第二百六話・軽慮浅謀? 捲土重来はてさて(囮? いえ、情報が漏れている?
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──ボルチモア、ノーブルワンでは。
私はテスタスです。
中級魔族に分類され、階級は臣民になります。
鏡刻界では、グレイス王国という国に住んでいました。
だから、臣民。
一つ前の大侵攻のさいに、私はマグナム・グレイスさまの尖兵としてこの裏地球にやってきました。
そして、敗北からの、大転移門封印事件。
私は仲間たちともども帰る場所を失い、人々の中に溶け込みつつ生きていました。
私以外のマグナムさま配下は全員で250名。
でも、今、人間に紛れて生き残ったものは十名にも満たないでしょう。
みな、この世界の呪術師により封じられ、あるいは浄化されてしまったと思われます。
もっとも、その呪術師も盟約の石板の出現により力の大半を失ったので、私たちは反旗を翻して殲滅しましたけどね。
私は、いつか帰る日が来ることがあると信じ、今日までずっと生きていました。
けれど、アメリカは魔族との盟約を破り、私たち魔族の存在が露見したのです。
結果として、盟約の石板の効果が失われたため、人間たちは魔力を取り戻しつつあるそうです。それと同時に、私たち魔族もまた、封じられていた能力を引き出せるようになったので、再び臨戦態勢に突入することができるようになりました。
それからは、私にとっては安住の地はありませんでした。
怯えながら生活する日々が続き、週に一度の精気摂取もままならなくなってきたので、覚悟を決めてこのボルチモアにやってきたのです。
え?
なんのために?
そりゃあ、アメリカ最強の対魔族機関であるヘキサグラムに保護してもらうためですよ。
害のない魔族は、その身の安全を保障するってテレビで宣伝していましたからね。
まあ、現代では私たち魔族と互角に戦える存在なんて、噂の『現代の魔術師』か、このヘキサグラムの特殊部隊ぐらいでしょうから。
だから、蛇の道は蛇。敢えて何も知らない野良魔族を演じることで、安全な場所を手に入れることができたのですから。
それからは、検査と教育の日々が続き、今に至ります。
ここにきて、ようやく落ち着いて生活ができるようになりました。
………
……
…
今日は定期調整はお休みよ。
その代わり、施設内の学校で、ハイスクールの教員による授業があるわ。
まあ、私には必要なものだから、素直に受けるわよ。
執事のマスカラスにも、学校は大切って言われたけら、素直に授業を受けにきたわよ。
まあ、ここには友人たちも通っているから、親睦を高めるという点では必要なことよね。
「あら、ミラージュ、お久しぶりね。私はわかる?」
「ええ、大丈夫よアンネローゼ。今日も昨日も、私は機嫌がいいから」
「へぇ。ひょっとして調整終了?」
「違うわよ。日本からお兄さまがいらしたのよ。それもご友人を大勢連れてきてね。毎日がパーティーのようよ」
アンネローゼは、私のような人造妖魔ではないわ。
彼女は、アメリカが妖魔の存在を公表した時に『保護』を求めてノーブルワンを訪れたのよ。
彼女以外にもあと二人、ここの研究施設に保護されたらしいって、ツインドリル主任が話してくれていたわ。
「ん? ミラージュって人造妖魔よね? お兄さんも妖魔なのかしら?」
「違うわよ。まあ、魔族にとっては困る対象よ。確かインターネットにも出ているわよ?」
「へぇ、なんていう名前……って、ミラージュは名前を覚えられないのよね? 因みに私の名前はアンネローゼじゃなくテスタスよ」
「所詮は記号よね。魂に刻まれている真名以外は、私は興味がないわ」
今日はテスタスなのね。
それじゃあ、お兄さまのお話をしてあげますわ。
私のお兄さまは、現代の魔術師という名前で検索すると、YouTubeに動画があがっているわよ?
「へぇ、現代の魔術師? え? それって、現代ではただ一人の、魔族と正面から戦える魔術師の乙葉浩介?」
「その通りよ‼︎ 私のお兄さまよ。その友人の築地祐太郎は、私の許嫁なのよ」
「うん、二人目は知らない……あ、動画があるわね……闘気使いなの?」
「魔闘気ね。私の『ソウルシーカー』の能力では、いろんな力を持っているってわかったけれど、これは妻だけの内緒よ」
あら?
アンネローゼが震えているわ。
何かあったのかしら?
彼女の魂、つまり魔人核も微振動を始めているわね。これは恐怖?
「アンネローゼ、震えているの?」
「ど、どうしてわかるの?」
「私は意識しなくても、相手の魂を見てしまうわ。アンネローゼの中の魔人核が震えていたから」
「うわ、そうだった。うん、ちょっと知り合い関係で困ったことになりそうだからね。それで、お兄さんはミラージュの許嫁の人と二人できたの?」
「いいえ。お友達と、お兄さまの恋人と、あとは半魔人血種の人と一緒ね。ちなみにお兄さまもお友達も半魔人血種よ」
どう?
