第百八十話・草行露宿‼︎ 雨夜の月(影の黒幕、いや、それダブってる)
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鏡刻界、フェルナンド聖王国。
その王城まで陣内の能力で連れてこられた挙句、これから『聖王エドワード』と謁見だとさ。
今頃、俺が消えたので皆は驚いているだろうさ。
「なあ陣内。この謁見が終わったら、素直に俺を帰してくれるのか?」
「それは保証出来かねないんだよなぁ。まあ、エドワードとの話し合いが終わってから、考えるとするよ」
やはり、この陣内は信用できない。
そもそも、俺だけをこっちの世界に呼び込んで、一体何を企むと言うんだ?
「さて、それじゃあ案内するから、ついてくると良い」
「はぁ。向こうじゃ俺がいなくなって、パニックになっているぞ」
おそらく新山さんはパニック状態。
それを落ち着かせるために瀬川先輩が宥めて、祐太郎が白桃姫に対策について相談に向かうと言うところだろうなぁ。
まあ、このまま陣内の後ろについていくと、長い回廊の先に、豪華な装飾を施した両開き扉がある。
その前に二人の騎士が立っているところを見ると、ここが謁見の間なのだろう。
しかも扉の前にはもう一人、豪華な作りのローブを着た男が立っている。
「陣内よ、首尾は上々のようだな」
「はっ。マーカス宰相に置かれましては、本日もご機嫌麗しく……」
「世辞はいい。さあ、そこのものよ、ついてきたまえ。ここから先は、私が案内しよう」
──ギィィィィィッ
ゆっくりと両開き扉が開く。
まだ室内に赤い絨毯が伸びているが、その先、床が階段上になっている先の豪華な椅子に、青い衣服を身に纏った男性が座っている。
頭に略式冠が載っているところを見ると、この人が王様か。
確か聖王エドワードとか言ったよな。
「ようこそ、異世界の魔術師よ。本来ならば、今すぐ、この場で貴様を切り刻みたいところだが、マーカスがお前の使い道を教えてくれたから、今は許す」
「それはどうも、聖王エドワード。それで、まだ俺たちの世界への侵攻を続けるのですか?」
「当然だな。太陽神からの神託に変更はない」
はぁ。
本当に、神様任せの政策なんだなぁ。
「一つ教えますが、もう、俺たちの世界へ来るためのターミナルは作れませんよね? そのための魔力が集まらないって聞いていますよ」
「ああ、その通りだ。先程まではな‼︎」
「先程?」
うん、嫌な予感しかないわ。
ふとマーカス宰相を見ると、嬉しそうに頷いている。
「俺、贄?」
そのまま聖王エドワードにも問いかけるが、コクリと頷いている。
なるほどなぁ、俺を生贄に捧げてターミナルを開くのか。
「断固として断る‼︎」
「そのものを捕らえよ‼︎ 殺しさえしなければ、足の一本や二本吹き飛ばしても構わん‼︎」
聖王の怒声が聞こえてくるが、俺は振り向いて全力疾走開始。
真っ直ぐに扉に向かって走り出すが、すぐに扉の前に2人の騎士が立ちはだかる。
だが、その程度で怯む俺じゃない。
「魔導紳士モード‼︎ からの」
──パチン
指を鳴らす。
無詠唱の広範囲・拘束術式。
これで相手を拘束して……って、発動しないだと?
魔導機動甲冑・魔導紳士モードは装着できたけど、どうなっているんだ?
──ドゴッ
騎士が剣を引き抜き、俺の鳩尾目掛けて柄で当て身を喰らわしてくる。
それは間一髪で躱すと、そのまま廊下に飛び出し、さらに加速‼︎
──ドスッ!
