第十八話・一撃必殺、寝耳に水(話せばわかるものだよね?)
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夏休みの早朝。
明日の朝には東京へ向かう。
今回の旅は、いつもとは違う。
毎年、お年玉や小遣いを貯蓄し東京行きの旅費を集めて、前日入り最終日帰宅の強行シフトを組んでいたのだが、今年は違う。
いつもよりもかなり早く東京に向かい、コミケ翌日にのんびりと戻ってくる。
安いホテルでのんびりしようと思ったんだけど、俺も祐太郎も今や億万長者、だったら豪華に行こうということで、祐太郎の親父さんに頼んでホテルの手配をお願いしたんだよ。
まあ、親父さんも祐太郎が安宿にいるのは危険と思ったらしく、上野の高級ホテルのプレミアムスイートだかなんだかいう豪華な部屋を押さえてくれたんだ。
まあ、手荷物は全て空間収納に保管、俺たちはバッグ一つでのんびり旅という事。
………
……
…
「はいっ‼︎ 今日はこのオレンジの形が変化します」
明日には東京だけどさ、どうしても確認したいことがあったので、大通り公園に出撃したよ、ストリートマジシャン甲乙兵で。
「ご覧ください、オレンジの形が、なんと林檎の形に変化しました」
「「「どこも変わってねーよ‼︎」」」
そう笑いながら叫ぶ観客の前で、一瞬でオレンジの形をバナナに変化する。
──オオオオオ‼︎
「これは失礼、林檎ではなくバナナでした、という事でこちらはお嬢さんにプレゼント、フォー、ミー」
「「「欲しがったんじゃねーかよ!」」
もう、甲乙兵のファンみたいな人もいるので、中々楽しいツッコミが増えている。
それならばと、今度は魔法の制御訓練も兼ねる。
「はい、こちらは何処にでもある魔法の光の玉です」
──ブゥン
右手の人差し指と親指で摘める程度の大きさの光球。これを瞬時に作り出して観客に見せると、それをギュッと握りしめて消す。
そして左手をぐるっと回してまた作り出して光球を摘むと、観客は驚いた顔をする。
まあ、手品の技術の一つである『パーム』という、物を隠す技を身につければこれぐらいは簡単なんだけど、俺は本物の魔法使いだからさ。
「では、今度はこのように……」
作った光球をパッと消して、観客の帽子を指差して指パッチン‼︎
──ブゥン
帽子の上に光球を作り出した。
これには皆驚き、帽子の所有者なんて慌てて帽子を脱いで光球を触ろうとしたけど、それも指パッチンで消してから、自分の掌に生み出した。
──オオオオオオ
これには皆驚く。
そりゃそうだ、どこにタネがあるかなんて分からないだろうからさ。
そのあとも水生成でふわふわ浮かぶ水球を作ったり、その水球を金魚の形にして空を泳がせたりと、かなり高度な魔法操作の訓練をしていた。
そして一通りの訓練を終えると、近くのベンチに座る。
──バクバクバクバク
心臓音が高鳴る。
この前は、ここでろくろ首が現れた。
今日は、この前とは違う、一か八かの対処方法も用意した。
胡椒の買取はしていなかったから、今日は砂糖だ、それもグラニュー糖。
それを買い取ってもらい、チャージした金額でレジストリングを一つ購入。それと他の魔導具全てを装備して、準備は完了した。
「さあ……始めますか」
ゆっくりと体内の魔力回路に魔力を循環させる。
目に見えない物なら、インビジリングにも魔力を注いでリバース効果も発動。
──ブワッ‼︎
すると、この前とは違う感じで世界がクリアーになった。
少し離れた場所では、フワフワとクラゲのようなものが浮いている。
そして……いた。
少し先、この前見たろくろ首がゆっくりとこちらに向かって飛んできている。
『ピッ……レジストリンクに恐怖耐性を付与しました‼︎』
よし来たガッテン‼︎
先程まで高速で太鼓の達人並みにドゴドゴしていた俺の鼓動が、震えるほどにビート、燃え尽きてハートって感じに落ち着いた。
そしてよく見ると、ろくろ首さん実は美人。
うん、未知の物体に恐怖していた時は感じなかったけど、結構いけているんじゃね?
