第二話・百聞は一見に積羽沈舟(カナン魔導商会との出会い)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
──ビビビビビビビビッ
アラームが鳴り響く。
いや、あと5分。
──ビビビビビビビビッ
アラームが鳴り響く。
頼む、あと五分。
──ビビビビビビビビッ
アラームが鳴り響く。
「お願いマイマザーってまてぇぇぇぇ‥‥って俺は今一人暮らしじゃねーかよ、遅刻だわ」
慌ててベッドから飛び出して着替えると、朝食をつくる時間をショートカット、ご飯を炊く時間なんでないからパンを焼こうそうしよう。
そしてパンが切れていた。
「うわぁぁぁ、昨日の帰りに買ってくるはずだったのに忘れていたよ畜生メェェェ」
どっかのちょび髭親父のように叫ぶが、ふと思い出すネットショップスキル。
「あ、こういうときは便利なんだよな、そういうスキルなんだよ、俺しか持ってないスキルなんだよ」
ポン、と手を叩いて早速スキルを起動する。
「ネットショップスキル起動‼︎」
──ブゥン‼︎
目の前に広がるウィンドウ画面。
タイトル文字は異世界の文字みたいだが、自動翻訳スキルがある俺には読めるぞ‼︎
『ようこそカナン魔導商会オンラインショップへ』
ん?
んん?
んんん?
「見たことないネットストアだな、どこの国だ? 食料品はどこかな?」
そのままメニュー欄から食料品を探す。
その中に食料品の項目があったのでそこをタッチ、出てきた出てきた食料品。
画面の構成はAION系ネットスーパーと同じ配列なので、そんなに難しくない。
だけど並んでいるものがよくわからない。日本では見たことのない名前の食材が並んでいたけど、外国のネットショップなら致し方あるまい。
取り敢えず今必要なのはパンだ。
パパンがパン屋さんだ。
けれど、見た感じだとサンドイッチも菓子パンもない。全粒粉のパンが並んでいるだけ。
「サンドイッチは無いのか。それなら食パンは……あるけど一斤か、まあ良いや、値段は……銅貨二枚?」
ん?
銅貨?
「あれ? やっぱり外国のマイナーショップかよ。銅貨って十円玉かなぁ。クレジットカードは持ってないし、作りたいけど未成年だからなぁ。lines payでも今度作るか」
今日は現金で買う。
この辺はラノベでよく見るタイプと思って投入口を探し、取り敢えず二十円を手に取って投入口に触れてみる。
──チーン
軽快な音と同時に、二十円は消えて、タイトル横にある残高が切り替わった。
『残高:20クルーラ』
「おお、お? クルーラが単位か。なら商品の値段もクルーラに切り替えられないかなぁ……単位表示の切り替えボタンは……あったあった、では頼みます」
──シュンッ
画面右の設定欄を調べて、表示金額の設定ができるのがわかったのでクルーラに切り替えてみる。
すると、一瞬で貨幣表示がクルーラ表示になった。
『食パン一斤、200クルーラ』
「あ、十円で10クルーラなら多分二百円か。ならこれで」
すぐに二百円チャージして注文する。
どうやら一クルーラが一円になるみたいなので、俺としては分かりやすくてありがたい。
すると目の前の床に魔法陣が広がり、ポンという音と同時に食パンが現れた。
個包装はしておらず、剥き出しのまま魔法陣の真ん中に現れると、やがて魔法陣は静かに消えていった。
「よし、これで朝飯は大丈夫だな……って、剥き出しかぁ、個包装してないのかよ」
すぐさま剥き出しで置いてあるパンを拾い上げてホコリを落とすと、急いで薄めにカットしてジャムをひと塗り、そのまま口に放り込む。
「ん? 味はイマイチっぽいが悪くもないか。でもどこの国のネットショップなんだろうなぁ。魔導商会なんて知らないけど、普段使いとしては使えないことはないか。でもどこの国の貨幣だろ?」
そう考えて、俺はふと、女神の言葉を思い出す。
『貴方には異世界のアイテムをネットストアで売買できるスペシャルアビリティと空間収納という空間収納スキルがギフトとして授けられました』
異世界のアイテムをネットストアで売買できる?
異世界のアイテム?
じゃあこれって?
まさか、異世界のネットショップ? そんな阿呆な。
慌ててメニューから香辛料を探す。
調味料の欄を調べると、様々な香辛料が並んでいる。その最初のページトップに胡椒はあった。
『黒胡椒、1グラン1万クルーラ』
え?
