第百九十一話・栄枯盛衰、鳴くまで待とうホトトギス(魔族大選挙……いや、違う‼︎)
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その日。
マグナムは、単独でフォート・ノーマの待つ謁見室にやってきた。
「おお、マグナムか。どうだ、新しい計画は思いついたのか?」
フォート・ノーマの無茶振り、確実に成功する異世界・裏地球へ向かうための手段を探せという勅命にたいして、マグナムはある裏技を思いついで提案にやってきたのである。
「はい。これは二代目魔人王が裏地球に向かう際に用いた秘宝ですが……」
淡々と説明を行いつつ、マグナムは目の前に小さな祭壇を作り出すと、そこに二振りの剣、一つの水晶球を並べる。
「ほう、それはどのような?」
「魔人王にのみ行うことができる秘技に、己の魔力を水晶球に封じ、それを圧縮することでより濃度の高い『高濃度魔力結晶体』を作り出すことができるそうです」
それを用いることで、本来ならば大転移門を開くのに必要な500年の魔力の蓄積を、短期間にすることができるのです。
そう説明をしながら、テキパキと儀式の準備を行うマグナム。
それを楽しそうに眺めつつ、フォート・ノーマは杯を傾けている。
「そうかそうか。それで、我は何をすれば良い?」
「まずは、この酒をお飲みください。霊峰マギアの雪解け水を使って醸された酒です。これ自体が高濃度魔力の集まりですので、より確実に儀式を行うことができます」
──トクトクトクトク
マグナムはフォート・ノーマの手にした杯に酒を注ぐ。すると、フォート・ノーマは躊躇うことなくそれを一気に飲み干す。
「ングッングッ……ぷは〜。これはまた、かなり強いな」
「はい。これを三杯、まずはお飲みください。そののち、陛下には『剣の舞』を舞って貰います。お相手は私が務めますので、ご安心ください」
「ううん……そうか、それなら早く寄越せ」
すかさず残りの二杯を飲み切ると、フォート・ノーマはフラフラした足取りで立ち上がると、祭壇の剣を手に構えた。
高濃度魔力の酒、そのようなものを飲んだとしたら、普通の魔族は一発で酔い潰れてしまうだろう。
それを三杯も飲み干し、さらに立ち上がって剣を構える様は、さすがは魔大陸を統治する魔人王であるといえよう。
「よ、よひ、ではいくろ〜」
「はっ。それでは、私の動きに合わせてお願いします」
そこからマグナムは、『普通の剣の舞』をテンポを早めて始める。
それに合わせるように動くフォート・ノーマだが、段々と千鳥足が酷くなり、ついには倒れて意識を失ってしまう。
「陛下、あとの残りの儀式は私が取り仕切ります。『あとは、私に任せて貰えますね?』」
言霊を用いてフォート・ノーマに問いかけるマグナム。
「う、うむ……あとは任せるぞ」
「畏まりました。それでは……さようなら」
──ドシュッ‼︎
床に大の字になるフォート・ノーマの喉元に剣を当てがい、一気に突き刺さす‼︎
「グバボァァッ」
言葉にならない悲鳴。
さらにマグナムはもう一振りの剣で、フォート・ノーマの魔人核がある心臓目掛けて、トドメの一撃を行った。
──ドスッ……サラサラサラサラ
フォート・ノーマの四肢が、末端から散り始める。
彼が魔人核を破壊され、確実に死んだことの証明である。
「ふう。あとは……」
祭壇に置いてある水晶球を手に取ると、マグナムはゆっくりと詠唱を始める。
「我らが魔族の神・ファザー・ダーク。今この時より、我が魔人王となる。王印よ、我を主人と見とめよ‼︎」
──ブゥン
すると、マグナムの言葉に触発されたかのように、フォート・ノーマの右腕が輝く。
そしてゆっくりと王印の形の痣が浮かび上がったのだが、その直後に腕全体がチリのように散ってしまい、王印がその場に実体化して落ちる。
──ゴトッ
「ふぅむ。まあ、儀式による継承ではないが、これはこれで良しとしましょう」
口元にいやらしい笑みを浮かべつつ、マグナムが王印に手を伸ばすが。
『汝は、王の器ではない』
王印が意思を持ち呟く。
そしてスッと姿を消した。
「……なん……だと? この私が王の器ではないと? たかが王印風情が、誰に向かってそんな口を‼︎」
まさかの王印の拒否。
これに激昂したマグナムは、フォート・ノーマの死体めがけて幾度となく剣を叩きつける‼︎
「この、糞魔人王が‼︎ 今まで、よくも、俺様を、こき使ってくれたな‼︎」
──ドスッガスッ
傷口からさらに黒い霧が噴き出し、体がどんどん散っていく。
「俺様の、計画は、常に、完璧だ‼︎ それを使いこなせない無能が‼︎」
やがて振り落とした剣は、死体に当たることなく床に突き刺さる。
フォート・ノーマという名の魔族が、この瞬間に世界から消滅した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──翌日、帝城ドミニオン
魔将の間と呼ばれている円卓の間に、魔将たちは集められた。
