第十九話・紅灯緑酒、足元をすくわれる(限定アイテムの恨みは怖い)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
と・う・きょ・う・だぁぁぁぁ。
前に来たのは冬コミだから、約8か月ぶりの聖地である。
といってもコミケは15日から4日間の開催であり、今日は8日なのであと一週間もフリータイムで遊んでいられる。
去年のように前日ぎりぎりに東京にやってきて慌てる必要はない。
まずはこの空気を楽しみたいので、昨日会った『妖魔の綾女姉さん』のことはまだ内緒、タイミングを見て説明することにした。
空港から直通バスでやってきました秋葉原。
オタクがそろうと、とにかく騒がしくなる。
「オトヤン、久しぶりの聖地・秋葉原だな。どうする?」
「大人は黙って爆買いなんだけどさぁ。変に金使うと、また不良グループに目をつけられかねないからね」
「そうだなぁ。まあ、常識の範囲内で買い物でもしますか。札幌じゃ買えない限定品を中心に」
「そのとーり、おーりとーり聖地。それじゃあ買い物三昧しますかぁ」
いくつものアニメ関係のショップや同人誌専門店を次々と移動。
なんと運がいいことに、限定品がゲリラ販売しているところに出くわし、俺と祐太郎は最後の二つを無事に購入。そのまま買い物三昧を楽しんでいたんだけど、なんだか分からないが妙に視線を感じる気がするんだよね。
なんだろう?
万が一のために魔導具関係はフル装備にしているし、あ、ゴーグル消すの忘れていたわ。
「なあユータロ、俺の装備しているゴーグル、ひょっとして見えている?」
「え? 普通に見えているけど?」
「それを先に言えぇぇぇぇぇ。恥ずかしいでしょうがぁ」
「いや、たぶん大丈夫だろ、時期的に考えてもマーベル系のコスプレに見えないこともないが?」
「まだ一週間早いわ。早くゴーグル消さないと駄目かぁ」
すぐにサーチゴーグルを外して、ディバッグに放り込む……フリをして換装解除。
再び買い物三昧、寿司三昧を楽しむ事にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
東京にくる当日の早朝。
俺こと築地祐太郎は夢を見た。
『おめでとうございます、築地祐太郎さん。あなたの加護の卵は孵化条件の第一段階を満たしました』
あの魔導神アーカムとやらが、夢の中に顕現してきたのである。
まあ、夢なのであんまり気にする必要は無いんだけどな。
『いえ、少しは気にしてほしいのですが。まあ、あなたは無事に武神の加護を得ました。詳しいことは、乙葉浩介から学ぶと良いでしょう』
あ、やっぱり女神様はオトヤンの関係者だったか。
間違えてオトヤンに加護を与えたまま、現世に生き返らせてくれたドジっ
『ドジっ子って言ったら、バチ当てますからね?』
をっと失礼。
それじゃあ、一つ教えてほしいんだがいいかな。
オトヤンが持ってるチートすぎるチートスキルなんだが、あれって、現世に蘇ってからでも回収できたはずだよな?
なに企んでいる?
『……まあ、一つだけ誤解を解いておきましょう。私たち管理神はですね、現世には直接干渉できません。それ故に、乙葉浩介さんに与えた加護を、やっぱりダメって回収することはできないのですよ』
はぁ、そうでしたか、それは失礼しました。
それなら、オトヤンはなんで『殺されそうになったの?』
バス停での事故の話を聞いたんだけど、暗い影の手に突き飛ばされてって言ってたんだわ。
でも翌日からはそんなことはないし、あの瞬間にだけ、確実にオトヤンを殺そうとした何かがあったんだろう?
『……勘の良い子供は』
そのネタはいらないから。
それで、真実はなに?
まだオトヤンに話していないことがあるんだろ?
『そうですね。その件もあるので、あなたたち三人は偶然にも私たち統合管理神に選ばれたのでしょうね。簡単に説明します、あなたたちの住む現世界は、破壊神の残滓によって狙われています』
な、なんだってぇぇぇぇ。
『……私にはやめろと言っておいて、あなた自身はノリノリですね。まさかここでキバヤシで来るとは予想外ですわ』
まあ、俺はオトヤンの親友だぜ?
ここ一番では真面目だけどさ、基本はノリで生きているからな。
俺を構成する半分はノリで、残りの半分は自分に対しての正義だからな。
オトヤンみたいに半分が優しさ、もう半分が好奇心っていう生き方も好きだけどね。
『まあ、その乙葉浩介さんの生き方が、あの破壊神の残滓に見つかったのでしょう。破壊神の残滓とは、あなたにわかりやすく説明すると、現世界の『妖魔』を表しています。そして現実に存在しています』
妖魔?