一瞬、背中に軽い痛みが走る。
くっそ、誰かが何かしやがったな‼︎
この魔導紳士装備を少しでも貫通するなんて、タダごとじゃないぞ。
必死に追っ手に向かって魔法を唱えていくが、その都度、天井や床に魔法陣が展開し、俺の魔法を打ち消してくる。
しかも、魔法陣から雷撃が発生し、俺を狙って飛んでくる‼︎
「くっそ、魔法封じの術式かよ‼︎」
「あいつだ、捕まえろ‼︎」
さらに目の前からも騎士たちが駆けつけてくる。
両サイドは壁のみ、聖王の安全を考えたら、謁見室に向かう回廊に窓なんてあるわけがないよね。
外から侵入されたら、たまったものじゃないからね。
「天井は高い……魔導具は行けるか‼︎」
──シュンッ
空間収納から魔法の箒を取り出して飛行開始。
最初は片手でぶら下がる感じで高度を上げてから、座り直して天井スレスレを飛んでいく。
「魔導具の発動については止められないのか。しっかし、どうしたものか」
一直線に廊下の隅まで向かうと、ちょうど正面の扉が開かれたのでそこから外に飛び出す‼︎
──シュゥゥン
扉の外は外。これで逃げ切った‼︎
一気に高度を上げると、眼下にフェルデナント聖王国王城の全体図が見て取れた。
巨大な王城、その前に広がる城下町。
背後には巨大山脈が聳え立ち、何人たりとも近寄らせないと言う雰囲気を醸し出している。
「……ふう。これは恐怖だわ。このままラナパーナ王国に逃げたいところなんだが……ですよね〜」
後方真下から、ワイバーンらしき魔物に乗った騎士たちが上がってくる。
「そこのお前、止まれ‼︎」
「我々から逃げられると思っているのか‼︎」
徐々に速度を上げてくるので、こっちも徐々に速度を上げる。
最高速度マッハ3の、カナン魔導商会謹製【魔法の箒】についてこれるものなら、ついてきやがれ‼︎
──ゴゥゥゥゥッ
あ、後方で豆粒みたいになったわ。
よし、空中戦勝利‼︎
じゃなくてさ。
「いやぁ、とりあえずこの国から出ないことには、落ち着いて転移術式も使えないわ」
一刻も早く安全な場所を探し出して、そこで日本に戻らないと。
………
……
…
「報告します。敵の魔術師は城外に逃亡、そのまま空を飛んで国外に向けて移動したと思われます」
「空を飛んだだと‼︎ ワイバーンかペガサスでも召喚したのか‼︎」
報告を受けたエドワードが、目の前の騎士に問いかける。
あの状況下から、まさか完全に逃げ延びるなど予想外の何者でもない。
「いえ、それがその……見えない場所から箒を取り出したかと思うと、それに乗って飛んで行ったとのことです。ワイバーンライダーが追撃しましたが、飛行速度が追いつかず、逃げられたと」
「な、なんだと……空を飛ぶ魔導具だと?」
ワナワナと震えるエドワード。
大規模ターミナル稼働用の生贄であった乙葉浩介が、まさか伝説の魔導具を所有しているなど、想像もしていなかった。
「探せ、なんとしても捕らえろ‼︎ マーカス、国境線に騎士団を派遣しろ‼︎」
「かしこまりました。では、早急に」
丁寧に頭を下げてから、マーカスは謁見室から出て行く。
「ふむ。我が一撃は命中したはずだが、魔力回路を破壊しきれなんだか。まあ、それでも本来の魔力は失ったと思われるから、いずれは捉えることも可能であろうよ……」
笑いながら回廊を進むマーカス。
その声は、誰にも届くことはなく、ただ雑踏の中で掻き消えていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……え?」
「消えた?」
「乙葉くんが、見事に消えたわね。あの陣内とやらも一緒に」
「やばい待て待て、落ち着け俺。いいか、オトヤンが消えた、そして入れ替わりにこんな奇妙な彫像が置いてある。それはいい、いや、良くなフベシッ‼︎」
──スパァァァァァン
「築地くん落ち着いてください。乙葉くんがいなくなって動揺しているのはわかりますが、今は慌てている場合じゃありません」
おおっと、新山さんにハリセンツッコミされたか。
お陰で冷静になったわ。
さて、瀬川先輩は……もう深淵の書庫を展開しているのか。
「深淵の書庫。世界中全ての監視カメラを掌握、私のデータライブラリにある乙葉浩介と同じ外見の人間を探してください」
──キュィィィィィン
おおう、深淵の書庫が真っ赤に発光して高速回転している。
