第二百九話・五里霧中、喉元過ぎれば熱さ忘れるなぁぁぁ。(チェイス‼︎)
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俺と祐太郎、共に疲労困憊ではあるものの、待ち伏せしていた妖魔の撃退に成功。
え、妖魔じゃなく魔族?
敵対意思を持つものは、妖魔でいいんだよ。
族なんで付けないよ、妖しい魔で良いんだよ。
「おつかれさま‼︎ 診断……精神疲労だけですね、車で休んでいてください。築地くんも診断!」
駆け寄って来た新山さんが、俺と祐太郎に魔法を使ってくれる。
俺は精神疲労だけ、祐太郎はあちこちが打ち身だったり捻挫していたりと散々な状態。
「い、いや、この程度なら闘気治癒で治せるから」
「闘気治癒は、回復力の強化で時間が掛かるのですよね? 軽治療‼︎」
──シュゥゥゥゥ
両手を翳して祐太郎を治療する新山さん。
その光景を初めて見たセレナさんは、目を丸くしているじゃないか。
「え、あ、あれ? 東洋の聖女って、コハールの事ですか?」
「なんですか、その、仰々しい呼び方は」
「以前、機械化兵士の身体を治癒した魔法使いが日本にいるって、お父さんカラ聞いたことがアリマス。乙葉くんのことかと思ってましたけど」
「まあ、新山さんは癒しの勇者フベシッ」
──スパァァァァォァン
あ、いい一撃だわ。
祐太郎の失言を新山さんが素早く突っ込む。
セレナさんにも、そのうち話してあげることにしよう。
「築地くん、乙葉くん。さっき反応があった魔族は三手に分かれたわよ」
運転席側の窓を開けて、瀬川先輩が告げてくれた。
それならば、行くしかないでしょ!
すぐさま全員が車に乗り込み、追跡を開始。
「新山さんの魔法で深淵の書庫も魔力追尾が可能になったわ。でも、効果時間は長くないので、急いだ方が良いわね」
「三、三、四の三手に分かれてマース」
「そのうちの一つ、最初の三人には私が放った使い魔の鳩が追尾しています。どこから向かいますか?」
おっと、これは難しい問題だよな。
どれから向かうべきか。
「おそらくだけど、セレナさんの母親が居るのは四じゃないか?」
「なぜだ? って、あ、そういうことか。三人プラス母親で四人か」
「それで良いわね? 一番強い魔力波長は放置するのね?」
俺の言葉にそう問い返す先輩。
恐らくだけど、先輩は、新山さんの鳩が追いかけている『一番強い魔力波長』が、セレナさんの母親だと考えているんだろうな。
可能性としてはそれらしいような気もするんだが、祐太郎は四人説を推している。
「なあ祐太郎。乙女の敵スキルで、セレナさんの母親が何処か、この三つから割り出せるか?」
「会ったことない相手だから、難しいが……セレナの母親の危機というところをスキルが考慮してくれるかどうかだよな」
「それでもやれ‼︎ ロスタイムが勿体無いわ‼︎」
「わかった。それじゃあセレナさん、お手を拝借」
なんのことか理解していないセレナさんの手を、祐太郎が軽く握りしめる。
「……まだ弱いか。スキルが、セレナさんは知人レベルでしか反応してくれないな」
「築地くん、なんとからならないの?」
「……いや、手はあるんだが」
その手を使えや!
相手の命が掛かっているんだぞ‼︎
「築地くん、お願いシマース‼︎ 急いでください、手遅れになんてなりたくアリマセン‼︎」
「仕方ないか」
──ブッチュ
覚悟を決めたように、祐太郎がセレナさんの唇を奪う!
