第百七十一話・一触即発‼︎ 先んずれば騎士を制す(異世界の冒険者たち)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
七月十六日に、『ネット通販から始まる、現代の魔術師』の二巻が発売になります。
表紙は我が文学部の楔である【瀬川 雅】先輩です。
小説本文も訂正が行われたり、SSもどんとおまけについてきます。
ぜひどうぞ‼︎
俺たちがラナパーナ王城で、冒険者ギルドのギルドマスターたちと話をしてから三日。
この間、さまざまなやり取りが繰り広げられていた。
まず、俺たちが異世界から帰ってくるシーンがニュースに取り上げられた。
当然ながら取材については全てシャットアウト、第六課から公式声明も出されたので、まずは一安心。
『異世界に向かえるのは、保有魔力量が高くなくてはならない』
『異世界へ向かうターミナルを開けるのは、現代の魔術師のみ』
『異世界に向かうためには、正式な手続きを行うか、専用の身分証明証が必要である』
この三つが正式に通達された翌日、自由国民党が選挙公約として『国家公認魔術師』の認証システムを導入すると正式に発表。
これを所持するものは、異世界渡航を許可すると言う他に、対妖魔特措法に基づく魔法の行使が認められる。
さらに『魔法を学ぶ環境の整備』も提案。
こっちは井川さんと要先生が主導で手を貸すらしい。
このふたつの公約を掲げて、自由国民党は次の衆議院選挙で勝利を目指す。
片や国憲民進党などの政党は、異世界渡航による貿易その他を政策に掲げるのだが、今ひとつ歯切れが悪い。
それもそのはず、乙葉浩介ら現代の魔術師チームは自由国民党を支持している。
つまり、国憲民進党の政策には、俺たちは一切興味がないのである。
そんな政党同士の争いは置いておくとして、全ての準備は完了した。
ラナパーナ王国王城前広場には、様々な冒険者の姿がある。
俺と新山さんの二人はターミナル経由で彼らを迎えに、祐太郎と瀬川先輩は妖魔特区内ターミナル前で、忍冬師範ら第六課のメンバーと待機している。
国会議事堂前付近で待機している即応機動連隊には、すでに異世界からの援軍の話をつけてもらっている。
あとは、実行して作戦を開始するだけ。
………
……
…
──ザワザワッ
ラナパーナ王城前に広場。
集まった冒険者は最終的には六十二名。
チームやレギオン単位での参加が増えたため、予定よりも人数は増えている。
また、CやDランク冒険者が増えてしまったのも、レギオン単位の参加ならやむなしというところである。
「よ〜っし、お前ら、準備はいいか‼︎」
「「「「「ウォォォオオォォォォ‼︎」」」」」
「敵は、あのクソッタレフェルデナント聖王国の第二騎士団だ‼︎」
「「「「「ウォォォオオォォォォ!!」」」」
「奴らは俺たちラナパーナ王国だけではなく,ついに裏地球へ進軍を開始した‼︎ 残念なことに裏地球の民では、奴らを押しとどめることすらできない」
「「「「ウォォォオオォォォォ‼︎」」」」」
「そこで、彼らが俺たちに救いの手を求めてきた‼︎ 我々鏡刻界の人間としても、フェルデナント聖王国の好きにさせるわけにはいかない‼︎」
ギルドマスターのフレックスの激が飛ぶ‼︎
それに合わせてテンションの上がりまくった冒険者たちが叫ぶ‼︎
映画とかでは見たことあるけど、本物って凄いわ。
リアル冒険者、怖ぇぇ。
「俺たちラナパーナの強さを、見せつける時だ‼︎ 勝利を俺たちの手に‼︎」
「「「「「ウォォォオオォォォォ!!!!」」」」
此処でようやく、フレックスが俺たちの方を見る。
これが合図で、俺はセフィロトの杖と魔導紳士モードに換装する。
