第百七十二話・好機到来、五十歩百歩(切り札がいきなりやってきた‼︎)
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──ガッギィィィィィィッ
フェルデナント聖王国騎士団と、ラナパーナ王国冒険者が正面から激突する。
その光景を、後方で特戦自衛隊は見ている。
手を出したくても、この乱戦状態なら何もできない。
──ギュルルルルッ
その最前列、特戦自衛隊の隊長の元に、82式指揮通信車が走ってきて急停止‼︎
中から北山防衛大臣が姿を表した。
「特戦自衛隊に告げる‼︎ 敵騎士団が遁走する恐れがある。包囲網を広げて待機‼︎ 戦闘は彼らに任せて構わないからな」
「北山防衛大臣、私たちの命令系統は燐訪総理代行です。そちらを通してもらわなくては困ります」
「そうか? ならそこで指を加えて見ているんだな。マスコミがお前たちをどう報道するか、そこまで考えろよ」
そう吐き捨てるように告げると、北山防衛大臣はシキツウに戻る。
すぐさま通信回線を開き、待機している即応機動連隊に連絡。
「即応機動連隊に命令。国会議事堂敷地外に部隊を展開し、逃走する騎士団を逃さず捕らえるように」
指示を飛ばしてから、急ぎシキツウを後方に走らせる。
目標地点は第六課指揮車両の横、素早く移動して真横につけると、北山防衛大臣は開きっぱなしの第六課指揮車両後部ハッチから中に飛び乗る。
「忍冬警部補、あいつらが報告のあった冒険者か?」
「ええ。その辺りは彼らに任せて構いませんので」
忍冬は説明してからチラリと深淵の書庫内で指示を飛ばしている瀬川を見る。
北山防衛大臣も彼女を見るのは初めてであり、この場を借りて観察させてもらうことにした。
「報告は見たが……これが魔法による戦闘オペレーションシステムか。なあ忍冬、この子、うちにくれないか?」
「大学生ですよ? 本人にその気がないから無理ですよ」
「惜しいな……」
そんな話が近くで行われているなどつゆ知らず、瀬川は表示されているデータから、適時、指示を飛ばしている。
──ピッピッピッ
「ん? 異質反応? まさかでしょ?」
ふと深淵の書庫が警報を発する。
すぐさまモニターを切り替えると、国会議事堂前、騎士団が守りに入っている水晶柱の近くに、魔法反応が発生している。
「乙葉くん、築地くん‼︎ 二本めの出現反応が発生したわ‼︎ 座標は送りますので、処理をお願いします‼︎」
………
……
…
国会議事堂前は、大混乱だった。
急ぎ騎士団を捉えないと、そこから50m右に発生しそうな『二本目の水晶柱』の処理が間に合わなくなる。
そうなると、かーなーり厄介である。
『乙葉くん、築地くん‼︎ 二本めの出現反応が発生したわ‼︎ 座標は送りますので、処理をお願いします‼︎』
「こちら乙葉。了解でっす」
『同じく築地、了解‼︎』
騎士団と冒険者の戦力は五分と五分。
冒険者サイドに勇者が出現した分、騎士団の士気は低下していたのだが、まだ彼らは二本めの出現反応には気が付いていない。
つまり、今がチャンス‼︎
「オトヤン、敵後方で魔法使いが詠唱を開始した‼︎」
「任せろ‼︎ ゴーグルゴー! 以下略で、ターゲットロック、フェルデナント聖王国の魔法使い……対象増幅効果五倍、単体沈黙術式‼︎」
騎士団後方の魔法使いは杖を片手に詠唱を行なっている。そこに殆ど無詠唱に近い俺の沈黙術式が発動するとどうなるか。
「「「パクパクパクパク‼︎」」」