1万クルーラ?
さっきのパン代で考えると、一クルーラは多分一円だよな。なら1万クルーラって?
グランってグラムだよなきっと。
「胡椒1グラム1万円‼︎ キタコレ‼︎ 俺金持ち確定‼︎」
そう考えたのだが。
冷静になって現実を見直す。
ここは異世界じゃない、現実世界である。
「……はぁ。俺が買うだけなんだよなぁ。確かに異世界じゃ香辛料が高いのは理解したし、よくラノベで胡椒を転売して金を稼いでいる人も見るけどさぁ。
なんでスーパーで安く売っている物を高く買う必要があるんだよ」
俺の夢は潰えた。
異世界では手に入らない商品を転売して金持ちになるという、ラノベファンの夢が消えた。
ふと時計を見ると、まもなくバスがやってくる時間。慌てて鞄を持って、俺はバス停に走る。
万が一のことを考えて、今日は後ろに並んだよ。
まさか二日連続であんな事故まがいのことがあるとは思わないけど念のためね。
そして、退屈な授業を終えて文学部の部室に向かう。
まあ、文学部と言っても本の虫の集団、本を読むのが好きなメンバーが集まった、部活とは名ばかりの読書クラブのようなものである。
部室には古今東西の様々な……とまではいかない、先輩たちが持ち込んで寄贈したらしいラノベや現代文学、はたまた古典文学が所狭しと並んでいる。
「ちーっす」
「島崎くんはイルカの曲芸‼︎」
「ユータロ、今日はあ〜るネタか。それも分からん人多いぞ?」
「そっか。ちーっす」
挨拶もそこそこに席に着くと、鞄から分厚い書籍を取り出して読み始める祐太郎。
部室には部長と俺、そして祐太郎の3人だけ。
あと2人ほど先輩がいるのだが、兼部なので今日は来ないようで。
「早速、本の虫とは感心感心。築地君は何を読んでいるのかな?」
「俺ですか? 俺は、とある機動戦士なアニメの設定資料集です」
「……まあ、ジャンルは問わないから。文学部としては、本を読んでいるのなら問題はないわね。乙葉君は?」
「異世界落ちものラノベです」
「ん〜。まあ、ラノベってよくわからないけれど、ジャンルは問わないわ。本を読むのなら問題はないからね」
それだけを告げて、部長も何かの小説を読んでいる。
因みにうちの部長、立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花だが頭の中身も百合百合してる。本人曰く、百合もBLも並列思考できる腐女子らしい、うん、実に残念だ。
それでは、みんなが読書の虫になっている今のうちに俺のスキルをどう活用できるか調べるとしよう。
幸いなことに部室には、その手のラノベも充実している。それらをヒントに、俺のスキルがどこまで使えるのかを考えてみようそうしよう。
──そして一時間後
うわぁ。
俺のスキル使えねぇ。
ネットショップ系スキルは、本人が異世界に転移しているからこそ本領発揮できる。
にもかかわらず、俺は現代にいながら異世界のネットショップが使える。
スマホがあれば代用できるこの現代、そんな非科学文明のアイテムになんの意味がある。
そもそも、あれって俺以外に見えるのか?
「……ネットショップ起動」
ボソッと小声で呟く。
画面の大きさも最小になってくれと願うと、スマホの画面のサイズに変化した。
なら、これっスマホに張り付けられる?
左手にスマホを構えて、右手でネットショップの画面を画面にドラッグしてみる。
『ピッ、ネットショップスキルと乙葉浩介のスマホがリンクしました』
マジか?
試しにネットショップを閉じてスマホの画面を見る。するとそこには見たことないアイコンが置いてあった。
名前は『カナン魔導商会』、試しにクリックしたらスマホサイズに変更されたネットショップの画面が開いた。
「なあユータロ、これなにかわかるか?」
一か八かで、祐太郎にネットショップの画面を見せる。
「ん? オトヤンのスマホだろ? 何も画面はないが新しいアプリでもインストールしたのか?」
あれ?
