第百七十四話・海内無双‼︎ 好機逸すべからず(切り札は、いつ切っても切り札)
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現在。
国会議事堂前・攻防戦は混迷を極め始めています。
戦局は、大きく分けて三箇所。
議事堂前左側水晶柱付近では、聖王国第二騎士団とラナパーナ冒険者の戦いが激化。
これは冒険者優勢で、まもなく決着がつくかと思われます。
乙葉くんが魔法使いを封じたのが、功を奏していたようで、後方待機の即応機動連隊も戦闘不能になった騎士たちを捉えているところです。
次に右水晶柱前で行われている、剛腕のマイオスと築地くんの、二度目の一騎打ち。
これも現時点では、築地くんが優勢ですが、まだ予断は許されません。
同じく右水晶柱前では、乙葉くんが水晶柱を破壊するべく進撃を開始。
ここにラナパーナの冒険者ギルドのフレックスさんが参戦したので、こちらも予測がつかなくなっています。
そして問題なのは、右水晶柱から出現し、皇居方面に進軍している聖王国第一騎士団。
目下のところ、正面で待機している即応機動連隊が、騎士団を止めるべく動き始めましたが、此処に予想外の援軍がやってきました‼︎
………
……
…
──ヒュゥィィィィィィン‼︎
皇居方面に走り出した第一騎士団十二名。
その正面では即応機動連隊の装甲装輪車が待機し、騎士団目掛けて砲撃準備を始めている。
「お、ま、た、せ‼︎」
──キキィィィィッ‼︎
突然双方の間に滑りこんできた、空飛ぶスノーボード。
空中で華麗なターンを決めると、そこから一人の少女が飛び降りてくる。
「ニュースで見たから、来ました‼︎ リナちゃん、です‼︎」
高校の制服+右腕の巨大なガントレット『ツァリプシュカ』。
スカートを翻しつつ、ツァリプシュカをグルグルと回すと、それを騎士団めがけて構えた‼︎
「そこの女、どけろ!」
「断る、撃つ‼︎」
──ドッゴォォォォォォン
ツァリプシュカ内部に仕込まれている魔力砲。
それが唸り声のような音と地響きを立てる。
打ち出された魔力弾は真っ直ぐに騎士団の先頭に向かって飛行し、騎士を盾ごと後方に吹き飛ばした。
「な、なんだあれは、魔法か‼︎」
「相手が魔法使いなら、近接戦に持ち込め‼︎」
──チャキーン‼︎
盾を前に構えて突撃した騎士たち。
だが、それは誰の目から見ても悪手そのもの。
「がるるるるる」
腰を落としたリナちゃんが、地面を大きく蹴って騎士に接敵。
そしてツァリプシュカ先端の拳をグッと握ると、騎士の盾に向かって全力の一撃‼︎
「パワーコネクト‼︎」
──グウォーーン
騎士の構えた盾が音を立てて凹み、砕け、貫通する。
そのまま力任せに騎士に向かって、ツァリプシュカの拳を一発突き込むと、手のひらを開いて魔力砲のスタンバイ‼︎
「う、うわぁぁぁぁ」
盾を破壊された騎士は慌てて盾を放棄して下がり、別の騎士がリナに向かって剣を振り落とす。
「ひょい‼︎」
──グァァァァアーン
その剣に向かって、リナはツァリプシュカに引っかかっている盾をぶつける。
「な、なんだこの子は、どんな力をしているんだ」
「誰が馬鹿力だぁ‼︎」
──ドゴッ
ツァリプシュカを振り回して盾を吹き飛ばすと、相手の騎士の顔面をガッチリと握る。
そのままジャンプして胸元に蹴りを四発叩き込むと、着地と同時に騎士の頭を掴んで放り投げた。
「誰がハルクだぁ」
「ハルクって誰だよ‼︎」
「ハルクはハルクだよ!」
右腕をぐるぐると回しつつ、横を抜けていこうとする騎士に向かって魔力砲を撃ち込む。
──ドッゴォォォォォォン
直撃を受けて吹き飛ぶ騎士。
そのまま地面に倒れて動かなくなるが、リナちゃんはそんなの知らんぷり。
「大丈夫、生命反応はある‼︎ だから、此処から先に進みたかったら、リナちゃんを倒しなさい‼︎ 倒れないけど‼︎」
騎士たちを睨みつけて、『獣の覇気』を発動。
その瞬間に騎士たちは恐怖に包まれ、ゆっくりと後退を開始する。
「さあ、獣人族代表の唐澤リナちゃんを倒すのは誰だ‼︎」
──ピョコッ
頭のてっぺんに山猫の耳が生える。
半獣人化したリナちゃんが、再度、騎士団に向かってツァリプシュカを構える。
「ひ、引け‼︎ あの子はバケモノだ」
──ドゴーン、ドゴーン
バケモノ呼ばわりされて、リナちゃん少しご立腹。
「バケモノじゃない、リナちゃんだ‼︎」
ツァリプシュカ魔力砲の乱射がスタート。
