第二百一話・慧可断臂、和を以て貴しとしようぜ!(海外遠征? 味方つき?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
さて。
白桃姫との話し合いも終わって、俺ちゃんたち全員帰宅。
ちょうど晩飯の時間だったので、メニューを見てみると。
今宵の晩御飯はマトウダイの味醂干しとしじみの味噌汁、そしてザンギですよザンギ。
一説によると『炸鶏』っていう、中華の鳥の唐揚げがなまったという説もあるんだけど、俺はこれ推し。
ちなみに我が家のザンギの味付けは、酒八に対して醤油が二、摺り下ろしニンニク、摺り下ろし生姜を好みの分量。
鶏肉二枚に対して卵がひとつ。
あとは、一口大に切った鶏肉を漬け込んで、片栗粉と小麦粉を半々野割合で混ぜてから、少しだけ低温でじっくり。
漬け込み時間はお好みだけど、最低一時間は欲しいところだよね。
「……また並列思考で、何か考えているのか?」
「ま、まあそうなんだけどさ。親父も、よく俺が並列思考しているのに気がつくよな?」
「研究施設に勤務していた魔族にも、浩介のように並列思考していた奴がいたからなぁ」
「それで、何を考えていたの?」
「ザンギの味付けかな?」
「「なんで?」」
いや、そう突っ込まれても困るんだけどさ。
美味しいから、味の分析をしていただけだからな。
「それで、王印の件はどうなった?」
「ん〜、色々あって、アメリカのメリーランド州に行ってくるわ」
「「なんで?」」
まあ、夫婦揃ってハモリ突っ込みをありがとうございます。
実に仲の宜しいことで。
「まあ、話せば長いことながら。同じ部員の転校生の母親が魔族に攫われてさ。継承の儀が始まると母親が殺されそうなので、その前に助けに行ってくる」
「……許可は出せないなぁ」
「息子がそんな危険なことに首を突っ込むのを、親としては容認できませんよ?」
あ、しまった‼︎
これは俺が迂闊だった。
けど、そう話してから、親父と母さんは何か考えているんだけどさ。
「……とはいえ、許可を出さなくても、お前ならコッソリと魔法でポン、と行きそうだからなぁ」
「メリーランド州か。もしもボルチモアにいくのなら、そこのヘキサグラムの研究所の所長に紹介状を書いてあげるから、それを渡しなさい。いろいろと有能な方だから、浩介の力になってくれると思うから」
「ボルチモアか。あまり浩介には行ってほしく無いんだがな」
「あざっす‼︎ でも、なんで行ってほしくないと?」
「大人の事情だ。詳しくは言えないが、行くのならそれも運命と考えることにする」
「はぁ。こうやって、どんどん息子が非行に走るのね……」
ため息をつく母さん。
まあ、魔術師に覚醒した時点で、この辺は諦めてください。
しかし、場所を聞いてから、随分と考え込んでいるよなぁ。
「あ、あれ? 親父たちの研究所って、ボルチモア?」
「そうだ。まだヘキサグラムには『客員教授』として席は置いているからな。近々、ヘキサグラムの日本支社ができるから、そこの支社長はどうだって話もきているが、それはおまえには関係ないから」
そう笑いながら話しているんだけど、何か隠しているよなぁ。
………
……
…
昨日は失態デース。
思わず感情が溢れてしまいマシタ。
元十二魔将の二人にも、偶然ではありますが接触し、乙葉浩介たちの助力を得ることができるようになりました。
「……何かあったのか? 嬉しそうだが」
「友達ができただけです。その友達に色々と相談もしましたから」
「相談? 何か悩み事でもあるのか?」
「マグナムに攫われたお母さんのことです……」
「ああ、そのことか。それなら、マグナムさまの命令さえ守っていれば、必ず会えるようになる。だから、お前は乙葉浩介を味方につけるんだ」
そう言うとは思ってます。
でも、今日の私は、昨日までの私とは違います‼︎
「その件ですが、お断りします‼︎」
