第二百七話・窮途末路?猫の手をプリーズ(おや? 痕跡はある?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
早朝。
クリスティン主任に外に出る旨を告げると、このボルチモアでは移動する脚、つまり車か何かがないと行動に支障が出るという。
ということで、ノーブルワンが所有している車を、運転手付きで出してくれることになったんだけど。
さすがに、これからの作戦内容を考えると、はいお願いしますって素直に喜べないんだよなぁ。
そこで瀬川先輩が国際免許を所持している旨を説明して、どうにか車を一台借りることができた。
これに乗り込み、車内GPSを起動、目標地点を入力。
あとは指示通りに目的地へと向かうだけ。
「……ユータロ、周辺の警戒をよろしくできるか?」
「ん? すでに闘気で警戒ラインを形成しているんだが。オトヤンは魔法でそういうのないのか?」
「ぶっちゃけると、ない。だから、今から作る」
よくラノベにある【殺気感知】という魔法のように、相手が発している特殊な何かを感知する魔法というのは、実は俺の魔導書には載っていない。
だから、鏡刻界で購入した魔法の書を開いて、中に記してある『魔障感知』という項目の術式を指でなぞる。
──ブゥン
「……オトヤン、いけるか?」
「分からん。あっちの世界の魔法は、クセが強くて魔力消費も高いからなぁ……『風よ大気よ、我に伝えろ‼︎ 我が欲するものの場所を‼︎』」
──キィィィィン
左手に魔導書、右手は簡易印を紡ぐ。
「我が求めるのは、敵対する魔族。その方角を示せ‼︎」
詠唱が終わると、俺の周りに十二本の矢印が浮かび上がる。
それは全て、今の車の進行方向を指し示している。
「よっしゃビンゴぉぉぉ。先輩、このまま進んでください‼︎」
「分かったわ……」
鋭いハンドル捌きで、車を走らせる先輩。
そしてまもなくハートミラー島へと向かう橋梁に差し掛かるとき。
──ビッピッ
10本の矢印が右を示す。
残りの二つはハートミラー島を示すのだが、どういうことだ?
「うわぁ、これは判断に迷うなぁ」
「オトヤン、迷うことない。真っ直ぐだ‼︎」
「その心は?」
「今の時代、敵対するものが少ない状態で拠点防衛に人を割いているはずがない。そもそも、俺たちが来ることはまだバレていないんだよな?」
そう祐太郎がセレナさんに問いかけている。
すると、彼女も力一杯頷いている。
「昨晩、お父さんに確認を取りました。ちょうどマグナムとの定期連絡の直後だったらしいですが、私たちが裏で動いているのはバレていないです」
「それならヨシ。つまり、人数の多い方は、街に買い物に出かけているか、もしくは」
「憑依して精気を取っているか……ですわね? あら、新山さん、どうしたの?」
最後部席で、セレナと並んで座っている新山さん。
顔が真っ青だし、必死に車酔いと戦っている模様。
「だ、だいじょうぶです。先程、状態異常回復の魔法を使いましたから」
「空飛ぶ絨毯は平気なのに、車はダメとは……」
「まあ、わかる気がするなぁ……ちなみに先輩、車の免許取るまでどれぐらい掛かりましたか?」
「半年かしら? 自動車学校を卒業したときは、奇跡が起きたって言われましたけど」
うん。
お世辞にもうまい運転じゃないよなぁ。
一般道を走っているのに、なぜか峠を攻めているような、そんな感覚だったよ。
まあ、普段から魔法の箒に乗って荒い運転していたこともあるから、この程度は慣れたものだし。
新山さんだけが、具合が悪そうなのも可哀想だよなぁ。
「着いたわよ‼︎」
いつのまにか橋を超えていたらしく、目の前にはハートミラー島の管理事務所が見えている。
──ブゥン!
