第二十話・呉牛喘月、急がば回れ(ここから始まる、俺の物語)
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――ゲッゲッゲッゲッ
口からよだれを垂らしつつ、いきりバンダナ男たちは間合いを詰めてくる。
俺と祐太郎の背後は虹色の壁、周りには人が歩いているが触ることが出来ない。
俺たちの声も届かず、触る事すらできない。
つまり、現在危機一髪。
「おおおお、困ったときのカナン魔導商会っっっっっ」
『ピッ‥‥本日10時から17時までメンテナンスのためネットサービスはご利用できません』
「ふぁぁぁぁ? ふざけるなぁぁぁぁ」
「どうしたオトヤン!!」
「カナン魔導商会はサーバーメンテだ、夕方まで使えないわ」
「まじか」
「まじだよ。こうなったら‥‥どうする?」
思わずどうするって聞いたけど、いつまでも逃げ回れるはずがない。
この結界のような壁が何か判らない以上‥‥あ、そっか、あまりにも突然過ぎて、鑑定するのすっかり忘れていたわ。
もうギリギリだけど、まだ間に合う。
「ユータロ、もう一周走るぞ」
「応。なにか判ったのか?」
「いや、サーチゴーグルつけてなかった。この状態を鑑定するわ!!」
すぐさまフル装備を換装して走り出すと、右手に伸びる虹色の壁をサーチゴーグルで見る。
「鑑定モードで頼みます。対象は虹色の壁っっ!!」
『ピッ‥‥次元結界。中級妖魔の特殊能力の一つ、指定したエリアを複製し別次元に封じる。
次元結界の中では無機物に対しては干渉できるが、有機物は指定したもの以外は干渉することが出来ない。結界破壊術式を用いるか、結界を施した妖魔を討伐しないかぎり次元結界は解除することが出来ない』
えええ? 妖魔って、なんでここでも妖魔?
それに次元結界って何?
これってどう解除するの? 破壊術式なんて知らないよぉぉ。
「ユータロ、これは次元結界だ」
「ふむ、それで対処方法は?」
「結界破壊術式を使って虹色の壁を破壊するか、もしくは妖魔を倒せってことだと思う」
「その妖魔って‥‥あいつらか?」
「そういう事、綾女ねーさんとは違う妖魔で、そのことはあとで‼︎ 鑑定っっっ‼︎」
祐太郎に問われたので、走りつつ後ろを振り向く。
ゴーグルの視界に入りさえすれば、サーチは可能だからね。
『ピッ‥‥妖魔について…妖魔とは、破壊神の残滓の作り出した世界『鏡刻界』に住まう精神生命体、魔族の現世界での総称。
生命体、特に人間の精気(生気)を糧として存在する。精神生命体の状態では、物理的攻撃は完全に無効化となり、魔術もしくはそれに近しいものでなければ傷をつけることはできない。
また、浄化によって無となるか封印されない限りは、時間は掛かるものの何度でも蘇ることができる。
但し、体内の魔石を回収された場合は、再生することができず死に至る』
ああ、妖魔についての新情報も出てきたわ。
昨日は綾女ねーさんと話していて、鑑定まで時間がなかったけどさ、全部理解したわ。
今の状況、これは完全に詰んだ。
『ピッ‥‥対象の中級妖魔は、人の『怒り』の感情を糧として存在するタイプである、人に憑依して怒りを吸収し同化する。魔族『憤怒』の眷属であり、結界作成能力を有する。現在人間に憑依制御中』
あ、まだ続きがあったのね。
でも、絶望しか見えないんですけど~。
今の説明を祐太郎に淡々と告げると、祐太郎は、ほほーとかへーとか、感嘆詞で返事をしてくれる。
まあ、この状況で立ち止まって説明することもできないのでそれはそれでよし。
「オトヤンの魔法で攻撃したとして、あのバンダナーズはその中級妖魔に憑依されているだけなんだろ? それって最悪の場合、バンダナーズも死ぬよな?」
「あ、そ、そうだよね。人間も死ぬよね‥‥いや、無理無理無理無理、殺すのは無理。けど何もしなかったら逆に、俺たちが殺されておしまいじゃん!!」
いくら異世界のチート能力持っていても、人間なんて殺せない。
人を殺すぐらいなら自分が死んだほうがいい。
でも死にたくないわ!!
まだ買いたいアイテムもあるし、チェリーボーイで死ぬなんていやだぁぁぁぁぁぁ。
‥
‥‥
オトヤンの説明で、目の前の『いきりバンダナ』が中級妖魔とやらに憑りつかれていることは理解した。けど、このタイミングで出てくるとは思わなかったな。
今朝がたのアーカムとかいった女神の神託が的中してしまったのは致し方ないが、問題はこの状況をどうやって切り抜けるか。
この結界ってやつは、目の前の妖魔を倒さないと解除できない。
なら、どうやって倒す?
