第百七十九話・大驚失色‼︎ コロンブスの卵(そろそろ本気で決着つけるか?)
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昨日は酷い目にあった。
校内で許可なく異世界への門を開くなって怒られて、門の作成は禁止されました。
めでたしめでたし。
まあ、一応はめでたい。
どう広瀬がまた突っかかってきても、『校則で禁止された』の一言でOK。
「それでさ、なんで俺は校長室に呼び出されたの?」
今朝の登校直後。
俺は生活指導の先生に捕まって、校長室に連れて来られたよ。
「君にいくつか聞きたいことがあるのだが、良いかな?」
「ゲェッ、教頭‼︎」
「目上のものを呼び捨てとは。教頭先生と言いたまえ。さて、話とは他でもない、修学旅行の件についてだが」
おっと、また無理難題を押し付けられるかと思ったら、予想外に安定。
「はぁ、11月ですよね?」
「うむ。今年度は間に合わなかったが、来年度ならまだ調整が効くと思ってね。来年度の本校の修学旅行は、異世界に向かうことが決定した」
「へぇ、どうぞ頑張ってください。では失礼します」
「待ちたまえ‼︎何を他人事のように。異世界に向かうことができるのは君しかいないのだろう? だから、君が異世界へ向かう門を開くのだよ?」
ふむ。
そう来るか。
「因みに校長先生は、この件を許可したのですか?」
「いや、許可などしていない。それでも彼が話し合いで解決したいと言ってね。それなら、10分以内に協力してもらえる確約が取れたならということで」
「はぁ、なるほど策士ですね。では、俺は修学旅行のために異世界へ向かうゲートを開くことはありませんので」
「ほほう、君が協力しないと言っても、生徒たちや引率の教師たちが許すと思っているのか?」
「と、言いますと?」
「すでに掲示板には、来年度の修学旅行先が異世界であると告知したのだよ‼︎ それを見た生徒たちを、君は絶望に追いやることができるというのかな?」
「はい、俺は無理ですし無関係な他人なんてどうでもいいですから、では失礼します」
──ガチャッ
そういうことかよ。
どうせ教頭が人気とりのためにやらかしたんだろうなぁと思いつつ、教室に戻る。
すると、クラスメイトが次々と詰め寄ってくる。
「乙葉ぁ、来年度のうちの修学旅行、異世界に行くって話が出ているらしいぞ」
「あれって決定なの? うちらはいけないの?」
「新山さんにも築地くんにも聞いたんだけど、乙葉くんしかわからないって」
あ〜。
修学旅行騒動、ここまできたのか。
「それじゃあ、説明するからみんな席につけ‼︎」
俺がそう叫ぶと全員が席に戻ったので、黒板に詳細を書いて行く。
・教頭先生が、勝手に『来年度の修学旅行は異世界』を公表、引率の先生や現一年生を巻き込んで、俺が引けない状況に追い込んできた
・だから、俺は引いた
「以上だ‼︎」
「うわぁ……それじゃあ、今の一年生って、幸せ最高潮から絶望感に落とされるのか。最悪だな」
「あの教頭、碌なものじゃないわ」
「引率の先生方、ウケるわぁ」
とまあ、クラス中が盛り上がっております。
「それで、解決策は?」
「さぁ? 俺は無理だって断ってきたから、教頭先生が何とかして異世界への道を探すんじゃないの?」
「それって可能なのか?」
「そもそも、選ばれてないといけないっていうのに、何処で『誰でもいける』って思い込んだんだか……」
「ちなみに、うちのクラスが今年の修学旅行で異世界に行くという方向転換は…ないよなぁ」
「ない。もしそうなったとしても、行けるのは俺と祐太郎、新山さん、あとは織田。以上です」
ここで矛先が俺たちから織田に変わる。
「織田ぁぁぁぁ、抜け駆けかよ‼︎」
「いや待て、よく考えろ。そもそもだ、乙葉の魔法については、術式の書き換えでどうとでもできるだろうが、違うか?」
「ほぅ……織田、その根拠は?」
思わず突っ込んだら、織田がいきなり手の中に魔導書を取り出したわ。
「「「なんだって(どうして?)」」」
俺、祐太郎、新山さんともに絶叫。
おいおい織田よ、いきなり覚醒しているんじゃないよ。
「この魔導書に書いてあることなんだが、上位魔法使いは魔法の理を、『術式変換』で条件付けができるって書いてあってだな。そうだろ乙葉‼︎」
あ〜。
子供でもわかる、初級魔導書だからなぁ。
織田でも読んだら理解できるのか。
「まあ、正解。それよりも、空間魔法なんて覚えたのか?」
「いや? 魔導書と契約した」
「……ひぁ?」
思わず変な声が出たわ。
なんだよ契約って。
あ〜、織田のポテンシャルを見誤っていたわ。
散々、俺からもいろんな話やヒントを貰っていたからなぁ。
「織田、俺にも魔法を教えてくれ‼︎」
「乙葉に聞いても、教えてくれないんだ‼︎」
おーおー、次々と織田の元にクラスメイトが懇願しに向かったんだけど、どう対処する?