俺以外には見えていない。
「あ、あれ? アプリ入れたつもりだったんだけど、入っていなかったか」
「なんのアプリ?」
「ラノベ系を読んだり書いたりするやつ。なんて言ったかなぁ?」
「小説家になれる? もしくはヨムカクかな? まあ、便利そうなやつだったら教えてくれな」
再び読書に戻る祐太郎。
ならばと、俺はスマホを弄るフリでネットショップを色々と見ることにした。
そして部活が終わるまでにわかったことは一つ。
それを実践したいから、俺はウキウキウオッチングな気分で自宅へと帰っていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
自宅に戻った俺は、着替えも後回しにしてあることを始める。
「ネットショップ起動‼︎」
──ピッ
目の前にはカナン魔導商会のメニュー画面。
部活での疑問をぶつけてみよう。
「魔導商会ってことは、マジックアイテムも売っているかも……ってきたぁぁぁぁ」
メニューの欄にマジックアイテムの項目あり。
ありがとう女神様。
俺、現代でもチートできるよ。
「どれどれ……ほう、マジックアイテムは魔導具って翻訳されているなあ。魔法のポーションは当たり前に売っているし、魔法の武器まであるのかぁ。あ、日用品もあるし……って、魔法の箒?」
ピッと魔法の箒を選択して説明を見る。
「ふむふむ、魔法の箒には魔導ウインカーとライトも装備、現代日本の交通法規に準じた設計か。最高速度はマッハ3.5、上昇高度は50km? これは買うしかないでしょ‼︎」
すぐさま値段を見て、膝から崩れ落ちていく俺。
表示金額は1,800,000,000クルーラ
普段の生活では、絶対見ることのないゼロの配列。
日本円にして18億円。
「こんなもの買えるかぁ‼︎」
ならばと買える商品を探してみるが、どれもこれも高額商品。それでも調べまくってみて1万円台でなんとか買えるマジックアイテムを発見。
けれど、インクのいらない羽根ペンに、なんの需要がある?
ちなみに俺の持っている初期装備の収納バッグもあったのだが、4ボックスの容量で一つ1億2000万ですよ奥様。
1ボックスが2m立方、そこそこに大きいけどなぁ。
俺の持っている収納バッグは容量無制限で時間停止効果あり。
はて、空間収納もあるのに何の意味があるのやら。
「まあ、この世界唯一の異世界ラノベ能力保持者としては、最大の敵が魔王でなく物価であったというオチが来るとは。俺たち庶民には、マジックアイテムは買うなということかよ。なんで、異世界の商品を売買できる能力なんて貰ったんだろうなぁ」
ソファーに横になって天井を眺める。
異世界の商品が買える。
いや待て、売買だよな?
ガバッと飛び起きて、もう一度カナン魔導商会の画面を隅から隅まで確認する。
すると、入金するボタンの横に切り替えボタンがある。そこをクリックすると、画面が真っ白に切り替わった。
『査定するアイテムを投入してください』
あー。
まさかこんなオチがあったとは。
慌ててキッチンに走っていくと、詰め替え用の胡椒を手に居間に戻る。
しかし、魔導商会の画面も俺と一緒についてくるのに、何を慌てているんだ俺は。
「南無三、あぶさん、ノムさん‥‥俺の予想よ合っててくれ」
画面に胡椒の袋を投入。
すると、すぐさま画面に袋入り胡椒の画像が浮かび上がる。
『査定完了。140g入り詰め替え胡椒の買取査定は、一袋140万クルーラになります。最大二つまで買い取り可能ですが買い取りますか?』
「イエスイエスイエス‼︎」
すぐさまイエスボタンをクリックすると、残金が140万飛んで20クルーラになる。
「……おおう。俺…大勝利かも。これで魔法の箒を買って、いや、ちょっと待って、まだ売れるものがあるかもしれないから……キッチンはまさに宝の山かもしれない‼︎」
すぐさまキッチンに向かうと、あまり使わない香辛料や塩、砂糖などを次々と投入する。
だが、残高がちょうど300万クルーラになった時点で、買取停止の表示が出た。
「え?なんで?」
『一度に買い取りできる金額の上限に達しました。在庫が消耗することで再び買取が可能になります』
「在庫?」
改めてメニュー画面から香辛料を見る。
すると、胡椒や香辛料などの在庫が増えているのに気がついた。
「あ〜つまりここから誰かが買わないとダメなのか。いや、此処じゃなくて、この、カナン魔導商会っていう店から買う人がいる? え? それって本物の異世界で?」
ようやくネットショップの使い方を理解した。
これは、本物の異世界にある本店に商品を卸す事で課金額が増える。
俺の小遣いではそんなに課金はできないが、課金できるチート商品を購入して買い取ってもらえれば課金は増える。
それで、この現代世界を面白おかしく生きていこう。
ボッチだった俺にも、ようやく本気で楽しめるものが手に入った。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
今回のネタ
究極超人○~る/ゆうき○さみ著
カナン魔導商会残チャージ数
300万クルーラ