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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第三部・異界侵攻編、面倒ごとがやってきた‼︎
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第百七十五話・四百四病は有卦に入る(戦士の休息)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

──後方・救護班では

 

 今回は前回とは違い、私が救護班のメインを務めています。

 最初は戦場後方に下がってきた怪我人を確保したり、井川さんやその他の医療チームと簡単な打ち合わせをしていました。

 ですが戦闘が始まってから二十分もすると、冒険者さんが走り込んでくるようになりました。


「あんたヒーラーか、頼む‼︎」

「はいっ‼︎ 井川さん、トリアージお願いします」


 すぐさま待機している井川さんに、トリアージをお願いする。

 それによってどの回復魔法を使ったらいいかを瞬時に判断するためです。

 そうしないと、どんな患者さんにも全力で当たってしまい、魔力効率が悪くなると井川さんに教えられましたから。


「赤、急いで。次のあんたも赤、そっち。君は緑だからそこに座って‼︎」


 あらかじめ用意してあった赤、オレンジ、緑のプレート。それを井川さんが的確に配布する。


「赤いきます、強治療ハイヒール‼︎」


──シュゥゥゥゥ

 傷口が完全に塞がり、骨折も治る。

 失った血は戻らないので、すぐに動くことはできないけれど、今はこれで問題はない。


「よっし、戻る‼︎」

「待ってください、まだ失った体力や血は戻っていません‼︎」

「なぁに、仲間が頑張っているんだ、ここが踏ん張りどころだからよ」

「そうだぜ。裏地球リヴァースがどうにかされそうなんだ、踏ん張る価値はあるってものよ‼︎」


 ぶんぶんと腕を振り回してから、冒険者たちは走り出す。


「呆れた……あれが本物の冒険者なの?」

「そのようです。オレンジの治療にはいります‼︎ 中治療ミドルヒール‼︎」


 次々と回復しては、冒険者たちは戦場に戻る。

 しばらくそれを繰り返していると、とうとう、その人はやってきた。


「た、頼む‼︎」


 冒険者によって背負われてきた男性。

 それは冒険者ではなく、陸自の自衛官。


「俺を庇ってやばいやつを食らった、頼めるか」

「井川さん!」

「黒。その人はもう無理」

「無理じゃありません‼︎ こっちにお願いします‼︎」


 思わず叫んでしまう。

 どうして、そんなに簡単に命を粗末にできるのか。

 戦場ならば、軍人ならばなにを優先すべきかって言われたけれど、私には関係ない。


診断ディアグノーシス……肉体再生リジェネレート‼︎ 完全治癒パーフェクトヒール‼︎」


 心臓が破裂している。

 胸元に強い一撃。

 でも、魂が離れていないから、まだいけます‼︎


「その魔力があれば、まだ大勢が救えるのよ、指示に従いなさい」

「ここの責任者は、今日は私です‼︎ 全て救ってみせます!」


──グブッ

 戻ってきた。

 こうなると、後は大丈夫。


「この方をICUにお願いします‼︎ 次の患者は何処ですか‼︎」


 叫びつつ、ルーンブレスレットから魔力回復薬を取り出して、一気に飲み干す。


診断ディアグノーシス……魔障中毒反応はないから大丈夫)