「はぁ? おまえ、母さんに会いたくないのか? この作戦さえ成功したら、また昔みたいに家族三人で暮らせるんだぞ‼︎」
「……昨日、私は、乙葉浩介とそのご友人と一緒に、妖魔特区にいってきました。そこで、白桃姫とクリムゾンって言う、元十二魔将に会いました」
その説明で。
お父さんの眉根がピクンと動きました。
「まさかと思うが……話したのか?」
「全て、洗いざらい説明しました‼︎ そうしないと、ワタシは白桃姫に殺されています。先代魔人王のフォート・ノーマと白桃姫は親友だそうです、だから、彼を殺したマグナムは必ず殺すって……」
そう説明すると、一瞬だけ険しい顔をしたものの、すぐに話を聞く体勢に戻ってくれました。
さすがはヘキサグラムの研究員です。
感情的にならず、情報を全て確認してから判断する。
研究員の鏡です。
「それで、全てを話して、どうなった?」
「……お母さんの奪回に協力してくれるそうです。すでに、アメリカのどこに捕まっているのかと言う情報を探してくれてます。六箇所まで絞ったそうです」
「六箇所か……聞くが、相手はマグナムの配下の上位魔族だ、勝ち目があるのか?」
問題はそこ。
だけど、なんていうか。
私の知りえた情報では、乙葉浩介や築地祐太郎、新山小春が負ける未来が見えないのです。
「私の親友……勝手に思っているだけかもしれませんけど、彼らは、十二魔将の『暴食のグウラ』を倒してます」
この一言で。
お父さんは腕を組んで考える。
これまでは協力的であったのに、突然手のひらを返すとなると、怪しまれるのは目に見えています。
それこそ、お母さんの命に関わることです。
「私は、今まで通りにマグナムの相手をする。定期連絡は週一だから、多少は引き伸ばすことぐらいはできるだろう……必ず探し出して、助けてくれるのか?」
「はい‼︎」
「そうか……わかった。あとはセレナに任せるから、好きにしなさい。それで、どこに向かうかは決まったのか?」
「まだはっきりと決まってはいません。メリーランド州が濃厚だっていうことですけど、具体的な場所についてはまだ……」
わたしが住んでいた場所はニューヨークのマンハッタン。
そしてお父さんが所属していたのも、ヘキサグラムのニューヨーク研究施設。
仮に目的地がメリーランド州のボルチモアだったとしても、軽く300キロは離れています。
当然ながら、私はボルチモアに詳しくはありません。
「……そうか。まあ、行く日が決まったら教えなさい。セレナの友達は日本人だろう? まだ高校生なら英語での会話は難しいだろうから、力ななってあげなさい」
「はい。ありがとうお父さん」
さすがは私のお父さんです。
マグナムの件はお父さんに任せて、私は皆んなと一緒に、アメリカに行ってきます。
もう、覚悟も決めた。
私の言葉を信じて、私のために力を貸してくれる友達がいる。
それだけで、ワタシは前に進める。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──アメリカ・メリーランド州ボルチモア
サウスウエストエリア・パークにあるヘキサグラムの研究施設。
通称『ノーブルワン』と呼ばれている研究所群の一角に、乙葉京也のアメリカでの家がある。
彼とその妻は、ここから研究所に通い、様々な研究を行ってきた。
「……アバン、アバンギャルドはいますか?」
敷地内にある乙葉邸の庭で、屋敷内に向かって叫ぶ女性。
歳の頃は十七歳ぐらい、プラチナブランドのツインテールの女性は、大きな声で執事を呼んでいる。
「はい、私はここに。何か御用でしょうか、ミラージュお嬢さま。因みに、私の名前はアバンギャルドではありません」
「わかっているわよ。私の気分で、今日のトニーはアバンギャルドなのよ。そうそう、日本のお父さまから電話が来たわ。もうすぐお兄さまがここにいらっしゃるわ。私はどうすればいいのかしら?」