「「「はぁ?」」」
俺たち三人、同時のツッコミ……を入れる暇もなかった。
いきなりキスされて目を丸くするセレナさんと、何事もなく堪能している祐太郎。
このとっととハメ太郎が‼︎
──チュッ
「三人組の、魔力が高くない方のやつだ。そこにセレナさんの母親がフバシッ!」
──バッチィィィィィン
あ、セレナさんの平手打ち。
しかも驚いた拍子なのか、顔に黒い紋様が浮かび上がり、頭の横に申し訳程度についていたツノが後方に伸びていった。
「な、な、な、な、な、な、何するデスカ!」
「俺のスキルだよ。一度でも心を通わせた相手の方が、より強く発動する。まだ会って間もないから、心じゃなく肉体を通わせただけだ‼︎」
「うわぁ……」
あ、新山さんがドン引きしている。
「三人組で、魔力が高くない方ね‼︎」
──ガゴン、ブゥォォォオォオォォォォン
アクセル全開で走り出したんだけど、カーナビを見る限りじゃ、かなり道が複雑な上に速度が出せない。
「相手の方が街に詳しいわ。このままだと範囲を越えられる可能性がありますね」
「わ、私の鳩もそんなに持ちません!」
「どうするオトヤン、って、そうなるよな」
先輩たちの声を聞いた時点で、判断は一つ。
即時判断しないと、天狗のお面を被った師匠に怒られるんだよ、知っていた?
──ガチャッ
俺は、走っている車のドアを開く。
「祐太郎は新山さんたちの護衛を頼む。何かあったらルーンブレスレットで‼︎」
「応!」
そこからは高速モード。
車から飛び出してすぐに、右手に魔法の箒を取り出す。
あとは急上昇して座り直すと、新山さんには引き続き鳩を飛ばしてもらう。
『乙葉くん、ターゲットを変更して鳩に追尾させますね』
「いや、そのまま魔力が高い方を追いかけさせてくれるか。それも、ばれそうになるギリギリで」
『囮か。新山さん、コントロールできるか?』
『が、頑張る!』
そのまま高い方に『バレるように』飛んでもらい、俺たちがそっちを追いかけているように仕向けるのさ。
その間に、俺は先輩の深淵の書庫の指示を受けると、それをゴーグルに反映させる事にしたよ。
「ゴーグルゴー‼︎ 戦え大戦隊‼︎ 追尾モード、ターゲットは三人組の魔力波長、そして強くない方‼︎」
──ピッピッピッ
よし、センサーに反応。
あとは矢印を追い掛けるだけだ!
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──その頃の、魔力高い車両は
「俺だ、マルチプルだ。例の小僧はハートミラー島に誘導した。って言うか、あいつらが勝手にそっち行ったんだが……まあいい」
『テッケンとマンマルト三世が相手なら、たとえ魔術師といえども無事では済むまい。奴らは我らマグナム四天王の中では最弱であるが、合体技である【魔術反射】がある』
『まあ、テッケンが悪い癖を出さなければ無敵だからな。敵が哀れだわ』
「現代の魔術師、乙葉浩介と、その友人たちねぇ。できれば、俺たちが美味しくいただきたかったけどな。今日のところは、テッケンたちに譲るさ」
セレナが裏切り、よりにもよって現代の魔術師たちを連れて来やがった。
魅惑のフラットに付けられた枷があるので、フラットは魔力回路が使えない状態。
それはすなわち、魔力を生きる力とする我々魔族にとっては、死刑に近い。
事実、フラットもまた外部から生気を得ることができなくなっており、魔人核に流すべき魔力も狂いまくっている。
結果、自分の保有魔力を魔人核に向けて放出しなくてはならず、このままでは遅かれ早かれ魔力枯渇状態となる。
そうなるとどうなる?