そして鍵を取り出すと、魔力を全力で込めた。
「単体強制転移術式と鍵をリンク。効果範囲拡大……強度百二十五倍、目標座標は妖魔特区内、巨大ターミナル……転移門オープン‼︎」
──ガチィィィン
力一杯、鍵を回す。
すると、目の前に高さ20m、幅10mの巨大な門が完成した。
「こ、こんな……馬鹿な」
「さすがはオトハ卿。私の旦那さま」
「いつのまにかフリューゲルさん、ダメです、乙葉くんは渡しません‼︎」
「子孫繁栄には、強い血が必要」
「だーめーでーす‼︎」
ま、まあ、女同士の戦いはさておき。
開いた門は銀色に輝いている。
此処からが見せ所だよ‼︎
「ターミナル接続‼︎」
杖を掲げて魔力を集めると、高らかに宣言した。
──シュン
すると銀色だった門の中が、いきなり大通り一丁目と接続した。
向こうでは、祐太郎と瀬川先輩、忍冬師範、そして白桃姫たちが待っている。
「乙葉や、ここまでやるとは思ってなか……なんじゃ、その杖は?」
白桃姫が前に出て俺に問いかけるので、一言だけ。
「勇者装備の一つ、オーラカリヴァーとマナセイバーの融合装備。名付けてセフィロトの杖‼︎」
──ババーン
天高く掲げてみせると、白桃姫が頭を押さえる。
「本当に、勇者の加護を貰ったのかや。もう、お主一人で良いのではないのか?」
「無茶言いなさんな、それでは皆さん、行きますよ‼︎」
「オトハ卿に続け、門の向こうは異世界・裏地球だ‼︎」
フレックスの掛け声で、冒険者たちも進軍を開始。
そして門を超えたところで、俺は鏡刻界に残るマリア女王とフリューゲルに一礼。
「ご協力、感謝します」
「皆様の無事を、お祈りしています」
「それじゃあ、また」
──シュン
門が閉じる。
そして目の前では、大勢の冒険者たちが大通り公園の散策を始めていた。
大通り一丁目外では、大勢のマスコミがカメラを回しているんだが、まあ、開き直って仕舞えばいいか。
冒険者たちは、瀬川先輩や祐太郎が報道陣に近寄らないようにうまく誘導してくれているので問題はないんだけど、忍冬師範が渋い顔をして近寄ってくる。
「浩介、俺たちは彼らの言葉がわからない。何か、いい魔導具はないか?」
「魔導具というかなんというか……あ、言語早見表なら作れます」
そういえば、織田に魔導書を渡すときに、言語変換表を渡したよな。
同じやつを作って渡せばいいか。
まあ、今は急ぐので、新山さんたちにも渡した『自動翻訳指輪』を作るとしましょう。
材料はミスリルとスキルオーブ、魔石だけ。
忍冬師範は闘気があるので、魔力吸収回路は必要ない。
「チョチョイのチョイ……と、はい完成。終わったら返してくださいよ」
「……これをつけるのか?」
「はい、どうぞどうぞ」
指輪には男性的に、獅子の顔をモチーフにした飾りをつけてある。
「ふ〜ふふんふん、ふ〜ふふふ〜ふ〜♪」
「エメラルド〜♪」
「エメラルド〜♪」
ほら、俺の鼻歌につられて忍冬師範も思わず口ずさむ。
あれは名曲だよね。
「のせるな‼︎」
「い、いや、緊張感をほぐすということで」
「忍冬さん、冒険者の皆さんに状況は説明しましたわ。いつでも動けるのですが、どうしますか?」
瀬川先輩が俺と忍冬師範の元にやってくるので、あとは第六課及び即応機動連隊との連携になる。
俺としては、いつでも行けるんだけどね。
「さってと、魔力の補充と行きますか」
──グビッグビッ
空間収納から魔力回復ポーションを取り出して一気飲み。
当然、腰に手をしっかりと当てている。
「今は土曜日の午後一時か。騎士団らに情報が流れるよりも早く、全てを終わらせたいところだな」