オロオロと、腕を組んで顎に右手を当てて考えつつ、広い庭の中を往復するミラージュ。
彼女としても、実の兄に会うのは久し振りなのである。
「いつも通りで構わないかと思います。ちなみにですが、今日はこのあと、調整槽に入らなくてはなりませんが」
「週に一度のバイオリズムチェックね。大丈夫、もう何十年も繰り返しているのですから」
「まだ十一年ですけれど。まあ、そういうことにしましょう」
いそいそと家の中に入ると、小さな鞄を右手に下げて、ミラージュは出てくる。
「毎回思うのだけど、もう私の体は安定していると思うわよ? だから調整槽もそろそろ終わりにしてほしいわ」
「それを判断するのは、クリスティン主任です。さあ、お時間が間に合わなくなりますよ」
「わかっているわよ、それじゃあいってきます」
──フワッ
ミラージュは軽くジャンプすると、そのままゆっくりと空を飛んで、ヘキサグラム敷地内にある『人造妖魔研究棟』へと飛んでいく。
彼女がこの研究所で目を覚ましてから、すでに十一年。
彼女用に調整した『人造妖魔体』は彼女の魂と綺麗に定着している。
それでも、まだこの研究施設から出ることは禁じられている。
一般常識やハイスクールレベルの教養などは、施設内の学校に通うことで身につけてきた。
それでも、まだ彼女は外の世界に出ることは許されていない。
──プシューッ
ミラージュは、自動ドアが開き切る前に扉を透過して建物に入っていく。
もう幾度となく見た光景ゆえ、ロビーの受付はニコニコとミラージュを迎え入れていた。
「私よ、ミラージュよ。今日は調整槽に入るために来たのよ」
「五分遅刻ですね」
「うん、わかっているわ、ごめんなさい。クリスティン主任はいらっしゃるかしら?」
「六番ルームで調整槽の準備をしているところです」
「あら? それならもう少し遅刻してきても問題なかった?」
「それは困りますよ。他の人造妖魔のチェックもあるのですから」
まるでそれが当たり前のように説明する受付。
そして、それが当たり前のように話をしているミラージュ。
このような会話を施設の外でするわけにはいかないし、そもそも外の世界は、まだ彼女にとっては刺激が強すぎるのである。
受付との他愛のない会話を楽しんでから、ミラージュは六番ルームに向かう。
──プシュッ
IDパスを扉横のセンサーにタッチすると、扉が音を立てて開く。
「あら、ミラージュ。今日は時間通りじゃない」
「五分遅刻よ。早く始めましょう」
「そうね……五分遅刻……あら、私の時計が遅れているのかしら」
時計を確認してから、クリスティンは全裸のミラージュの体に、センサーを貼り付けていく。
全身二十八箇所にセンサーをつけたまま、ミラージュは静かに調整液に満たされたタンクに入っていく。
「この瞬間が、一番嫌なのよ」
「まあ、私も好きじゃないから、代わってとか言わないでね?」
「今日は言わないわ。でも。来月は言うから」
「はいはい。それじゃあ、おやすみなさい」
「Buenas noches」
ミラージュの言葉を聞いてから、ゆっくりとタンクの蓋を閉じる。
そしてバルブを開いて調整液をタンク内に満たしてやると、ミラージュは膝を抱えて丸くなり、調整液の中で静かに浮いている。
──ピッピッピッ、ピッピッピッ
調整槽の横にあるモニターに、彼女のバイオリズム・ステータスが表示される。
そこに問題がないことを確認すると、クリスティンは机の上に置いてあった小説を手に取ると、そこでのんびりと読書を始めた。
数少ない『人造妖魔』の成功例であるミラージュ。
クリスティンの敬愛するプロフェッサー・オトハの調整した『最後の人造妖魔』は、まだうら若き少女であった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
書けねぇ……怖くてかけねぇ。