「次、赤とオレンジ二人‼︎」

「まとめていきます、範囲拡大、強治療ハイヒール‼︎」


 三人まとめて強めの回復。

 でも、すぐに戦場に戻っていく。


「自衛官は、怪我が治っても戦場には戻らないのに……どうして冒険者さんは、また戻っていくのですか?」

「さあ? 理由なんてないんじゃない?」

「ないって?」

「だってさ。さっきの冒険者も話していたでしょ? 仲間が戦っている、だから戻る。理由は色々だけどさ」


 分かりません。

 けど、いつかわかる日が来るような気がします。

 そしてしばらくの間、患者の数が減ってきた時。


「頼む、魔法を使い尽くしてぶっ倒れた‼︎」

「乙葉くん‼︎」


 フレックスさんに背負われて、乙葉くんが運び込まれてきました。

 常に自信満々の乙葉くんが運び込まれるだなんて、尋常ならざる事態です。


「慌てない、診断ディアグノーシス


『魔力枯渇、魔力欠乏症、魔障中毒反応軽度』


 まさかの診断結果。

 いえ、まだ魔障中毒反応であって、完全発症ではありません。

 ここから無理をすると発症する、風邪の前期症状のようなものです‼︎

 そう診断ディアグノーシスが説明してくれました。


「嘘‼︎ 神威祝福ゴッドブレス状態回復キュアステート完全治癒パーフェクトヒール‼︎」


 三つの回復魔法の重ねがけ。

 この私の様子を見て、井川さんの表情も険しくなります。


「乙葉くん、やばいの? トリアージは青だったわよ」

「外傷はないです。ただ、魔法の酷使で、魔力回路がズタズタなんです」


 それが魔障中毒反応。

 簡単に説明すると、藁のストローを水道に接続して、蛇口を全力で回すようなもの。

 当然あちこちに亀裂が走ったり、裂けて吹き出しているところもあります。


 普通に魔法を使っている分には、こんなことにはならない。けれど、診断ディアグノーシスで全てわかっています。


 神威解放


 これが、まだ乙葉くんの体には馴染みきっていません。

 普通の人間の魔力回路の太さでは、神威を流すのに細すぎるのです。

 これは物理的な問題ではなく、魔力回路のキャパシティと思ってください。

 

「こんなに無茶して……診断ディアグノーシス


『魔力枯渇、魔力欠乏症』


「魔障中毒は治りました。あとは‼︎」


 ルーンブレスレットから魔力回復薬を取り出して口に含むと、そのまま口移しで乙葉くんに飲ませます。

 お願い、一口でいいから飲んで‼︎


──ゴクッ

 私の願いが届いたのか、乙葉くんの喉が鳴ります。

 そして全身が光ったかと思うと、ゆっくりと目を開けました。


「おおう、かわいいこはるちゃん……って、ここは何処だ‼︎」

「いきなりなにを言い出すんですか、ここは救護班で、乙葉くんは魔力欠乏症と魔障中毒反応を起こして倒れたのです‼︎」

「なんだって、よりにもよって魔障中毒反応かよ」

「はい。治療は終わっていますから、今はただの魔力欠乏症だけです。けれど、神威解放は可能な限り行わないでください、魔障中毒反応を起こした原因ですから」

「そっか、わかったわ……少しずつ慣らすしかないか……それよりもフレックスさん、戦局は‼︎」


 すぐに乙葉くんは、戦局を確認すると飛び出していきました。

 まあ、今の戦力比を考えると、乙葉くんと築地くんは欠けてはいけないピースなのですから。


「すまん、急患を頼む‼︎」

 

 今度は築地くんが運ばれて……って、足が、両足が吹き飛んでます‼︎

 一人の冒険者に背負われて来ましたが、一体なにがあったのか分かりません。


「なにをしたら、こんな事に‼︎ 診断ディアグノーシス肉体再生リジェネレート強治療ハイヒール‼︎」

 

「こいつは罠に引っかかったらしい。地面設置型の爆裂陣ってやつだよ」

「うわぁ……」


 それでも傷が塞がり、ゆっくりと足は再生を開始します。

 普通の冒険者よりも回復速度が遅いのは、体質の問題なのでしょうか。


──パチッ

「おう、意識が戻ったわ‼︎」

「戻ったじゃないですよ。乙葉くんといい、築地くんといい。どうしてこんなに無茶するんですか?」

「こっちの事情で冒険者に頼んで、俺たちが後ろであーだこーだいうのは違うと思うからな。オトヤンも、それには頷いていたし」

「それでも無茶しすぎです、築地くんは一時間は無理ですからね」


 そう告げると、頭を抱えて落ち込んでいます。


──タッタッタッ。

「新山せんぱーい‼︎」

「え? え? リナちゃんどうしたの、まさか怪我!」


 今度はリナちゃんが来ました。

 彼女が参戦したのは、瀬川先輩から念話モードで連絡を受けています。

 エリア的にも難しいところではないし、付近には即応機動連隊が待機しているというので心配でしたが。


「えんぷてぃー‼︎」

「えんぷてぃ? あら、エンプティーですね」

「それ!」


 すぐさまルーンブレスレットから『エナジーバー』と『バナナ』を取り出して渡します。

 すぐさまそれを食べ切ると、また走って外に向かいました。

 それを見ていた井川さんが、ため息をついているのは何故でしょう。


「はぁ……忙しない子ね。でも、あの子は私よりも強いのよね……」

「リナちゃんは獣人だからな。まあ、俺はここでギブアップだから、少し仮眠を取るわ」

「そうしてください」


 ようやく一段落。

 早く戦闘が終われば良いのに。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「乙葉浩介ふっかぁーつ‼︎」


