横の警備室から、俺たちを手招きする男がいるので、まずはセレナさんが車から降りて行った。
「ハーイ。セレナ・アンダーソンです。セクション主任のマーティ・マクレーンさんに会いにきました‼︎」
「なんだ、マクレーン主任の娘さんか。あの車の連中は?」
「私の日本の友達です。見学したいということで案内してきました。ちなみにあの箒に乗って浮いているのは、プロフェッサー・乙葉の息子さんです」
うん、ここまで声が聞こえるよ。
そして見学扱いで施設内に立居いる許可が取れたので、パスポートを提示して書類にサイン。
──ヴィーーーーーーン
重厚な扉が開くと、俺たちは係員に誘導されて駐車場へと向かう。
そこからはセレナの案内で建物の中に移動するんだけど。
明らかに、俺たち、見られています。
透明化したセンサーゴーグルが、中級妖魔相当の反応をいくつも確認。
さらにいくつかは、上級妖魔相当。
しかも、先輩の深淵の書庫が、研究施設地下から、俺たちが追跡していた魔族反応を確認。
これって、つまりはそういうことだよね?
「新山さん、魔力回復は?」
「先程、二本飲みました。完全ではないですが、いけると思います」
「祐太郎、どっちでいく?」
「攻性ディフェンス。カウンター型防御」
「おっけ。じゃあおれが受動的アタッカーでいく」
「?????」
俺と祐太郎の言葉に、セレナさんはわからないらしい。
でも、はっきりも確認できるんだよ。
明らかな殺意の塊がね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