そりゃあ人間にとっての死と同じ。
体が休眠期に突入し、自然回復を待つしかない。
その自然回復ができないのだから、魔人核は停止し、やがては砕け散る。
「まあ、フラットは餌だからな。セレナを使って魔人王継承の儀に参加するマグナム様のために、乙葉浩介を引き込むために。それが過ぎれば、あとは処分するだけだ」
ワゴン車の後ろには、枷をつけられて乾涸びつつあるフラットがいる。
それに、万が一にもテッケンたちが破れたとして。
奴らは、高い魔力を探って追いかけてくるに決まっている。
だから、別方面に囮としてサクリードたち三人を走らせたのだからな。
我らマグナム四天王の中では、最も大きな魔力を持つサクリード。
魔力だけが高い、予備バッテリーのような存在。
他者に魔力を与えることしかできないデブだからな。
『お、おいマルチプル。今調べたんだが、乙葉浩介には、武術家の仲間がいるぞ?』
「まじ?」
『マジまんじ。魔闘家らしく、武術の使い手だが、これって不味くないか?』
『不味いなんてものじゃない、テッケンがそれに気が付いたら。連携なんて無視して、拳を構えて【一手、お相手願おうか】が始まるぞ』
そ、それはまずい。
念話で聞こえてくる、流れてくるこの雰囲気。
俺はこれを知っている。
負けフラグだ。
「急げ、急いでボルチモアから離れろ‼︎ 何処かに身を隠せ、いいな、安全が確認できたらまた連絡する、それまでは念話も使うな‼︎」
『念話もか‼︎』
「相手は現代の魔術師だ、盗聴される可能性を考えろ‼︎」
『了解だ。俺は北に向かう』
『それじゃあ、俺は南だ。マルチプルはどこに向かう?』
「ニューヨーク。切り札はこっちにもある。相手が魔族なら手加減無用でくるだろうけど、相手が人間なら、果たして魔法を使えるかな?」
そうとも。
こっちにはまだ切り札がある。
とりあえず囮のファッティーには心からお祈りを申し上げて、俺はニューヨークへと向かうことにした。
………
……
…
マルチプルがニューヨークへ向かったか。
この世界の人間は、とくにアメリカにいる奴らは、何か事件があると『犯人はニューヨークへ向かう』ことが多い。
映画やドラマで、そういう展開が多いのを見たことがある。
だから、マルチプルには囮を買ってもらい、俺たちは南下するだけだ。
「な、なあシグナム。さっきからずっと、鳩が追いかけて来ているんだが」
「ファッティ。鳩ぐらいどこにでもいるだろうが」
「魔力を纏った鳩だけど、何処にでもいるかなぁ?」
──ガゴン、キュィィィィィン
すぐさまスーパーチャージーャーを起動させる。
それは鳩じゃねーよ、このアホが。
「スナイプ、鳩を撃ち落とせ‼︎」
「鳩は平和の象徴なので、俺は撃たない主義なんだが」
「お前もアホか? あれは現代の魔術師が送り出した偵察用、いや、もう俺たちを追尾している。このままだと、俺たちは現代の魔術師に襲われるぞ‼︎」
「待て、囮はマルチプルたちじゃないのか? ニューヨークに向かうのが囮だって、お前はキッパリと言い切ったよな‼︎」
「……前言撤回。いいかスナイプ、あの鳩を殺さなかったら、次に死ぬのは俺たちだ。だから根性を入れて落とせ‼︎」
──ブゥン
スナイプの右腕がライフル状に変化する。
元々スナイプは、手のひらから魔力弾を撃ち出す射撃特化型魔族で、こっちの世界に来てからは、ライフルに興味を持ち右腕を変化させた。
「外すなよ」
「甘い。俺の魔力弾は意思誘導型、外れても俺の意思で軌道を修正し、何処までも追尾できる」
──ドシュッ
そう呟いたスナイプが放った魔力弾。
それは鳩を一撃で貫通し、消滅させた。
「っしゃぁぁぁぁあ‼︎」
「ナイスだスナイプ、今夜の食事は金髪ねーちゃんの生気だ‼︎」
「まあ、この程度は難しくない」
「スナイプ、鳩が再生したよ?」
「「え?」」
ファッティの呟きで、思わず窓から外を見る。
そこでは、霧状に散った鳩が再生し、こちらを追いかけてくるじゃないか。
「に、ニトロスタート‼︎」
──ッゴゥォォオオオオオ!
この俺が改造した車を舐めるなよ。
こっちの世界に来て、仕事がなく困っていたところを助けてくれた車屋のオッサンから学んだ、最強の技術だ!
おい、スナイプ、ファッティ、しっかりと捕まっていろよ‼︎
俺たちは逃げるぜ、何処までもな。
この果てしない、カントリーロードを。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