倒すと、たぶん取りつかれているバンダナたちも死ぬと思う。
ふと気が付くと、無意識のうちに左手首の腕輪に手を添えていた。
ならば、加護の卵とやらに問いかけるしかないか?
急いで魔力を循環して、手首の腕輪に集める。
魔族に取りつかれた人間を助ける方法は‥‥
――ブゥン
『我は武神ブライガー。少年よ、何を求める?』
ブライガー?
上等だ、俺に力を寄越せ‼︎
妖魔と戦う力だ‼︎
そう問いかけた瞬間、両手に銀色の籠手が装備された。
『よかろう。それならば、くれてやる‼︎』
一瞬で理解した。
この銀の籠手は精神体に直接作用する。
攻撃する瞬間、この籠手は精神体に変換される。つまり人体にはダメージが入らず、精神体にもっとも有効な打撃が入れられる。
精神に有効な打撃‥‥それだ!!
‥‥
‥
なんなか祐太郎がぶつぶつと呟いている。
このパターンは、今の状況を考えての最適解を探しているんだろう。
――シュンッ
と、突然、祐太郎の両腕に銀色の籠手が装着された!!
え、何それかっこいい。
スタークインダストリー製?
まさか加護の卵とか?
「オトヤン、これは加護の卵が変形した武器だ。これで殴りつけて妖魔を引っぺがす!! 相手は精神生命体だから、精神に対しての攻撃は有効だってさ」
「この前は綾女ねーさんに力の矢ぶち込んで吹き飛ばしちゃったけど、そんな憑依している妖魔相手なんて、そんな都合のよい代物が‥‥あったわ」
――シュンッ
素早くミスリルハリセンを換装する。
これは突っ込みモードだと打撃ダメージは入らないが、精神には直接作用する。
すぐさま俺と祐太郎は身構えると、逃げの一手から攻撃態勢に転じた。
「お前の罪を数えろ!!」
「この妖魔がぁぁ、かかってこいやぁぁぁ」
バンダナが俺に向かって警棒を振り落としてくるので、それを下から掬い上げるように警棒に向かってハリセンを叩きつける。
幸いなことにバンダナの力はそれほど強くない、体力100オーバーの俺の一撃で警棒がバンダナの手から吹き飛ばされていった。
これでバンダナがなんかのスキル持っていたらヤバかったかもしれないわ、格闘系ノースキルのようで助かりましたわ。
さらに動揺した顔面目掛けて、ハリセンスマッシュ一閃!!
――ドッパァァァァァァァン
顔面にハリセンが痛打した瞬間、バンダナの後頭部から巨大な黒い目玉が後ろに吹っ飛んでいった。
さらに横では、祐太郎がバンダナと一騎討ちを仕掛けていた。
──パンパンバババン
両手の掌底を前に軽く突き出す構え、右掌は左手の膝あたり。
両膝も軽く曲げた、腰を落とした構え。
その祐太郎に向かってバンダナが警棒を振り落とすが、全て両手で払っていく。
時折殴りかかってくる拳も左に払いバンダナの体勢を崩すと、そのまま顔面目掛けて右掌底を叩き込む‼︎
――ドッゴォォォォォッ
ユータロの掌がバンダナの顔面に直撃すると、そのまま顔面を貫通して後頭部に突き抜けた。
その勢いで、バンダナに憑依していた巨大な目玉が後方に吹き飛ぶ!!