オトヤンの話していたろくろ首もそうなのか?
『はい。具体的な種族名は『魔族』と呼ぶのでしょうね。実体のない精神生命体、人間を始めとする、様々な生命体から『精気』を奪い取り存在する混沌の生命体です。まあ、貴方たちの住む世界では『妖魔』あるいは『怪異』と呼ばれていますが、全て等しく魔族です』
はぁ。
なんだかネットゲームかラノベの世界だなぁ。
その言い方だと、世界各国の悪魔とか妖怪物の怪って全部妖魔なんだろうなぁ。
『ええ。そして真実です。破壊神の残滓は、あなたたちの世界が生まれた時から、この世界に存在しています。鏡刻界という、この世界とは鏡面に存在する世界です。これ以上のヒントは与えられませんが、魔族は周期的に活動が活発になり、大規模な災厄を引き起こします』
それが、間も無くである。だから、俺たちになんとかしろってか?
『そうは申しません。ですが、偶然ですが、貴方たち三人は魔族と戦う術を、神の加護を身に付けてしまいました。それは彼等からすれば脅威そのもの。気をつけてくださいね……』
はぁ。
オトヤンがなんだか面白そうなチートスキル持っているって思ったけどさ、やっぱり裏があったのかぁ。悪いけど、オトヤンを巻き込んだあんたらは許さないからな。
俺は俺なりに、オトヤンの助けになるわ。
俺の命も、オトヤンに救われたんだからな。
『はい。それでは私はこれで。もう貴方に神託を与えることはないでしょう。それと、これだけは気を付けてください。貴方たち三人の加護と、乙葉浩介さんの加護は全く別物です。もしも、困ったことがあったら……』
……いや、そこで神託止めないで、止めるにしてもヒントになる単語ぐらい教えてくれないか?
何もヒントにならないところで切らないでくれない?
そんなのだからドジっ子女神なんだよ?
俺の中では、アクアとリスタルテが駄女神なんだけど、アンタも加えるからな‼︎
………
……
…
「うわあ、寝汗ひどいわ‼︎」
なんだかとんでもない夢を見たような気がする。
いや、あれはこの前見た神託の続きなんだろうなぁ。
しかし、あの神託が事実なら、あの神様はとんでも無いものを高校生に押し付けやがったぞ?
はあ、もう一眠りしようか……って、この左手首のブレスレット何?
俺の左手首についてる、銀色のブレスレット。
装飾のようなものはなくピッタリとジャストフィットしているし、手首を動かすと引っかかることなく綺麗に曲がる。
それに右手を添えたとき、これが女神の話していた『加護の卵』だったと理解できた。
「……ん? 祐太郎君、まだ朝じゃないわよ?」
「あ、起こしちまったか、悪いな」
「いや、それは良いんだけどね……ねぇ、朝一で東京行くのでしょ? なら、もう一回……ね」
まあ、それじゃあ、つまみ食いした責任を取りますかね。
昨日は寝る前に二回戦がんばったのに。
あと何回戦付き合う事になるのやら……。
クラスのヒロインのこの姿、誰にも見せられないよなぁ‥‥
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
時間は戻る。
「いゃあ堪能堪能。まさかの限定品販売が今日だったとは思わなかったよ」
「しかも二件目のゲリラ販売。さっきといい今といい、ギリギリ買えたのはラッキーだったよな。まあ、後から来た連中の恨めしそうな顔が怖かったんだけどなぁ……」
「オトヤン、所詮この世は弱肉強食、強いものが勝ち、弱いものは死ぬ…って言うだろ?」
祐太郎、それダメだから。
鉄骨の上歩かされるから。
最悪はデスノートに名前書き始めるから、そんな魔導具無いからね? あっても買わないからね?