「それじゃあ、電撃作戦と行きますか?」
「オトヤン、冒険者の皆さんから話を聞いてきたんだが。今回集まったのは、対人戦闘に慣れた傭兵経験のある冒険者が多数だってさ」
「ん、ナイス‼︎ そういう事ですので、いつでも転移用魔法陣を開きますよ? 此処から先の司令部は忍冬師範と瀬川先輩にお任せします」
前回の対騎士団戦と同じく、此処からの指揮は先輩と第六課の皆さんにお願い。
「私は指定場所で、井川巡査長さんと待機しますね」
「治療班はお願いします。俺とユータロは、最初から全開で行くので」
「オトヤンは魔術師を潰してくれ、俺はあいつらの士気を破壊する」
「ユータロは何か策があるのか?」
「まあな。一瞬で、奴らの士気を挫いてやるよ」
おおう、自信満々の祐太郎。
それなら俺も、用意をしますか。
──ポン
取り出した指輪をルーンブレスレットに装着。
以前作った『魔法反射の指輪』の改良品をはめ込み、魔法使い対策も完璧。
さあ、あとは向かうだけだ‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
永田町・国会議事堂前。
フェルデナント聖王国騎士団と、特戦自衛隊の睨み合いは、いまだに続いている。
そこから離れた場所、憲政記念公園横で待機している第六課指揮車両では、井川巡査長が忍冬からの連絡を待っている。
「国会議事堂前の様子は?」
「変化ありません。騎士団は交代で食事をとっていますが、あのバリアのようなものが張り巡らされている限り、こちらからも手出しができなくなっています」
オペレーターからの報告を受けて、井川は車両内部のモニターを確認する。
食事や休憩のタイミングで、騎士たちはバリアを張り巡らす。
その間は、双方ともに手出しができなくなるのだが、だからと言って特戦自衛隊が休憩を取る様子はない。
常に緊張したまま、いつでも行動できるように待機している。
「気力がもう限界じゃない? ここは陸自に連絡して、交代で休まないとならないんじゃないの?」
「特戦自衛隊は、そんなことしませんよ。相手の隙を見て攻撃を再開、囚われた仲間たちを救出するというのが作戦だと思いますよ」
それでも、士気を保ち続けるのはかなり辛いはず。
そう考えていると、井川に連絡が届く。
『忍冬だ。あと一時間後、十五時に作戦を開始する。すでに即応機動連隊には連絡を入れてあるから、そのつもりで』
「了解です」
ただそれだけを告げて、忍冬は電話を切る。
それで十分。
井川もまた、車両から降りて国会議事堂前を睨みつける。
此処からなら、横合いから攻撃は可能。
それでも、彼女の符術では効果が薄いことも理解している。
「歯痒いわね……」
ギリッと右手親指の爪を噛む。
今は待つしかないことに、井川も十分承知している。
それでも、自分の信じていた、身につけてきた呪符師としてのプライドが、彼女の中に焦りを出している。
………
……
…
一時間後。
俺は転移魔法陣を起動する。
「単体強制転移術式の起動。効果範囲拡大……強度百二十五倍、目標座標は俺の記憶の中にある風景、国会議事堂外……転移スタート‼︎」
──ギュィィィィン
巨大な魔法陣が、冒険者たちの足元で起動する。
そこに俺たち四名と忍冬師範も加わり、スタンバイオッケー‼︎
「それいけ、レッツゴー‼︎」
──シュン
魔法陣が真っ白に輝くと、そのまま俺たちは国会議事堂外、憲政記念公園近くに転移した。
「「「「「「ウォォォオオォォォォ」」」」」
初めて見る光景に、冒険者たちが驚く。
「フェルデナント聖王国騎士団は、この先真っ直ぐ進んで左にいます」
「俺とオトヤンで誘導するから、ついてきてくれ‼︎」