「ユ、ユータロ、それはやりすぎだわ!! ってあれれ?」
ズルッと顔面から拳を引き抜く祐太郎。
だが、バンダナの顔面は貫通していないし傷も負っていない。
「ふう。ぶっつけ本番でうまくいったか。あ、この籠手な、装備した部位を精神体に変換するらしいんだわ。おかげで憑りついていた中級妖魔は殴り飛ばしたから、あとはあの漂っている眼玉をオトヤンの魔法で攻撃するだけ!!」
「それなら‥‥ブーストリング、魔力増幅125倍‥‥力の矢っっっっっ」
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォッ
右手を目玉めがけて突き出す。
その直後に光の矢が拳から飛び出し、目玉の一つに直撃。
そのままパァァァァッと霧のように散っていった。
「あと、ひとぉぉぉぉぉっ‥‥」
そう叫ぶと同時に、突然虹の壁がスッと消えて、目玉も姿を消した。
「お、おおお?」
「結界が消えたのか‥‥いやいや、オトヤン、急いでここから離れようぜ」
「そやね。一度ホテルに逃げよう!!」
すぐさま籠手をしまう祐太郎。俺もハリセンをディバッグにしまうふりをして換装解除すると、一目散にホテルに逃げることにした。
あ、バンダナーズはその場で座ってぼーっとしていたので、そのまま放置ね。
〇 〇 〇 〇 〇
まあ、いきなり襲われて、どうにか戦って逃げてきて、ようやく落ち着いた。
これでレジストリングなかったら、今頃は恐怖が舞い戻ってきて途端に怖くなって布団被って震えている俺が通りますよ~って感じだろうなぁ。
それよりも恐怖耐性リング、仕事しろ。
あとから振り返す恐怖とかの感情には効果ないんかい‼︎
でもさ、あんなの無理。
いきなり妖魔とかに襲われてもさ、人間に憑依するタイプだと同じ手を使うしかないし、人前でなんて使えない。
さっきはサーチゴーグルで調べて、そのまま乗りと勢いで何とか出来たけれど、あんなのが次々と現れたら対処のしようがないわ。
秋葉原、恐るべし。
「まあ、オトヤンには説明しておくか。実は、かくかくしかじか‥‥という夢を見てな、たぶん今回、俺たちが襲われたことについても関係していると思うんだが、オトヤンはどう考える?」
「その件なんだけどさ、俺も昨日、妖魔について教えてくれた人がいてさ、妖魔なんだけど」
祐太郎が、今朝がた見た女神の神託という夢について説明してくれた。なので俺も、飛頭蛮の綾女姉さんから聞いた話を説明する。
それで祐太郎もようやく納得したが、まあ襲われていた理由が本当に限定フィギュアなのかはいまだに理解できない。
そして、ようやく落ち着いてきた。
気分が落ち着いてくると段々と腹が立ってくるのだが、八つ当たりできる女神がここにはいない。
「順番に考えてみると、俺がバスに轢かれたときに見た黒い影の手、あれも妖魔だったっていう可能性があるのかぁ。それで、女神パワーでその事件はなかったことにしてもらったけれど、それはたぶん例外中の例外だったのか。原則として神様は俺たちの世界には直接干渉してこれないと」
「オトヤンは飲み込み早いなぁ。それで、俺もオトヤンから魔術の手ほどきをしてもらわないとならないんだが、どうするか分かるか?」
そう言われても‥‥って、思い当たる節はないのだが、加護の卵が孵化したっていうことは、祐太郎の魔導書の契約行けるんじゃね?
「ユータロ、魔導書の契約はした?」
「あ、そうか、それを忘れていたわ、ちょっと待っててくれ」
ゴソゴソと収納バッグから魔導書を取り出すと、ユータロは右手を乗せて契約の儀式を始める。
これで無事に契約が完了すると、俺の予想では祐太郎も魔術が使えるようになるはず。
「さて始めるか‥‥我は汝の主なり、汝は我の知識なり。我は魔力にて魔導書を支配するものなり、我に汝の名を告げよ、さすれ契約は完了する‥‥」
――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
すると、祐太郎の魔導書が淡く輝き、ゆっくりと縮小化を始める。
そしてものの一分ほどで俺の魔導書と同じ大きさになると、光はゆっくりと収まった。
「これでいいのか‥‥ふぅ」
「そうだね。なら開いてみて。魔力を本に循環する感じで、そうすれば文字は全て読めるようになる‥‥んだったかなぁ」
「こうか‥‥」
祐太郎が魔力を注ぐと、本がゆっくりと輝いた。
そして魔導書のタイトルが『ブライガーの武術書』と変化した。
そして武術書を開くと、そこには闘気術式の一覧が掲載されている。
「へぇ、これでいいのか‥‥ふむふむ。オトヤンの使用できる魔術ってどれだけあるんだ?」
「ちょいまち、見てみるわ‥‥って、増えていたぁぁぁぁ」
祐太郎に言われて、久しぶりに魔導書を開いてみる。すると魔導書には、新たに第二聖典という項目が増えていた。
そしてそこには、新しい魔術が書き記されていたではないですか。
●第二聖典
弾丸・(炎、氷、真空、岩礫、光)
楯・(理力、風、炎、水、大地)
短距離転移
睡眠
単体沈黙
魂登録
‥‥の‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥‥
ああっ、攻撃系と防御系がそろっているけれど、最後の三つが読めない。
正確には、まだうっすらとしか表示されていない。
これはあれだな、レベルが上がったら修得可能になるんだな。
取り敢えず今増えた魔法を説明していくと、祐太郎は頭を捻っていた。
「いや、俺とは全く表記されている魔術が違うな、俺のは読めるか?」
「どれどれ‥‥って、なんかずるいわ」
祐太郎の武術書の文字は俺の知らない文字。当然祐太郎も知らないらしいが、契約している祐太郎本人には理解できるらしい。
そして俺には自動翻訳スキルがある。
そのままスラスラと読み取っていく。ちなみに表示されている魔術は以下の通り。
・闘気術式・初伝
勁砲
硬気功
軽気功
自身鑑識
筋力増加
魔力増加
言語解読
「うん。ユータロのは本当にラノベの武術家だよね。これって、俺が教える必要あるのかな?」
「さあ? でも、あの女神アーカムがオトヤンに学びなさいと言っていたので学ぶことにする。よろしく頼むわ」
「そうだね。じゃあ明日から‥‥って何を教えればいいのか判らないし、そもそもカナン魔導商会が再開されるまでは何も買えないし」
――グーキュルルルルルル
うん。運動したら腹が減ってきた。
そもそも、もう夕方だし。あとは楽しいディナータイムを満喫してから考えるとしよう。
「それじゃあ、豪華なディナータイムと行きますか!!」
「ホテルのプレミアムブッフェ!! テーブルバイキング!! 酒は飲めないけどとにかく食べるぞぉぉぉぉ」
意気揚々と着替えてから、俺と祐太郎は楽しいディナーへと向かうことにした。
〇 〇 〇 〇 〇
とある場所。
警視庁、そのどこかの階の『存在してはいけない公安部特殊捜査課』。
「はい。上野五丁目付近に妖魔の結界反応を確認しました。ですが、現地ではすでに結界は存在せず、霧散化した妖魔の残滓反応があっただけです。それと、憑依対象者の二名は保護し、警察病院で治療を受けています」
「霧散化か。一体だれが、どうやって妖魔を倒したというのだね? あれを倒すには、我々のように対妖魔兵装を持っているものでない限りは不可能なのだよ?」
「ですが、霧散化反応は確認できました。中級妖魔のワンアイかと思われます」
「それこそ茶番だよ。中級妖魔などと戦って勝てるものはそうそういないのだよ? 我々のように特別に訓練をし、そのための武器を持っていない限りはね‥‥まあいい、報告書は課長に提出しておいてくれ」
「了解しました」
‥‥‥
‥‥
‥
またある場所。
どこかの森にある、巨大な城。
その大広間にて。
「ほう。ワンアイが霧散化させられたのか‥‥相手はAMSTか?」
「いえ、帰還したワンアイの報告では、民間人とのことです」
「民間人? 我々の糧である人間のもっとも下等な存在が、我々の眷属である妖魔を倒しただと? せめてワンアイが映像化できればよかったのだがな。まあ、いずれにしても、その民間人は我々にとっての脅威となるやもしれぬ。偵察用の下級妖魔を、そうだな、フロートファングを数体、ワンアイが霧散化させられたエリアを中心に飛ばしておけ」
「かしこまりました。それで発見した場合は」
「殺せ、以上だ」
「おおせのままに」
‥‥‥
‥‥
‥
そしてユータロと乙葉の泊っているホテルでは。
「も、もう食べられませんであります少佐殿、あの料理は見たことがありません‼︎」
「誰が少佐だよ。それで、魔導商会は再起動しているのか?」
「あーちょいまってね」
『ピッ‥‥カナン魔導商会へようこそ』
いつものなじみの画面。
その右側の『設定ボタン』が点滅している。
そこをクリックしてみてみると、今までとは違う設定がいくつか増えていた。
『ネットショップ画面の公開 ON/OFF』
おおっと、これってひょっとして、誰でも見られるんじゃないかな?
すぐに設定をオンにすると、横でコーラを飲んでいたユータロが噴出しそうになっていた。
「オフッゲフッゲッゲッゲフッ‥‥そ、それはなんだ? まさかとは思うが」
「何って、いつも俺が買っているカナン魔導商会だけど? ユータロにも見える?」
「あー、文字がさっぱり判らないなぁ‥‥ちょっと待ってて、言語解読‥‥と」
――キィィィィィン
一瞬だけ祐太郎の目が光る。
そしてまじまじと画面をのぞき込んでくると。
「あー、この魔法はどんな文字でも日本語にできるのか。オトヤン、俺にも見えるぞ!!」
「そうか、それは良かった!!」
「ということで、すまないがトップページから順番に見せてくれ!! なにか妖魔との戦いで有効なものがあるかもしれないからな!!」
「そうか、一人より二人がいいさ、二人より三人がいいーってやつだな」
そんなことを口ずさみつつ、俺は祐太郎とカナン魔導商会の商品を端から端まで見ることにした。
なお、すべて見終わったのは早朝7時で、その日一日、俺と祐太郎はホテルで爆睡していたことは言うまでもない。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
太陽戦隊サ○バルカン