「さて、これからどうする? 飯食うにも早いし、映画でも行くか?」
「良いねぇ、今だと何やってるかなぁ」
「アニメ? 特撮? 邦画? 洋画?」
「アニメが良いかと。ユータロのお勧めは?」
祐太郎はすぐさまスマホで封切り中の映画を探している。この辺りは任せておいても問題はない。
「俺の勧めは、劇場版の『幻精鏡界録』だな。去年の夏アニメの、ほら、月夜瑠璃が原作のやつ。もしくは『追放された「元勇者」がゆく2度目の異世界無双伝』も捨てがたい。あれは静内燕っていう小説家の作品だよね? どっちも見たいよな」
「あ~、確かにどっちも良いなぁ。俺としては劇場版の『くまクマ熊ベアー』も今回が最終章だったよね。超ロングストーリーだったけど、これがまたハマるんだよなぁ」
「なら、今日は幻精境界録、明日が追放勇者とクマクマの二本立てで行くか」
「おっけーさん。でもその前にさ、アレなんとかしないと」
俺の言うアレとは即ち、限定品購入後にこっそりと付いてきている変な二人組。
バレていないと思っているのか、たまに振り向くと空を見上げて歌を歌っている。見方によっては危険なやつ。
一軒目ではタイミングが合わなくて購入できず、二軒目では俺たちの前に並んでいたんだけど、いざ支払いの時に所持金で買えなくてあえなく自爆。
内金を入れるから取っておいてくれって店員に頼んでいたんだけれど、限定品ということでそれも無理ですって断られて俺たちが買うことになったんだ。
「正面から喧嘩する気はない。なので、ここは逃げの一手‼︎」
「オトヤンに同意。じゃあ次の角で撒くか」
やや早足で道なりに進む。
そして信号待ちの交差点を右に曲がると、俺と祐太郎は一気にダッシュで近くのビルに駆け込んでいく。
「あ、逃げたぞ‼︎ 追いかけろ」
「あんな田舎者に大切な凛ちゃんフィギュアを持ち逃げされてたまるか‼︎」
全力で乙葉と築地を追いかける男たちだが、角を曲った所で、二人を見失ってしまう。
「チッ……逃げられたか」
「いや、なんだか知らんが、こっちにいるような気がする……」
男の一人が周りを見渡してから、乙葉君たちの飛び込んだビルに入っていった。
………
……
…
「はあはあはあはあ‥‥撒いた?」
「多分な。オトヤン、魔法で範囲内にあいつらがいるか確認してくれ」
「おっけーーーって、まだそんな魔法使えないから。広範囲の生態感知なんて使えないし、そもそもマーキングしないと無理だから。そんでもって‥‥見つかったから」
『上だ、行くぞ!!』
『了解!!』
階段の下から声がする。
なんでこういう時に限って、エレベーターがメンテナンス中なのかなぁ。
とりあえず階段を駆け上がるような真似はしないよ、廊下を走って曲がって走って、そして別の非常口を探すのが速いでしょ。
ほら、お約束通り行き止まりだよ。
「‥‥うん、詰んだ」
「オトヤン、素直に渡す気は?」
「ナッシング!! 万が一の時用に、ユータロもこのリングをつけておいて、使い方は、部活の時に説明したよね?」
そう告げてレジストリングを祐太郎に手渡す。
部活の時に使い方は説明してあるので、祐太郎もすぐに魔力を解放して指輪に人差し指を添えた。
「さんきゅー。でも、これって登録した魔力波長以外では再使用は出来ないんだろ? 俺が登録していいのか?」
「かまへんかまへん。ほらきた‥‥ってうわ、とんでもないやつらだわ」
廊下の向こうから歩いてくる二人組は、俺たちを見てニヤニヤと笑っている。
背中にディバッグを背負っているのと頭のバンダナから察するに、たぶんオタクが粋がっているだけだろうと思うんだけれど、その雰囲気がやばい。
うちの学校の不良チームとも、俺をさらった黒服ブラザーズとも一線を越えた殺意を感じている。
「‥‥ユータロ、わりぃ」
「お? オブッ!!」
――ゴスッ
先に打撃耐性だけでもと祐太郎を軽く殴る。
当然、祐太郎のレジストリングに打撃耐性が登録されるので、これでいくら殴られてもダメージは入らない‥‥筈。
「オブッ‥‥と、痛くないか。話に聞いていたとおりなんだな。じゃあ相手すっか」
「そうだね。おーい、あんたら俺たちに何の用だ!」
まずは話し合いで解決したいよね。
いきなり拳で語ってくるとは思えないからね。
――ジャキッ
話し合いが良かったんだけどなぁ。
目の前のバンダナオタクたちは、ゆっくりと間合いを詰めつつ、いきなり振り出し警棒を取り出した。
それを構えつつ、ヘッヘッヘッとこっちを見て笑っていた。
「お、俺たちの凛ちゃんフィギュアを奪いやがって、なめるなよ」
「凛ちゃんはな、お前たちの汚い手で触っていい御方じゃないんだ!!」