突然言葉が出なくなり、口をパクパクする魔法使いたち。
慌てた顔で、お互いを見ているがもう手遅れだよ。
「……かのものを穿て、マジックミサイル‼︎」
──シュシュシュシュンッ
おっと、レジストした魔法使いもいたのか。
いきなり俺に向かってマジックミサイルを撃ち込んでくるとは‼︎
「オトヤン‼︎」
「任せろ‼︎ スペルキャプチャー」
ルーンブレスレットに装着した『魔法反射の指輪』を発動。
杖で空に術式を描くと、マジックミサイルは俺に直撃することなく、術式に吸い込まれていく。
「か〜ら〜の、スペルカウンター‼︎」
──シュンッ
俺の叫びと同時に、目の前に魔法陣が展開。
そこから、先程捕まえたマジックミサイルを、術者本人に向かって飛ばす‼︎
「魔法カウンターだと‼︎」
慌てて防御詠唱を発動したが、もう遅い‼︎
実践の場では、魔法の詠唱時間で勝敗が決する事もあるのだよ‼︎
そう叫んだ瞬間、別の角度からマジックミサイルが飛んできた。
──ドシュッ
それはスペルキャプチャーの範囲外だったので、俺は咄嗟に右腕に魔力を込めて、マジックミサイルを薙ぎ払った‼︎
──プシュゥゥゥゥゥ
そして、薙ぎ払われたマジックミサイルは蒸散した。
「な、なんだと‼︎ その装備は魔力を無力化するのか?」
「ちっちっ。これは魔導体術の奥義の一つ。『魔力中和術式』っていってね、俺に直撃する魔力については、この右腕が無力化するんだよ」
人差し指を軽く振りながら、そう説明する。
いやぁ、魔導紳士装備じゃなかったら、あんな高速で飛んでくるマジックミサイルなんて薙ぎ払えないよ。
ありがとうマスター・羅睺。
あの魔導体術の特訓の成果が、ここにきて発現したよ。
「馬鹿な、この俺はフェルデナント聖王国一の魔法使いだぞ?」
「だが……日本じゃあ二番目だ……」
──ニヤッ
まあ、このセリフはお約束だよね。
「なんだと、それなら一番は誰だ‼︎」
怒り立つ魔法使い。
よく見ると、周りの魔法使いよりも上質そうなローブを身につけている。
「この俺さ‼︎ 我が右腕に光の力、我が左手に魔の力……二つの力待て、破壊の矢を生み出さん‼︎」
弓を構えるポーズから、光の矢を形成。
まあ詠唱はデタラメで、拘束の矢なんだけどさ。
「そ、その技は‼︎」
「喰らえ‼︎」
──バヒュツ
一撃で魔法使いの体を貫く。
その瞬間、レジストに失敗した魔法使いが倒れる。
「ハッタリも大事だよな。安心しろ、拘束の矢の直撃だ。レジストできないように、効果を高めてある」
そう叫ぶと、周りの魔法使いたちが散り散りに逃げようとする。
「敵の魔法使いは俺が引き受ける、冒険者さんたちは騎士団の捕獲を‼︎」
「分かった‼︎ 怪我人は後ろに回せ、騎士団を食い止めろ‼︎」
フレックスの叫び声で、負傷した冒険者は後方に下げられる。
「怪我の治療をしますので、こちらへ‼︎」
後方では、新山さんが魔法の絨毯で避難してきた冒険者を乗せて下がっていく。
そこに近寄ってくる騎士もいたのだが……。
「彼女には近寄らせません‼︎ 拘束っっっ」
接近する騎士に目掛けて、井川巡査長も拘束の杖で応戦。
その隙に新山さんは高速で下がっていく。
状況は少しずつだが、冒険者有利。
すでに二十人以上の騎士たちが捕縛され後方に送られているのだが。
──キィィィィィン
大気を切り裂くような高音が、国会議事堂周辺に響き渡る。
そして空間から染み出したかのように、水晶の杖が浮かび上がると、そこを起点に巨大な水晶柱が姿を表した。