流石の騎士たちも盾を構えつつ、急いで後方に下がっている。
「うわぁ……リナちゃんストップ‼︎ 敵の騎士団は下がったから、そこで絶対防衛ラインを維持ね」
上空から空飛ぶママチャリに乗って飛んできた沙那が、半ば暴走気味のリナちゃんに声を掛ける。
「あ、沙那ちゃん。りょーかい‼︎ ツァリプシュカ、冷却スタート‼︎」
──ガンガンガンガン‼︎
リナちゃんの掛け声と同時に、ツァリプシュカの装甲があちこち展開。
そこから冷却用フィンが飛び出してくると、高速冷却を開始した。
──スチャッ
その横に沙那も着地すると、周りをキョロキョロと見渡す。
「確か、瀬川先輩が……」
「此処ですわよ‼︎」
やや後方に走り込んできた、第六課指揮車両。
そこの後部ハッチが開いて、瀬川が顔を出している。
「すいません先輩、リナちゃんがどうしても手伝うんだって‼︎」
「それで、札幌からここまで走ってきたの?」
「ええ、まあ。乙葉先輩から購入した空飛ぶママチャリ改と、ゼータ・スノーボードでやってきました」
ちなみにこの二台、乙葉浩介作、有馬祈念の改造済み。
札幌からここまで、わずか三十五分で飛んできた模様。
「ま、まあ、きた以上は指示に従ってくださいね。乙葉くんにお願いして、ルーンブレスレットを作って貰った方が、今後のためになるわよね」
「すいません」
「瀬川先輩、リナちゃんは頑張りました‼︎」
「やり過ぎです、忍冬さんが頭を抱えていますわ」
「はい、手加減します‼︎」
「リナちゃんは、そこで絶対防衛ラインの維持をお願いしますわ」
「ぐー‼︎」
ツァリプシュカでサムズアップするリナちゃん。
そして国会議事堂に向かって体勢を整えると、そのまま騎士団に向かって睨みつけていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
俺の任務は、目前のターミナルの『破壊』。
いや、不可能だと思うでしょ?
それがさ、まだ発生したばかりで不安定らしいのよ。
それ故に、今なら全力で壊せるんじゃないかって思えてさ。
「オトハ卿、助力します」
「あ、あ、あ、フレックスさんか。ありがとうございます。そんじゃ前から来る騎士の左三人をお願いします」
「承知‼︎」
素早く走り出したフレックスが、両手のショートソードで三人の騎士を相手に互角に戦っている。
そして俺の前には四人。
明らかに、俺の方が危険だってバレているよね?
「高速術式・右手に強制転移魔法陣っ」
──ブゥン
右掌に魔法陣を展開。
そして両足に魔力を込めて加速を開始すると、目の前の騎士に向かって掌底を叩き込む‼︎
「魔導体術・打撃の三型っ」
──パァン
普通に相手の懐に潜り込み、掌底を突き込む。
その刹那、騎士は強制転移され妖魔特区へGO‼︎
「な、なんだその技は‼︎」
「説明いらんだろ‼︎ あんたもぶっ飛べ‼︎」
──パァン
続いて二人目を転移させると、掌の術式が消滅した。
「持って二人か。魔力はまだ存分にある、死にたくない奴は、かかってこいやぁぁぁ」
ちなみに死にたい奴は、フレックスさんの方へどうぞ。
すでに三人いた騎士のうち、二人は腕やら足やらを切断されて身動きが取れなくなっています。
いや、手加減しようよ‼︎
「悪いが、フェルディナント聖王国の騎士相手に、手加減なんかできないぞ。やらないとやられる」
「それぐらいは理解しています。けど、可能な限りは、やりたくないんです‼︎」
「それを貫くのも、オトハ卿の意思」
──ズビァァォァ
左右のショートソードによる四連撃。
一撃目で盾を吹き飛ばし、二撃目で剣を弾き飛ばす。
三撃目は右袈裟斬り、四撃目は左からの腰部に向かって水平斬り。
綺麗に決まったのか、騎士はその場で倒れ、身動きひとつ取ることができなくなっている。
「だから、殺さないで」
「ショートソードの効果だ、パラライズが付与されている」
「うっそ、それは失礼‼︎」
そのままターミナルに近寄る。
付近の騎士たちが集まって陣形を組んだので、俺としては好都合‼︎
「そこから動くなよ‼︎ 高速詠唱、範囲拡大、効果増幅……六十四式・強制転移術式っ」
──ガッギィィィィィィッ
またしても巨大な魔法陣が展開。
ターミナルを守っていた騎士たち全てを飲み込むと、半球状の結界で彼らを包み込む。
「アデュー‼︎」
──シュンッ
一瞬で内部の騎士たちを、妖魔特区へと転移させた‼︎