「なあオトヤン、織田がどう反応するか興味ないか?」
「そこなんだよ。あの魔導書を全て理解したなら、答えは俺と同じなんだよなぁ」
「それって、どういう事?」
「まあ、祐太郎も新山さんも、織田がどうするか見ていよう」
という事で、織田がどう対応するか聞いている。
「まず大前提でな、魔法を使うためには『魔力』『魔力回路』『秘薬』『発動媒体』が必要でな」
「それは乙葉たちからも聞いたぜ」
「俺の場合、魔導書と契約することで、発動媒体についてはクリアした。よく魔法使いが本を開いて魔法を使うだろう? これはそのタイプだ」
「ふむふむ、それで?」
「魔力は誰にでもある。それを魔力回路に循環させる事で、全身に魔力を均等に浸透させる。そこから発動媒体を経て、魔法は発動する」
ほう、そこまでは問題ないな。
「ただ、魔法によっては魔力が膨大に必要になる。それを補うのが『秘薬』だ。これがあると、消費魔力を抑えることができる」
ほう、逆転の発想か。
足りない魔力を秘薬で補うのが、織田式説明。
膨大な必要魔力を、秘薬で減らすのが俺式理論。
ちなみにどっちも正解。
「じゃあ、織田も秘薬を持っているのか?」
「ある。けれど、学校には持ち込んでいない。俺は、魔法の話に没頭すると親に怒られるのでね。話を戻すが、魔力回路に魔力を流すには、魔力弁を開く必要があるんだが、これが一番難解でね」
そこだ、その説明を待っていた。
祐太郎と新山さんも、織田がどう説明するのか耳を傾けている。
「魔力弁?」
「ああ。ようは魔力の蛇口で、これを開かないと魔力回路に魔力が流れていかない。これを開くのには、色々とコツがあったり必要なものがある」
「どういう事?」
「魔力弁っていうのは、蛇口の『回すところ』がないんだよ。つまり、普通には開かなくて、回すための『握り手』の部分が必要でさ。それが魔導書だったり杖だったり。意味がわかるか?」
「つまり、魔導書か杖がないと話にならないと?」
「まあ、他にも手があるんだけど、俺が教えていいのはここまでなんだよ。この魔導書にも、そこまでの説明しかなくてさ、ようやく踏み出したばかりだからさ」
おお、正解だよ。
思わず新山さんも祐太郎も俺も、顔を見合わせてから織田に向かってサムズアップしたわ。
──グッ‼︎
「とまあ、乙葉。ここまでで間違いはないか?」
「ん? 正解。よくもまあ、そこまで理解したよ」
「いつも乙葉が話していることが、全て正しかっただけだ。俺は運良く魔導書を手に入れることができただけで、普通の人が魔法を覚えるのはきついんだろう?」
「まあな。そしておめでとう織田。ようこそ魔法使いの世界へ」
──パチパチパチパチ……
俺がそう告げると、一人、また一人と拍手を始める。
「まあ、学校では魔法関連の活動が禁止されているので、俺はもっぱらこいつらと自習みたいなものだ」
「チーム織田っちは、全員が魔法使いになるために特訓中だよ」
「まあ、俺はあまり興味ないけどさ」
また明智は、チームの和を乱すんだから。
「ほらほら、そんな話はそろそろやめてくれるかな? 楽しいホームルームの時間だぞ」
ここで説明会はゲームセット。
またいつもののんびりとした学校生活が始まったよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
フェルナンド聖王国騎士団が、妖魔特区内の監獄結界に閉じ込められて、すでに一週間。
本当なら、既にラナパーナ王国に転移し終わっているはずなんだけど、日本政府の意向で未だに彼らは監獄結界の中。
食事その他生活に必要なものは、全て日本政府が用意してくれるので、俺は二日に一度、魔導転送装置で荷物を結界の中に送り込むだけ。
「バイタルチェック……よし、あとは30分ほどお時間をもらいますわ」
「さすが‼︎」
瀬川先輩は、深淵の書庫を使って結界内部の騎士団たちのバイタルチェックを行なっているところである。
これもしっかりと日当を貰っているので、タダ働きではない。
「しっかし、いつ戻せることやら」
「さあな。あの燐訪総理代行が判断することだからさ。体調不良のために湯治に行っていたという説明があったけどさ、あのタイミングで行くかぁ?」
祐太郎の言う通り。