『おやまぁ、また餌になりに来たのかい? 今日はこの前みたいには行かないよ?』
「いや、あんたに話があってきたんだ……」
『??? 私の声まで聞こえるとは、本当に絶滅種かい。これは珍しいねぇ』
「話がしたいと言ったんだけどさ、聞いてくれるか?」
『そうさねぇ、あんたの精気を少しだけ分けてくれるなら、構わないよ?』
「それってさ、この前みたいにガブって噛み付いて俺を殺す?」
恐る恐る問いかけると、ろくろ首はカンラカンラと笑い始めた。
『私たちは、あんたたちの世界で言う精神生命体さ。生身の人間を食べるためには受肉しないとならないんだよ。
この前のはね、驚かしてあんたの心に恐怖が生まれるように仕向けたのさ。
人の心に生まれた恐怖の感情は甘露だからね?』
「成る程理解。それで、俺の精気をどうやって食べる?」
『さっき、魔法使っていただろう? あの魔法の光を作ってくれれば、それを食べるから構わないよ』
それなら契約は成立。
光球を掌に作ってろくろ首に向かって放り投げると、パクッと一口で丸呑みした。
──ブルルルルッ
何か恍惚めいた顔で震えるろくろ首。
『ああ、甘露だねぇ。たまにこれを食べさせておくれよ?』
「話次第だけどね。そんじゃ話しようか、あんたらなんなんだ?」
突然の一言に、ろくろ首も頭を傾げる。
『魔族さ。まあ、こっちの世界の人間的に言うと妖魔? 最近はこの呼び方の方がしっくり来るから妖魔って呼んでくれて構わないよ』
「妖魔ねぇ。どこから来たんだ?」
『鏡の向こうさ。こっちの世界と鏡一枚隔てた先にある世界、鏡刻界っていう世界だよ』
鏡の世界?
え?
俺リュウキになれる?
いや待て、リュウキはまずい最後は死ぬ。
だったらナイト?
「へぇ……、そ。その鏡刻界って所には、俺も行けるのか?」
『行けるといえば行ける。行けないと言えば行けない。あそこを出入りできるのは魔法使いだけ、それも転移門を通ってね』
「転移門? 自衛隊かの地で戦っている? 美人のエルフやロリ神様いる?」
『それは知らないねぇ。転移門っていうのは、あんたら魔法使いが鏡刻界とこっちの世界を結ぶために作り出した魔法だよ』
あ、覚えてないし。
そのうち覚えるのかなぁ?
「そうか。それじゃあ、その、なんであんたらは鏡刻界からこっちの世界に来たんだ?」
『……本当に、あんたは魔法使いなのかい? それすら知らないとはねぇ。私たち妖魔がこっちに来た理由は、人間の精気を食べに来ただけだよ。
まあ、人を驚かせて楽しむやつとか、そういうのもいるけどね』
「……まさかとは思うけどさ、あんたら、昔からこっちにいるのか?」
『そういうこと。物の怪とか妖怪とか、あるいは鬼とか。私たちはそういった存在として、昔からこっちの世界に居たんだよ。
昔は開放型転移門っていうのがあったし、新月の夜には此方とあちらを繋ぐ道もできたからね』
はぁ、つまり妖怪は本当に昔から存在して、それでいて人間と共存していたっていうことか。
あれ?