「いや、あんたらおかしいから。俺たち以外にも買っていたやつらいたでしょ、なんで俺たちを狙うんだよ」
「「 弱そうだからに決まっているだろうがぁ 」」
うわ、最低だ。
そんな話をしている横では、すでに祐太郎がべた足で構えを取っている。
さすが色々有段者。その構えはなんだろう。
――ドダダダダダダタッ
いきりバンダナーズは、一気に間合いを詰めて警棒で殴りかかってくる。
だが、そんな遅い速度じゃかすりもしないぜ、こちとら体力100オーバーだ。
俺も祐太郎もバンダナたちの攻撃をすり抜けて躱していくが、気のせいか警棒を振る速度がどんどん上がってきている。
ブンブンという警棒の音が、段々とヒュンヒュンに変わっていくのが判る。
しかも目が血走っていて、口とか鼻から黒い霧が噴出していた。
「う、うわわわ、なんだこいつら!!」
「オトヤン、かなり気まずいパターンだ。ちょっと頭の中で整理付かないけど、本気で相手しないと殺されるぞ!!」
「こ、殺される!! この治安国家のど真ん中で?」
慌てて後ろに下がったけど、祐太郎はそんな奴らを見てこう呟いていたんだ。
「こいつらが妖魔かよ‥‥」
「妖魔? なにそれ、ギャグ抜きで説明頼む」
そう話しているさ中にも、警棒がヒュンヒュンと音を立てて体の近くを振り抜けていく。
確かにこのままじゃまずい、あんなのくらったら一撃で死ぬ。
いやまてまて、俺たちは打撃耐性があるだろう?
判っていても怖いものは怖いんだけどさ、ここは勇気を出して踏み込んでいこうよ!!
――ドガァァァッ
バンダナ男の警棒が真横に抜けて後ろの壁にぶつかる。
その一撃で、コンクリートの壁が吹き飛んで、部屋がむき出しになった。
はい、勇気を出すのも踏み込むのもやめます。
「‥‥いやちょっと待って、あんなの無理だわ、監視カメラ動いているよね? 警備員はまだこないの?」
「まったくだよ。一かバチが、次に殴ってきたら横をすり抜けるか」
「イエッサー!!」
こうなると場数を踏んでいる祐太郎は強い。
バンダナたちが振りかぶった瞬間に、タイミングを合わせて一気に横を走り抜けて階段を駆け下りていった。
後ろからは相変わらず警棒を構えて走ってくるけれと、ビルの外に出てしまえばこっちのものだ。
そして一階まで駆け下りて外に出た。
昼下がりの秋葉原交差点。人が大勢行き来している。
「す、すみません、変な奴らに襲われてます、助けてください!!」
「暴漢だ!! 助けてくれ!!」
ビルの前を歩いている人に叫んで、腕を掴ま‥‥えれない?
――スカッ
外には大勢の人が歩いている。
けれど、俺たちが見えていないのか、俺たちの声が届いていないのか、俺たちを無視して歩いていく。
しかも。掴んだはずの腕が掴めなかったんだよ。
俺が何を言っているのか判る?
スカッと、まるで立体映像を掴もうとして掴めなかったみたいに、よろけてしまったんだよ。
「オトヤン、かなりピンチだ。ラノベやファンタジーの世界だ」
「‥‥まあ、そのど真ん中を俺たちは歩いているんだけれどね、でも、俺たちが先駆者じゃないみたいだねぇ‥‥」
とにかく走る。
俺と祐太郎は力いっぱい走る。
人混みをかき分けながら、まあぶつかることないのですべての人を突っ切って。
ビルや看板にはぶつかった。
人だけが通り過ぎていくのが判る。
もう全力で、後ろを振り返ることなく走って‥‥。
そして、目の前に虹色の壁が出来ているところで、俺と祐太郎は先に進めなくなった。
壁沿いに走る。
しばらく走るとまた壁が90度曲がる。
さらに走る。
息が切れるまで走る。
また曲がる。
「‥‥一つの区画丸々、この変な壁に阻まれたみたいだな」
「そんな感じだね‥‥って、もう後ろまで来ているぅぅぅぅ」
必死に虹色の壁を殴るが、まったくびくともしない。
そんな中、いきりバンダナたちは俺たちを捕捉して口を開けてゲラゲラと笑っていた。
その口の中には巨大な目玉が一つ付いていた。
そして、その目玉はじっと俺たちを睨みつけていた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
鋼の錬金○師/荒川○ 著
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くま クマ ○ ベアー/く○なの著 /https://ncode.syosetu.com/n4185ci/
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追放された「元勇者」がゆく2度目の異世界無双伝/静内燕著 / 残念、なろうからお引越し。