第百八十一話・諸行無常は因果応報?(未知としか遭遇してない)
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はい。
大空高く黒金の翼〜。
高速で箒を駆って、とりあえず追っ手を巻き切ったので、眼下に広がる森に着地。
見事なまでに深い森林、木の高さが30mを軽く越えているよ。
「腐葉土……にしては、そこそこしっかりとした地面だし、獣道のようなものもあるし獣の足跡だっ……ふぇ?」
地面を見渡してからふと、正面を見る。
──フゴッフゴッ
あ、二足歩行型の豚。
別名はオークっていうやっだよね。
口元の牙がいかにも怖くてなんでいうか、ランドレースやヨークシャーのような優しい豚顔のオークじゃ無く、猪。
それも凶暴な牙を持つ猪が、チェンメイルを着て斧を手にこっちを見ている。
「フゴッ?」
「???」
こっちの様子を見ているようなんだが、頼むから敵対意思を見せないでくれよ?
って言うか、もう自動翻訳先生が仕事しているよ。
なんだよ、飯って‼︎
──ニマァァァ
あ、嫌な笑い方しているわ。
口元を釣り上げて、目はニコニコと。
それでいて両手で斧を構えたかと思ったら、力一杯投げつけてきたぉぁぁぁ‼︎
──ブゥン……ズビズビザハァァァアッ
細い木が真っ二つに切断されて、そのまま弧を描くかのように俺に向かってゲッタートマホーク!
ゲッタートマホークとタマホームって似ているよねって、そんなこと考えている場合じゃないわ。
「曲面展開、強度五倍力の盾っっっ‼︎」
──シュンッ、ゴスッ
俺の前方、曲面に張り巡らされた力の盾に、オークの斧が突き刺さる‼︎
いや、魔法の盾に突き刺さるってどんだけ強靭な斧なんだよ‼︎
「フゴゴッ(魔法使い)?」
「その通りだ、通りすがりの魔法使いだから、手出しをしなければ殺さないから安心しろ‼︎」
「フガゴフゴフゴフッ(魔法使いは、肉に魔力が絡み合ってとてもジューシー‼︎」
「自動翻訳さん、適時とんでもない訳を聞かせないでくれ‼︎」
オークは前屈みの状態でいきなりダッシュ!
真っ直ぐに俺目掛けて、右肩から体当たりを仕掛けてきた。
だが、その程度の攻撃は見切っているさ。
「植物の枷っ‼︎」
──ゴゴゴゴゴッ
オークの進行方向にある木々の根が、地面から突き出してオークの足を絡めていく。
──ズデェェェン
そのまま前のめりに倒れると、顔面を木の根にぶつけてオークは気絶。
「よ、よーし、今がチャンス‼︎」
振り向きざまに魔法の箒を取り出して跨ると、素早く高度を上げ……れない。
──ブワサッ、ブワサッ‼︎
上空をフェルナンド聖王国のドラゴンライダーが通過。
森が深いおかげで見つかっていない模様だが、これで空高く逃げる戦法は一旦停止。
森の中を中高度を維持しつつ、そこそこの速度で逃げることにしたよ。
もうね、一刻も早くフェルナンド聖王国の領土から逃げたいんだよ。
そんなこんなで中高度を一時間ほど飛行したのち、周囲に魔物の気配がないのを確認……って、マップ系魔法は習得していないから、生命感知系魔法で周辺を索敵。
──ピーン
「ん。範囲内には小動物系の生命体しかいないか。それじゃあ」
──テーレッテレー‼︎
空間収納から取り出したのは、『鏡刻界の鍵』。
空間超越系術式をガッチリと組み込んだ改良型なんだけど、ようは水晶柱を使って地球と鏡刻界を接続する扉を作り出す。
以前作ったやつだし、しょっちゅう使っているから問題ない。
「これ、結構使っているよなぁ。さて、これで扉を開くと‼︎」
──ブゥン
目の前に銀色の扉が開く。
ただ、その表面がプラズマ帯電しているようにバチッバチッて稲妻が走っているのはなんで?
──バジィッ
その放電のような稲妻が激しく銀色の扉を包んだかと思うと、いきなり爆散した。
しかも、その衝撃が俺の体にも走った‼︎
「痛っ‼︎ 何が起こったんだ‼︎」
『乙葉浩介の体内魔力回路が著しく損傷。その状態で【鏡刻界の鍵】を使用したことによるバックファイアです。現在、第二聖典までの魔法しか安全に使用できません』
「……魔導具は? 魔法の箒は使えたよね?」
ルーンブレスレットに問いかける。
俺用のサポート頭脳である『魔導執事』が組み込んであるから、ある程度のことは解析して教えてくれる。
『起動必要魔力、及び維持魔力に必要な魔力を、現在の魔力回路では練り上げることは困難。乙葉浩介の使用している魔法の箒は【カナン魔導商会】のオリジナルであり、起動及び維持に必要な魔力は一桁です』
「ふむふむ。つまり、俺は地球に帰れない……えええええ‼︎」
フェルナンド聖王国に強制的に連れて来られ、あのへんな宰相の攻撃を受けて、なんとか逃げ延びてきたんだけど。
ようやくドラゴンライダーとかも撒くことができたので、鍵を使って帰れると思ったんだよ?