「「「「「「よっしゃぁぁぁぁ」」」」」
歓声に沸き上がる冒険者たち。
そして近くに待機していた井川巡査長の乗る指揮車両もやってくると、忍冬師範と新山さん、瀬川先輩が急いでそっちに移動した。
「忍冬警部補、こちらは状況変化なしです」
「了解。瀬川くん、よろしくお願いします」
「了解ですわ。深淵の書庫発動‼︎」
「私は井川巡査長と、治療班に向かいます‼︎」
先程までの静寂はどこへやら、途端に騒がしくなる。
「さてと。深淵の書庫、この周辺の全てのカメラを掌握。念話モードを発動、ルーンブレスレットにダイレクト通信よろしく」
──カシャッ
瀬川の眼鏡の左レンズが、深淵の書庫と直結する。
さらに細かいデータは、こちらに投影される。
「さて。乙葉くん、敵騎士団の配置について。現在は結界によって守りに入っているけど」
『それは問題ナッシング‼︎ 試したい魔法があるんですよ‼︎』
「そうなの? それじゃあよろしく‼︎」
………
……
…
冒険者たちを先導して。
一気に走り出し、角を曲がる。
すると、真正面に国会議事堂正門が見える。
その奥、正面左に立つ巨大な水晶柱、その周辺に騎士団が結界を張って待機している。
そして、俺は肌で感じる。
魔力の異様な集まりを。
よく見ると、水晶柱から五十メートル程のあたりに、何か違和感を感じる。
まだ時間は間に合うな?
それじゃあ、あの騎士団を包み込んでいる結界の処理からやっちまおう!
「やっぱり此処に出るのかぁぁぁぁ。天啓眼発動‼︎」
『ピッ……神聖魔法型範囲結界。術式情報……』
次々と頭の中に走る結界の術式。
それなら、こっちは切り札を使わせてもらう。
「神威解放術式の発令を宣言‼︎ 目標は敵結界、術式指定……いくぞ、魔導の極み、神世の奇跡……却下っ‼︎」
右手を伸ばして、指をパチンと鳴らす。
パスティ魔導商会から購入した魔導書に乗っていた禁忌術式の一つ、いかなる魔法も分解する術式。
──バッギィィィン
この一発で、敵結界がガラスのように砕け散る。
「な、なんだ貴様たちは‼︎」
「冒険者だと、なんでここに冒険者がいるんだ‼︎」
「あいつはラナパーナのギルドマスターじゃないか? どうしてここに『鮮血のフレックス』が来ているんだ‼︎」
「騎士団構え‼︎ 敵、冒険者を打つ‼︎」
──ザッ‼︎
隊長クラスの騎士が号令をかけると、騎士たちが一斉に立ち上がり盾と剣を構えた。
そして俺の横を走っていた祐太郎が、走りながら闘気を練り上げていく。
「次は俺だっ、初公開。ブライガー・魔導機動甲冑モード……ミラーヴァインフォルムの発動承認‼︎ 燃え上がれ、俺の闘気……ミラーヴァイン召喚っっっっ!」
──シャルルルルッ
祐太郎の両腕にブライガーが装備されると、そこから無数の黒い光が吹き出し、祐太郎の全身を覆う。
そして真っ黒な鎧姿を変化させて祐太郎の身を包んだかと思うと、それが砕け散り、中から白銀の騎士が姿を表した‼︎
「な、な、なんだと‼︎」
「あれは勇者の鎧、ミラーヴァインだと‼︎」
そう。
祐太郎の全身には、ミラーヴァインが装着されている。
「何か特訓していたと思ったら、それかよ」
「まあな。格好いいだろう?」
「ずるいなぁ……」
そんな話をしている最中、祐太郎は立ち止る。
「行け、冒険者たちよ、正義は我らにある‼︎」
「「「「「ウォォォオオォォォォ!!!!!」」」」
怒声が響き渡り、やや逃げ腰になった騎士団と冒険者が正面から激突した‼︎
これが、第二次議事堂前防衛戦の始まりだった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。