 いやぁ、まさか魔障中毒反応を起こしていたとは。

 神威解放は、注意して扱わないとまずいわな。

 自己診断でも、魔力回路が少し損傷しているのがわかるから、あまり大掛かりな魔法は暫くは使えない。

 ざっと見た感じだと、騎士団残党も次々と鎮圧されてあるから、これはもう終わりでいいんじゃね?


『乙葉くん、戦局はほぼ終了なので、捉えた騎士団を妖魔特区監獄に転送してくれるかしら?』

「イエッサ‼︎ ユータロはどんな様子?」

『乙葉くんと入れ違いに、救護班送りね。設置型の爆裂陣を踏んだらしくて、沙那さんがそれの解除を行なっているわよ』

「設置型‼︎ 地雷かよ。それで解除って沙那さんで間に合うの?」

『有馬さんが作った、解除術式の杖を使っているみたいよ』

「了解。そんじゃ、後始末に行きますわ」


 いやぁ、まあ、みんなが無事ならいいわ。

 それじゃあとっとと後始末を終えて、札幌に戻りますか。


………

……


「ムキムキじゃのう」


 妖魔特区監獄前。

 妾の仕事は、ここから脱走しようとする輩の排除。

 まあ、乙葉が作った結界ゆえに、破壊することなど不可能じゃがな。

 しかし、いかつい騎士たちが集まっているのをみると、吐き気を催してくるわ。


「き、貴様はピク・ラティエ‼︎ 魔族は裏地球リヴァースに付いたのか‼︎」

「またその質問かや? それよりも自己紹介ぐらいしたらどうじゃ?」

「俺はマイオス。フェルデナント聖王国白竜騎士団副団長だ‼︎ 自己紹介したから、さっきの質問に答えろ‼︎」

「なんじゃ、白竜騎士団の輩か。そういえば、そなた以外には白竜騎士団はおらぬようじゃが?」

「白竜騎士団は王家直属だ、俺は任命されてここに参加しているだけだ‼︎」


 なるほど。

 どうりで、ここにあるのはフェルデナント聖王国の第一、第二騎士団だけなのか。

 白竜騎士団は、ここの輩とは別格じゃからなぁ。


「そうか、それは済まなんだ。さっきの質問じゃが、魔族は裏地球リヴァースには加担しておらぬよ」

「それなら、この結界を破壊しろ、外からならば、その魔導具を破壊できるだろうが‼︎」


 おっと、さすがはマイオスじゃな。

 中からは破壊できぬが、外に設置されてある魔導具を破壊すれば良いと瞬時に理解したか。


「うむ、断る」

「何故だ‼︎」

「魔族としては、フォート・ノーマの勅命もあるからなぁ。次の裏地球リヴァース侵攻ではどうなるかわからん。じゃが、今の妾は人間サイドじゃよ?」

「貴様は十二魔将だろうが、俺たちに組みしろとはいわんが、せめて結界を破壊しろ‼︎」

「じゃから、断ると言っておる、くどいわ‼︎」


 全く、碌なものではない。

 これだから狂信者というのは、厄介なことこの上ないわ。


………

……


 第二次・国会議事堂前攻防戦。

 

 フェルデナント聖王国被害者

 捕虜となった騎士団員 :百九十六人

 同、傭兵および魔法兵団: 八十六人

 死者         : 二十九人


 陸上自衛隊および特戦自衛隊の損耗

 死者          :   九人

 重軽傷者(治療済み含む): 四十九人


 被害車両

 96式装甲装輪車     :   一台

 高機動車コウキ   :   三台

  1 1/2トントラック   :   二台

 

