第百七十話・枕戈待旦‼︎ 恐れ入谷の鬼子母神(アーユーレデイ?)
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ラナパーナ王国王城内、大会議室。
俺と祐太郎、新山さん、そして瀬川先輩は、何事もなく無事にラナパーナ王城へとやってきた。
俺たちが到着後、すぐに瀬川先輩の身分証が発行され、俺たちは応接間でのんびりと女王の執務が終わるのを待っている。
「先日のツキジ卿の話については、すでにミスティ魔導商会と冒険者ギルドに話は通してある。まもなくギルドマスターとミスティもやってくるので、その前に例のものを渡してもらえると助かる」
「例のもの? あ〜、はいはい」
予め用意しておいた『魔法の箒』と『魔法の絨毯』を空間収納から取り出して、テーブルの横に並べる。
それぞれ二つずつ、製作者・俺。
「これですね?」
「そう。私が一つずつ、女王が一つずつ」
丁寧に頭を下げてから、フリューゲルが二つずつ確保する。
「これって、乙葉くんが作った奴だよね?」
「そ。魔力量に応じて、最高速度が変化する奴だよ。うちらの持っているオリジナルほどの速度は出ないけどさ、これでも十分にすごいと思うよ」
設定上、保有魔力1につき、時速1kmがでる。
因みに俺が使った場合の理論値は、時速13500km、マッハ10。
世界最速の偵察機SR-71の三倍だよ。
まあ、そこまで出せるかというと、怖くて出せない。
それに、こっちの世界の魔法使いの魔力平均が1000前後なので、航空機よりも少し早いぐらいなのかな?
「ありがとう。大切に使う」
「どういたしまして。こちらも魔石や魔晶石で助かりましたから」
そんなやりとりをしていると、応接間の扉が開く。
──ガチャッ
「失礼……まだ陛下は来ていませんか」
「あら、皆さんお揃いで、ご無沙汰して……え?」
入ってきたのは、スキンヘッドに傷だらけの大男と、黒いローブ姿のミスティさん。
なお、ミスティさんは、室内に入っていきなり、床に置かれている絨毯と箒に目が釘付けである。
「あ、あ、あの、その魔導遺物品は?」
「これは女王陛下の私物。こっちは私のもの」
「あ、そ、そうなの。ふ〜ん……」
「ミスティは、この前、オトハ卿から箒を買い取った筈。あまり,欲張ってはいけない」
「欲張ってなんていませんわよ。ただ、あちこちの貴族が売って欲しいってうるさいのよ」
そんなフリューゲルとミスティのやりとりを横目にしながら、のんびりとティータイムを楽しむ。
すると、10分ほどでラナパーナ女王がやってきた。
「お待たせしました……って、オトハ卿、これって約束のやつですか?」
「ええ、まあ。どうぞお納めください」
「ありがとうございます。それでは、話を始めましょうか」
「ラナパーナ女王、そちらの魔法の絨毯と魔法の箒について、後ほど交渉したいのですが」
「だめよ。これは私の私物ですから」
「グヌヌ」
あ、ミスティさんがグヌヌしている。
まあ、それはおいておく。
「改めて自己紹介させてもらう。ラナパーナ王都冒険者ギルド統括のフレックス・ノーザンライトだ」
「ミスティ魔導商会のミスティ・バルディオです」
「ユウタロウ・ツキジだ、よろしく頼みます」
「コウスケ・オトハです」
「コハル・ニイヤマです」
「ミヤビ・セガワですわ。よろしくお願いします」
一通りの自己紹介も終えて、早速、瀬川先輩が現状の解説を始める。
「早速ですが、こちらでの現状についてご説明しますわ。深淵の書庫発動」
──ブゥン
瀬川先輩の背後に、パネル状の深淵の書庫が展開した。
そして先輩がパネルの横に立つと、国会議事堂横の水晶柱とそこを取り囲む騎士たち、そして縛り上げられている自衛隊員の姿が映し出される。