「……これで、終わりだ。破壊神マチュアよ、我に力を貸したまえ……神威解放、天啓眼によるターミナルの術式鑑定……か〜ら〜の‼︎」
今回は、全て読み切った‼︎
そして鏡刻界で貰ってきた魔導書の禁忌術式も覚えている‼︎
「却下ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
──パッチィィィィィン
右腕を突き出し、水晶柱に向かって指パッチン‼︎
──バフッ
その瞬間、巨大な水晶柱は消滅し、媒体と思われる水晶の杖が落ちてくる。
あれは危険だと一気に加速、スライディングで水晶の杖をつかむと、速攻で空間収納に放り込む‼︎
「よしキャッチ‼︎ フレックスさん、俺を、後方の救護班に運んでください……魔力枯渇だっふん‼︎」
──ガクッ
「オトハ卿‼︎ わかった、後方だな‼︎」
意識が消滅したオトハ卿を、フレックスは急いで抱き上げて後方へと走り出した‼︎
………
……
…
──ガン、ドガン、バギッ
マイオスと俺の戦闘は、一進一退のまま。
巨大な両手剣を苦もなく振り回すマイオスと、その攻撃を豪爆棍で受け流す俺。
実力伯仲というのが、痛いほどよくわかる。
レベル的には俺が上、戦闘経験ではマイオスが上。
装備に関しては俺が上かと思うが、それでも戦闘経験の差を埋めるほどではない。
「どうしたどうした、さっきからずっと護り一辺倒だなぁ‼︎」
「まあな、詠春拳は守りの型だからな」
少しでもいい、隙が欲しい。
お互いに力任せの攻撃を繰り返してあるだけ。
闘気を練り込んでも、技を出す一瞬を突かれる可能性があるので、双方ともに技を繰り出せない。
なんでもいい。
一瞬だけ、マイオスの気が散ってくれないか。
──バギッ
「ぐっ!」
肩口に一発。
傷は深くはないが、力が抜ける。
「おらおら、何を考えているんだ‼︎」
「なんだ、その剣は……一瞬で力が抜けたぞ」
「そりゃそうだ。この漆黒の大剣はな、霊峰で神の加護を得た神剣なんだよ。相手の経験を奪うエナジードレインが、常に作動している優れものだ‼︎」
「……洒落にならない剣かよ」
冗談じゃない。
つまり、さっきの一撃、掠めただけで、俺のレベルが下がったのか?
「オラオラオラァ、遅くなってるぞ、どうしたどうしたぁ‼︎」
やばい、マイオスの速度が速くなった。
いや、俺の速度が下がったのか!
このままじゃまずい!
──プシュゥゥゥゥゥ
すると、マイオスの左後方、先ほどまで見えていた水晶柱が消滅した。
「やったかオトヤン!」
「なんだ、なにが……って、なにぃぃぃぃ‼︎」
水晶柱付近の騒動に気がついたマイオスが、数歩下がったあとで、そっちをチラッと見た。
悪い、その隙を見逃すはずないだろう?
「七の型可変・爆裂機甲撃っ」
豪爆棍に闘気を循環させると、それを力一杯突き込む‼︎
「そんな攻撃が、当たるものかよ‼︎」
ぐいっと体を引いて躱すマイオスだが、そこはまだ射程内だ‼︎
──ガッゴォォォン
突き込んだ豪爆棍の先端から、闘気の杭が射出される。
それは運悪くマイオスの喉元に直撃すると、ガードを伝って頭部に流れる。
──ガギッ
ヘルメットが吹き飛び素顔が晒されるのと、崩れた体勢でなおも両手剣を振るって俺を切ろうとするのが同時。
──ガギッ
豪爆棍を回して剣を弾き飛ばすと、そのまま円の軌跡でマイオスに乱舞を叩き込む‼︎
──ドゴドゴドゴドゴォォォォッ
「フバブシュッ‼︎」
マイオスが叫ぶが、やがて意識を失い、その場に崩れ落ちた。
「ふぅ。全く洒落にならない奴だわ」
転がっている両手剣を拾い上げると、それをルーンブレスレットに収納する。
戦利品でもあるけど、こんな物騒なものを落としたままになんて、出来ねぇよ。
それよりもオトヤンだ、大丈夫が?
慌てて水晶柱付近を見ると、フレックスの背中で意識を失っているオトヤンを発見。
「無事か? まあ、こいつを先にどうにかするか」
グッと拳を握りしめると、マイオス目掛けて正拳突きを落とす。
「モード・ミラーヴァイン。お前も退場な」
──ドゴッ……プシュッ
一瞬でマイオスを強制転移させると、周辺の状況を確認。
どうやら、皇居に向かった騎士団以外は、ほぼ沈静化したようだな。
さて、オトヤンの方に合流するよりも先に、残った奴らを転移させていくか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりずらいネタ
まだ懲りずに。