第百九十三話・禍福倚伏? 忙中閑をください(騎士たちの送還、動き出した魔族)
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とある日の朝。
東京都某区にある、自由国民党所属・陣内の事務所に警察の手が入った。
罪状は『未成年者略取』。
乙葉浩介を誘拐した罪により、警察が動いた。
「はぁ。まあ、その場にいた人たちが証言したっていうのはわかりますけど、今は国会会期ちゅ……」
「じゃないですよね。今は衆議院総選挙期間です。それと、国会議員の不逮捕特権は適応されません」
「今回のケースは、『妖魔特措法』に基づく、『妖魔による犯罪行為』として適応されました」
警察官に同行している井川綾子巡査長と、忍冬警部補が逮捕状を取り出して提示する。
これにより、陣内の不逮捕特権は消滅。
「いやぁ、ここまでフットワークが軽いのは、後ろで何か動きましたね?」
「まあ、そういう事だ。とりあえず、妖魔用収監所はないので、警視庁へご案内だな。井川くんの結界術式で牢屋ごと拘束させてもらうよ」
力一杯ため息を吐く陣内だが、何処となく安堵の表情にも見える。
「まあ、ここは素直に従っておきますか」
「そうしてくれると、こちらとしても助かるな。なにぶん、世界初めての妖魔犯罪者の逮捕だ、世界中が日本に注目するからな」
「そうして、乙葉浩介の転移門の話から世間の目を逸らす。エグいですね」
魔族である陣内は、自ら霧散化することで物質をすり抜けることができる。
それがあるからこその余裕であったが、井川巡査長が手錠をかけた瞬間、顔面が引き攣った。
「な、なんだって‼︎」
「その手錠ね、乙葉くんが作ってくれたのよ。あなたが新山さんに嵌めたやつを解析して改良した『魔族封じの術式』が込められているから」
この数日間、乙葉浩介はこれを研究し開発していた。
強度を上げるためにアダマンタイトを使用し、鏡刻界から持ち帰った古い魔導書から能力封じの術式を解析して。
それでも、完成したのはこの一つだけであり、成功率は限りなくゼロに近い0.25%。
陣内に対する怨みだけで仕上げられた、まさに現代の魔術師渾身の逸品である。
──ガチャガチャ
陣内が必死に力を込めて鎖を引きちぎろうとするが、びくともしない。
「装着者の能力を封じる枷……か。あの時紛失したかと思っていたが、まさかこんな形で使われるとはなぁ」
ようやく観念した顔になる陣内。
そしてがっくりと肩を落とすと、そのまま車に乗せられて連行されていった。
………
……
…
魔族による犯罪の検挙‼︎
それが堂々とニュースでも報道された。
まあ、被害者の少年Aについては、俺が名前を伏せておいて欲しいってHTN放送のプロデューサーにお願いしたんだけど、元々伏せる予定だったらしくて問題なし。
陣内の地元の商店街とかは、奴が魔族だったことについて賛否両論の意見が飛び交っている。
意外と地元密着型の魔族だったらしく、年長者には評判が良いらしいが、まさか魔族とは思っていなかったという意見が大半である。
ここにきて、『日本国籍を持つ魔族の在り方』についての話に切り替わったんだけど、まだまだ魔族を普通に受け入れ難いという意見の方が多い。
コメンテーターの人も、『このように人間になりすましている存在なんて、信用すると危険ですよ』とか言いながら、周りの人にも同調意見を求めているし。
「はぁ。まだ魔族と人間の共存は難しいのかなぁ」
ため息を吐きながら、俺は出かける支度をする。
昨日の午後にはフェルナンド聖王国の騎士たちを送還する予定だったんだけどさ、都合により今日の夕方に行うことになった。
まあ、国としても送還を見届ける義務があるとかなんとか言っていたし。
色々と面倒くさそうなんだよなぁ。
………
……
…
「さあ、とっとと初めて頂戴」
「……また、なんで燐訪さんがここにいるの?」