そして空が、周囲が虹色に光った。
「来るぞオトヤン!」
「オッケー。サークルモード5式力の盾っ‼︎」
──ガギビギィィィィィ
俺の魔法が発動し、車全体を丸い結界で覆うのと、正面から飛んできた氷の弾が結界に直撃したのはほぼ同時。
しかも、結界が氷に覆われてしまった。
「はーっはっはっはっ。よく来たな乙葉浩介よ‼︎ ここが貴様の墓標となるのだ!」
「生肝を、生きたまま食らってやるわ!現代の魔術師の活け造りだ‼︎」
氷の向こうには、灰色のローブを身につけた男と、梟の頭にクマの体という化け物が立っている。
「ゴーグルゴー、戦え大戦隊‼︎」
「ブライガァァァ‼︎」
俺と祐太郎は、素早く魔導装備に換装して車の外へ。
セレナさんの隣では、神威白衣に身を包んだ新山さん、そして運転席で深淵の書庫を発動する瀬川先輩の姿がある。
「まあ、なんで俺たちがここにくるって知っているのか、教えて欲しいところだけど……」
「なあユータロ、こっちはハズレじゃないのか?」
「悪い……俺の感もまだまだだったわ。急いでこいつらを始末するか」
この場所からの魔族反応は二つ。
そしてこの二人の魔族の反応と一致。
つまり、このにらセレナさんの母親の姿はない。
「貴様が乙葉浩介、そして貴様は築地祐太郎だな。悪いが、俺たちの滋養として死んでもらう」
「まあ、お前たちがここにくることぐらい、俺たちはお見通しなんだよぅ」
梟頭の魔族が、頭を二百七十度回転させながら笑っていた。
それなら、そのお見通しの理由を教えてもらいましょうか!
──ブゥン!
左手に魔導書を取り出し、右手で印を組む!
「風よ、奴らを拘束せよ‼︎ 『風の縛鎖』っっっ」
右手から風の魔力によって作られた鎖が生み出されると、それは蛇のように唸りながら梟男へと飛んでいく。
ガラガラ蛇のようにターゲットを捕捉すると、一気に弾みをつけてジャンプ。
首と胴体に絡みつくように襲いかかったものの、梟男はヒラリと躱す。
「ホーホーホウ。魔力が高いから、攻撃のラインもはっきりとわかりますなぁ」
背中の翼を巧みに動かし、蛇のように動く俺の鎖を軽々と交わしていく。
「魔力が高い? おまえ、俺の魔力が見えるのかよ」
「ホーホウ。それは秘密ですな‼︎」
──ブワサッ
翼を広げて急上昇すると、梟男は空中に停止する。
五階建ての建物のベランダぐらいの高さから、腕を組んでふんぞりかえって見下ろしていやがるよ。
「き、貴様卑怯だぞ、降りてこい‼︎」
「ホッホー。地上はあなたのような人側のエリア。でも、私のように空を飛ぶことはできないから、こうなると無力ですなぁ‼︎」
──ドシュドシュドシュッ!
梟男は翼をはためかせると、高速で羽根を飛ばしてくる。
的確に俺を狙ってきているし、なによりも速い!
「力の盾っ‼︎」
──ガギガギガギィィィッ
的確に急所を狙っているのがよくわかるよ。
それを斜めに構えた力の矢で逸らしていると、梟男はぐるぐると俺の周りを旋回しつつ羽根を飛ばし続けている。
「ホーッホッホッホッ。いつまで魔力が保ちますかな? 人間の魔力保有量など、われら魔族に比べれば赤子のようなもの」
「いや、その例えは少し違うな。それに、こっちにもやりたいことはいくらでもあるんでね」
──スチャッ
右手を銃のように構えると、梟男に向かって狙いを定める。
「十二式・光銃っ!」
瞬時に人差し指を中心に、風によるライフリングを形成。
そして人差し指には光の弾丸が生み出されると、それを梟男目掛けて解き放つ‼︎
──ドシュドシュドシュッ
しかも三連発。
一発じゃ避けられるから、三発ならどうだ!
しかもお前たち魔族は、銃なんて知らないだろうから避けられまい!
──ブゥン!
あっれ?
俺の放った光銃を、見切ったかの如くかわしたんだが。
魔法の精度は第四聖典なので、有視界内なら絶対命中のはずなのに?