「ちっ、間に合わなかったか‼︎」
やがて水晶柱が激しく耀きを放ち、銀色の扉が発生する。
ターミナルが、鏡刻界と裏地球を接続したのである。
その光景は、離れていた騎士たちの目にも届き、ほぼ防戦一方にまで追い込まれていた騎士たちの士気が回復した。
「みよ、我がフェルデナント聖王国の精鋭たちが来るぞ‼︎」
「ちいっ‼︎ させるかよっ‼︎」
騎士団長の叫び声と祐太郎が走り出したのは、ほぼ同時。
そして銀色の扉が門に変化し、中から巨漢の騎士が飛び出した‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ガチャーン、ガチャーン‼︎
見覚えのあるフルプレートに身を包んだ騎士が、堂々と姿を表す。
「うゎははははははっ、またきたぞ、今度こそ決着をつけてやるわ‼︎」
巨大な両手剣を構えた騎士。
白竜騎士団所属、剛腕のマイオスがまたしても姿を表しやがったか。
さてと、両手にブライガーの篭手、全身にミラーヴァイン。
闘気増幅率も、対衝撃抵抗も格段上昇中の俺が、どこまで抗えるか勝負だな。
「まずはお前からだな‼︎」
──ダッ
素早くマイオスの間合いに踏み込むと、俺は左右の連打を打ち込んでいく。
だが、マイオスも攻撃を躱しつつ間合いを取ると、両手剣を力一杯振り回す‼︎
「この前は負けたがな、今度は負けぬわ‼︎ みよこの剣を‼︎ 霊峰ダーグラムに眠る1000年結晶を磨いて作り出した、黒曜の大剣だ‼︎」
見た感じでも、かなり重そうな両手剣。
それを軽々と振り回し、俺に対して攻撃を続けてくる。
「どうだこの速度を見よ、貴様の速度など既にお見通しだ‼︎ はーっはっはっはっは‼︎」
「まあ、前よりは早くなったな……だけだよ」
──ガギィィィィーン
マイオスの振るう黒曜の大剣を、俺は踏み込んで左腕で受け止める。
ブライガーの籠手を舐めるなよ‼︎
「な、なんだと、この黒曜の大剣は、霊峰の神聖なる加護を受けているのだぞ‼︎」
「吐かせ、五の型、地対地・対艦誘導拳っ」
──ドッゴォォォォォォン
俺は速攻でマイオスに肉薄し、その胸元目掛けて機甲拳を撃ち込む‼︎
そしてブライガーの籠手の中に圧縮された闘気が、一気に爆発。
以前よりも細く、そして力強い『闘気の杭』が、マイオスの鎧を無力化し体内に突き刺さる‼︎
「グブォゥァァァァ」
派手に後方に吹き飛び、意識を失うマイオス。
外部ダメージはないが、勁砲のように内部ダメージは洒落にならない。しかも、パワーアップしているため、マイオスの経絡はかなりボロボロになっているはず。
「マイオスさま‼︎」
吹き飛ばされ意識を失ったマイオスを、集まった騎士たちがズルズルと後方に連れて行こうとする。
「悪い。ミラーヴァインのおかげで、闘気が増幅しているのを忘れたわ……強制排除‼︎」
──ブシュゥゥゥ
ミラーヴァインの鎧の各部から、余剰闘気が放出する。
さらに俺の体内闘気が再圧縮を開始。
いやあ、ミラーヴァインのおかげで、自動的に致命傷をランクダウンできるんだわ。
それでも、マイオスの経絡はズタズタだろうから、暫くはまともに立つこともできないだろうさ。
──ガギィィィィーン
両拳のブライガーの籠手を打ち鳴らす。
「さて。ここからは俺が相手だ。死ぬ気で来い‼︎」
「か、か、かかりぇええええ‼︎」
ターミナルから出てきた騎士団長が叫ぶ。
だが、ミラーヴァインを身に纏っている俺の姿に、騎士たちが怖気付いている。
たった今、目の前で、マイオスが一撃で戦闘不能にされたのである。