妖魔特区に到着して祐太郎や新山さん、瀬川先輩と無事に合流したのはいいんだけどさ。
妖魔特区内監獄エリア前には、大勢の報道陣が集まり、カメラを構えている。
「日本政府代表として、この燐訪総理代行が、異世界への送還を見届けさせてもらいます‼︎」
「明日が投票日ですからねぇ」
「ここに来て票稼ぎとは、忙しいのやら暇なのやら」
俺と祐太郎は言いたい放題。
そして新山さんと瀬川先輩は、後方で深淵の書庫展開後に中で待機。
魔力波長の変動を調べるために、あまり報道のいない場所に待機している。
なお、新山さんたちの護衛には、白桃姫とその眷属魔族が待機してくれているので、もう安心さ。
「祐太郎、作戦Bに切り替えるわ」
「了解。ブライガー、装束モード」
──シュンッ
一瞬で赤い拳法服に姿を変える祐太郎。
こんなところで転移門なんで開けるはずがない。
『来たな、早くここから出せ、俺と勝負しろ‼︎』
俺たちの姿を見て、速攻で結界スレスレまで駆けつけてくるマイオスだが、お前の相手なんてしてやらねーよ。
「ん、こ、と、わ、る。それじゃあ帰りますよ〜」
──シュンッ
魔導紳士モードにフィフスエレメント、セフィロトの杖を装備すると、ゆっくりと体内の魔力を循環させる。
「異空間立体座標の確認……鏡刻界との接続ラインの確保……やっぱり、あと二日なんだけどなぁ……指定座標のセット、監獄内の騎士たちの選定開始……」
一昨日の夜に、ラナパーナ王国に行って受け入れ先の場所を確保してある。
そこの空間座標も確認したので、あとは送り出すだけさ。
「アディオスアミーゴ‼︎ もう二度と会うことはないものたちよ、此処はあるべき場所ではない。とっとと帰れ、没シュート‼︎」
──キィィィィィン
結界内全域が光り輝く。
このタイミングで、白桃姫の配下が俺の貸した鍵を使って水晶柱に転移門を開く。
これで、この妖魔特区と鏡刻界は接続したので、この強制転移術式は普通に稼働するんだよ。
「な、そんな……待って、ゲートを開くのではないの?」
ワナワナと震える燐訪総理代行だけど、俺、そんなこと話してないよ?
「はい。向こうの世界へ無理やり転移させます。そんじゃあラスト‼︎」
セフィロトの杖を高々と掲げる。
大地から自然のエネルギーを体内に取り込み、聖霊力を循環させる。
そこな俺の魔力と闘気を絡めた三重螺旋の魔力を作り出すと、杖から魔法陣にめがけて送り出した‼︎
──シュゥゥゥゥゥン
結界内の騎士たちが消える。
そしてそこに残ったのは、この日本に移住することを決めた『穏健派の騎士たち』。
「これで全て終わりです。では、アディオスアミーゴ‼︎」
万が一に待機していた俺と祐太郎は、カメラに向かって丁寧に頭を下げるんだけど、どうも不満が爆発している。
「ちょっと、予定外のことをされると困るんだけどさ」
「ゲートを開いて、そこから返すって話だったじゃない。今更困るんだよ‼︎」
「こっちは生放送だよ? テレビ局の方ではコメンテーターさんたちも頭を抱えているよ。なんで転移門を開かないんだよ‼︎」
あ、カメラでゲートを映したかったのかよ。
でも、そんなことは聞いてませんが何か?
「あの、俺たちは『騎士団を送還する』としか話してませんよね? なんでゲートを開く話になったのですか?」
「そっちの方が絵になるからだよ‼︎ 何人かのADは異世界に向かう覚悟できているんだから」
「それよりも、今からでもゲートを開けるか? もし出来るならやってくれよ」
はあ。
やらせテレビの実態、ここに見たりって感じだよね。
あれでしょ? ここにいる報道関係者って災害で避難した先で、安堵から笑っている人たちにも怒鳴りつけるタイプでしょ?
こっちは避難して悲壮な映像が欲しいんだ、何を手前ら笑ってやがるって怒鳴るタイプでしょ?
挙句に怒鳴り散らして避難者たちが腹を立てたり泣きそうになった時にカメラを回して、『現地の人たちの怒り、悲しみが伝わってきます』とかナレーション入れるんだよね?
