第百九十五話・旧雨今雨? 清濁併せて一気飲み(時をかける転校生)
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平和だ。
月曜日の朝。
いつものように身支度を整え、魔法の箒で学校へ。
いつもの通りの授業を受けるために、まだ無人の教室の自分の席について。
やがてクラスメイトたちもやってきて、周りがガヤガヤと騒がしくなる。
「……よっ‼︎」
「ぐもーにんユータロ。まだ夏休みは来ないのかよ」
「あと三日ですよ、もう少しだけ我慢してください」
新山さんも登校してきて自分の席に着く。
織田とその取リ巻キーズもガヤガヤと楽しそうにやってきて、俺に軽く手をあげておしまい。
成績がそこそこ安定してきたらしく、この調子なら二学期後半には魔法の会話解禁になるかもって松永が話していたからなぁ。
──ガラッ
「ほらほら、予鈴が鳴っただろうが、とっとと席に戻れ‼︎」
担任が楽しそうに話しながらやってくるのだが、その後ろに女子が一人ついてくる。
「さて、ホームルームの前に、転校生を紹介する」
──ザワザワザワッ
この夏休み前に転校生とは。
また、なんというタイミングだろうか。
普通、転校って学年が変わるタイミングじゃないと色々と面倒なはずなんだけど。
本当なら学年が変わる時に来るはずだったのに、少し遅れたのかな?
『アメリカはニューヨーク州から来ました、セレナ・アンダーソンです。気軽にセレナって呼んでください‼︎』
はい、見事な英語でいらっしゃる。
俺と祐太郎、新山さんは頷いているけど、クラスメイトでも何人かしか彼女の言葉を訳しきれていないようだ。
「ちょうどアメリカは六月で学期が変わるので、転校には都合が良かったらしい。ということなので、仲良くするように。席は……ふむ。新山の後ろにするか。新山は英語がわかるだろう? 魔法が使えるから」
「は、はい、大丈夫ですけど」
「それじゃあ、彼女が日本語に慣れるまでは、彼女に手を貸してやってくれ」
「わかりました。『それじゃあ、よろしくお願いします』」
途中からは英語か。
ちゃんと指輪の効果をうまく使っているよなぁ。
俺の場合は、全て自動的に発動するので、時折面倒くさくなることもあるんだよ。
たまに街の中でさ。
여기는 남자 화장실입니다
这是男厕所
Это мужской туалет
This is a men's toilet
って看板があるんだけど、これが自動的に。
ここは男子トイレです
ここは男子トイレです
ここは男子トイレです
ここは男子トイレです
って二重に翻訳されることがあって、鬱陶しくなることもあるんだよ。
ここ最近は意識して変換しないように気を付けているんだけど、まだまだ能力の制御は大変だよ。
そんなこんなで、転校生の紹介も終わって普通に授業が始まったよ。
………
……
…
「それで、学校に慣れるために、特例で新山さんの所属している魔法研究部に仮入部することになったとはなぁ」
「まあ、担任の話もごもっともだし、空き時間に彼女の日本語の指導をして欲しいって頼まれたらしくてさ」
放課後。
いつも通りに部活にやってきたのはいいんだけど、まさかのセレナもやって来た。
理由はさっき祐太郎に説明した通りで、今回ばかりは頭を下げられてしまったので受け入れるしかない。
「ソーリー。ご迷惑をかけましたら、私は辞退して構いません」
「いや、それは問題ないし。でもまあ、恒例行事なので、この水晶球に手を乗せてくれるか?」
「イェース。占いですか?」
そう笑いながら手を乗せるんだけど、見事に黄色く光るんだよなぁ。
──チラッ
思わず祐太郎をチラ見する。
その合図に合わせて祐太郎が鑑定眼を発動させるんだけど、口元に笑みを浮かべて右手親指と人差し指で丸を作る。
「ふぅん。魔法の素質ありか。ようこそ魔法研究部へ。まあ担任は仮入部って話していたけど、本入部でも構わないよ?」
「WHY?」
「ええっと、セレナにも魔法使いの素質があるので、問題はないのよ」
「私に魔法が?」
「ええ、そうよ。だから安心して構わないからね」
──ガラッ
「おはようございます、リナちゃんです‼︎ 今日のお茶菓子はカキ氷が良いてなんで魔族?」