「ホッホッホ。その顔は、なんで魔法の攻撃を避けられるの? ですね。今から百年ほど前の呪術師も、同じような顔をしていました」
「あー。魔法のトレースか。俺の魔力を追尾して、命中するラインを計測、直前に妖気によるジャミングを施している、違うか‼︎」
予測ではあるけども、頭の中の魔導書や白銀の賢者の書き残した魔法の書から、そこまで予測してみたんだが。
「な、なぜそれを!」
「的中かよ」
「まあ、わかったところで、わたしにはあなたの魔法は当たりません。そのまま地上で、私の羽に射抜かれて死ぬが良い‼︎」
──シュシュシュシュ
次々と飛んでくる羽根をどうにか躱すと、離れたところで近接戦闘をしている祐太郎と合流した。
………
……
…
──祐太郎サイド
オトヤンが梟男の元に向かったので、俺の相手はローブ姿の男か。
まあ、魔法使い同士で戦うよりも、懐に踏み込まれたら不利な魔法使いは俺が相手する方が良いよな。
「ブライガー換装っ‼︎」
──シャキーン
素早く魔導闘衣を勇者装甲に切り替える。
これで怖いものはない。
「ほう、折角の軽装をわざわざ重くするとは。あなたは判断が甘すぎますね」
──ビュンッ
素早く両手を広げて詠唱を始める男。
フードが捲られると、そこには白骨の頭蓋骨が姿を表した。
「ちっ、まさかリッチかよ‼︎」
「ふむ、この外見で私をリッチと見破るとはね.正確にはリッチではありませんが、不死者とでもお呼びください」
「甘いわ、魔術師の詠唱速度よりも、この俺の方が速いっ‼︎ 八の型・爆裂乱撃」
踏み込んでからの拳の乱打。
詠唱を止めなないと、全弾直撃間違いなしなんだが、あっさりと詠唱を止めると、軽いフットワークで俺の攻撃を全て交わした。
しかも。
──ダン!
まさかの震脚、そして
──ドゴッ
肩口から背中をぶつけてくる技、鉄山靠!
それをリッチがやるだと?
──ドンガラガッシャーン
あまりの素早さで直撃を受ける。
内臓が捩れたような痛みを持ち、口から血が流れてくる。
「鉄山靠からの発勁? お、おまえ、魔術師じゃないのかよ」
──ダン!
力強く踏み込み、右拳をこちらに構えてくる。
「私は、このアメリカで様々な武術を学びました。特に興味を持ったのが、この八極拳です……我が師曰く、八極拳は爆発である……一撃で相手を破壊する、それが八極拳と」
「リッチなら大人しく、魔力を高めて魔法を使えば良いものを」
口の中に鉄の味が広がる。
口の中を切っただけじゃない、内臓も傷ついたかもな。
「私は、魔力を練ることができません。その代わり、ご覧のように闘気を操ることができます」
リッチが腰を落とし、右腰溜めに両手を構える。
これはあれだ、格闘ゲームの金字塔の技だ!
「覇王拳‼︎」
──ゴゥゥゥゥ
練り上げられた闘気が、まるでカノン砲のように飛んでくる。
そっちがそれなら、こっちもやらせてもらうさ!
──ブゥン
両手に闘気を集めて、素早く目の前に闘気の盾を作り出す!
「勁砲・盾の型っ‼︎」
──ドゴオッ!
本来の勁砲は、触れた相手の体内に勁を打ち込む。
射距離ゼロの技である。
それを、相手の攻撃に合わせて、タイミングよく盾状に勁砲を解放することで、相手の攻撃を相殺することができる。
それが成功したのか、俺にはダメージはない。
そして相手にもダメージはないが、驚いたような表情をしている……んじゃないかな。
「ほ、ほ、ほほう、そのような技を使いますか。しかし、見たところ貴方の型は機甲拳、その対策はすでに練り上げていますよ」
「なるほどなぁ。それなら、これはどうだ?」
──スッ
構えを切り替える。
機甲拳から詠春拳へ。
剛の型から静の型へ。
すると、リッチが動揺したような雰囲気を纏う。
「八極拳と詠春拳の対決ですか……まるで、映画のようですね」
「そんなところだな。詠春拳、築地祐太郎、参る‼︎」
「八極拳、マグナム麾下魔人衆が三位、剛拳のブライアン、参る‼︎」
──ガギガギガギガギッ
高速で放たれる拳と拳。
息つく暇なく放った攻撃を、ブライアンは両腕と肘で弾き返してくる。
やべぇ
こいつは本物の武術家だ。
久しぶりに、ワクワクしてくるわ!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。