「あ、もう魔力ないのでサーセン」
「俺は魔法使いじゃないのでサーセン」
そう告げてからは全て無視。
すると報道関係者たちが燐訪総理代行に詰め寄っていったけど、どうやらあの人が嘘をばらまいたんだな。
あとは任せるわ。
俺たちは知らないよ。
………
……
…
「お疲れさま。とりあえず、これで一段落かな?」
「まあ、そうなんじゃないかなぁ」
新山さんたちと合流後、俺たちは札幌テレビ城にやってきた。
そこで、水晶柱の前で干涸びそうになっている魔族から鍵を回収し、新鮮な魔力玉を数個手渡した。
それを受け取って吸収した魔族はすぐさま回復、逆にお礼を言われてしまったんだけど、それはまあ良い。
「……残った騎士たちの対応は日本政府の管轄なので、私たちにできることはありませんわね」
「移民? 亡命? どのみち俺たちでどうにか出来る問題じゃないから、現行政府にキラーパスだよ」
「オトヤンの言う通りだけど、その現行政府もあと二十六時間で終わりだけどな」
明日の夜には、全ての決着がつく。
現行政府が再選を果たすか、晋太郎おじさんたち野党が政権を取り戻すか。
そこは全て明日の結果次第。
「まあ、私たちには関係ありませんので。それよりも、新しい情報ですけれど、ジェラール・浪川が脱獄しましたわ」
「「「マジ?」」」
シュークリームの名店『ビアード・ママ』のカスタードシュークリームを食べつつ、瀬川先輩が爆弾宣言。
「ええ。向こうのニュースでも取り上げられていましたけれど、ジェラールは牢内で魔物を召喚して内部から牢を破壊、そのまま空を飛んで逃げたそうです」
「さすがは魔導商人か。何処にそんな道具やら隠していたことやら」
「俺の空間収納のようなものを持っていたんだろうなぁ。それで先輩、逃走経路とか再逮捕したとか言う話はないのですね?」
そのあとの報告や調査でも、アメリカから飛んで逃げたという噂程度のものらしい。
流石の深淵の書庫でも、アメリカの片田舎の街の噂話までは網羅できないって怒られちゃった、てへ。
「しかし乙葉や。会うたびにお主はビルドアップしていくのう」
「まあ、今の俺ならハニワ幻人でも邪魔大王国でも、全滅させることぐらいはできそうですけどね」
「オトヤン、まさか完成したのか? 魔導式ゴーレムが‼︎」
いや、それも忘れていた、祐太郎すまん。
「さすがにそれは無理だわ。まあ、近々作ってみると思うけどさ。兵器を作ったとかでまた怒られそうだよなぁ」
「重機だよ重機、そう言うことで」
「まあ、それならそれで……」
「それよりも乙葉や、魔力玉ストッカーにエルフの魔力玉も加えてたもれ」
「エルフの魔力玉? あ〜、聖霊力な、ちょいまち」
そんなこんなでストッカーに魔力玉を追加したり、途中で合流した沙那さんやりなちゃんも交えてのお疲れ様ジンギスカンパーティを開いたりと、とにかく楽しい一日だったよ。
これで、フェルナンド聖王国の侵攻が完全に止まってくれたら良いなぁ。
………
……
…
さて、乙葉たちも帰ったことだし。
そろそろ、こっちの仕事もやらぬとならないかのう。
「そこに隠れておる奴、姿を現さぬか」
妾の眷属が門を開いたとき。
鏡刻界から何者かがやってきたようじゃな。
姿を隠してこっちの様子を伺っておったようじゃが、そろそろ姿を表しても構わないのではないのか?