「こ、これは……見たことない魔法ね」
「まあ、その事についてはノータッチで。こちらが、私たちの世界に現れた水晶柱です。現在は乙葉くんの魔導具により、こちらの世界との接続は困難です」
淡々と現状を説明する瀬川先輩。
次に騎士団の姿を映し出すと、ギルドマスターが渋い顔をしている。
「フェルデナント聖王国の第二騎士団か。称号持ちと爵位持ち、大体の平均レベルは25前後だったよな。そっちの兵士のレベルは、どれぐらいなんだ?」
「私が個人的に測定しましたけど、平均で3から4というところです」
「なんだそりゃ? 駆け出し冒険者の方が、まだ戦えるレベルじゃないか」
呆気に取られるギルドマスター。
いや、ミスティさんも頭を抱えている。
「私たちの世界には、このレベルを補うだけの装備があります。事実、それらを装備した場合のレベル補正は、大体+5前後となっていますわ」
「それでも10未満か。それで騎士団と渡り合うなんて無理だな。そっちの兄さんたちのレベルは?」
「魔闘家で、レベルは80オーバー」
「聖女です。レベルはまだ50です」
「隠者ですわ。レベルは52です」
「大賢者、レベル8‼︎」
ああっ、俺だけ一桁。
だが、その説明を受けて、フレックスさんが口をポカーンと開いている。
「な、な、な、そんな、勇者レベルじゃないか」
「フレックス。じゃないか? ではない。彼らは勇者」
「「……はぁ?」」
フレックスとミスティが、同時に叫ぶ。
それならばと、俺たちは身分証を提示する。
闘気の勇者、魔導の勇者、慈愛の勇者、解析者。
って、瀬川先輩は、勇者じゃなく解析者なのですね。
「……もう、お前たちだけで十分じゃないか。今更、冒険者ギルドに依頼を出す必要なんてないよな」
「それが、私たちの住む世界のルールが複雑でして。私たちは未成年です。人を傷付けたり殺めるといったことは、法的に認められていません」
さらに細かく説明してもらい、俺たちが動くよりも、異世界から俺たちの世界を救うためにやってきたという方が、都合がいいことも説明。
そもそも、捉えた後はこっちの世界まで連れてこなくてはならないから、その辺りの打ち合わせも必要になってくる。
「……なるほどなぁ。やる気になればできるけど、自分たちで動くと世論が煩いと。むしろ、これだけの騒動を収めるのなら、国王から爵位が貰えるレベルなんだけどなぁ」
「オトハ卿の世界には、王様はいるけど権力を持っていない。それに、爵位も存在しない。それどころか、悪い大人に利用される」
「まあ、事情はわかった。それで、依頼料は?」
そう問いかけられると、ミスティが軽く手を挙げる。
「それは私が。依頼料は成功報酬で白金貨十五枚」
「……マジか?」
「ええ。それぐらい当然よ」
ちなみに、白金貨一枚が大体日本円で100万円ぐらいらしい。
つまり、成功報酬は1500万。
命が掛かっている依頼なので、これぐらいは当然らしい。
「人数は? 最大何人だ?」
「敵の人数は分かったわよね? それを制圧できるレベルの冒険者を五十人ほど」
「そうなると、最低でもAランクは必要だな。急いで掲示板に貼り付けるとして、一週間は欲しいところだな」
一週間。
フェルデナント聖王国が、次に水晶柱を発生させるまでの時間と、ほぼ同じぐらいか。
「五日、それでなんとかできませんか?」
「五日かぁ。伝令の魔導具で近隣のギルドに声をかけることはできるから、それですぐに王都にきてもらって……ギリギリだな」
「七日だと、新しい水晶柱が発生する可能性があるんです」
「そうなると、フェルデナント聖王国の次の侵攻も始まってしまう。その前に、あの騎士団だけでもこっちに送還しないと、最悪、俺たちの世界にいる騎士たちが、本部隊に合流するための進軍を始めるかもしれない」