水木先生って、ひょっとして妖怪を見ることが出来たのか? 魔力回路が開いていたんだろうなぁ。
「いろいろ理解したわ」
『なぁ、さっきの光の玉、もう一つおくれよ』
「ほら、お食べなさい」
もう一度光球を作って放り投げると、嬉しそうに食べている。
「あのフワフワ飛んでいるのは? あれも妖魔なのか?」
『そうさ。下級妖魔でね、浮遊水母とかフローターって呼ばれているね』
「害は?」
『そりゃああるさ、私たち妖魔の共通的本能、精気を少しだけ頂く。まあ、フローターに憑依されても、少しだけ疲れる程度だし、ほんの十分程度の憑依で満足して離れるけどね』
ペットみたいな妖魔だなぁ。
そのあとも、妖魔について色々と教えてもらった。
俗に言う妖怪型のもあれば、完全に人型で人間世界に溶け込んでいるものもいる。
そういうタイプは中級妖魔もしくは人魔というらしい。
古い人魔だと、人間と交わって子をなすことあるそうだ。
当然、怪しまれないようにわざと老化もするし、死ぬ事も表現できる。そうして人間としての死を迎えてから、また別の姿で生きていく。
話を聞くと、意外と面白い。
だけど、いきなりろくろ首さんが渋い顔をした。
『まあ、今の時代はさ、あんたら魔法使いは全滅したので私たち妖魔にも安全だと思うだろう? けれど逆でさ……』
「ほうほう、何かアンタラにとっての脅威のようなものがあるのか?」
『あるさ。平安時代から、私ら妖魔を退治するための専門家がね。祓い屋とか拝み屋とか、退魔師なんて言うのもいたなぁ』
「でも、その人たちって今はもういないんだろ? さっき、魔法使いはいないって言ってたよね?」
そこだ。
どうして魔法使いは居なくなったんだ?
『ああ。血の淘汰さ。魔法使いは血で受け継がれる、それを知っていた昔の人たちが、より濃い血を残すために行なったある風習のせいで、逆に血が途絶えたのさ』
魔法使い同士による近親婚。
その結果、より濃い血を残す筈が、魔法使いとしての資質を残せる者がいなくなってしまい淘汰した。
「それじゃあ、今の、俺たちの世界にはもう存在しないのか」
『いや……ほんの僅かに残っている。けれど、魔法としてではなく、呪符師という形になってね。だから、あんたみたいな純粋な魔法使いなんて、この世界にはもういないのさ』
「そ、その呪符師っていうのがやばい存在?」
『いやいや、呪符師程度なら、中級妖魔相手なら勝率なんて無いに等しいよ。昔と違って強力な式神を使役することなんてできないからね……ヤバいのは、陰陽府さ』
はい、知らない単語キタァ。
陰陽府って事はあれだろ、平安時代の拝み屋集団で陰陽師の集まりで、安倍晴明の世界だろ?
映画で見たから分かるぜ。
ドーマンセーマンドーマンセーマンだよな?
「その陰陽府が、今もあるのか?」
『あるよ。私ら妖魔に有効な武具を発掘して使っているだけなんだけどね。それでも、神話の時代からある神器程度じゃ無いと上級は祓えないから』
「でも、その妖魔を傷つける存在があるのは事実なのか」
『そういうことさ。だからあんたは気をつけな。この世界で、私ら妖魔相手にまともに戦える魔法使いなんだ、奴らがあんたのことを知ったら取り込みに来るに決まっているから』
おおう、それは御免被る。
そんな血腥い世界になんて、足を踏み込みたくないわ。
「そうか、ありがとうなろくろ首のねーさん」
『私はろくろ首じゃないよ、飛頭蛮の綾女っていうんだよ。まあ、たまにここに来て精気をおくれよ、また色んな話をしてあげるからさ』
「分かったよ、じゃあな」
──ヒュルリラ〜
にっこりと笑いながら、綾女姉さんがどこかに飛んでいった。
いやぁ、予想外に濃い1日だったけど、これはまだ祐太郎達には話さないほうがいいな、さらに混乱するとまずい。
さて、そんじゃあそろそろ帰って明日の準備でもしますか……
──ザワザワザワザワ
ふと気がつくと、ベンチの近くで人が集まっている。
時折俺の方をちらっちらっと見ているという事は、そういうことなんだろう。
──シュタッ
勢いよく立ち上がると、観客全員に丁寧に頭を下げた。
「明日からは東京、なので札幌でのマジックは今日で終わり。月末前には戻ってきますので、それまではのんびりとお待ちください」
期待には応える男だよ、俺は。
「さぁ、それではストリートマジシャン甲乙兵のタネも仕掛けもありまくりのマジック、どうぞお楽しみください」
なお、自宅に帰れたのは午後7時、もう何もすることなく日課だけを終わらせて眠ることにした。
バタン、キュ〜。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりにくいネタ
ジョジョの奇○な冒険
仮面ライダー龍○
ゲート 自○隊 彼の地にて、斯く戦えり / 柳○たくみ 著