──ス〜ッ
「ふん。さすがはピク・ラティエか。相変わらずの感の良さだな」
そう辛口を叩きつつ、竜人族のクリムゾン・ヴェーラが姿を表す。
二足歩行のトカゲ、しかも鋭く鋭角な鱗と竜のような顔。
背中の翼は閉じているので邪魔にはならないが、それでもトイレに隠れていたのは辛かろう。
「まあ、古い馴染みじゃからな。それで、妾に何ようじゃ? 十二魔将第十一位、真竜のクリムゾンや」
「まあ、お前とは旧知だから端的に言うぞ。魔人王さまが殺された。王城で謀反が起こり……暗殺された」
「な、なんじゃと〜‼︎ と、驚いて欲しいか? 妾には興味がないからな」
魔人王が謀反により殺される。
ふむ、油断したのう。
いくらなんでも、あやつは油断しすぎじゃ。
人間世界に侵攻するために、足元が疎かになりすぎじゃ。
全く……馬鹿じゃのう……。
「それで、次代魔人王は誰がなるのじゃ?」
「血筋的には、魔人王……フォート・ノーマの息子たちの誰かなんだが。残念ながら、フォート・ノーマが殺された日の翌日に一族皆殺しだ。つまり、王印を持つものになるのだが」
「ふむ。一族郎党皆殺しとはまた、随分な念の有り様じゃな。そもそも魔人王の身体には、王印は刻まれていなかったのか? 殺して奪うのなら、その場で簡易儀式を行えば良いだけではないか」
魔人王継承印、通称『王印』は魔人王となるために必要な証の一つ。
その形は10センチほどの金印の形をしており、普段は魔法印に封じられて体の何処かに刻まれておる。
新たな魔族が魔人王位につく場合は、どうしても王印が必要。
本来は王族の正統血族のみが、儀式により王印を受け継ぐのじゃが、それを受け継ぐ血が存在しない場合は、少し厄介なことになる。
その厄介な事とは、その王印が『意思を持って継承者の元に現れる』ということ。
先に述べた通り魔人王が死ぬとき、この王印は継承者がいる場合は、儀式により継承される。
じゃが、今回のように暗殺されたり、先代のように浄化された場合、王印は新たな継承者の魂に刻み込まれ、体のどこかに姿を表す。
「そうなんだがなぁ。その儀式を行う前に、王印はその場から姿を消したらしいんだよ」
「それはまた……王印は、主人を求めて彷徨うたか。しかし、あやつ以外に王印を受け継ぎそうなものといえば……」
「二代目魔人王の側近ぐらいだろう。あの伯狼雹鬼か、その兄弟ならば王印を受け継ぐだけの資質は持っている。まあ、それならとっくに受け継いで、殺された魔人王の代わりに魔大陸を支配していただろうけどな」
左様じゃな。
王印は時空を越えれない。
裏地球で浄化された先代王の王印は、この地球で継承者なく消滅しておるじゃろう。
「じゃろうなぁ。それで、次代王を狙っておった第一位は、今はどうしておる?」
「なんだよ、マグナムが謀反を起こしたのを知っているのかよ」
「あやつぐらいじゃろう? 謀反などと言う非生産的なことを思いつくのは」
十二魔将第一位・憤怒のマグナム・グレイス。
最も高貴な魔族を目指し、自身より弱いものが王位につくことを許さない。
そんな奴が、人間界への大侵攻に失敗したフォート・ノーマを赦すはずがないからのう。
「まあ、そういうことなので。俺は十二魔将会談の結果を報告するために来ただけだ」
「結果とな?」
「【魔人王継承の儀】の開催が決定した。それでだ、恐らくは現行魔将の全てが参加するが、我々としては新たに選ばれる魔人王に付くか、糞マグナムに付くかのどちらかだ。アンバランスが、覚悟を決めて答えろとよ」
「妾は十二魔将を引退するから、どっちにも付かぬと報告せい。それに、他の魔将たちも参加するのであろう? 継承の儀は誰でも参加できるからな」
「まあ、そうなんだが……それじゃあピク・ラティエは引退ってえええええ? マジ?」
「うむ。そのマジが本気という文字を表すのなら、マジじゃ」
「そっか。わかった……それじゃあ帰るわ」
「どうやって?」
うむ。
乙葉たちが来るまでは、そなたも妖魔特区の住民じゃな。
そこで呆然としていても邪魔じゃ、誰か、クリムゾンを客室に案内せい。
しかし、【魔人王継承の儀】が始まるとは、厄介じゃな。
全ての魔族を統べる、魔人王の王印『百鬼夜行』か。
それを持つものなど、どうやって探すのじゃろうなぁ。
それに、マグナムがその所有者を見つけたなら、確実に殺してしまうじゃろうからなぁ。
王印は、それを持つものを殺して儀式を行えば、案外簡単に手に入る。
それも魔人王としての力の資質を表すのじゃからなぁ。
どうせ奴のことじゃ、魔人王継承の儀に現れた『王印持ち』を殺して手に入れるつもりじゃろうて。
儀式が行われるといっても、王印持ちが現れた時点で終了じゃからなぁ。
はぁ。
面倒くさいのう。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