 その他、施設系損耗あり



 戦局報告書が、首相官邸の緊急対策室に届けられる。

 それを受け取った大西官房長官は、真っ赤な顔で怒鳴り散らし始める。


「……なんで燐訪さんがいないんだ‼︎」

「わかりません。このまえ、京都出張から戻って来てからは、あまり見かけていません」

「あの人が代行だろうが、何故、見かけないんだ!ちゃんと見ておけよ‼︎」


 突然始まったフェルデナント聖王国と自衛隊との戦闘、その指揮をするべき存在の燐訪総理代行と、全く連絡がつかなくなっている。

 結果として、全てを大西官房長官がやる羽目になったのだが、特戦自衛隊が満足に動いていないのが、あまりにも納得できていない。


「現在も、燐訪総理代行の行方を探しています」

「全く……それで、この戦局報告はなんなんだ? 手柄のほとんどは陸自の即応機動連隊と、第六課が持っていったじゃないか‼︎ どうして陸自は動いたんだ‼︎」

「わかりません‼︎ 即応機動連隊は北山防衛相が独断で動かしたと思われますが、結果として特戦自衛隊は後方待機のままでした。マスコミは、特戦自衛隊の在り方について論議を始めていますし、自衛隊容認派は、今回の活躍で勢いついています‼︎」

「今現在、リアルタイムの状況はどうなっている?」

「現在、敵国の騎士団については乙葉浩介がどこかに転送している最中でして……」

「また、あの高校生か。状況を聞き出してこい‼︎」


 緊急対策室に緊張感が走る。

 マスコミからは、あの冒険者の正体を教えてほしいという問い合わせが殺到しているし、これで戦闘が終わったのかという質問も届いている。

 臨時ニュース、生中継も加わって、現場付近は混乱の極みにあった。

 

 戦場からは離れているものの、付近なビル群からカメラが回されていたらしく、騎士団と自衛隊、冒険者の戦闘シーンはバッチリと生中継されてしまった。

 

 くっそ、いつもなら自由国民党を嬉々として叩いてくれるマスコミが、ここにきて邪魔くさくなっている。

 あいつらは視聴率さえ取れれば、どっちの政党が政権を取っても構わないというんだな‼︎


「国家公安委員会にも連絡を入れろ、高校生たちは第六課の管轄だろうが。今のこの状態で、一番事情を理解しているのはあいつらだろうが‼︎」

「了解です! 現地の特戦自衛隊に指示を飛ばします」

「急げよ‼︎ 全く……使えねぇな‼︎」


 イライラを抑えようとしても、まだイライラが吐き出す。

 そのまま緊急対策室は、最後まで緊張感が緩むことはなかった。


………

……


「は〜い、整列。これよりラナパーナ王国冒険者チームは、札幌の妖魔特区内、ピク・ラティエ領に戻ります」

「そちらで食事を用意していますので、どうぞ体を休めてください」


──ウォォォオオォォォォ‼︎

 日本での対策は、全て終わった。

 このあとは妖魔特区監獄内のフェルデナント騎士団の処分と、冒険者たちの慰労会。

 そして彼らの帰還と、やることはまだ残っている。

 それでも、今は、勝利に酔いしれてもいいんじゃないか?


「それじゃあ、飛んでもらいます。広範囲強制転移術式展開!」


──ブゥン‼︎

 巨大な魔法陣が空中に展開する。

 そしてそれはゆっくりと地面に向かって降下すると、範囲内の全ての冒険者と祐太郎、新山さん、井川さんを纏めて転移させた。


 俺と瀬川先輩、忍冬師範はまだ報告任務があるので、こっちで待機。

 面倒くさいのは山々なんだけど、これをやっておかないと後から面倒なことになるらしい。


「はぁ。ジンギスカンパーティーが……」

「諦めろ。今度、美味いところに連れて行ってやる」

「回らない寿司でお願いします‼︎」

「い、いや、それは……わかった」


 よし、忍冬師範が折れたので、これで堂々と協力できるってものよ。


「ちょうど、国会議事堂から来ましたわよ?」

「ん、どれどれ?」


 国会議事堂の方を見ると、特戦自衛隊の指揮通信車両がやってくる。

 それが到着してから、俺たちは特戦自衛隊の82式指揮通信車シキツウに誘導されて、国会議事堂へと舞い戻ることになった。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中盤の「ムキムキじゃのう」のちょい下の 「き、貴様はピク・ラティエ‼︎ 魔族は裏地球リヴァースに着いたのか‼︎」ここも付いた、が正しいです。 本編一番下の星5個のちょい上の空白欄に普通は…
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