それがさ。
いや、待て、落ち着け俺。
体内の魔力回路の損傷なら、回復魔法で治療すれば俺は使えねぇぇぇ。
「ふぅ。これからどうすりゃいいんだよ」
流石に鏡刻界と地球を繋ぐ方法がない。
切り札の『鏡刻界の鍵』も使えない。
カナン魔導商会のメニューは開けるようだし、これでなんとか凌ぐしか方法はないか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──時間は少し戻る
「……はぁ。オトヤンは無事なのかなぁ」
いつもの学校、いつもの部活。
昨日、オトヤンが陣内に攫われた。
連れ去られた先は異世界・鏡刻界。
オトヤンなら鍵を持っているので、無事に帰って来れてもおかしくないんだが、未だに戻ってきたという形跡は無い。
「無事だといいのですけど。瀬川先輩にもお願いして、地球上に乙葉くんの反応があったら、すぐに連絡をくれるようにお願いはしてあるんです。乙葉くんのお父さんたちには、築地くんが話をしてくれたのですよね?」
「まあな。でも、意外とあっけらかんとしていたなぁ。攫われた先が鏡刻界だって話をしたら、まあ、そのうち帰ってくるって笑っていたぞ」
信用があるということだよなぁ。
まあ、カナン魔導商会があるから衣食住の衣と食は問題ないし、住だってウォルトコのアウトドアコーナーをみたら、小型のコテージも売っていたから大丈夫だよな。
──グスッ
「……乙葉くんの体の中の魔力回路、もうボロボロだったの。神威解放コマンドっていうのを使うと、魔力回路を神威が巡るらしいのだけど、それって人間の魔力回路じゃ細すぎて、あちこち千切れたり破れたりするの……」
やばい、新山さんが泣いている。
オトヤン、なんでこういう時に居ないんだよ‼︎
「新山先輩。乙葉先輩の魔力回路なら大丈夫です。魔力回路は使えば使うだけ強くなるって、お父さんが話していました」
有馬沙那さんが、新山さんの隣に座って励ましている。
まあ、ここは女子同士で新山さんを励ましてもらうしかないか。
「有馬とーちゃんが、鏡刻界につながるゲートを作るって頑張っていたよ。それが完成したら、すぐに救援隊が派遣されるって……」
「ありがとう、リナちゃん。その救援隊って?」
「くれ〜なつぐ〜まちの?」
そう新山さんが問いかけると、リナちゃんはニィっと笑って自分を指しながら、何やら口ずさんでいる.
それは救援隊じゃなく、海援隊なって突っ込みたいところだが。
「わたし、現地の人。住んでいた大陸はちがうけど、鏡刻界のことならなんでも知ってるから」
「その救援隊には、俺も同行させてもらう。オトヤンには助けてもらってばかりだからさ、ここは俺が助けに行かないと」
「私も同行しますわ。最新型のアイアンメイデンには、空間接続ユニットを搭載するってお父さんも話していましたから」
リナちゃんが、俺が、沙那さんが力強く叫ぶ。
「私も……私も行きます、乙葉くんに何かあっても、私なら治してみせます‼︎」
「よし、その意気だ。それで沙那さん、鏡刻界に向かうための空間接続のんとけは、いつ出来るんだ?」
「……理論は完成しています。ただ、開発にはどうしても時間が必要だそうで……進捗状況がわかったら、また説明しますので」
まあ、オトヤンがいたならもっと早く完成したんだろうけれど。
有馬父さん単独なら、時間がかかっても仕方ないか。
でも、沙那さんの提案で新山さんも元気になったことだし、今日は感謝だな。
………
……
…
「……あいかわらず、鬱陶しいる奴らじゃなあ」
妖魔特区内、結界監獄。
その中でフェルナンド騎士団は、囚われた騎士団長を中心に、規則正しい生活を送っている。
朝日が昇る時は、昇りゆく太陽に祈りを捧げ、日暮れにはまた、太陽に感謝を告げる。
それが太陽神イグニートを信奉する彼らの日課。
昼間は、食事の時間と休憩時間以外は騎士団の訓練を続け、日が落ちると自由時間となる。
今はとにかく、この結界から出る方法を探し出し、反撃のタイミングを伺っている。
地面を掘り起こして結界を躱そうとするものもいたが、地下でもしっかりと結界は作動している。
一丁分丸ごと、正四角柱型の結界に包まれているから、地下から逃げる作戦は諦めたらしい。
食事などは乙葉浩介が送り込んでいたのだが、彼がいなくなったあとは白桃姫が『空間転移術式』を編み出し、送り込むことはできるようになった。
汚物その他は内部の神聖騎士が浄化術式で消滅させているので、それほど問題では無いらしい。
結界に包まれてはいるものの、外に出れないこと以外はいつもと変わらない生活を騎士団はおくっている。
「こんな美味いパン、本国ではたべられいよなぁ」
「たまについてくるデザートとやらも美味いし、この味付けは見たことも聞いたこともない‼︎」
「これが裏地球の食べ物か……」
毎食ごとに聞こえてくる、騎士たちの驚きの声。
質素な生活が基本である太陽神の信者にとっては、この裏地球の食事は贅沢以外の何物でもない。
当初は騎士団長や神聖騎士たちが、騎士たちが贅沢するのを咎めていたのだが、今となっては騎士たちに懐柔され、楽しそうに食事を続けている。
白竜騎士団のマイオス以外は。
「どうじゃ、そろそろ其方も騎士たちのように懐柔されてみては?」
結界の外を向かって胡座をかいて座り、外を睨み続けるマイオス。
騎士としての矜持を、しっかりと護っている。
「断る。怠惰は敵であり、贅沢は怠惰につながる。そのような貴族を、俺は幾度となくみてきたからな」
「そうか、それは残念じゃなぁ。では、後は好きにするが良いぞ」
手をひらひらとふりつつ、後ろで待っている政治家とタッチ。
ここからは彼らの出番。
どうにかして騎士たちを懐柔しようと、毎日のようにやってくる。
彼らの食事や生活に必要な品々は、全て彼ら政治家が手配しておるようじゃから。
妾の懐は痛まないからのう。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