そうなったら最悪。
そもそも、新しい水晶柱はあと一週間前後で発生する可能性がある。
それもどうにかしないとならないのだが、そっちについては俺としても全力で干渉する予定だからな。
第六課アルバイト員として。
「解った。五日後の正午、この王城前広場に集めておく。それでいいんだな?」
「はい。それで問題ありません。あとは俺が裏地球に向かうための門を開きます」
「……まあ、それしかないのは分かるが。門を開けるって、ああ、勇者だったよな」
異世界へ続く門を開く。
簡単に言っているけど、こっちの人たちにとっては奇跡の御技だからね。
「無事に騎士団を捕らえたのち、再度、こっちに戻ってくる。その時は冒険者も騎士団も纏めて連れてくるから、あとは頼みます」
「私たちも、できる限り被害者が出ないように努めますので、よろしくお願いします」
祐太郎と新山さんも頭を下げる。
その後ろでは、瀬川先輩も頭を下げている。
「分かった。それじゃあ五日後だな、陛下、急ぐからこれで失礼します」
「ええ。彼らの力になってあげてください」
深々と一礼して、フレックスが部屋から出て行った。
「これで問題は解決かしら?」
「まあ、一つ目は……です。問題は、次の侵攻をどうするかなんですよ」
来るか来ないかと言うのなら、確実に来るだろうと言う予測はできている。
問題は場所。
俺たちの世界から、ターミナルを通ってやってくる場所にもズレが生じている。
だから、この前と同じ場所に開くとは考えづらい。
「瀬川先輩、次の侵攻場所って、先読みできますか?」
「白桃姫さんから聞いた、世界の仕組みを考えますと……恐らくは、前回の場所に近しい場所に発生する可能性はありますわね」
「それって、どう言うことですか?」
──ブゥン
再び先輩が、深淵の書庫を展開する。
白桃姫から聞いた説明で考えるなら、14日後というのは、前回と全く同じ場所に二つの世界が重なる。
つまり、全ての軌道の交わる中心点。
そこで前回と同じ儀式を用いるのなら、次に開く場所も同じ場所。
フェルデナント聖王国の儀式の場所と、国会議事堂周辺の座標軸が同じなのだろうという結論を弾き出している。
「ははぁ、だから、妖魔特区の水晶柱からはラナパーナ王国周辺にたどり着くのか」
「これは、運が良かったと言う事ですよね?」
「まあ、新山さんの言う通りだな。最悪、俺たちの街とフェルデナント聖王国が繋がるパターンだってあったかもしれないからな」
新山さんと祐太郎の言う通り。
これで、おおよその出現場所も解決したので、ここからは俺たちのターン。
あとは戻って忍冬師範たちにもこのことを説明、今後の対策の準備を始めてもらう事にしよう。
「これで、少しは勇者さまたちの力にはなれましたか?」
「ありがとうございます‼︎」
「お礼は必要ないわ。まあ、お願いはありますけど」
「「「「お願い?」」」
思わずハモってしまったが、その後のマリア女王の言葉には、思わず耳を疑ってしまった。
「わたしを、一度、裏地球に連れていってもらえますか?」
「私が、護衛を務める。ちゃんとマナポーションは持っていく」
「そ、それでしたら私も同行したいわ‼︎ 伝説の勇者の住んでいた世界、ぜひ、見てみたいのです‼︎」
おおっと。
これは全く予想外。
でも、その程度なら、問題はないだろうなぁ。
俺たちはお互いに顔を見合わせると、力強くうなずいた。
「わかりました。この件が解決した暁には、喜んでご案内します」
これで話はおしまい。
あとは帰宅時間まで他愛ない話をしてから、俺たちは北海道へと戻っていった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
プロレス