席次は十二魔将の階位どおり。
第一位 憤怒のマグナム・グレイス
第二位 強欲のライザー (裏世界・欠席)
第三位 暴食のグウラ (浄化・空位)
第四位 怠惰のピグ・ラティエ(裏地球・欠席)
第五位 色欲のルクリラ (裏地球・欠席)
第六位 嫉妬のアンバランス
第七位 傲慢のタイニーダイナー
第八位 魔性のプシ・キャット(裏世界・欠席)
第九位 冥王のプラティ・パラティ(裏地球・欠席)
第十位 琥珀眼のパールヴァティ(裏世界・欠席)
第十一位 真竜のクリムゾン・ヴェーラ
第十二位 虚無のゼロ
空いている席は六席。
その全ては、前回の裏地球大侵攻の際に、向こうの世界にて封印されたもの、および勝手に遊びにいったピク・ラティエ。
つまり、ここにはマグナム、アンバランス、タイニーダイナー、クリムゾン・ヴェーラ、そしてゼロの五名しか集まっていない。
「マグナム、この忙しい時に何があった?」
黒いローブに身を包んだ男・アンバランスが上座のマグナムに問いかける。
「私は別に、暇だったから構わないけど。くだらない理由だったら、それなりの代価を貰うわよ? この私の貴重な時間を潰した罰としてね」
綺麗なドレスを着た淑女、タイニーダイナーも笑顔でマグナムを見る。
竜族のクリムゾン、そして白髪の老人・ゼロはマグナムが何を話し始めるのか、興味津々で待っている。
「まず一つ目。魔人王フォート・ノーマが死んだ」
「……まあ、いつかそうなる予感はした。お前が殺したのか?」
アンバランスが問いかけると、マグナムは頭を縦に振る。
「先代魔人王は無能だった。だから、私が殺した。魔族の絶対不変のルール『弱肉強食』、その摂理に従ったまでだ。あのままフォート・ノーマに付いていたところで、我々には未来はない。そう結論を達した」
「それで、マグナムが魔人王を殺したのね? 王印は? それがあるなら、貴方が魔人王よ?」
タイニーダイナーが嬉しそうにマグナムに問いかける。
もっとも彼女は、マグマムが王印を持っていないことを知っている。
今のマグナムからは、王の覇気を感じないから。
「そ、それはない。だが、私は、先代魔人王から、あとを託された‼︎」
右手に水晶玉を取り出すと、マグナムはそこに録音されていた声を再生する。
『陛下……あとは、私に任せて貰えますね?』
『う、うむ……あとは任せるぞ』
聞こえてくる声は、紛れもなくマグナムとフォート・ノーマの声。
だが、その場の誰もが、頭を縦に振ることはない。
「お前がフォート・ノーマさまの後継者というのなら、それならば、王印を出せ‼︎」
「そうだな。王印が必要だよなぁ」
「王印無くして、継承者とは片腹痛いわ」
アンバランスが、クリムゾンが、そしてゼロが叫ぶ。
「お、王印は……消えた」
「あっきれたわ。それって、貴方は継承者じゃないってことよね? 王印は、近くにいたあなたを認めなかった。はい、おしまい」
「こんな会議程度で魔人王を決めるとは、まさに片腹痛いわ」
「この場にいない魔将の意見も必要だな」
「くだらん時間だ」
皆、マグナムをこき下ろすかのように告げる。
マグナムが一位であった理由は、彼の持つ智略とそれを実行できる魔人王配下の軍勢があったからこそ。
使える駒のない知将など、この場の全員の敵ではない。
しかも、今はフォート・ノーマの御威光すら存在しない。
「ま、魔人王継承の儀を宣言する‼︎」
それは、マグナム苦渋の決断。
魔人王継承の儀とは、王印が消滅した時に行われる、魔人王選抜の儀式。
三つの試練を超えたものが、新たな魔人王となる。
これを宣言し、過十二魔将過半数の同意が得られたならば、百二十日後に儀式が行われる。
これは魔族なら誰でも参加できるのだが、実力が伴わないものは、儀式の前に行われる『禊』という選別式で振り落とされる。
そして、誰でも参加できるということは、すなわち、この場の魔将の誰でも参加は可能なのである。
「過半数は無理ね。あっちの世界に残されて封じられた者もいるし」
「そもそもグウラは浄化された。ならば、こちらに残る五人の合意で行われても構わないのではないか?」
タイニーダイナーとアンバランスが、沈黙しているゼロに問いかける。
この場にいる魔将の中で、唯一、ゼロだけが初代魔人王の時代から存在している。
ゼロは魔人王及び十二魔将の取り仕切る全ての儀式や決議の監視者であり、彼の決定には魔人王すら逆らうことはできない。
「よかろう。全ての魔族の法を取り仕切るゼロが宣言する。只今、この時をもって魔人王フォート・ノーマの全ての権限を凍結。【魔人王継承の儀】の開催を宣言する‼︎」
──ガタガタガタッ
ゼロの宣言と同時に、彼の言葉が魔大陸全域に広がる。
魔人王フォート・ノーマの崩御が、そして新たな魔人王を選別するための儀式が、今、始まろうとしていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