これを見て、そして勇者の装備を見て、ビビらない騎士は存在しなかった。
「騎士団長、あれは、報告にあったラナパーナの勇者じゃないのですか‼︎」
「まさかラナパーナは裏地球に付いたというのか‼︎」
ふむふむ。
予定よりも動揺が大きいな。
それなら、もう一押しいくとするか。
──ブゥン
以前、マイオスから奪った剣。
それをオトヤンが改造した『豪爆棍』をルーンブレスレットから取り出して構える。
「数の暴力は、武器で補う……」
「騎士団構え‼︎ 相手は一人だ、押して通れ‼︎」
「甘いっ‼︎」
俺が豪爆棍を構えて走り出したのと、俺の横にフレックスさんがショートサード二刀流で突っ込んだのはほぼ同時。
「げぇっ‼︎ 鮮血のフレックス‼︎」
「応よ。ツキジ卿、助力します」
「よろしくお願いします。流石にああ言ったけど、左右に展開した騎士は俺一人じゃ荷が重すぎます」
「そんじゃ、ユータロが真ん中、フレックスさんは左。俺は右から新参魔法使いを無力化するわ‼︎」
いつのまにかオトヤンも参戦。
いや、あっちは良いのか?
それよりも、まだ魔導紳士装備じゃないか。
「オトヤン、そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
よく見ると、あの悪役っぽいフィフス・エレメントとかいうガントレットを装備しているし、セフィロトの杖もある。
「行くぞ、必要魔力100の拘束の矢を、杖の効果で必要魔力10に変換。さらにフィフス・エレメントの効果でさらに半分、必要魔力5の拘束の矢。それを本数二十五倍、必要魔力は二十五倍なので二千五百のところを、二つの装備効果で二十分の一の百二十五‼︎」
うん、オトヤン、詠唱というよりも自慢だな。
本当に、新装備で消費魔力を軽減できたのが、嬉しそうだなぁ。
でも、計算間違ってねーか?
「さらに効果も5倍、つまり二十五、合わせて150MP消費の五式拘束の矢二十五本乱れ打ち‼︎」
──シュンッ‼︎
右腕を大きく水平に振る。
その軌跡上に拘束の矢が発生すると、横に伸ばした手の先で、指をパチンと鳴らす。
──チュドドドドド‼︎
一斉に射出された拘束の矢が、的確に魔法使いたちを穿つ。
数名はレジストしたようだが、殆どの魔法使いは、その場で膝から崩れてヒクヒクしている。
「うわぁ、オトヤン、そのドヤ顔は」
「どうよ‼︎」
「いや、厨二病全開だった中坊時代に戻っているぞ」
「ぬぁぁぁぁぁ」
あ、頭を抱えた。
まあ、すぐに復帰するからいいか。
それよりも、あいつらは問題だよなぁ。
──ヌッ‼︎
巨大ターミナルから、三体のモンスターが姿を表す。
身長3m強、上半身が人間で下半身が馬。
そう、ケンタウロスである。
「うわぁ、この前はサイクロプスで、今回はケンタウロスかよ」
「我はケンタウロス三兄弟の長兄、シーミズ」
「我はケンタウロス三兄弟の次兄、イートゥ」
「我はケンタウロス三兄弟の末、グッチ‼︎」
「「「我らケンタウロス三兄弟、『義のため』『報酬のため』『捕虜の女は好きにしていいと言われたので』、フェルナンド聖王国に助太刀致す‼︎」」」
おおう、フルアーマーにランスを構えた重装ケンタウロスが、すぐさま俺たちに向かって走り出した!
しっかし、目的がバラバラなんだが。
特に三人目、グッチ、貴様は絶対に許さん‼︎
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。