「リナちゃんいきなりは失礼ですよ。先輩方、こんにちは」
「ああ、こんにちは。って、リナちゃん、なにが魔族?」
──キィィィィィン
さすが祐太郎、すぐさまリナちゃんの言葉に反応したし、俺も右手で韻を紡いで室内に結界を張り巡らせたよ。
「え、誰が魔族デスカ?」
「貴方。でも、普通の魔族じゃないよね? この匂いは『半魔人血種』の人かな?」
「リナちゃん、その半魔人血種って何か教えてくれるかしら?」
新山さんは務めて冷静だし、祐太郎は扉の近くに移動して立っている。
部屋の中は俺の結界が広がっているので霧散化しても逃げ道なし。
そして獣人センサーのリナちゃんがいるので、セレナさんの逃げる道はないんだが。
「sorry。話が全くわかりません。わたしにも簡単に説明をplease‼︎」
「あい。半魔人血種って、肉体構成した魔族と人間の間に生まれた子供たちのことを言うんだよ。それで、半魔人血種の人の子供は、全て半魔人血種になっちゃうんだよ」
淡々と説明してくれるんだけど、ようは魔族と人間のハーフらしく、そこから生まれる人は全て半魔人血種になるらしい。
生まれつき強靭な肉体を持っていたり、飛行能力を持っていたりと、父親の魔族の血によって様々な能力が差に目覚めることもよくあるそうだ。
そして、ここ重要。
半魔人血種は、鑑定しても種族は人間として表示される。
だから祐太郎にも判別できなかったということ。
「セレナさんは、魔族ってわかりますか?」
「イェース‼︎ 私の両親はヘキサグラムで妖魔を研究していました‼︎」
「おっと、親父の関係者の可能性が出てきたか。こりゃまた、面倒ごとになりそうな予感だなぁ」
「soなのですか?」
「まあな。うちの親父はヘキサグラムのセクション1の責任者だったからな」
「ワンダフル‼︎」
──ガバッ
いきなり抱きついてくるセレナ。
た、頼むから離してくれ、胸元の爆発的迫力が危険すぎる、さすがアメリカナイスメロン。でも、俺は北海道民だから夕張メロンのほうが好きです‼︎
「は、離れなさーい‼︎」
叫びながら俺とセレナを引き剥がす新山さん。
「良いですかセレナさんらそういうスキンシップは日本ではご法度です」
「ごはっと。オーケーオーケー。わたしご法度習いました、御成敗式目ですね」
「はぁ。リナちゃんレベルに突っ込みが必要な部員が増えたか」
「リナちゃんはボケ担当ではありません‼︎」
「あ、それはすまん。それでリナちゃんはなんの担当?」
「戦闘班‼︎」
ブゥンとツァリプシュカを装着するリナちゃん。
いや、それは此処で出しちゃダメだから。
それよりも、この混沌とした雰囲気を、早く解消したいものだよ。
まあ、そんなこんなで自己紹介も終わったので、俺たちはいつものように魔法の修練だったり闘気循環だったり。
俺はいつも通りに魔導具作成。
そのうち俺の呼び名が『現代の魔術師』から『現代の錬金術師』に変えられそうで怖いわ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
札幌市清田区の住宅地。
その一角に、セレナ・アンダーソンの家がある。
どうにか部活を終えて自宅に戻ると、居間では父親がのんびりとテレビを見ている。
「ただいま」
「よう、おかえり。転校初日はどうだった?」
「別に、普通に人間の生徒としてやっていこうとして、いきなりバレたわよ」
「バレた? 半魔人血種が?」
母国語の英語での、いきなりのセレナの爆弾宣言に、父親は眉を顰める。
今までに彼女の正体がバレたことなど一度もない。
それが、こうもあっさりと見破られるなど予想もしていなかった。
「ええ。偶然だけど、現代の魔術師と同じクラスに入れたし、わたしが日本語になれるまではって部活にも入れてもらったのだけど……そこに獣人と魔人形の生徒もいて、あっさりとバレたわ」
軽く髪をかきあげるセレナ。
すると頭の左右に、羊のようなツノが姿を表した。
普段は魔力によって髪飾りのような形に変化しているのだが、自宅では正体を明かすようにしている。
形を変化させてあるだけでも、かなりの魔力を必要とするから。
「はぁ。それじゃあ、当初の計画を変更する必要があるのか」
「そうね。早く乙葉浩介を味方に抱き込まないと、魔人王選抜の儀に間に合わないかもしれないわよ?」