第二次議事堂前攻防戦の時には、燐訪総理代行緊急対策室にはいなかった。
必死に大西官房長官をはじめとした議員たちが探し回ったのだが、いざ終わってから何事もなかったかのように帰ってきたよ。
それも一度だけ説明をしておしまい。
まあ、居てもいなくても大して変わらないような気はするけどさ。
「今、対策委員会で彼らの放免について検討会を行なっている。彼らを結界から出すべきか、出した後はどこに隔離するべきかってね」
「ラナパーナ王国に送る気だけど?」
「他国からやってきた人間による犯罪行為として、しっかりと法に照らし合わせて処分するんだと」
「まあ、それならそれで、俺が干渉する必要ないからいいわ。あの強制転移術式、か〜な〜り疲れるからさ」
そんな話をしていると、結界の向こうにマイオスが姿を表した。
「俺と勝負しろ、そして俺が勝ったら、俺たちを自由にしろ」
「こ、と、わ、る。俺は魔法使いであってね、近距離戦であんたに勝つ自信はないよ」
「それなら、ツキジ卿とやらはどうだ? 俺と互角に渡り合えたんだから、悪い話じゃないだろう?」
「俺たちが勝った場合の報酬がない」
「フェルナンド聖王国水竜騎士団の副団長に勝利したと言う時点で、栄誉が与えられるぞ」
「そんな、一銭にもならない仕事はごめんだわ」
祐太郎も同じ意見。
「まあ、俺としても、この件についてはとっとと終わらせたいんだよなぁ。何か、いい方法はないものか?」
そう話していると、サングラスにコート姿の陣内がやってくる。
まあ、衆議院議員だから、ここに入る事くらいは朝飯前だよなぁ。
「よっ‼︎ ご無沙汰していますな。なにかお困りごとのようにも見えますが」
「誰かと思ったら、陣内かよ」
流石に新山さんは後ろに下がって、瀬川先輩の深淵の書庫の中に避難する。
「まあ、随分と嫌われちまってますね」
「そりゃそうだ。俺だって嫌いだよ」
「そう言うこと。それで、今日は何の用事だ?」
そう祐太郎が問いかけると、陣内は手にした鞄から書類を取り出して俺たちに見せる。
「日本政府の、異世界対策委員会からの通達です。乙葉浩介たち魔術師チームは、速やかに彼らを移管するための建物の製作について協力するようにと」
「そんな事をしたら、また逃げられるよ?」
「それについては、俺もそう思いますぜ。ですので、この件については『協力を得られなかった』と言うことですので、おしまいです」
「「「「あっさり!!」」」」
またゴネられるのかと思ったが、そうではないらしい。
「そんじゃ、日本政府の議員としての仕事はおしまいっす。ここからが本題、乙葉浩介くん、フェルナンド聖王国に行きたくはないですか?」
「はぁ? そりゃあ今回の件について、きっちりと話をしたいから、行けるものなら行きたいですよ」
──シュン
そう呟いた瞬間、周りの風景が変わった。
え? どう言うこと?
周りを見渡すと、どこかの城の中。
綺麗な赤い絨毯が、まっすぐに伸びている廊下。
柱と柱の間には、幾つもの彫像が並べられており、その彫像のある場所に俺と陣内は立っている。
「ええええ、ちょっと待てや、此処ってどこだよ!」
「どこと聞かれると、フェルナンド聖王国王城、プロメシア城の第一回廊と答えますが」
「はぁ? それってどう言うことなんだ? どうして門を使わないで異世界に来たんだよ」
そこがわからんし、いきなり敵地に俺一人ってどうよ?
「それが、俺の魔族としてのユニークスキルだと説明したら、理解してくれるかな? 俺は数少ない『転移能力持ち魔族』なのでね?」
「嘘だろ? 前に鑑定したときは、そんな能力なかったと思ったが」
「前は前、今は今。と言うことで、フェルナンド聖王国国王である、『聖王エドワード』さまがお待ちです。こちらへどうぞ」
「……何を企んでいるんだよ?」
「別に。俺は、聖王がお前に会いたいと言うから連れてきただけだからなぁ」
ニヤニヤと笑う陣内。
くっそ、天啓眼を使っても、シールドが貼ってあって見えないんだよ。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、かぁ。
こりゃあ、覚悟を決めた方がいいな。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。