私のお兄さまの交友関係はすごいでしょ‼︎
私も初めて知ったのよ。
「随分と、半魔人血種の人が多いような気がするけれど?」
「一人はジョセフィーヌよ。ニューヨークの研究所にお父さんが勤めている子よ。私はチラッとしか見たことはないけれど、アンネローゼは話したことがあるはずよ?」
「いいえ、私も話したことはないわよ。でも、ニューヨークの研究所にいる半魔人血種の人って、セレナとかいう人以外は知らないわよ」
「それよ。ジョセフィーヌって、たまにセレナって呼ばれているわ」
「……逆ね。セレナが本名で、ジョセフィーヌって呼んでいるのはミラージュだけでしょ」
「そうとも言うわ‼︎」
なかなか鋭いわね。
さすがは私がお友達と認めた魔族ね。
あら、アンネローゼの顔色が悪くなったわ。
これって、調整のバランスが崩れたのかもしれないわね。
「顔色が悪いわよ、大丈夫?」
「え、ええ。どうも体の調子が良くないみたいね。今日は休ませて貰いますね」
「それがいいわ。私の古い記憶では、調子が悪い時は焼いたネギを首に巻くといいそうよ」
「え、スプリンターネギを焼くの? それを首に?」
「そうよ。手に入ったら試してみるといいわ」
「そうね、それじゃあ、私は急ぐので」
急いで帰るぐらい調子が悪いのね。
まあ、魔族は体内の魔力のバランスが崩れるだけで、とつぜん衰弱してしまうこともあるらしいから。
お気をつけてね。
………
……
…
──ノーブルワン、借家
モニターに映し出されている映像。
これは瀬川先輩が深淵の書庫で検索した、この街周辺のチェックポイント。
この三箇所のどこかに、セレナさんのお母さんが監禁されている可能性があるらしい。
「オトヤン。そういえば、ミラージュは今日は遊びに来ないのか?」
「今日は調整はないらしいけど、学校があるんだとさ。ああ見えて、ハイスクールと同等の教育を受けているらしいよ。まあ、本人曰く、友達がいるから通っているって話していたけどね」
「へぇ。しっかりさんなんですね。その、調整が終わったら、普通に生活できるようになるのですか?」
「う〜ん。そこまで踏み込んで聞いたことはないんだよなぁ。まあ、近いうちにクリスティン研究主任にでも聞いてみるさ」
そう話していると、瀬川先輩の表情が険しくなる。
やっべ、俺たちだけで盛り上がったから怒っている?
「怒っていませんよ。むしろ、微笑ましいなぁと思っているぐらいですよ。私が険しそうに見えたのは、場所を二箇所まで絞れたからですわ」
「うわ、また心の声が外に出ていたか」
「いや、今回は出ていなかったけど?」
そう祐太郎が否定してくれるんだが、まさか、王印の力で心の声が聞こえたのか?
「あら、そうなのですか? まあ、その話は置いておくとして。この二箇所のどちらか、もしくはどちらもマグナム配下のアジトの可能性があります」
──ピッピッピッ
表示されているのは、二つの建物。
一つはハートミラー島にある、まだ新しい建設用の建物。
そしてもう一つは、オレゴン・リッジバーグの管理組合のビル。
さあ、どっちに向かうか。
「ハートミラー島なら、私が案内デキマース。けど、オレゴン・リッジバーグハ分かりません」
「オトヤン、二つに分かれるのは下策だよな?」
「流石にね。なんかあったら、二つに分かれたとしたら、戦力比で負けていたらかなりやばい」
「私は、ここから指示を出すということで問題はありませんよね?」
はい、先輩はここでベースキャンプです。
そうなると、ここを守る必要もあるか。
「そうなぁ。まあ、今から動いたとしても、回れるのはどちらか一箇所のみ。二日に分けて、二箇所を回るのが得策だろな」
「それでいく。それじゃあ、俺の直感で……」
──トン
モニターに映る小さな島を軽く叩く。
「ハートミラー島か。よし、それじゃあ準備が出来次第、出かける許可をもらっていくとするか」
「先にクリスティン主任に話をしてくるわ。新山さんは、セレナの守備力を上げる工夫をお願い」
「はい! 任せてください」
収納バッグからスクロールを取り出し、にこやかに返事を返す新山さん。
さすが、スクロールについては誰よりも熟知しているからなぁ。
そんなこんなで、俺たちはハートミラー島へと急ぎ向かうことにした。
この一回で、終わってくれよ‼︎
………
……
…
──ピッ
はい。
私です。
新しい情報を送ります。
ですので、受け取ったらすぐに、その場所から撤収してください。
『現代の魔術師』乙葉浩介と、その仲間たちがボルチモアに来ています。
そしてセレナも同行しています。
急ぎ、撤収を、お願いします。
『了解です。あなたは引き続き、乙葉浩介の動向を探ってください。彼がセレナと共に、この地にやってきたということは、目的は一つしかありませんからね』
了解。
念話を閉ざします。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。