こんな光景は、初めて見たわ。
「ここは先輩に任せて、白桃姫さんにも相談しましょう‼︎」
「ああ、そうだな……しかし、まさかオトヤンがあいつに攫われるとは、全くの予想外だった」
「私もそう思います」
速攻で箒と絨毯を取り出し、俺と新山さんは札幌テレビ城へ向かう。
そこの真下、巨大な水晶柱の前で、白桃姫はのんびりと昼寝をしている。
「白桃姫っっっ‼︎」
「ふぁ? なんじゃ? 妾の寝込みを襲うのかえ?」
「違うから。オトヤンが陣内に攫われた‼︎」
「白桃姫さん、乙葉くんの行方を探せますか?」
そう二人がかりで問いかけると、ようやく白桃姫もビーチベットから体を起こし、グイッと伸びをして見せる。
「ふぁぁぁぁ。陣内……おお、ブレインジャッカーの事か。奴に攫われたと言うと?」
「実はカクカクシカジカで、いきなり消えたんです」
「ふぅむ。無詠唱転移か。どれ、現場まで案内せい」
ヒョイと、新山さんの絨毯の後ろに飛び乗る白桃姫。昼寝している場合じゃないって感じだな。
そしてオトヤンが攫われた場所に到着すると、白桃姫が両手を合わせて術式詠唱を始めている。
日本語ではないどこかの国の言葉、一呼吸で三種類の詠唱を平行で行なっている。
「ふむふむ。空間転移系術式の残滓。乙葉は、鏡刻界に攫われたようじゃな」
「マジか‼︎」
「ええ。白桃姫さんの言う通りですね。私の深淵の書庫でも、乙葉くんの行方は掴めていませんでした。ただ……」
そう告げる瀬川先輩だけと、何かを発見したようだ。
「ただ、なんですか?」
「乙葉くんに、限りなく近い反応をひとつ発見したのよ。場所はアメリカ合衆国、メリーランド州ボルティモア郊外。ヘキサグラムの研究施設の中にある一軒家なのですけど」
そこまで説明してから、瀬川先輩は一拍おく。
「「ですけど?」」
「遠隔鑑定してみたのですが、乙葉くんと98.62%同位体と言う鑑定結果が出まして……」
「んんん? それってどう言う事なのですか?」
「違いはなんだ? それはオトヤンじゃないのか?」
「正確には、乙葉くんと同じ遺伝子配列を持つ、別人物が存在します。しかも女性‼︎」
──ピッ
深淵の書庫を平面に配置し、いくつかの写真が映し出される。
そこには年齢で言うと16歳から18歳の、金髪の女性が映し出されていた。
「……意味がわからん」
「そうなのですわ。この女性の名前は『ミラージュ』。それ以上のデータが確認できませんでした」
「こ、この人が乙葉くんで、本物の乙葉くんの存在が消滅したとか? え、入れ替わったの? 異世界転移で乙葉くんの存在が消滅?」
とうとう新山さんまで動揺が収まらなくなっている。いや、そりゃそうだよ、オトヤンが攫われて女性になった可能性があるんだからな。
「落ち着け。乙葉は鏡刻界におる」
「「「本当か(ですか?)」」」
「うむ。残滓を辿ると……フェルデナント聖王国までは追いかけられるな。そこからは分からぬ」
「いきましょう、フェルデナント聖王国まで、乙葉くんを助けに行くのです‼︎」
フンスと両拳を握って、力強く告げる新山さん。
でも、どうやって?
「待て待て新山さん。フェルデナント聖王国にどうやって行くんだ?」
「鍵があります。乙葉くんに以前貰った、異世界へ向かう門を作る鍵があるじゃないですか」
「あ〜。確かにあったよな。でも、前にアメリカで実験した時、俺は一瞬しか門を開くことができなかったし、なによりもラナパーナ王国にしか開かないぞ」
「わ、私では無理……先輩でも、厳しいですよね?」
ここにきて、魔力が足りないことに気がつく。
俺が開いて移動するのはありなんだが、長時間開くことができないのと、魔力回復用ポーションが切れている。
しかも、ついこの前、カナン魔導商会で買い物をしたばかりなので、俺が使えるようになるのは一ヶ月後だ。
「まあ、今日のところは一旦帰りましょう。ここであーだこーだと話していても、煮詰まって良い答えが出てきませんわ」
「あうあう、先輩の言う通りです」
「仕方ないか。明日また集まって、対策を練ることにしよう」
これで話し合いは完了。
俺たちはその場から撤退し、明日からの行動をどうするべきか、各々が考えてくることにした。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。