そう告げるセレナ。
すると父親も頷きながら、目の前の古い銀鏡に手をかざす。
──ブゥン
すると銀鏡は水のように波紋を浮かべ、どこかの風景を浮かび上がらせる。
『誰かと思ったら、裏地球の蝙闇伯爵か。どうだ? 例の魔術師は捕まえることができたか?』
片眼鏡を掛けた金髪の貴族。
十二魔将第一位、憤怒のマグナムが、セレナの父親に話しかける。
「マグナムさま。まだ我々も日本にたどり着いたばかりです。なるべく早く乙葉浩介を味方に引き込むように、接触することはできました。ですが、まだ信頼関係を得られたわけではありません」
『ほう。家族を人質に取って脅すとか、色々と策はあるだろうが?』
「それは下策です。まずは信頼関係を構築し、その上で協力を得るのが本道かと思います」
『まあ、その辺りはお前に任せる。いいか、王印なき今は、魔人王選抜の儀しか我が魔人王になる術がないのを忘れるな……』
十二魔将第一位のマグナムは、王印を手に入れることができなかった。
そのため、すぐに魔人王になることができないため、『魔人王継承の儀』に賭けることにした。
本来ならば、王印を持つものが魔人王となるのだが、その王印が失われてしまった場合、ある儀式を行う必要がある。
それは、魔人王となるものが、三つの試練を受けること。
勇気、知識、そして統率力。
この三つの試練を超えるものこそ、正当な魔人王となる。
だが、マグナムには信頼できる配下は少ない。
先日の謀叛の折に、彼の直属の魔族は悉く倒されていったのである。
結果として言うのなら、今のマグナムには儀式を越える力がない。
だからこそ、風の便りに聞いた、裏地球の魔術師、乙葉浩介を味方につけようと画策したのである。
『では、良き知らせを待つ‼︎ あまり時間がないことも、忘れないようにな』
銀鏡が波立ち、やがて静かになる。
元の銀盤に戻ると、セレナの父親はそれを棚の上に飾り直す。
「今の声が聞こえたろう? セレナは一刻も早く、乙葉浩介を籠絡しなさい」
「それよりも、王印を探す方が早いと思うけど?」
「鏡刻界で消滅した王印ならいざ知らず。この地に残されたという王印など、伝説でしかない……それは簡単なことじゃないし、そもそも、私たちには時間がない……分かっているだろう?」
時間がない理由。
それは、アメリカに置いてきた彼の妻の話になる。
セレナの母親である魔族は、アメリカでマグナム配下の魔族に囚われてしまった。
それを救うために、彼はヘキサグラムで対妖魔兵器の開発を続けていたのだが、ある日、彼の持つ鏡にマグナムが浮かび上がったのである。
『私の計画に協力しろ。従わなければ、貴様の妻であるフラットを殺す』
鏡の向こうでは、鎖に繋がれて牢獄に閉じ込められているフラットの姿。
この時点で、彼はマグナムの命令に従うしかなかった。
そしてマグナムは言う。
我が魔人王になると。
それに協力するのなら、妻は解放しようと。
………
……
…
「ダディ。王印を探すのは、不可能じゃないわ」
ニッコリと笑いながら、セレナは告げた。
乙葉浩介の先輩の一人、情報収集のプロフェッショナルである瀬川雅の事を。
たまたま部員の話になった時、名前が出てきたのですぐにスマホで検索。その結果、魔法による情報収集能力者であることまでは判明したのである。
「明日の放課後、その先輩に会わせてもらえるんです。そこで聞いてみますよ、王印がどこにあるのか」
「……まあ、そこまで言うのなら止めないがな。あまり派手なことはしないでくれよ」
「ダディ‼︎ もう少し自分の娘を信用してください‼︎」
笑いながら自室に戻るセレナ。
そして彼女は、すぐにパソコンで魔法研究部の部員たちについての情報を、検索し始めた。
少しでも多くの情報を。
「マグナムに協力するふりをしつつ、王印を手に入れて、私が魔人王になる……そうすれば、私の命令は絶対、お母さんを助け出すことができるから‼︎」
そう。
自分の母親を助けるために、セレナは魔人王になることを決意していた。
マグナムに助力する振りをしつつ、いつか反旗を翻すために。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。